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虹の誓約  作者: mosura
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「ふぅ……国連の方たちを招いての会議はつかれますね」

「全くだ。なぜ我々が政治家どもにペコペコ頭を下げなければならん」

「まあ、私達の力を抑制するのは賛成ですがね……」

二人の男女が高級そうな赤いカーペットの敷かれた長い廊下を歩いている。一人は着物を着た、七十歳ほどの女性。腰が少し曲がり、髪は白く、手には杖を持っている。その隣を歩くもう一人はその女性とは真逆ともいえる風貌をしていた。百九十を越える身長に、服の上からでもわかる重厚な筋肉。鋭い目つきで、赤い陸上選手のジャージのような服を身に付けている三十ほどの男。その威厳は一目で感じられる。

「そういえば貴殿に献上される予定であった「刀」はどうなった?製作途中で鍛冶師が渡すことに難色を示したと聞いたが」

「ああ、あれですか。どうも森谷正宗が頑なでしてね。まあ謝罪もしていただきましたし、刀剣の所持者を決めるのは鍛冶師とその刀ですから。諦めますよ」

別段感情を表すことなくゆったりと歩くその女性。

「それより聞きましたよ。サウジアラビア近郊に出現していたセラフィムを討ったそうじゃないですか。これで中東奪還に一歩近づきました。中国に流れた難民の方々もさぞ喜んでいるでしょう」

「あれは……あの「魔女」もいたからな。当然だ。」

男が気に食わないことを思い出したかのように顔を歪める。その表情を女性が顔を動かさずにチラッと見た。

「……」

「……」

無言で歩く二人。しばらく歩いて行くと建物の出口に差し掛かる。扉の前にはスーツを着て、サングラスをかけた男性が二人、姿勢を正して立っていた。二人が扉にたどり着くと丁寧に会釈して扉を開ける。

「それではお疲れさま。次にあなたと会うのは日中会議の時かしら」

「貴殿はこの後どこに向かわれる?」

「日本に一度戻るつもりですね。長い間不在にしてしまいましたし、少し厄介そうな連絡も受けましたので」

「私も時間ができたら本国に帰るとするか。まあ、最もこの後も前線に向かわねばならないのだが」

「気を付けてください。貴方が死ぬようなことがあればまた幹部の平均年齢が上がってしまいますからね」

「ふっふっふ」と笑いながら女性が男から遠ざかる。男は姿が見えなくなったのを確認するとポケットからスマートフォンを取り出した。

「あの婆……日本の人員から入ってきた情報が正しければ何かある。次の作戦が終了したら国に戻って確認してみるか」

男が電話を掛ける。すると一度目のコールで相手が出た。

「こちら国連軍大隊の指揮官、カール・ソーンです。「騎士団」軍のチャン・ウーさんで間違いないですね?」

「ああ」

「攻撃準備完了しています。いつでも作戦実行可能です」

「一時間後にそちらに着く。各装備の点検と人員の配置を確認しておけ」

「わかりました。お待ちしております」

男が、「騎士団」の幹部チャン・ウーが電話を切る。すると空から「ブゥウウウン」という音が聞こえ始める。ヘリコプターだ。側面には交差した剣が描かれている。着陸したヘリコプターのドアが開く。チャンはさきほど女が歩いて行ったほうを見て手袋をはめ、ゆっくりとヘリに乗り込んだ。






廊下を一人歩く。自分が今通っている魔術学園の廊下だ。さきほどまでチームのメンバーに魔術を見せて特徴を説明したり、チームのもう一人の女子の予想外の魔術に驚いたり、少しだけ魔術の出来が悪い男子生徒に魔術のコツを教えたりしていた。誰かとこんなことをしたのは久しぶりな気がする。彼女の顔に自然と笑みが浮かんだ。しかし今は一人だ。もう少し練習するというメンバーと別れて、一人で薄暗い廊下を歩いている。午後の六時を過ぎたが外からは魔術による音や生徒の叫び声が聞こえた。

「チームはどうですか?三人ともいい生徒でしょう」

十メートルほど先の影の中から声が聞こえる。男の声だ。しかし、彼女は驚かない。いつものことだ。どこからか現れて馴れ馴れしく声をかけてくる。

「言われた通りやったわ。彼のチームに所属した。で、次は何?」

彼女が素っ気なくそう言う。

「まあ、焦らないでください。あなたのそういうところは魅力的ですが私はおしゃべりが好きなんです」

「私もこう見えて人と話すのは好きよ。多少なりともその人の人間性がわかるから。でもあなたと話しても何も見えない。見えるのはあなたの偽物だけ。実に不快ね」

「はは、その通りです。やはり数多いる候補からあなたを選んだのは正解でしたよ。雨堤雫さん。あなたの父親の会社を潰して正解でした」

雫が目を細める。それから指先を細かく滑らかに動かし小さく口を開いた。

「複製。トリシューラ・レプリカ」

瞬く間に彼女の周りに三つの槍が現れ、光の如き速さで影に潜む男に向かう。しかし槍は男に触れると吸い込まれるように消えてしまった。神話の槍を基にした強力な魔術が音もなく消えてしまう。

「いい魔術ですね。発動から攻撃までが非常にスムーズです。しかしその程度では家族は救えませんよ」

雫の顔を何かがかすめる。ナイフだ。しかし彼女はそれを視認できなかった。肌に触れてやっと攻撃に気が付く。

「ほら、力の差は歴然。そしてあなたに助けは来ない。もうあなたが逃げることは」

「あなたと話すのは嫌いと言ったはずよ。早く要件を言って」

雫が辛そうに顔を歪めた。

「そうですね……ついつい人を追い詰めてしまう。いや、申し訳有りません。さて、要件を言いましょう」

そう言う男の表情は影で隠れてわからない。下を向いていた雫が顔を上げる。

「といってもですね、難しいことではありません。模擬戦までチームで普通に過ごしてください」

「普通に?」

疑うように雫が聞く。

「別に深い意味はありませんよ。普通というのは一般的という意味です。ほら、チームメイトにいいお手本がいるじゃないですか。水瀬和也くん。彼はいたって普通でしょう?」

腑に落ちない顔をする雫。そんな彼女に再び何かが投げられる。さきほどとは格段にスピードが遅いそれを雫は指で挟んで受け止めた。

「キャッシュ……カード?」

「支給されている金額だけでは何かと不便でしょう。自由に使って下さい。まあ私が破産しない範囲で」

雫が一層、よくわからないという顔になる。

「とりあえず見張ればいいってことかしら?」

「ああ……まあ、それで構いません。あ、それともう一つ」

男の声が小さくなる。大事なことを話すときのこの男の癖だ。

「黒守勇人には気を付けてください。彼は私を疑っている可能性があります」

雫が目を見開く。

「断定はできませんが、低いとも言えません。どちらにしても水瀬和也が関わる以上彼には気を付けておくべきでしょう」

「なら自慢の戦闘力でとっとと始末すればいいじゃない」

「できるならしてますよ」

男がため息をつく。雨堤はその反応にさきほどよりさらに驚いた。

「嘘でしょ?いくら緋ノ宮に並ぶ化け物でも所詮は学生。まだ学んでいない魔術もたくさんある。あなたなら殺せるでしょう」

「彼自身の戦闘能力ならそうですね。私であれば楽にとは言わないまでも確実に殺せます。しかし、彼の手元には「あれ」がある。本来別の場所にあるべき物が、どういう風の吹き回しか黒守勇人が持っている。困りましたね」

そう言って再びため息をつく男。雫は男のその反応をみて、さきほど和也達と練習をしていたコートを窓越しに見た。

「わかった。極力気を付ける。じゃあもう大丈夫かしら。冗談抜きであなたと話すと疲れるの」

雫がだるそうに言う。

「はは、傷つきますねー。まあ、じゃあはい。わかりました。今日はこの辺で。模擬戦期待しています」

男の気配が消える。それと同時に雫の目の前の廊下が明るくなった。教員が書類を抱えて自分の横を通り過ぎる。この妙な感覚の変化もいつものことだ。

「さて、どうしようかしら」

時計を見る。六時二十分。二十分ほど話していたということだ。

「まだ練習してるわよね……水瀬君少しはマシになったかしら」

そう言って雫は広場に小走りで向かった。


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