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ジャック・ウォーレン

皆が仕事に勤しむ平日の真昼間の時間帯に、俺は酒場で一人何も頼まずに一人で席に座っている。

一応人を待っているが来る確信などどこにもない。なぜなら約束などしていないからだ。

俺は今、パーティーの仲間の募集を行っている。


事の発端はつい先日の事、俺ははれてドリスと正式にパーティーを組んだ。

組めたのは良いがここで一つ問題点が生まれた。人数制限の問題で助っ人家業ができなくなったのだ。

本来パーティーが組める人数は五人までと制限されており、その人数を越えるとギルド違反となり、しばらく受けれなくなる。

これは集団のパーティー人数が増えることによって発生する集団パーティーの横暴な行為などを防ぐために決められており、昔制限がなかったころは十人パーティーがいろんな場所を占領したり一部の人間と喧嘩でもめたりしたこともあったようだ。

 基本どのパーティーも四人組がほとんどで助っ人には入れず、俺達は二人でクエストを受けることになった。そして人数が少ない分、受けれるクエストが限られてしまい、収入も極端に減ってきてしまっている。まあこちらは大した問題ではない。

今、ドリスはグルド亭夫妻の好意に甘え俺と同様、居候の生活をしている。

そのおかげで、衣食住に関しての出費は少ない、だが別の負債が俺の財布をどんどんスマートにして行っている。

それは武器の出費だ。ドリスは最早定期と言ってもいいほど武器を紛失する。やりかたは毎度違い、

戦闘中にすっぽ抜けたり、移動中落としたり、挙句の果てにフィールドに置いて帰ったりする。

この状況を打開するために俺はもう一人パーティーを増やしドリスを魔法に専念させ、更に上のクエスト行おうことを試みているが、三日たった今も誰も一向に来てくれない。

もう男女問わないようにしているし、ランクももうすぐCに近づいている。俺とドリスの実力は前のクエストで皆に知れ渡っているはずだ。なのに誰も来ない。

俺は一人向かい合わせの空席を見て溜息を吐く。

「お、真昼間から酒場にいるとはずいぶんと儲かってるんだな。」

俺は募集を受けた人が来てくれたのかと思ったが声で一瞬で違うと気づくと俺の向かいの席に横向きで座ったペレスにわかるように大げさにまた溜息を吐いた。

「おいおい、そんながっかりすることはないだろ」

「パーティー持ちはお呼びじゃねーよ、それともうちのパーティーにはいんのか?」

前と立場が逆転してしまったペレスは苦笑いをしながら否定した。

「で?何の用だよ?」

俺がテーブルの上に肘をつき、顔を肘をついた方の手に乗せてふてくされた顔で質問した。

「おいおい、そんなに邪険に扱うなよ、今日はお前の好きな情報を持ってきたんだ。」

「……いい情報か?」

「はっきり言って悪い方だな」

その言葉を聞くなり、俺は再び溜息を吐くと、だらしない態度を改め真面目な表情でペレスの話に耳を傾ける。

「この間、俺達が捕まえた山賊たちが口を割った、やはりお前の予想通りあいつらは俺達の情報をあらかじめとある冒険者から聞いていたらしい。」

――やっぱりか

自分の考えてた悪い予想が的中してしまった。

俺の気難しそうな顔を見て追い討ちをかけるように話を続ける。

「しかも、そいつは山賊に情報を与えるだけでなく、俺達に対する作戦も教えていたらしいんだ。あの落石の攻撃や前衛に対する対策も全て情報提供者からの受け売りらしい。」

うすうす予想はしていたがこうまで的中するとは……

俺はあの敵の戦いがずっと気になっていた。

元々奴らはリーダーを除けばただのチンピラがよせ集まった、烏合の衆でしかなかった。

ただ暴れまわるだけしかないからこそ、敵の人数が多くてもDランククエストであり、任務もただの護衛だった。

もし奴らがあそこまでの知恵があったのならランクも上がり正式に討伐クエストが出されていたはずだ。

「で?どこのどいつなんだ?その頭の回る情報提供者は?」

もしこれも俺の予想が正しければきっとギルド内にいるはずだ。

「まだ予想の範囲だが、恐らくジャック・ウォーレンだと思われる」

「ジャック・ウォーレン?」

――そんなやついたか?

いまいち思い浮かばないという表情で考え込むと順に説明していってくれる。

「ジャック・ウォーレンってのはギルド内に潜んでいると言われる盗人の名前だ、まあ名前って言っても仮の名前だがな。ジャックは見た目、声帯を変えてパーティーの助っ人に加わったり、依頼者のふりをして冒険者を騙し、金品や装備を奪う冒険者相手に働く盗人さ。情報によるとジャックは話術にもたけていて、例え相手がジャックだとわかっていてもその心理を揺さぶる言葉に言いくるめられて仲間に加えることが多いらしい。」

――予想以上にやっかいな敵だ。

情報を武器にしてる俺に対して嘘だらけの情報を持っている相手ほどやりにくい相手はいない。

しかも心理術にたけているとなると尚更だ。

「奴からの被害は元々盗みだけだったんだがな、ここにきて敵の情報を欺かせてランクの高い敵と戦わせるといった直接来る被害が増えてきていて少し問題になってきていて冒険者はクエストに対して疑心暗鬼になってきている。」

そういうとペレスはポケットの中から一枚の写真を差し出す。

その写真の中には水色の髪色をしたロングヘヤーの少女がウインクしてるのが写っている

「このタイミングで自慢かよ」

「違う……こいつがジャック・ウォーレンだ」

「マジで⁉」

思わずペレスの手から写真を取り上げマジマジ見つめる。

胸は少し物足りないが、へそ出しの服装とアイドル張りの笑顔に思わず見とれる

「言っとくがそいつはあくまで一番最後に目撃されたときの写真だ。普段は男だったりと姿を変えている」

俺はその言葉に口をとがらせると写真を持ち主へと返した。

「とにかくだ、ジャックはいろんな人の姿に化けて話を持ち掛けてくる。お前は特に気を付けろよ。」

「ムッ、それはどういうことだよ」

「そういうことだよ、女への性欲が強すぎるからよ、格好いいとか言われただけでホイホイついていきそうだからな」

そう悪戯っぽく笑うとペレスは席を立ち出口へと向かっていった。

「じゃあこれからクエストあるし行ってくるわ、速く新しい仲間見つかるといいな」

「おうよ、お前も死ぬなよー」

――いくらなんでもバカにしすぎだ。さすがに格好いいと言われるくらいではついていかん。

俺はペレスの姿が見えなくなると再び応募相手を待った。しかし結局今日一日待ってみたが、誰も来ず。俺は今日何度目になるかわからないほどの溜息を吐きながら宿屋へと戻っていく。


辺りの街並みがちょうどオレンジ色に染まるころ、俺は第二の家である宿屋の扉を開く。

すると店の入り口の近くにあるカウンターの奥から黒い煙がもくもくと出ていた、場所からして多分厨房からだろう。

俺は早速煙の元をを辿って厨房へ行くと、そこには厨房中に飛び散った数々の調味料と少し焼け焦げた壁、消し炭になっている謎の物体と、火を消すときに一緒に水をかけられたのだろうと思われるびしょ濡れのドリスとゴドーの姿と大きなバケツを持ったクリスがいた。

「……何やってんの?」

テレビのコメディードラマでよく見る光景を目のあたりにして呆れながら三人に問いかける

「おや、キド、帰っていたのかい。」

「……おかえりなさい」

「その顔見ると今日も収穫なしかい?まあ顔は元からか。」

それぞれが帰ってきた俺に対して違った言葉をかける。

「ちょうどいま、皆でエルフの料理を作っていたとこよ」

「エルフの料理?」

「ああ、なんでもエルフが良く作る伝統的な料理があるらしくてね、ドリスは料理スキルも高いし、せっかくだから教えてもらおうと思ってんだよ」

ドリスが料理ができるのは意外だった、だがそれなら普通はこうならんだろ。

「でね、指導してもらいながら作っていたのだけどね。」

「ちょうど小麦粉を使おうとしたら手が滑って上に放り投げてしまったの……」

「……」

「厨房が粉まみれになったんだけどね、掃除は旦那に任せてそのまま続けてもらったのだけれど……」

「……」

「ちょうど火をかけようとしたら急に厨房が爆発したのよ」

「…………」


――なに粉塵爆発起こしてんだよ、

本来これが一番身近であり得ることなんだろうが、なぜこうも見事に発生させられる悪運の強さに感服する。

結局、俺が帰ってきたことで今日の料理教室は中止でそのままみんなで食事を作った。

「で?今日はどんな状況だったの?」

「残念ながら今日も誰も来なかったよ……そしてドリス、お前が持っているのはスプーンではなくフォークだ」

話をしながらフォークで何度もスープをすくってはこぼしているドリスを指摘する。

「しかいにゃんでほないんだほうね?やっぱいきゃおかへいいんかひゃあ?」

ゴドーが肉をかぶりつきながら言葉をしゃべる。

「そもそも、なんで助っ人を欲しがるんだい?お前さんとドリスで前衛、後衛にしっかり分けられているんだから問題ないじゃないか?」

「ドリスを後衛に回したい……このままだと剣を買うのに金がなくなってしまう」

「私、剣を移動中や、戦闘中によく無くすから……」

ほおばった肉を喉に通すと話を聞いていたゴドーが今度はしっかりした言葉で素朴に提案した。

「へぇ……ならキドが剣の管理をすればいいんじゃないか?それなら紛失率も減るだろうし、」

俺はその言葉を聞くと思わずスプーンを床に落とし、そのまま固まってしまった

――その手があったかぁぁぁ!

なぜこんな簡単なことを今まで気づかなかったのか、俺はそのまま自己嫌悪に陥ってしばらく立ち直れないでいた。


――次の日の朝

俺は早速ギルドに行くと助っ人の応募に誰も来ていないのを確認すると、クエストを受けにギルド受付に向かった。

毎度おなじみの顔ぶれのミレイが俺を見つけると不敵に笑い、スケッチブックのような厚紙を取り出した。その紙にはこの世界の文字で書かれたア行からワ行までの五十音の文字が書かれていた。

「なんだそれ?」

「この前バザーでたまたま見つけたんです、なにに使うかわかりませんがせっかくなので買わせていただきました。」

そういうとミレイはポケットからコインを取り出し紙の上に置きそのコインの上に人差し指を置いた。

――こ、これは⁉

その光景は元の世界で一時期流行した、こっくりさんに似ていた。

ミレイは人差し指に力を入れ、自信満々の笑みでコインで文字をなぞっていった。

い ら っ し ゃ い ま せ ご よ う け ん は な ん で し ょ う

――なるほど、考えたな。

これを使えば言葉を使わずに会話できる。

これなら不意に罵倒することもない、これでブサイクなどを表現するにはわざわざ「フ」から遠く離れた濁点まで動かし更にそこから離れている「サ」まで動かさないとだめだから、誤って指すこともない。

なぜコインを使ってなぞるかは不明だったがこれなら罵倒することはないだろう。

今度こそミレイの勝ちだ。俺はそう確信していた。

「クエストを受けたいんだが?いまできそうなクエストある?」

俺の言葉にミレイは文字で少々お待ちくださいとなぞるとリストを確認し、再びコインに手に置いた

た だ い ま き……

「ん?」

スムーズに文字をなぞっていたコインがきの文字の前でところで止まってしまうミレイはそのコインを動かそうと歯を食いしばりながら力を入れるが指がプルプル震えているだけでコインはそのまま動かず正反対の方向に進み始めた

「あれ……コインが勝手に⁉」

――こっくりさん降臨してんじゃねーか!

思わぬ出来事にミレイは青ざめて力を抜くとコインはそのまま素早い動きで文字の方へと走っていった

みにくい、きたない、きもちわるい、ぶさいく、……

――お前ちょっと言い過ぎだろう!

さんざん罵倒して満足したのか一通りの文字を通ると、動いていたコインからミレイの指がすんなりはがれた

「ふう……びっくりしました……一体何だったのでしょう?」

――どうにかして奴をたたきのめしたい

ミレイが深呼吸し落ち着きを取り戻すと今度は口で説明し始める。

「すみません、改めて言いますが、今、ちょうどキドさんに単独指名で依頼が来ているんです」

「え?俺に」

普段からパーティーへの単独の指名依頼は割と少なくはない、有名な冒険者ならよく依頼がある。

だが俺に対しての指名が来たのは今回が初めてだった

「で?どんな内容なの?」

「えっとですね……内容は直接会っていいたいそうです……依頼者の名前は……」


「ジャック・ウォーレンさんですね」


その名前を聞いた瞬間、俺の背筋に電撃が走ったような感覚に覆われた……

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