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虹の誓約  作者: mosura
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騎士王

「元帥は勝手に始めましたか。いつものことですが……」

呆れたようにそう言うのは白い甲冑の騎士。目の前で身構えている和也達には見向きもしない。緋ノ宮妃はその騎士の態度にイラついた表情を見せ、一歩前に踏み出す。

「君は誰ですか?」

騎士が笠原と元帥と呼ばれる男の戦闘を見ながら質問する。まるで妃の動きを見ていたかのようだ。妃は一瞬回答を躊躇するが観念したように目を閉じたのち、答える。

「私は緋ノ宮妃。この学園の生徒会長だ」

「ああ!緋ノ宮……聞いたことがあります。天才だとか」

「そうだ」

「へぇ……で、その天才がなんですか?」

「本来なら私も貴様などに用はないのだがな」

妃がチラッと和也を見る。和也はそれに険しい表情で頷いた。

「貴様がさきほど言っていた目的、あれが本当であれば易々と承認するわけにはいかん。もう一度確認を」

「№6の排除と青の欠片の回収です」

騎士が妃の言葉を遮って淡々と言う。

「№6とはあそこで戦っている笠原優一という人物です。彼を排除、つまり殺します。青の欠片とはそこにいる青年、水瀬和也の持つ虹の欠片です。我々がこれを保護します。今回の目的はこの二つ、君には関係ありません」

「はっ、なんだ?それは」

「ん?理解できませんか?最近の天才は頭が」

「黙れ。ここは学園だ。ここに無断に侵入し、武力を働いているだけでも万死に値する。おまけに私の生徒を連れ去るだと?笑わせるな」

妃が怒りを露わにして闘志を騎士に向ける。すると騎士は深いため息をつき、やっと妃のことを見た。

「君のその愚かさは百歩譲って、どうするかを決めるのは彼自身でしょう?個人の意志は尊重しなければなりませんよ」

和也が騎士のその言葉を聞いて、妃の前に出る。智花は動くことができず、不安そうな表情になった。妃は和也を見ると一歩右に移動し、騎士の正面の位置を和也に譲る。

「ええと……名前がわからないので騎士さん。あなた達は俺を保護すると言っています。理由も何となくわかります。俺がどういう存在かはさっき笠原先生から少しだけ聞いたから。でもだからと言って、あなた達を信頼できる要素はありません。あなた達はどこの誰で、何が目的なんですか?」

騎士はその質問を聞くと十秒ほど黙っていたが、急に自分の甲冑の頭部に手をかけ、それを外す。騎士は……男だ。金髪で王子様のような顔立ちのイケメン。その容姿とオーラは別世界の住人のように感じられる。彼はその青い瞳で和也を見据えると手を胸に当て、浅く頭を下げた。

「失礼しました。私の名はアルフレッド・スティンガー。所属機関は騎士団。役職は幹部第二席。イギリスの聖軍のジェネラルでもあります。ここには騎士団の幹部として参りました。以後お見知りおきを」

「えっ!騎士団ってあの騎士団?教科書とかの?」

「ええ、おそらくそうです。ということは騎士団がどういう組織かは知っているはず。人類を魔物から守る最大最強の機関。そして騎士団の顔ともいえる七人の幹部が協力してこの世界を守っている。私もその幹部です。その私が言っている時点で信頼する要素としては十分ではありませんか?」

和也がその騎士、アルフレッドの言葉を聞いて妃を見る。

「ああ、たしかにその男、騎士王アルフレッドは騎士団の幹部だ」

「そうか……。じゃあ……」

和也が空を見上げた後、アルフレッドの方へ一歩踏み出す。そんな和也に優しく微笑むアルフレッド。しかし歩み出そうとした和也の手を小さな手が掴んだ。弱々しい力が和也を引き止める。

「和くん……」

智花が涙を流して手をギュッと握る。泣くのを何度も堪えてきた今日、それでも今だけは涙が止まらない。大粒の涙が次々に可愛らしい瞳から流れ落ちる。

「智花……」

和也が振り返り、智花を見る。そしてそっと頭を撫でて抱きしめた。それを見ていたアルフレッドが顔を歪める。

「智花、俺も智花と離れたくないよ。でも俺の存在は……なんだかよくわからないけど危険らしい。笠原先生も生徒会長も騎士団の幹部の人も言っている。だから……」

「嫌だよ!和くんと離れるのは嫌!」

「でも智花……」

「もし行くなら私も一緒。絶対に離れない」

智花が涙を拭き、彼女にしては珍しい強い意志の籠った瞳でアルフレッドを見る。アルフレッドはその智花の視線を受け、少し困った顔をするがすぐに清々しい笑顔になった。

「いいよ。彼も一人だと不安だろうし。君一人なら僕が保護できる」

「いや、それは駄目だ。智花は行かせない。行くなら俺一人だ」

「面倒くさいな。早く決めてくれ。全員殺すよ?」

アルフレッドが優しそうな笑顔のままそう言い放ち、白く輝く剣を見る。和也は思わず息を呑んだ。

(智花を連れていくことだけはできない)

和也が手に魔力を込める。

(……)

和也が魔力の籠ったその手を智花に向けた。智花が不思議そうな顔で和也を見る。和也はそれに悲しそうな笑顔になり、智花もそれに笑顔で答えて……

「水瀬和也!」

勇ましい声が和也を呼ぶ。その声に和也だけでなく智花やアルフレッドまでもが顔を向けた。雫だ。彼女はきょとんとした目で自分を見ている和也を心底呆れたような目で見て、思いっきり人差し指を突き出す。

「あなた馬鹿じゃない?」

「いや、でも……」

「いい?私が馬鹿って言っているのはもっと勉強しなさいっていうこと!」

「え?」

「あなた騎士団について何習ったのよ!幹部が協力して?世界を守る?そんなこと笠原先生は言ってないわ。騎士団は確かに強力な魔術師の集団よ。でも彼らの目的は魔女。対魔女組織、騎士団。そこに攻撃の意志はあれど、守護の意志はない。おまけに幹部の以降はバラバラで現にそこの二人も」

「君、うるさいなー」

アルフレッドが笑顔で剣を振るう。どう見ても雫まではリーチが足りない。が剣を覆っている光が瞬時に伸びて全長五メートルほどの光の剣となった。雫はそれを躱せない。その一閃はあまりにも早い。このままでは雫の首が飛ぶ。しかしその光は雫の顔の直前で炎を纏った手に止められた。

「おまえは思っている以上に面白そうだ。やるぞ、協力しろ」

妃はそう言って掴んでいる光の剣を両手で持とうとする。しかし今度は瞬時に光が縮み、手からするりと抜けた。アルフレッドが頭部の甲冑をかぶり、剣とは逆の右手に盾を構えて本格的な戦闘モードに入る。

「穏便に済ませるのは理想的ですが……多くの場合無理です。だから我々のような者がいる。まあそんな話はどうでもいいか。青の欠片以外に用はないよ。だからあとは全員殺すね」

和也はそのアルフレッドの発言に顔を歪める。そして智花を見た。彼女は……手に魔力を込めてアルフレッド見ている。そこに弱々しい彼女はいない。震える足を必死に抑えて立っている。

「水瀬くん、さっきのあなたの答え、間違っているとは思わないわ。時としてそういう選択がこの世界を存続させてきたのは事実なのだし。でもね、私達はまだ子供よ。あまりにも重い運命を背負っただけの子供。だから……少しくらい抗って見ない?あの馬鹿真面目な黒守勇人だって運命に抗っているんだから

「勇人が……?でも、この選択は間違えちゃいけない選択だろ!間違えたら皆が死んでしまう選択だ」

「違うわよ。抗うっていうのはね、間違えることじゃない。強引に正解すること。もちろん難しいわ。でもこれだけ抗える要素があるのなら……チャレンジしてみたくならない?」

雫が笑顔で和也を見る。和也はその雫の笑顔を、そして周りを見渡した。笠原が戦っている。戦況はわからないがその表情は必死だ。妃もすでにアルフレッドと交戦していた。騎士団の幹部相手に互角の戦いを演じている。そして……智花がこちらを見ていた。体の震えを必死でおさえ、強い意志を内包した目で和也を見つめている。

「まあ決めるのはあなたよ。とりあえず私はあの女に加勢してくるわ。さっき借り作ちゃったのよね」

雫は面倒くさそうに笑ってそう言うと手に魔力を込め、見たこともない模様を具現化した魔力で描いていく。五秒ほどで描かれたそれは宙に浮き、光輝いていく。

「複製、ガンディーヴァレプリカ!」

彼女の叫びと共に左手に黄金の大弓が現れる。さらに右手を一振りするとそちらには蒼銀の矢が現れた。彼女はそれを弓につがえると構えをとり、妃と戦っているアルフレッドに狙いを定める。

「パーシュ・パタ。神の力を具現し、我が敵を滅したまえ」

矢がその魔力を増していく。アルフレッドはその魔力を察知し、強力な薙ぎで妃を弾き飛ばして距離を取った。そして剣以上に巨大で目立つ盾を構える。

「そのような偽物ではこの盾は貫けないよ」

雫の放った矢がアルフレッドの持つ盾とぶつかり光を放つ。光は……すぐにおさまった。雫の視線の先には何事もなかったかのようにアルフレッドが佇んでいる。そしてゆっくりと剣を振り上げて

「さっきより早いよ」

雫に向かって光の剣が、今度は頭上から振り下ろされる。アルフレッドの言う通り、その剣はさきほどよりも早いが雫も身構えていたため新しい武器を生み出して剣を受け止めた。

「今のスピードで反応するのかい?ていうかその複製もどう見たって学生の領分ではない気がするけど……。最近の学生は怖いな~」

アルフレッドはそう言うと光の出力を強くし、笑いながら雫の持つ武器を押していく。雫は顔を歪めて何とかそれを抑えるが彼女の武器には徐々にヒビが入っていった。このままでは押し切られる。和也はその雫の様子を見て慌てて駆けよろうとするが

「よくやった、雨堤雫」

妃がアルフレッドの横から、手に凄まじい魔力の炎を纏って接近していた。アルフレッドは盾でその攻撃を防ごうとするが……盾を持っている右手が動かない。驚いて右手を見てみるとそこには透明の糸のような者が巻き付いて動きを封じていた。彼であればちぎれないほどの強度ではないが時間がない。雫に向けていた剣の光を収め、それでそのまま妃を迎撃しようとするが

「会長、今です」

その剣を強靭な腕が掴んでいた。まるで時間ごと止められてしまったのではないかというくらい剣は動かない。動揺したアルフレッドが妃の方を見ると……彼女の拳が目の前にある。

「餓鬼が!」

ドン!という音ともにアルフレッドが吹き飛ぶ。校庭の地面を抉りながら飛び、校舎にぶつかって止まった。校舎が崩れ、アルフレッドにその一部が降り注ぐ。とても生きているようには思えない。妃は「ふうー」と息を吐くとアルフレッドが倒れているであろう地点をじっと見て構えている。

「会長、敵は?」

いつの間にか加勢していた妃のチームメイトの二人、青海奈津美と岩田五郎が妃の下に集まった。奈津美の魔力の糸が盾の、五郎の腕が剣の動きを止めたのだろう。移動や魔術を使うタイミングが完璧。さすがは学園最強のチームである。

「駄目だな。殴った感覚が変だ。あの鎧、おそらく伝説に名を連ねる武具の類だろう。正攻法での攻撃ではダメージが通りにくい」

「じゃあどうするの?喧嘩を売っちゃった以上、戦うしかないわよ。謝っても許してくれそうな相手じゃないでしょうし」

雫が妃に問いかける。和也も智花を半ば抱えるようにしながらゆっくりと歩いて雫に近づいた。

「とりあえず笠原に加勢して……と思ったが」

妃の視線の先で白い鎧が動いた。あれだけの威力の攻撃を受けながら十秒もしないで起き上がる。それでも少しはダメージが入っているのか動きが悪い。ノロノロと手を振り、足踏みする。そして鎧の頭部が和也を捉え、おぼつかない足取りでそっと一歩踏み出した。

「正義の光よ」

アルフレッドが叫ぶ。緑の光が視界を覆う。和也には何が起こっているのかわからなかった。近くにいたはずの智花や雫の姿も見えない。目の前には鮮やかな緑色の世界が広がっているだけ。しかし体が本能的にそれに反応した。怯えるのでもなく、高揚するのでもない、感じたことのない妙な安定感を和也は感じる。そんな中、緑の光の中で和也は女の子の泣き声を聞いた。

「誰だ?」

和也が叫ぶ。しかし返事はない。そのまま泣き声のする方へ歩いて行く。そういえば以前にもこんな体験をした。夢の中でも女の子が泣いて怯えていた。あの時は怖さを感じたが今はない。そうして和也が歩いて行くと暖かい光を見つける。その光は虹の色。七色の綺麗な光。和也はそれをそっと抱きしめた。その虹色の暖かい光のなかで青の光が強くなり……

「……」

「か……く……!」

「……」

「かずくん……」

「……」

「和くん!」

「ん?智花?」

和也がポツリとその名前を呟くと目の前がいつもの光景に戻った。腕には大事な幼馴染を抱きかかえている。智花は和也のことを心配そうな目でジッと見つめていた。

「水瀬和也以外は消し飛ばすつもりだったんだけど……まさか相殺されるとは。まあ目的は達成できたけど」

和也はその声を聞いて慌てて振り返る。目の前にはアルフレッドがいた。頭部の鎧を外し、こちらに近づいてくる。

「これ以上の抵抗は犠牲が増えるだけだよ。せっかく君の力で死者が出ずに済んだんだ。ここれでおとなしくしてくれ」

和也がその言葉を聞いて周りを見渡した。妃が、雫が、生徒会の二人が倒れている。妃は傷がひどく瀕死の状態だ。他の三人も気を失っている。

「おまえ!」

和也が怒りの声と共に全身に魔力を込めた。膨大な量の魔力が体からあふれ出し、具現化して半径三メートルほどの球形となる。アルフレッドはその魔力を見て立ち止まると呆れたように和也に言った。

「凄まじい魔力だ。でも魔術ではない。使い方を知らない。それでは魔物と一緒だよ。力を振るうだけの獣。魔術師失格だ」

アルフレッドが指をパチンと鳴らす。すると和也の形成していた球形の魔力が簡単に崩れてしまった。そして間髪入れず手を伸ばして和也の目の前でふたたび指を鳴らす。和也が意識を失って崩れ落ちた。アルフレッドはその和也を軽々と肩に担ぎ、困惑している智花に背を向けて歩き出す。

「和くん……」

智花が慌てて追いかけようとするが体が動かない。

「君も諦めろ。どちらにしてもこの男、水瀬和也の近くにいればろくなことにはならない。別に君のためを思って言っているわけではないよ。ただそれが事実ということ。この残酷すぎる事実に立ち向かうにはそれ相応の力を持つ者でなければならない」

アルフレッドが笠原と戦闘をしている元帥を見る。元帥が笠原の頭に銃を突き付けていた。勝負アリ。これで目的は達成された。ならばここに用はない。アルフレッドは泣きながらも必死に動こうとする智花を無視し、目の前に降り立ったヘリコプターに向かってゆっくりと歩いて行く。


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