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変態でもブサイクでも勇者は勇者です。

変態のレッテルで捕まった俺は、そのまま雪山の麓にある、家が十件ほど密集している小さな集落へと連れていかれていた。

集落から山に入る入り口には何かからの攻撃を防ぐためか大きな柵が備えられてある。

そしてその集落の中にある一番大きな家の中で、俺の中は未だ半身半裸のまま屈強な男たちに囲まれ尋問を受けるという羞恥にさらされていた。


「で?なんでそんな格好で雪山を徘徊していたんだ。変態?」

「変態じゃない木戸翔平です。」


俺をしょっ引いてきたこの集落の長と思われる坊主頭の厳つい目をしたオッサンの問いに不機嫌そうに答えた。


そもそもこの質問は少しおかしい。

変態と呼んでいる相手に対しどうしてわざわざ変態な行動を起こした理由を聞くんだ?答えは出ているじゃないか!


そいつが変態だからだ。


ただその格好でいるのが好きとかそういう理由しかない。それが変態だ。

もし他にに何か訳があってそんなことをしているのならそいつは変態なんかではない。

だからこの格好にちゃんとした理由がある俺は変態じゃない,そのはずだ。


「で?キドはなんでそんな格好をしているんだ?」

「気がついたらこの格好に目覚めたのです。」

「やっぱり変態じゃねぇか!」


俺と男のやり取りを見ていた周りの人たちが頭を悩ます。


「族長、どうします?この変態」

「グリズリーの件もありますしこんなことであまり長々と話し合うのは……」

「う~む……」


どうやら初めて行う変態に対する処遇への戸惑いと別にある問題のが重なっていることで対処に困っているようだ。

族長と言われた男は目を瞑り唸りながらしばらく考えると一瞬の間を置き答えた。


「……まあいい、今回は特別に見逃してやろう。特に危害はなさそうだし悪い奴にも見えん、それにあっちの問題の方が重要だ、とりあえずこの男の対処は、あとは俺がするから、他の者は場所を移ってグリズリーへの対策会議を行え。」


ホッ


 俺はその言葉に一息つくとするとその場でぐったりと座り込んだ。それと同時に周りにいた人たちはもう一つの問題の話をするために場所を移り始めた。


「お前、確かキドショウヘイと言ったな?」

「はい」


俺が答えると男は改めて自己紹介を始めた。


「俺はオッズ、この集落で長をしている。そしてそこにいる娘がわしの娘のルウだ」


そういうとオッズは近くにいた少女を示した。

髪は黒色で後ろを二つくくりでとめており、大きな目をして少し幼さの残るおとなしそうでかわいげのある少女だ。

少女は俺と目が合うと少し苦笑いをしながら頭を下げた。

その子は俺を見つけた少女でもあった。


俺は少女に爽やかにハニカム、しかし少女はそんな俺の笑顔を見て少し微妙そうな顔を見せた。



「とりあえずその格好は眼に毒だ、ルウよキドに服を持ってきてあげろ。」

「はい、お父さん」


ルウはうなずくと服を取りにすぐにその場を離れた。


「そういえばここはどこなんですか?」


俺は服を持ってきてもらっている間に改めて自分の状況を探るためここのことを聞いてみる。


「ここはグルドナという山でな、はるか昔から女神が住んでいると言われている。俺たちは先祖代々から女神に仕え、この山を守っているグルドの民だ……」


グルドナ……女神……


初めて聞く名前や女神という言葉で確信した、やはりここは異世界だ。


「お前はどこから来たんだ?」

「日本という国から」

「ニホン?知らんなぁ、どこにある国だ?」

「……この世界にはないと思います。」

「この世界にない?どういうことだ?」


その質問に少しためらう。

言葉を口にすれば現実を受け入れなければならないからだ。俺はためらいながらもゆっくりと口を開く……


「……多分異世界――」

「異世界⁉」

「え?」


答えている途中にまたもやどこからともなく少女の声が聞こえてきた。声の方を見ると見渡すと俺に渡す予定の服を持ちながら少し興奮気味にしているルウの姿があった。


「異世界?異世界からきたの?」

「え、多分……」


さっきのおとなしそうな姿からは一変、俺の返事を

聞くとルウはパッと目を輝かせ始めた。


「グルドナから現れた異世界の人……間違いない勇者様よ!」


は?勇者⁉


突然のルウの発狂ぶりに少し戸惑っている。


「え?ちょっと待って勇者って…」


俺の戸惑いとは裏腹にルウはどんどんボルテージを上げていく。


「お父さん!間違いないわ、この人が女神、ドッジーナ様が遣わした勇者様よ!」


いやいや勇者ってそんなたいそれた者じゃ……っていうか女神の名前ドッジーナっていうの⁉なにその芸能人にいそうな名前、名前(それ)つけたの誰だよ。


「きっとドッジーナ様が私たちの危機を察して救いの手を差し伸べてくれたんだわ…」

「いや、しかしこのような男をドッジーナ様が……」


あまりその変な名前を連呼しないでほしい


――


親子のやりとりはしばらく続いた。


「伝承では女神様は異世界の救世主を連れてきたはず。この者が救世主には見えないが」

「きっとキド様は元のいた世界では凄い人なのよ」


 まあ、自分で言うのもあれだけどそれなりに凄いんじゃないかな?一応、高校生No. 1投手だし、てかいつの間にか様付けされてるし


「しかしルウよこいつは雪中パンツで歩くような変態だぞ?」

「たとえ変態でもブサイクでも勇者は勇者よ⁉顔は関係ないわ」


……なにぃ?


今確かフォローしてくれてたはずなのに罵倒に罵倒を上乗せされた気がしたんだが…

しかも今まで生きてきて一度も言われたことない言葉だった。


「とにかく、今の状況を相談してみようよ」

「う、うーむ」


会話が終わるやいなやルウがこちらに向かってきた


「お願いです、キド様を勇者と見込んでの頼みがあります。聞いてもらえませんか?」


ルウが救いを求めるように両手を重ね俺に懇願してくる。


「いや、そういわれてもねえ……」

「お願いです!このままではグルドの民が滅んでしまいます!」

「……まあ話聞くだけなら」


そうしぶしぶ答えるとルウは嬉しそうに話し始めた。


「実は最近集落の人たちが雪山でグリズリーに襲われているのです」

「グリズリー⁉」

「はい」


グリズリーは知っている、元いた世界でも存在していた。確か映画やゲームの敵として出てくるほど有名で凶暴な熊だ。


俺は今一度この世界のグリズリーの生態について確かめてみる。


「グリズリーってあの熊の?」

「はい」

「あの獰猛で凶暴な?」

「はい」

「あのニメートルくらいある?」

「いいえ」

「え?違うの?」

「はい、大体五メートルくらいです」


……とりあえず死んだふりの仕方を教えてみようかな

未だ半身半裸のまま俺は心の中でポツリと呟いた。



少し修正しました

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