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笑顔を作るのが上手い奴と、剣を拾うのが上手い奴

剣スキルF

打撃スキルF

乗馬スキルF

槍スキルF

魔法スキルF

弓スキルF……


カードに書かれたスキル項目に並ぶたくさんの「F」

私が生まれたときのスキルは、すべてがFだった。


先祖代々から冒険者の家系のミルージュ家では、先祖から受け継がれてきたスキルで、皆生まれたころから最低でもDランクが一つはあるもので、武器スキルがF。ましてや全てがFというのは、ミルージュ家始まって以来の出来事であった。


普通は子供のスキルは、親のスキルが大きく影響するものだが、ごく稀に、親のスキルを受け継がれない子供が生まれることがある。

その子供は冒険者の間ではノットファクター(無能者)と呼ばれ蔑まされている。

由緒ある冒険者の家系で、私がノットファクターとして生まれたことで、父は母に激しく激怒し、母は私を生んだことにより父や親族から酷い扱いを受けるようになり、私を生んだことを後悔した。


「お前なんて生まれなれなければよかった。」

「一族の恥さらし。」


表に出すのも恥ずかしいと、小さな小屋で監禁されながら育った私は、小屋の中であらゆる武器を振らされて上手く振るえないたびに暴力と罵声が飛んできた。

毎日が地獄のような日々、私は自分のスキルを酷く憎み、八つ当たりに何度もカードを切り刻もうとするが、ナイフ一つまともに使えない私にはカード一つ切ることができなかった。


だが、そんな生活はある日突然、終わりを迎えた。

六歳になったときに、自分に妹が産まれたのだ。今度は正統なスキルを受け継いだ子供だ。

新しい跡継ぎが決まったことで、両親は安堵し、私の仕打ちは減っていった。


――やっと解放されるんだ。

そう思っていた矢先、後継ぎが産まれたことで用済みになった私は、どこか人里離れた森の中へと捨てられた。


森のモンスターに強い敵はさほど見当たらなかったが、六歳という若さと、オールFのスキルで武器もろくに使えなかった私にはなすすべもなかった。

モンスターが残した食べ残しで空腹を満たし、毎日狼や猪のような姿をしたモンスターから追われる日々。

そんな毎日は私のトラウマとなり、時が過ぎた後も、私の心に恐怖を刻み付けることになる。


ひたすら逃げ回り続けたことで素早さのステータスは上がったが、やはり体力にも限界があり、一ヵ月たつ頃には身体中ボロボロになり空腹と疲労で倒れてしまった。


ーーこのまま死ぬのかな?

目の前には鋭い牙と額に角の生えた、巨大なモンスターが私を見下ろしている、恐らくこの森の主だ。

逃げる力などもうない、生きることすら最早どうでもよくなっていた。

モンスターが大きな口を開け私に襲い掛かると、死を覚悟した私だったが、それはたったひと振りの剣によって遮られる。

普通の冒険者でも倒すのに苦戦しそうな敵を、一撃で粉砕した、その無口で表情を顔に出そうとしない男の名はジャックウォーレン。

かつては剣聖と肩をならべらるほどの実力を持った剣士だった男だ。


ジャックはボロボロになった私を助け、家で介抱すると、そのまま私を養子として迎えいれた。

冒険者でありながら、オールFのスキルを見ても何も言わないジャックに私は唯々戸惑った。

今までこのスキルのせいでどれほど酷い目にあっているかを考えると当たり前のことだ。

そんなおどおどしていた私を、ジャックは無表情で頭を撫でた、表情ではわからないがその手から感じる温もりに私は初めて優しさと言うものを知ったのだ。


――私もいつかジャックのような剣士に……

そう思いひたすら剣を振り続けた、姓もいつかジャック・ウォーレンの娘として名に恥なくなるまで名乗るのはやめにした。

そして結果三年かけて剣スキルをEまであげることに成功した。

初めて見えたF以外の文字、嬉しくなり私は誇らしげに父にカードを見せた。

父もそれを見て、無表情ながら小さな声で頑張ったなと呟き頭を撫でてくれた。

私も思わず笑顔がこぼれていた。


だが、ジャックは努力の成果は褒めても、剣士を目指すことに余り理解を示さなかった。

「強くなくたっていい、剣が振れなくたっていい、お前は俺ができないことができるんだから自分らしく生きればいいんだ。」

そう言っていつも私が見せる笑顔を羨ましがっていた。


――笑顔なんて誰でもできるじゃん。

そう思いながらも褒めてくれることが嬉しくて、ひたすら笑顔を作っていた。


毎日笑顔が絶えない幸せな日々……だがそんな日々はある日突然崩れ去った。


ジャックがクエストで死亡したのだ。

クエストはAランクモンスターの討伐、Sランクで実力も経験も豊富なジャックにとってはこの程度のクエストは、普段からこなしているクエストであり、やられるようなことはまずない。

ただ、その日のクエストは普段と少し違ったところがあった。


それは情報……

初めにジャックが討伐する予定と聞いていたモンスターは大きなサソリ型のモンスターで、過去に何度も倒したことのあるモンスターだ、しかし実際戦ったのは全く別の大きな植物のようなモンスターだった。

ただそんなモンスターでも後れを取るほど弱くはない、ジャックは難なく敵を排除し問題なくクエストを完了した。

浴びた返り血に猛毒が含まれていると気づくまでは……

その後、ジャックはギルドの前で倒れて亡くなった。


情報が違った理由は、依頼者の不正とギルドの怠慢。

本来ならSランク級のモンスターだったが、依頼金を惜しんだ依頼主が嘘の情報で依頼を出したのだ。

ギルドもそれを調査せずに普通に依頼として通した。

情報なんて多少違っていても、ジャックなら問題ないだろうという油断からだ。



悲しみに明け暮れる私に現実は厳しく、ジャックが死んだ今、私を支えるものは何もなく、残した遺産はどこから湧いてきたかわからない身内に全てむしり取られてしまった。

そして私は生きるために十三の年で働くことになった。


だが、子供ということもあり、雇ってもらえるところはなく、ギルドはスキルのせいで門前払い、行き場をなくした私が見つけた仕事が情報屋だった。

戦えはしないが、唯一他の人より優れている素早さでフィールドを駆け回り、周りのモンスターの生態を調査し、若い年齢を活かして、ジャックに褒めてもらった笑顔でいろんな人物に接触し、冒険者たちから様々な情報を聞きだした。


時には子ども扱いされ、教えてくれなかったりもしたが、少しでも、見た目を変えるために服装や声帯を変え、姿を大人に見せ、話を聞いたこともあった。

これは情報のせいで死んだジャックへのせめてもの手向けでもあった。もし仮に敵の情報が流通していたなら、ジャックもうまく対応できて死ななかったはず。

――情報の重要性を広めたい

私はもっと情報を手に入れるために、十五になると旅に出た。

世界中で手に入れた様々な情報や、滞在している町の軽い情報から裏情報まで、いろんな人に教え、それで生計を立てていた私は、いつしか冒険者からも一目置かれる立場になっていた。


そしてそんな事をしていたある日の事だった。

エポルカで情報を集めをしていた時、ある商人が低いクエストで高額な報酬を用意しているという話を聞いた。

だが調べたところそんな商人は見当たらなかった、ガセ情報だとわかり、情報を削除しようとしたところ、少し人相の悪い男からこんな取引を持ち掛けられた。

「この情報をギルド内に拡散してほしい」

そういうと私に多額の金貨を握らせた。

その男の顔は知っていた、巷で有名な盗賊のリーダーをしている男。

誘いを断ろうとしたが男の一言が私を鈍らせた。

「お前、オールFなんだってな?お前もギルドに相手にされなかった口だろ?どうだ、一泡吹かせようと思わないか?」

男の言葉に私の胸の奥で秘めていた、ギルドへの憎悪があふれ出した。


あれから情報屋として歩きまわったが、どの町のギルドもやはりスキルの低い者への対応は悪い。そして何よりかつて義父が死ぬきっかけを作った、ギルドに深い恨みも抱いていた。いつか復讐してやりたい、そう考えていたからだ。

「俺達と手を組まないか?」

気が付けば、私は誘いに乗っていた。

初めはただ依頼の内容の偽情報を流しギルド内を攪乱するだけの予定だった。ジャックウォーレンの名を語ったのはあの事件を思い出させるための当てつけでもあった。


だが少しずつ、盗賊たちの要求は、酷くなっていき、いつしかモンスターの生体情報の偽報など冒険者に物理的被害が及ぶ内容に変わっていった。


――これじゃあ、父さんの時と同じじゃない。

そう思い盗賊から脱退を試みるが、ふとしたきっかけで、過去のトラウマを知られてしまい、そのことを脅しに使われ、気が付いたときには、もう一味から抜け出せなくなっていた。






「……そして現在に至る。以上、ライラちゃんの生い立ちでした!」

町まで戻っている道中で、今までの経緯を振り返っていたライラが、少し悲しそうにしながらもおどけたように笑って言う。

俺はそれに対して、かける言葉がなかった。

スキルがなくても何とかなる、それは成人に近い俺だからできたことだと実感した。

この世界においてのスキルの重要性は、戦いだけでなく自分の立場にもかなり影響を与えてることが分かる



「ねえ、どうして私が助けを求めてるってわかったの?」

話をしてすっきりしたのかライラが吹っ切れた顔で質問してくる。

「ん?ああ、それか……そういわれると、曖昧になるが強いて言えば、ライラの表情かな。」

「表情?」

「あぁ、俺は嘘かどうかなんて見抜くことはできないけど、人の喜怒哀楽くらいなら読み取ることはできる」

野球で必要なスキルの……それは相手との心理の読み合い。相手がどの球種を狙っているか、どのコースを狙っているか、相手との駆け引きが重要になる。

中学時代、心理を読み取る練習のためにとお遊び半分でメンタリズムの本で軽くかじっていた。

結果、野球には何にも役に立たなかったが、簡単に表情を読み取ることができるようになった。

特にこの世界に来てから……主にドリスとパーティーを組んでからは余計に……


「お前が足を洗いたいと言った時、お前の表情が今まで話をしていた時よりも明らかに違っていた。初めはその程度の理由じゃ信用する理由にならなかったけど、ダンジョンを一緒に進んでいくにつれて見せた笑顔は間違いなく本物だった、それが信用することになったきっかけかな?」

「ふうん……一応全部同じように笑ってるつもりだったんだけどね……そんなこともわかるんだ、やっぱ君、凄いね」

ライラがニコッと笑って見せる、その表情は清々しく、本当の笑顔だなと思った。


「これで思い残すことないかな、キド君やドリスちゃんには悪いけど、あいつらを衛兵に渡したら私も自首するよ」

「そっか……」

ライラの決意を聞くと俺は引き止めずに、ライラの考えに同調した。


「ごめんね、仲間づくりの妨害までしておいて、もう大丈夫だから今度はきっと――」

「何言ってんだ。仲間なら三人もいれば十分足りるだろ?」

三人……初めは誰の事かわかっていなかったがライラをじっと見続けたことで自分が頭数に入れられてることに気づく。


「え?……私?だから私は――」

「刑を受けるんだろ?なら、刑期が終るまで待っててやるよ、別に急ぎの旅じゃないからな。」

ライラが何か反論しようとするがパニクッて、言葉が見つからないのかあたふたし始めた。

「え⁉だって私、スキルはFだしステータスも弱いし、おまけに盗賊に加担してたしそんな――」

「だから、刑を受けてんだろしっかり罪を償うんだろ?それにスキルの高い奴なんていらねえよ、必要なのは、笑顔を作るのがうまい奴と、剣が拾うのがうまい奴だよ。」

その言葉を聞いたライラが思わず涙を流し始めた、自分でも泣いてることに驚いたのか、慌てて涙を拭き、笑顔を作ろうとするが、涙がなかなか止まらず、顔がクシャクシャになっていた。


だがそんな感情豊かな顔こそが、ジャックが羨ましがるほどの笑顔だったんじゃないかとおもった。

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