やっぱり嘘ついてた…
「へえ~、意外だなぁ、てっきり断るかと思ったのに。」
昼間の静かな喫茶店とは真逆のいつものおなじみの酒場で、大きなジョッキを片手に、ペレスが昼間の経緯を聞いて感心していた。
「ま、まあいろいろあってな……」
俺はペレスの反応を見るとふと目を横にそらした。
ーー言えない……誉めちぎられて承諾したなんて……
ちょうど昨日忠告されたばかりの事に、まんまと引っかかってしまったことを言えるわけがない。
俺は話題から遠ざかるまでひたすら目を合わせずにいた。
「ところで、そのダンジョンにはいつ行く予定なんだ?」
「ああ、一応、三日後と伝えてある。いろいろ準備があるからな」
「三日後か、まあ妥当だな。未知のダンジョンに一番に行くということは、レアなアイテムも手に入るかもしれないが、未知な部分が多い分、危険も多いからな。」
「まあそれもあるんだが……」
俺はそういいかけるとカバンの中からメモの書いた紙を取り出した。
「ちょっと、調べてほしいことがあるんだが……」
「……俺は情報屋じゃねーぞ。」
――三日後
俺達は予定通り北にあるダンジョンへと向かった。
初の顔合わせながら、積極的に話しかけるライラのおかげで、ドリスと二人は早く打ち解けていた。
まあ、女性同士というのもあるかもしれないがな。
「ここがダンジョンの入り口か……」
地図に示されたところにある洞窟にたどり着くと、一度アイテムの確認をする。
「ロープよし、明かりよし、一通りあるな。」
「ショウヘイ、剣を落としたわ。」
「大丈夫、ちゃんと拾っておいたよ。」
――どうやら、仲良くやれてるみたいだな。
メンバーがそれぞれの確認をすると、早速入口へと入って行く。
事前の情報によると洞窟の中を少し進むと、中に遺跡があり、その入り口にゴーレムが守るように立っているという。こうして考えるとゴーレムはモンスターというより遺跡の守護者と言っていいだろう。
一応剣聖が倒したと聞いているが、万が一ゴーレムが生きていたとしても、入り口から離れると追ってこないらしいのでそこまでの心配はない。
俺達は辺りを警戒しながら暗闇の中を、進んでいく。
「暗いし周りも見にくい、はぐれないよう注意しないといけないな。」
「特にドリスちゃんは、おっちょこちょいだから気を付けないとねー」
……
早速反応がない。
はぐれないようにドリスを先頭に立たせて先へ進む。
初めは火がないと辺りが見えないほどの暗闇だったが、奥へ進んでいくにつれて、少しずつ洞窟内から青白い光がぽつぽつと光り始めた。
「慧鉱石が増え始めたわね、遺跡まではもうすぐだよ。遺跡はほとんど慧鉱石でできているからね。」
慧鉱石というのは魔石の一種であり、微弱ながらの魔力の影響で少し青白く光る石の事だ。
装備としては価値は低いがアクセサリーとしては割と人気がある石でもある。
青い光を頼り進んでいくと、一気に空洞が広がり、広い場所へと出る。俺達はその場の光景に思わず足を止めてしまった。
そこで見たのは、遺跡の入り口と思われる石の扉と、その近くに十メートル近くある、巨大な石像……
それが真っ二つに割れて横たわっていたのだ。
「これって……」
「どうやら剣聖の仕業みたいね……」
まるで今にも動きそうな石像に思わず息をのむ、多分これが噂のゴ-レムなのだろう。この石像はとてつもなく大きく、硬さも普通の石よりも強固で、ドリスの剣で攻撃してみたが、切るどころか傷一つつけることはできなかった。
だがその石像が上から下まできれいに真っ二つにされているのだ。それだけではない、遺跡の入り口の上の付近にはまだ続きのような傷跡が残っていた。
――おいおい、いったいどんな武器を使ったらこんな傷作れるんだよ。
戦う姿は見たことないが傷跡からわかる、剣聖の実力、俺はまだ見ぬ剣聖に想像を膨らませていた。
遺跡の入り口に入るとそこからは狭い一本道になっており、光は所々に置いてある松明の火のみとなっていて少し薄暗さが残っている。
「ここら辺は昔のトラップがまだ機能しているから注意しないといけないね。」
「ああ、主に怪しいところや、不自然な部分があったら、気を付けないとな」
「不自然?この床の事ね」
そういうとドリスは目の前にあった少しくぼんでいた床を踏みに行った。
「……お前何してんの?」
その直後後ろから巨大な岩が転がってきた。
「お前ホント、何してんの⁉」
「アハハ、お約束だねぇ」
俺達は必死で迫りくる岩から逃げた。
「ゼェ……ゼェ……何とか逃げ切ったな。」
「あはは、今度からはもうちょっと、慎重に行かないとね。」
「わかったわ。慎重にね、慎重に……」
そういうとドリスは壁にあった不自然な模様の石をそっと押しに行った。
「バカ!そうじゃねぇよ!」
徐々に後ろから水の流れる音が聞こえ始めた。
「少しは学習しろー!」
俺達は押し寄せる水から必死に走った。
「ゼェ、ゼェ……はぁはぁ……」
「あはは、でもだいぶ進めたね。」
気が付くと俺達は、かなり奥へと進んでおり少し幅の広くなった場所へと出た。
今度はドリスがやらかさないように事前に周りを確認してから前へ進んでいった。
遺跡の入り口付近にあったようなトラップは見当たらないが、その分モンスターの出現率が増加している。
トラップがないと判断すると、先頭には再びドリスを、真ん中にサポートのライラを置き、後方から俺が攻撃するという配置で進んでいく。
ここに出てくるモンスターは一応洞窟の中だけあって、大型のミミズや、トカゲのような主に地面に関する敵が多く、あまり強くもないので、大体のモンスターは、ほぼドリス一人で片づけていた。
時折剣を放り投げるがそこは素早さが自慢のライラがすぐに拾いドリスに渡しサポートする。
俺もライラから敵の特徴を聞きながら主に上を飛んでいるコウモリ型のモンスターを相手にしていく。
予想以上に連携が噛み合ってかすごくスムーズに進めた。
「ここから先は敵も多そうだし少しやすもっか?」
かなり奥に進んだところで、俺達はライラの提案に一度、乗りここらで少し休むことにした。
「ライラ、ありがとう」
「え?何が?」
ライラが、ドリスのお礼の言葉に首をかしげる。
「何度も剣を拾ってくれて」
「あはは、そんな事、別にいいよ。私にはそれくらいしかできないからねぇ……」
そういうとライラは少し照れくさそうに笑った。
「戦闘じゃ、私のスキルじゃ役に立たないからサポートするのが精一杯だし」
「いや、そのサポートだけでも十分助かってるよ。」
はっきり言ってライラのサポートは予想以上に役立っている。
ドリスの剣を拾うことから始まり、揺動や、出てくるモンスターの弱点も把握してくれていて、効率よく攻撃できる。
剣を拾うことなんて簡単だと思うが、素早く拾ってもらえるのはありがたく、元々ドリスを後衛に回す予定だったのが前衛で使えることになったので非常に大きかった。
「でも、一人じゃまともに戦えないしね……。」
そういうとライラが一瞬、儚そうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。
休憩を入れてからは一度も休むことなくひたすら歩いていた、
最奥地に近づいてきたのか徐々に敵も強くなっていく。
俺達は気を引き締めて歩いていた。
「そろそろ最奥地かな?」
少しずつ雰囲気が変わり始めたダンジョンに俺は呟いた。
「そうね……神聖な場所でもあるのかしら?敵に気配も少なくなってるわ。」
先ほどまでモンスターが出現していたのに対し、何故か少なくなり始めたのは少し疑問だった。
俺とドリスが会話をしていながら歩いていると、休憩後から、口数が少なくなっていたライラがふと足を止めた。
「どうしたライラ?具合でも悪いのか?」
「それともどこか怪我でも?」
心配する俺達にライラが少し言いにくそうに話を切り出した。
「……ねぇ、ここらへんで引き返さない?」
「え?」
突然のライラの提案にドリスが首をかしげる。
「ほら、もしかしたらもうアイテムはもう、剣聖が回収しちゃったかもしれないじゃない?わざわざ行く必要もないんじゃないかなぁって」
「そうね、でもとりあえずは確認くらいはしたほうがいいんじゃない?」
「う……」
珍しいドリスの正論にライラが言葉を詰まらせる。いやどちらかというとライラの発言が少しおかしい。
「あ、ほ、ほらもしかしたら中にゴーレムがいるかも!入り口を守っていたなら宝を守るゴーレムがいてもおかしくないし」
「……」
明らかにようすのおかしいライラに俺は呟くように聞いてみた。
「なあ、もしかしてこの先にいるのは、ゴーレムじゃなくて、ジャック・ウォーレンじゃないのか?」
「……⁉」
俺の言葉にライラが一瞬表情を変えたが、すぐに再び笑顔に戻す。
「あはは、なに言ってるの?ジャックは私だよ。」
「ああそうだな、でも『残りの』ジャックがこの先にいるんじゃないのか?」
「……どういうことかな?」
ライラの笑顔が少し硬くなる。
「言葉通りさ、ジャックウォーレンは複数人いたんだよ。」
そう答えると俺は、この三日間で調べ上げたことを話し始めた。
「俺はお前と別れた後、ジャックについて少し俺なりに調べてみようと、一度被害者たちに話を聞かせてもらったんだ。大体は皆お前の言ってたとおりだったよ。だが一つだけお前の話とは食い違っているとこがあった。」
俺の話をライラはじっと聞いている。俺はそのまま休むことなく自分の推理をつづけた。
「ジャックウォーレンの姿さ。被害者たちに今一度、ジャックを名乗った奴らの姿について聞いてみたんだ。すると大体の被害者がローブや仮面で顔を隠していたので顔は見ていなく、声や口調、雰囲気で判断していた、だけど一人、確実に男だと言い張る奴がいた、そいつはジャックをトイレに行ったところを目撃していたんだ、そしてその姿から確実に男だと言っていた。確かお前は、魔法は使えないと言っていたな?、実際スキルでも確認済みだ、なら服装や見た目だけで変装すると言い張るお前に対して、この男はどういうことなのか?
そして俺は更に質問してみた。そもそも変装が得意という情報は一体どこから来たのか?すると被害者は誰一人そんな話はしていないといった。なら誰がしたのか?答えは簡単、ジャックウォーレン本人さ」
出会った時から笑顔を絶やさなかったライラに、いつの間にか笑顔が消えていた。
「流石は騙しのスペシャリストだよ、まさか根本的な部分から、嘘だとは思ってもみなかった。ジャックは複数犯を一人の人物に見せるために嘘の情報を流していたのだろう。」
俺の推理を聞いていたライラがゆっくりと口を開く。
「……さすがだね、君もなかなかの策士だったよ、まさか信じるふりをしていたなんてね。こっちも見事に騙されたよ」
ライラ目を瞑りが推理を肯定すると、少し寂しそうな表情を見せた。
「……俺は信用したのは本当だ、だからこそ調べたんだ、お前の言葉が真実であることを確認するために……」
その言葉にライラが弱々しく笑った。
「物は言い方だね……でもそれならどうして、騙しているとわかった時点ですぐに捕まえなかったの?、わざわざここまでくる必要もなかったじゃん?」
「それはお前を信用したからさ。」
「……今更何を言ってるの?」
「言っただろ?俺はお前を信用したいからこそ調べた。そして調べた結果、お前を信用しようと思った。お前は俺達をハメるためにここに来たんじゃない、お前は――」
「なかなか来ないと思ったらどうやらバレたみたいだな?」
話を遮るように最奥地の方から聞こえた声に振り向く。するとそこにはおよそ二十人近くの男女の合わさった武装集団が集っていた。
「私たちのからくりに気づくなんて、流石ライラの言う通り殺しておくべき存在ね。」
「だがライラの奴、こいつらを逃がそうとしてなかったか?」
「まあいいじゃねーか、とりあえず話はあとだ、まずは眼の前の奴らを始末しよう。」
若い妖艶な女性に、屈強な肉体の男、そして少し年のいった男がそれぞれ口にする。
きっとこいつらがジャックウォーレンを語っていた奴らだろう。
この集団のリーダー格の男が手を上にあげると一斉に武器を構える。
「おっと逃げれるなんて思うなよ?こちらはお前らの情報はライラのおかげで全部把握済みだ。魔法も発光弾も使わせると思うなよ。」
「クッ……」
気が付けば周りに囲まれている。前の山賊とは違い連携もうまく、手練れも多いし何より、動きが読まれていた。
「どうするショウヘイ?、」
俺は辺りを見回し隙を探す。だが準備は万端のようで隙と呼べるところはなかった。
「そうだ、ライラせっかくだからそこのブサイクはお前がやれ、流石のお前でもオールGの奴くらい殺せるだろう?」
「……え⁉」
リーダー格のバンダナをかぶった男が、ライラに俺の殺害を命じた。
「スキルもステータスもポンコツで、情報操作くらいしかできないお前が、それに失敗したんだからそれくらいはしないとな。」
ライラはじっとダガ―を持ったままためらっている。
「どうした?人一人殺せねえのか?嫌なら、お前ひとりをここに置いて行ってもいいんだぜ?」
「⁉」
その言葉にライラが突如震えはじめた。その姿はまるで精神的に追い詰められているように思えた。
ライラが涙を浮かべながらこちらにナイフを向ける。
「ねえ?ショウヘイ?ライラは私たちの仲間でしょう?」
この緊迫した状況下でドリスが素朴に質問をしてきた。
「ドリスちゃん……」
ドリスがした質問に敵がバカにするように笑っていた。
「なんだ?まだ騙されたことに気づいてないのか?情報通りのバカエルフだな。そいつは俺達のな・か・ま・なんだよ。現にお前らの危険性を説いてここまで誘導してきたんだからな。」
そういうと再び笑い出す。
だが今度はそれに対しこちらが笑い返した。
その笑いに向こうは不快な顔を表す。
「……なにがおかしい?」
「ははは、そんなこともわからないのか?ライラが俺達を連れてきたのは殺すためじゃない。逆だ、お前らを退治してほしかったんだよ。そうなんだろ?ライラ。」
俺の言葉にライラがこちらを見つめてくる。
「ライラが喫茶店で話したこと、ほとんどは嘘だった、だけど一つだけ嘘じゃなかった。それは盗賊から足を洗いたがっていること。でも自分一人じゃ何もできない、だから俺達に助けを求めたんだろ?」
俺の言葉にライラが眼を潤ませている。
「どういうことだいライラ?まさかあたい達を裏切る気かい?」
「お前ひとり裏切ったところで俺達に勝てるとでも?……」
「ほら、さっさとそこの男を殺せ、そしたら今まで通り飼ってやるよ」
「それとも何か……また、一人で放置されたいのか?」
一瞬心が揺らいだが、それぞれのリーダー格の男たちの言葉に再び体を震わし始めている、何かトラウマでも植え付けられているかのようだ。
「私は……私は……」
震えがどんどん大きくなっているライラを見てドリスが呟いた。
「大丈夫よ、私たちは負けないわ。あなたがいてくれるなら」
「ドリスちゃん……」
ドリスの言葉にライラが震えを止める。
「一人で戦えなくたっていいじゃない。ずっと三人で戦っていけば……」
ドリスの言葉を聞いたライラが決心したかのように、涙を拭いて口を開いた。
「……ごめん、キド君、やっぱり嘘ついてた……」
俺は無言で言葉の続きを待った。
「……やっぱり……君、ブサイクだよ!」そう言ってこちらを振り向き、今までとは違う笑顔でニコッと笑うとライラは相手に向かって煙球を投げ放った。
「ゴホッゴホッ……ライラ!貴様裏切る気か⁉」
むせながら怒り狂う男達は、武器を取り出し構えに入る。
「バカが、この人数で勝てるとでも?」
「上等だよ全員まとめてモンスター共の餌にしてやるよ」
「こんな子供だましをしたところで勝てると思っているのか?煙が薄くなったら即座に――」
男達はじっと煙が消えるのを待っていた……だが
「ぐわっ⁉」
「ギャァー⁉」
「な、なんだ⁉」
突如近くから聞こえてきた断末魔に動揺する。
「に、逃げ……ぐわぁ⁉」
「ひ、ひい⁉お助け」
「クソッいったいどうなってやがる⁉」
向こうも見えていないはずなのに攻撃を受けていることにますます動揺する。
そして周りから聞こえる悲鳴に耐え着なくなった男は思わず煙の中から抜けようとした、その時
「ショウヘイ!行ったわ」
「あいよっ」
出てきた敵に対して俺は相手の顔をめがけてボールを投げ込んだ。
見事敵の顎に命中すると相手はそのまま気絶した。
「よし、一丁上がり、どんどん行こう!」
気絶したことを確認すると再び煙の中から敵が出てくるのを待つ。
今煙の中から聞こえる悲鳴は敵の声ではない、
声帯を変えたライラが襲われるふりをして敵を動揺させているのだ。
ライラが敵を動揺させ、出てきた奴らを俺とドリスで叩く、連携などしていなかったが見事に成功していった作戦で俺達は敵を一網打尽にしていった。
少し文章が長くなりました、読みにくい、わかりにくい部分があったら言ってもらえれば修正します。




