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虹の誓約  作者: mosura
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初戦前

水瀬和也、森谷智花、八田慎二の三人は競技場のコートへの入り口である第三ゲートの待機場所にいた。先程第一試合が終わり、次は第二試合である自分たちの番なので観客席から移動してきたのだ。

「やっぱり武器はあったほうが安心だよなー。なんというか気持ちの問題で」

和也が一緒に待機している他チームの生徒を見てそう不安そうに呟いた。殆どの魔術使用者は武器を使用して戦う。ただの魔物ならまだしも、大型の物や一級危険種ともなると人が使う魔術ではダメージ効率が悪い。そのため軍隊などでは魔術と銃器を組み合わせた戦闘方法をとることが多い。銃器との組み合わせは最近発明されたもので、これにより連合軍は前線の押上げに成功した。

「智花はその縫いぐるみだよな。えーっと……八田は?」

和也が八田の方を見ると彼は鞄から何やら出しているところだった。ちなみに八田は先まで観客席で「OTOHA」と書かれた旗を持った気持ち悪い集団と一緒になって騒いでいた。観戦していたのは第一試合、第一コートで行われていた黒守音羽チームの試合。相手は二年生の上級組でかなりの強敵だったが彼女のチームは勝利を収めた。音羽は容姿端麗で可愛らしく、誰に対しても明るく笑顔で接するので男女から人気がある。そのため先程のような集団も時々いるのだが、親友の妹がそのような扱いを受けているのは何とも気まずく、和也と智花は苦笑いの連続だった。

「これ!」

そう言って八田が取り出したのは長い棒状の楽器、横笛だった。鈍い金属光沢と要所要所の和のデザインが美しい。音楽や楽器に詳しく無い者でもそれがとても高価な物ということがわかる。

「おまえ楽器なんてできるのか?」

「甘いな、和也!俺は小学生の時から習っていたんだぜ!……って言っても半分強制的に。別に好きだから習っているわけじゃない。まあ、おかげで強力な幻術が使えるわけだ」

「そういえば、幻術系の魔術は生物の五感、特に視覚と聴覚に影響を与えるものと併用すると効果が上がるって授業で習ったよね」

「お!さすが智花ちゃん、その通り。だから、魔術のために楽器を習う人も珍しくない。この前テレビでどっかの偉い音楽家が怒っていたぞ」

「あー俺もそれ見た」

「4チャンネルだよね!」

三人がテレビの話題で少し盛り上がっているとこちらに向かってやたら大きな武器を持って歩いてくる女子生徒が和也の目に留まる。雫が貸し出しから戻ってきたのだ

「あなた達、あと十分ちょっとで試合が始まるのに……緊張感ないわね。まあ、ある意味いいことだわ。準備はいいのかしら?」

「お、おう。ところで雫ちゃん、その長いのはなんだ?」

「ん?ああ、これかしら?もちろん武器よ。で、さっき黒守勇人と話したけど、緋ノ宮妃チームのフォーメーションは予想通りの確率が高そう。前衛が緋ノ宮妃のみであとのメンバーは後衛ね。おまけに司徒教介の状態も思っている以上に悪いみたい。だからこちらも今まで話した通りのフォーメーションと作戦でいく」

それから彼女特有の自信ありげな笑みを浮かべ、手に持っている二本の槍をグルンと回す。和也と智花は驚いて思わず後ずさりした。そのスピードはまるでバトンでも回しているかのよう。彼女の細い腕のどこにそんな力があるのか不思議になる。

「残る不安は緋ノ宮妃と残り二人の戦闘力のみ。もちろん最大の懸念要素ではあるけれど……あなたたち私の力を舐めているでしょ?緋ノ宮妃くらい最悪私一人でなんとかしてあげるわ」

「ええ?雫ちゃん本気で言っているの?」

「それ以上そう呼んだら、緋ノ宮妃の前にあなたをこの槍で串刺しにするわよ」

「ごめんなさい。よろしくお願いします、雨堤さん」

「ふふ」

雫が珍しく声を上げて笑う。和也はそんな彼女の笑顔にうらやましさを感じた。彼女にとって強敵と当たるということは嬉しいことなのだろう。今までそういった素振りを見せることはなかったが作戦を練る姿や練習で戦うときの姿思い出せば納得いく。もしかしたら八田もそうなのかもしれない。

「あと三分ほどでコートに入場となりますのでゲート手前にて係りに指示された通りに並んでください」

係りの職員がその場にいる生徒全員に聞こえる大きな声で呼びかけた。それを聞いた生徒たちは待っていたかのように荷物をまとめ戦闘へと意識を切り替えて行く。和也も荷物を指定の場所へ置くと屈伸や、魔術をわずかに発動させるなどをしてその場の雰囲気に合わせた。ふと和也はそこにいる三人の顔を見る。智花はこっちを見ていた。笑顔だが少し緊張しているようにも見える。八田はいつになく真剣な顔をしていた。雫も同様だ。しかし八田以上の決意のようなものが感じられる。

「さて、やってやりましょうか」

そう言った雫の顔は先程までの自信ありげな笑みを含んだものに戻っていた。和也が彼女のその表情を確認すると同時に案内係りに者がコートに入場し始める。和也達はそれに続いてコートに進んだ。まるでサッカー選手にでもなった気分になる。観戦席は生徒達で埋め尽くされていた。カメラのようなものを持っている者も見受けられる。生徒会長である緋ノ宮妃は生徒一部の生徒に人気あるので彼女が出る試合だからかもしれない。そんな中を水瀬和也、森谷智花、八田慎二、雨堤雫の四人が誘導係りの生徒に続くようにして歩いていく。四人が向かうのは第五コート。一から十まであるコートの中央に位置した最も目立つコートだ。移動中には緋ノ宮妃たちの姿は見えない。

「やべ。ちょっと緊張してきたわ」

和也がラジオ体操のようにして手を回す。それから横を見て隣を歩いている智花の様子を見た。彼女はお気に入りの縫いぐるみ、コン吉さんをいつもより少し強めに抱いている。

「智花も少し緊張気味?」

「うん……少し」

「大丈夫だよ。前の二人めちゃくちゃやる気満々じゃん?」

「ふふ、そうだね」

和也が前を指さし、智花はその先にいる二人の背中を見て軽く笑った。そうして少しお互いの緊張が緩む。智花はコン吉さんの頭を優しく撫でた。一方、落ち着いた様子で案内係の後ろに着いて歩いて行く八田と雫。そんな二人が小さな声で会話を始める。

「やっぱり、水瀬君と森谷さんは少し緊張気味かしら」

「当然だろ。中級組なら、二年生はやっと魔術と戦闘が結びつく時期。こんな大勢の前で魔術を振るう機会なんて初めてだ」

「そう。あなたはどうなのかしら?八田君」

八田が雫を見る。その目はいつもと同じ少しむかつく、それでいて愛嬌のある目だ。雫はそんな八田の目を鋭く見つめ返すがすぐに前に視点を戻す。

「まあ、いいわ。で、本題。あなたと私で予定している作戦通りに動くのはいいとして……あなた、勝ちに行く気はどのくらいある?」

「百パーセントだが?雨堤さんは?」

「ええ、同じ。なら、問題ないわね。あとは」

ふと雫の声を遮るほどの歓声が競技場全体を包む。和也は戸惑いながら周りの視線をたどり、左後方を見た。するとその歓声の原因がすぐにわかる。手を前に組み、自信満々の笑みを浮かべて、案内係の生徒などお構いなしにこちらに向かって歩いてくる一人の女子生徒。身に纏う雰囲気は集会などで見る時とはまるで違っていた。まさしく王者である。和也はその雰囲気に思わず息を呑む。一方で雫と八田は緋ノ宮妃の存在を確認すると笑みを浮かべた。

「なんであの女ニヤニヤ笑っているのかしら?不愉快ね」

「雫ちゃんの身長があまりにもミニマムだからじゃない?」

「なら、痛い目見てもらいましょうか。あなたと一緒に」

「ええ……」

そんな二人のやりとりを見た和也と智花は顔を見合わせる。

「やっぱり八田も雨堤さんもすごいよな。余裕があるというか、なんか慣れている感じ」

「それはそうよ。八田君は知らないけど、私は慣れているもの。私の家は……今度説明するわ。とにかく経験しているというただそれだけ。でもそれが大事なの。だからあなた達も今回は慣れてちょうだい。慣れるにはとりあえず攻撃が一番よ」

雫が持っている槍を一つ前に差し出す。

「それ雨堤さんが使うんじゃないの?」

「馬鹿ね、いくら私でもこんな重い物二つも使わないわよ。一つ渡すから、試合が始まったらありったけ魔力を流し込んで相手に向かって投げてみなさい。狙いは適当でいいわよ」

「わかった。なんか……面白そうだな!」

「でしょ?」

和也と雫が悪戯っぽい笑みを浮かべた。それを見た八田は歩く速度を落とし、智花に近づく。

「智花ちゃんも基本はあんな感じで。でも和也をフォローしてやってくれ。まあ、言われなくてもやるだろうけど」

「うん」

先頭の雫の足が止まる。気が付けば第五コートに到着していた。対面には緋ノ宮妃チームの姿が見える。和也はその顔を全員知っていた。学園を代表する生徒会のメンバーなのだから当然かもしれない。

「それではこれより模擬戦第五コートの試合を始める。両チームは速やかに整列しなさい」

審判担当の教員が声を張り上げて言う。それを聞いた両チームはコートの一番端のラインに整列した。自然とお互いが相手と見合う形になる。すると先ほどからこちらを探るように見ていた緋ノ宮妃が前に一歩出て、口を開く。

「ふむ、お前らが一回戦の相手か……今のところ普通だな」

和也達は何も答えない。それに意味はない。

「緋ノ宮妃。これからルールの最終確認をする。勝手な真似はするな!」

担当教員にそう注意された妃は「悪い、悪い」と言い、一歩さがる。担当教員は今まで三度ほど聞かされた注意事項の重要部分のみ再び説明し始めた。読み終えると二つのチームを交互に見て確認し、手を構えながら術文を口ずさみ魔術を発動させる。

「分て!」

教員の手から放たれた魔力がコートの中央をまっすぐに駆け抜け、両チームの間に壁を作った。難しい魔術ではないが教員らしい綺麗さとスムーズさだ

「よし、それでは各々戦闘開始前の位置に付け。ただし、まだ魔術は発動するな。」

それを聞いた和也達は予定通りの陣形に展開する。和也が予定の位置に移動し終え、前を向くと魔力によって遮られたコートの向こう側の緋ノ宮妃が目に入った。こちらを見ているその顔は笑っているように見える

「陣形は大丈夫ね。あとは作戦通りにいくわよ。ただし水瀬君と森谷さんには指示を出すかもしれないから上手く動いてちょうだい」

雫はそう言うと八田に視線を移す。彼は移動を終えた先で自分の持つ横笛を見ていた。

「八田君。あなたには基本的に指示は出さないわ。サポートを基本として、自身の判断で動いて」

そういわれた八田は顔を上げ、にこやかに手を振り返す。相手チームも移動を終え、気付けば両チーム全員の位置が変化していた。緋ノ宮妃チームの陣形は……予想通りだ。和也が、雫が、八田がそれぞれ武器を構えて、相手に向き合う。それを確認した担当教員が「よし!」とつぶやき手をまっすぐ挙げた。

「これより模擬戦第二試合、第五コート 緋ノ宮妃チームと雨堤雫チームの試合を始める……始め!」

教員が言い終わるとほぼ同時に「ドンッ」という音が鳴り響き、試合の始まりを告げる


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