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虹の誓約  作者: mosura
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日常③

「ええと……魔術の基本は強化で……この強度や形態を変化させることで……いくつかの基礎魔術に応用させていく。さらに魔力そのものを具現化できれば……それを放っての攻撃など……体から切り離して利用することも可能である?」

時刻は十八時半。中級組の二クラスの教室に二人の生徒がいた。

「言っていることはわかる」

何やら難しい顔をして「魔術学入門」と書かれた本とにらめっこしている生徒、水瀬和也が言葉を発した。

「だが実際にやるとなるとうまくいかない」

「そりゃあ中級組は実戦的な授業は少ないからな。だいたいの生徒はそんなもんだろ?」

スマホの画面を指でなぞりながら「こいつ強いなー」などと呟いている大柄の生徒が答えた。八田慎二だ。二人は勇人を食事に誘ったのはいいものの暇を持て余して教室でダラダラしていた。

「でもおまえはできるんだろ?」

「まあな。センスがあるから……」

「センスの問題なのか?」

和也が首を傾げて教科書を見直した。一般的に魔術は現代において学問とみなされる。その証拠に、魔力を体内に宿した者限定だがこうして国家正式に魔術の授業があるのだ。多くの有力魔術師たちも和也達と同じように授業を経て今に至る。

「だいたいこういう理論的なものは意味あるのか?かめはめ波も螺旋丸もあれ理屈じゃないだろ?」

「誰がかめはめ波やるんだよ……」

「そういえば友達でかめはめ波やろうとして思いっきり後ろに体が飛んで行った奴いたな……」

和也が未だに教科書とにらめっこしていると、八田がスマホをポケットにしまって立ち上がる。それから大きく伸びをした。

「理論は大切だぜ?魔術のレベルがもう少し上達すればわかるようになる」

それから窓まで歩いて行き窓を開けた。秋の少し冷たい風が二人に吹き付ける。

「でも確かに実戦練習が少ないのも歯がゆいな……。なあ和也、明日から放課後に少し魔術の練習をしないか?」

八田の急な提案に驚く和也。それから十秒ほど経過すると和也は持っていた教科書を閉じた。

「やるか。どうせ暇だしな」

そう言うと和也も立ち上がり窓に近づいていく。そして八田同様に窓を開け放った。

「それに……まあ、それで……勇人に少しでも近づけるなら」

和也が小さく呟く。言い終わって校門のほうを向くと手前の道から人が二人並んで歩いてくるのが見えた。和也にはそれが誰だかすぐにわかる。

「お!勇人と菜ノ原さんだ。ちょうどいいからこのまま二人と合流してから智花を迎えに行こうか」

和也と八田は教室から出て校門に向う。二人が校門まで来ると勇人と怜も和也と八田に気が付いた。勇人は笑顔で二人に手を軽く振り、怜が表情を変えずに軽く一礼をする。

「ちょうどよかった。今から智花と合流しようと思ってたんだよ。あ!LINE見た?」

勇人はスマホを取り出し「ん?」という。

「悪いな。充電切れだ」

「まあここで会えたから別にいいけどさ……勇人充電切れるほどスマホ使うのか?」

「俺だって「レインボーバース」くらいやるさ。今ランク50だ」

するとそれを聞いた八田が「まじで?」と言い会話に入ってくる。

「ランク50かー。まだまだだな。俺はランク250だ。トップ層の一員なんだぜ。あ!ちなみに無課金な」

「なに、後でID教えてくれ。勝てなくてランクが上がらない」

「おれのアカウントは人気だからなー。常にいっぱいかもしれない。まあでもしょうがないから後で空けといてあげ」

「LINEの内容はなんだったのだ?」

急に入ってきたキリっとした声に驚く男三人。声の主は怜である。

「ああ、そうそう。みんなでご飯食べに行こうと思ってさ。そっちは大変だったらしいし」 

それを聞いた勇人と怜は顔を見合わせ少しだけ悲しい顔をした。

「吸血鬼と遭遇したにしては軽い被害だろう。近くに緋ノ宮妃のチームを含めた優秀なチームが多くいたことが幸いだった」

「そういうのを聞くと、みんなで食事できるのもいつになるかわからないよな」

和也が軽めにそう言う。勇人は少し間をあけ、「そうだな」と答えた。と同時に荷物を持ち、帰ろうとしている怜の腕を掴む。

「な、何をする!」

少し照れながら声を上げる怜。

「何をするって……。むしろおまえは何がしたいんだ?」

「決まっているだろう。お邪魔になるから帰ろうと」

「何も邪魔じゃない。おまえも一緒にいくぞ!いいよな?和也」

「おう。OKだ!」

「ほら、和也も許可してくれている。だから、な?」

「しかし私は黒守以外の三人とは殆ど面識がない。たまにはおまえたちだけで話したいこともあるだろう?」

「そんなの適当に聞き流せばいい。そもそもそんなこと言ったらあそこの無駄に図体のでかい男もいらないだろう」

八田を指さして勇人が言う。八田は一瞬誰のことかわからなかったらしく周りをきょろきょろ見まわした後、自分だと気が付いた。

「え!俺?いや、でもさっきIDを」

「そのIDは偽物だ」

「ええー」




勇人の半ば強引な誘いによって、怜も食事に行くこととなった。人数が多いので和也が智花を部室に迎えに行き、五人がそろったのは十九時半をまわった頃だった。行先は八田のステーキハウスという意見が華麗に却下され、学園の近くのファミレスに決まる。五人は慣れた道を離しながらゆっくりと歩いていた。

「森谷さんは何という部活に所属しているのだ?」

部室から戻ったばかりの智花に怜が聞く。するとその質問を聞いた智花はパッ!と明るい顔をして嬉しそうに答えた。

「うん!私はね、縫いぐるみ発掘部っていうところに所属しているの」

「え!縫いぐるみ発掘部!」

怜がどこか興奮した様子で智花を見る。

「菜ノ原さん知っているの?活動が活動だけにかなりマイナーでだいたいの人が聞いたことないんだけど……嬉しいな!」

「あ、ああ。友人から聞いた。縫いぐるみを作る部活だそうだな」

「うん。それぞれが自分の好きな縫いぐるみを作るんだ。普通の縫いぐるみから魔力を付加した特殊な物まで色々なものを作るの」

「そうか……その鞄に付いているのも森谷さんが?」

「コン吉さんって言うの!コン吉さんは私が作ったものの中でも特別なんだ!」

智花は鞄からコン吉さんを外して怜に見せる。怜はそれをマジマジと見つめ、感心したように「うんうん」と二回うなずく。

「素晴らしい出来だな。素材も縫い方も抜群だ。込めてある魔力も綺麗に中に収まっている。専門店並みの作品だ」

なおも縫いぐるみをじっくりと観察する怜。すると智花が何かに気が付いたように「あれ?」と声を発した。

「菜ノ原さん、縫いぐるみの専門店に行くの?」

そう聞かれた怜は急に顔を上げ智花の顔をちらっと見てキョロキョロと目を右往左往させる。

「と、友達にな!縫いぐるみが詳しいのが居るのだ。よく話を聞かされる。私は別に興味はないのだが……よく聞かされているから色々覚えてしまってな!」

「ふーん」と不思議そうに返事をする智花。それからコン吉さんを鞄に付け直そうと怜から目をそらす。怜は安心したようにホッと胸をなでおろし再び智花を見ると……智花が怜のことを見ていた。その手には一枚の冊子が握られている。

「な、何かな?森谷さん」

すると智花は意を決したかのように怜に向かってその冊子を差し出した。

「あの!この冊子そのお友達に渡してもらえませんか?部員の作品とか活動記録とかのっているので縫いぐるみ好きなら楽しめると思うんです。それからもし気に入って、部活に少しでも興味があればこの冊子の裏表紙に載っているメールアドレスまで連絡をくれるように言ってもらいたいんです。お願いできますか?」

怜はすぐに返答できなかった。少しの間をあける。それから少し申し訳なさそうに

「わかった。渡しておく」

と言って冊子を受け取った。冊子を渡した智花は笑顔で「ありがとう!」と言い、嬉しそうに「和君。部員が増えるかも!」と言って和也の方に駆けていく。

「何が友達だ」

怜の後ろから急に声が発せられた。しかしその声は聞き慣れたもので驚きはしない。

「いきなり何だ?というか先まで前の二人と話してなかったか?いつの間に後ろに回ったのだ」

「おまえも縫いぐるみ好きなんだろう?縫いぐるみ発掘部に入ればいいじゃないか」

「な、何故それを……」

勇人がニヤッと笑う。

「入学式の日に俺とお前が出会ったとき、おまえは人形発掘部の部室の目の前で張り紙をマジマジと見ていたじゃないか。智花が入りたがっていた部活だなと思ってそちらを見ていたら、おまえがいきなり襲い掛かってきたんだろう?」

怜が顔を赤くする。

「むむむ……。ということは私のベッドの上が縫いぐるみで埋もれていることもばれているか……」

「いや知らない」

勇人が怜に近づく。

「別におまえをからかいたいわけじゃない。おまえメンバー以外で友達らしい友達いないだろ?だから部活に入るのも悪くないと思うんだ。智花もいる。今がチャンスだ!」

それを聞いた怜は少し悲しい顔をする。

「別に恥ずかしいとか入りづらいとかそういう理由で入らないわけではないんだ。私はある目標を持っていて……。それを達成したら入ろうと思う。いつ達成できるかわからないが……な」

勇人は不思議そうな顔をした後、「そうか」といい怜から少し離れる。

「まあ、そういうことなら任せよう。早く達成できるといいな!こんな楽しい時間もいつまで続くかわからないからな」

勇人が前を見る。すると前にいた三人がニヤニヤした顔でこちらを見ている。

「なんだ?二人だけであんなに近づいて話しちゃって、ラブラブか?ラブラブなのか?」

相変わらずのニヤニヤで八田が言う。

「黒守君と怜さん仲が良いんだね!」

悪気のなさそうな笑顔でそう言う智花。

「勇人も隅におけないなー」

そして和也が悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。そんな三人に対し、笑って返事をする勇人。ふと隣の怜を見る。いつもなら顔を真っ赤にして否定する怜が何故かさきほどと同様の悲しい顔をしている。「ふむ……」勇人が気になって話しかけようとしたが気が付けば目的のファミレスの前まで来ていてタイミングを失ってしまった。


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