グリズリーがなんぼのもんじゃい!
グリズリー 別名ハイイログマ
熊の中ではかなり獰猛な方で日本でも親せきのヒグマさんが凶暴で有名だ。
ただここの世界のグリズリーは倍以上にでかいらしい。
ほんの1日前、楽しく人生を謳歌していた俺は異世界に飛ばされ、たった数時間の間で雪の中パンツいっちょで騒ぎ、変態として捕まりブサイクな勇者としてたたえられた挙句、グリズリーと戦うはめになりました。
――いやいやいや、まだ戦うと決めたわけじゃない。
首をブンブンと振り考えを振り払う。
「お願いですキド様、グリズリーを討伐してくれませんか?」
目の前を見るとルウが眼を潤ませながら必死に願懇してるのが見える。
確かに俺はスポーツで体はかなり鍛えてあり、そこいらのヤンキーくらいならなんとかできるが、熊と戦うなんて無茶もいいとこだ。
よく名のある武闘家で素手クマを撃退する話を耳にするが、あんなもん所詮は眉唾もんだし、その眉唾話の中ですら撃退が限界、倒すとか殺すなんては無理なんだ。
ましてや向こうは五メートルを超える熊で、こっちは顔がいいだけのただの高校生だぞ?
もし仮に小説のように俺にもチートスキルがあったとしよう、しかしそれを知らない状態では、ほぼ使えないのとないのと同じだ。
勝てるわけがない、断ろう……俺は静かに決心した。
「悪いけどルウ……その話は――」
「グリズリーが出たぞー!」
「なに⁉とうとうここまで来やがったか⁉野郎ども!戦闘準備だ!」
言おうとした言葉が男たちの怒号で一瞬でかき消された。
グリズリーの、バカヤロォー!
心の中で叫び、周りが戦闘態勢になり始める中、俺は頭を抱えしゃがみ込んだ。
「キド様、もう時間がありません!お願いします!」
ルウに必死に迫られる。
クソ、こんなところ死んでたまるか!
決意を固め、大きく息を吐き、両手で頬をたたいて気合を入れるとすぐに立ち上がった。
グリズリーがなんぼのもんじゃい!
こちとら今まで何度もピンチ(野球の)をくぐり抜けてきとんのじゃ!
俺はすぐさま服を着ると勢いよく家から飛び出した。
……がその勢いは一瞬で凍り付いた。
「グオオオオオオオオ!」
俺が眼にしたのは山の入り口にまるで壁のように立っている全身に傷痕が付いた大熊だった。口から発せられた爆音のような咆哮は俺の決意をバキバキに折り、
想像していた以上に大きかった5メートルという大きさは俺の足を凍りつかせ
そして体についた傷痕はその熊のくぐり抜けてきた修羅の道を語っていた。




