野球なんてこんな世界じゃ役に立たない
俺は思わず頭が真っ白になった。
「避けろ!!」
「へ?」
その言葉で我にかえるとグリズリーに攻撃が来ているのに気付いた。
「しまっ……」
気づいた時にはすでに遅くグリズリーの爪に弾き飛ばされ、すごい勢いで地面に叩きつけられた。
「キドー!?」
「変態―」
飛ばされた俺を見て思わず仲間が叫ぶ。
――……痛ってぇぇぇぇぇ!!
あまりの痛さにその場で転がりまわる。
――なんだよあれ、まるで鉄球くらったみたいだったぞ!!
受けた痛みはそれくらい痛かった、本来なら全身骨折、あるいは死ぬような痛み、だが体は普通に動いてる。
やはり俺の体はこの世界に対応した体に変わっている?さっきのこともそうだ。
切り付けようとしたら急に力が入らなくなるなんて俺の世界ではありえない。
俺はオッズが初めに言っていた武器スキルのことを思い出した。
――武器スキルが合わなかった?
ここではスキルというものがありそれに応じて動きが変わってくるのか?
ならばまず適性の武器を見つけなければ
俺は少しふらつきながらも立ち上がり、再び武器庫へ戻ろうとした。
「あぶねぇ!」
その声に振り向くと巨大なクマの手が再び俺に襲い掛かってきた。
どうやら標的にされたらしい。
熊の攻撃をなんとか避け隙を伺いつついると後ろから声が聞こえてきた。
「族長!ボウガンの準備ができました」
その声の方向に視点を移すと、武器庫横にある建物から普通の弓矢の何倍もの大きな弓矢が用意されていた。
「よし、ならばグリズリーに向けて発射の準備だ!大きい分連射はできねぇ1発で仕留めるつもりでいけぇ!」
その言葉にうなずくと男たちはグリズリーに狙いを定め大木と岩でできた矢を放った。
ドズッ
発射したボウガンは鈍い音を立てグリズリーに刺さった。
しかし刺さったのは肩の部分でグリズリーは悲鳴を上げはするものの倒れはしなかった。
「マジか、あれで倒れねえのかよ」
俺はボウガンに標的を変えたグリズリーから離れるとすぐに武器庫に向かった。
「もう一度だ!今度は心臓部を狙え!」
グリズリーが向かってくる中、再びボウガンの準備を始めた、オッズはボウガンの準備ができるまでの足止めをするためグリズリーに再び攻撃を仕掛ける。
――駄目だこれでもねぇ
武器庫に置いてあるいろいろな武器を試すがどれも先ほどと同様振り回すと動きが鈍くなる。
もし本当に勇者なら1つくらいとんでもないスキルがあるはずなんだが、クソ、今は
外が騒がしいので窓から覗いてみると外ではボウガンの準備が再び整ったようだ。
「いいかぁ!確実に当たるように今度は最大まで引きつけてから打つんだ!」
――もしかしかしたら出番はないかもしれない
そう思っていた。
オッズが後退しグリズリーがボウガンの手前まで近づく。
「今だ!はなてぇ!」
号令とともに矢が放たれた。
矢は見事心臓部に命中した。
決まった!全員の顔に一瞬のほころびが現れる。
……しかしグリズリーは倒れなかった。
グリズリーの勢いは止まることなくそのままボウガンは破壊され周りの男たちも吹き飛ばされた。
「なんで?心臓に刺さったんじゃ?」
確かに心臓部には矢が刺さっている、ならば何故?
「肉だ……体の肉が分厚すぎて心臓まで届かなかったんだ」
後退していたオッズがボウガンを壊された様子を見て雪の上に座り込む。
「ボウガンが壊れた以上もう太刀打ちはできねぇ、ここはもう駄目だ、お前はここを出て北に向かうといい、そこに町がある」
戦意を喪失したオッズが俺に向かって呟くように言う。
「あんたたちは逃げないのか?」
「俺たちは女神のいるこの山をを守る部族だ、ここからは離れられねえよ、ルウのやつが変なこと言って悪かったな。捕まえておきながらこんなこと頼むのもなんだが武器庫の向かい側の倉庫に子供たちが避難している。あの子たちまで付き合わせるつもりはねえ、一緒に逃がしてやってほしい。」
そういうとオッズは立ち上がり再びグリズリーに向かっていった。
――このままここを出ていって良いのか?
俺は自分に自答する。
――だが自分には何もできない。
この世界の自分は武器一つ振り回すのが精一杯、相手を傷つけることなんてもってのほかだ
ましてや、俺は元の世界で戦いとは無縁の生活で楽しく生きていた男だぞ?
……本当に何もできないのか?
俺は今一度、グリズリーの方に目を向ける。
グリズリーは生きてはいるものの、心臓部にボウガンの矢は刺さったままだ。
あれを押し込めば、倒せるかもしれない。
……
だがどうやって?
確か武器庫にハンマーらしきものはあった、あれで叩けば心臓まで食い込むかもしれない。
しかしグリズリーは負傷により動きが鈍くなっているも痛みで興奮状態に陥っていてとても近づける状態じゃない。
ならばどうする?
周囲を見渡して何か使えそうなものがないかを探る、しかし、周りにあるのは壊された家の瓦礫と、真っ白な雪だけだ。
仕方がない、武器庫で使えそうなものを取ってくるか。
そう、思い立つと、急いで武器庫へ向かうが、雪に足を取られ転倒する。
つまずいたところを見てみるとそこは誰かが踏んでいたのか雪が圧縮されて滑りやすくなっていた。
いてて、
ん?待てよ?
そうか、!その手があったか!




