ドジっ子ではなく……
「いやはや、此度は、助かりました」
「いえ、こちらはこれが目的で雇われた身ですから」
馬車の中で隠れていたコールマンが体中からにじみ出る冷や汗をハンカチで拭きながらお礼言うと冒険者の代表としてペレスが応対する。
今回俺達は何とか山賊を退くことができた、しかし向こうの予想以上の強さに幾人かの負傷者も出ている。レッグも敵の奇襲を受けた際に足を負傷していた。
そして今、山のてっぺんに当たるこの場所からは夕日が沈んでいくのが見えはじめた。
「怪我人が思ったよりも多くこのまま進んでも途中で夜になってしまい敵から狙われる危険性が増すと思います。今日はこのままこの見晴らしのいい場所での野営はいかがでしょうか?」
「そうですか……本来なら今日中に山は抜けたかったですが致し方ありません。ではそうしましょう」
幸いコールマンが物分かりがいい人なのが良かった、依頼主の中には傲慢な人物もおり怪我人の事を考えず突き進み全滅してしまうこともある。
ペレスはコールマンの言葉を聞き、安堵すると早速指示を始める。
集団クエストではソロの人も多く参加している分、こうやって指揮を執ってくれる人がいるのは大変ありがたい。皆も不満も言わずペレスに指示に従い野営の準備をし始めた……
日が沈み夜になると俺達は動けるものだけで周りの警備にあたる。
ここはまさに敵のホーム、こちらは完全にビジター状態にある、どこかに抜け道や突然の奇襲があってもおかしくない、俺達はがこの山頂につながっている自分たちが登ってきた山道からこれから下るときに通る山道と言った人が通る道から、人が通れそうにない崖の下まで念入りに警戒をしていた。
「ふぁ~、ねーむい、こりゃ女の子がどうこう言っている場合じゃないなー」
「こら、リッド!油断するな、何時的に襲われるかわからんのだぞ」
「わかってるよ~」
崖の下を見ながら大きなあくびをし目をシパシパさせているリッドを見て腕を組みながらモーリアが注意する。
まあ年齢も若く仕方ないところもある、だが今は動けるものが動かないといけない状況だ。
動ける者は計十五人。女性陣が怪我人の治療に当たり男性陣が警備にあたっている、俺も現在進行形で、見張りをしているところだ。
それと同時にペレスにお願いされた今日の敵の情報のまとめと対策を考えていた。
――……今回の敵、やたら用意が周到すぎる。
もらった情報からふと感じた。このクエストで集まったメンバーは二十五人中、特殊職業(無職)の俺と魔法剣士のドリスを除くと、ペレスを含んだシューター三人、リッドを含んだ剣士十四人、モーリアを含んだ槍使いが四人、そして魔法使いがレッグと女性の二人の前衛が多めに集められている。それに対し敵は、この戦場にあらかじめトラップを仕掛けて置いたり、相手の攻撃を防ぐことを専門とした木の盾を持った盾兵も多くみられ、遠距離や魔法の攻撃に対しての準備はあまりされてなかった。
確かに集団クエストは主にソロの冒険者が集まるということもあり、前衛が多くなるのはあらかた予想できる。だがいくら何でも容量の良さが尋常ではなかった、これが苦戦していた原因でもある。
前衛で戦っていたメンバーから聞いた話では敵はやたらとこちらの動きを把握しており、メンバーの実力も知っている様子でランクの低い相手が集中してやられていた。
そして味方が聞いたドリスに対して「こんなやつがいるなんて聞いていない」という言葉。
明らかに情報を知っている様に思える。
――誰か内通者でもいるのか?
少なくとも今いるメンバーにそれらしい動きをする者はいなかった。
――クソッやっぱり人間との戦いはやりにくい。
向こうはこちらの情報と戦場の情報を把握し、こちらは異なる敵の情報を持っている。
情報は戦いにおいて、最大の武器。敵にこれを見事に上回れてる。
はっきり言ってかなり分が悪い。とりあえず今集めた情報で作戦を考えてみる。
「うーん……」
考えがまとまらないまま夜が更けていく
俺は今日通って来た山道を見張っていると反対側からドリスがやってきた。
「どう?そっちは?」
「ああ、こちらは大丈夫そうだ」
「そう……」
「ドリスは治療組じゃないのか?」
「看病していたのだけど何故か追い出されてしまったわ……」
「……」
二人の間に沈黙が続く……
――き、きまずい
今日の戦い、ドリスのおかげで何とかやり過ごせたがドリスがみんなに見せた姿は完全なる羞恥だった。
剣は落っことし、唱えた魔法は全然違うとこに飛んでいく。
戦闘の話題はとてもじゃないが出せない。
お互い無言の状態が続いているとドリスから話を切り出してきた。
「今日の戦い……私を見てどう思った?」
「え⁉」
直球にその質問をされ戸惑ってしまう。
「え……ええと……たっ助かったよ、ほら、ドリスのおかげで山賊を退けたわけだし……」
俺が頑張ってごまかそうとするとドリスが小さく笑った
「別に隠さなくていいわ、酷かったのでしょう?」
その言葉にこちらの言葉が詰まる。
「私でもわかっているのよ……でも昔から何をやってもうまくいかなくてね……スキルは高くてもああやってよくへまをするのよ……」
そう言って星を見ながらドリスは過去を振り返るように遠い目をした。
――だ、駄目だ言葉が見つからん。
フォローの言葉も慰めの言葉も見つからない、俺はそのまま無言を続ける。
「あなた、他の人と仲いいわよね?」
「え?」
「野営の準備しているとき思った。ここにいろんな顔見知りもいるんじゃない?どういう理由で私と組もうと思ったのかは知らないけど私の実力わかったでしょう?敵も強そうだし即席の私なんかと組むよりほかの人と……」
「いや、それはダメだ」
おもわず声を張り上げて言う
「ここからの戦いドリスの力が必要になってくる」
ドリスはめちゃくちゃではあるが実力としては一人頭抜きんでている。もし勝算があるなら向こうも計算外のドリスの魔法だろう、もはや女性とパーティーとか関係なく純粋に敵に勝つためにドリスと組みたい。
「でも、私の実力じゃあ……」
「なら、あんたのことをもうちょっと教えてほしい、それで俺が対策を考えるよ、こう見えてもそういうことには自信あるから!」
こちらとしてはオールGで戦っているんだ、ちょいとした短所くらい何とかする自信はある。
俺は少し前のめりになりドリスを真剣な眼差しで見つめる。
思いが通じたのかドリスは少し目を閉じると自分の事を話し始めた。
「そう……じゃあまず初めに……あなたここに来る途中にに聞いたわよね?自分の顔がどこかおかしいか」
「ん?あ、ああ」
「私にはわからないのよ人間の顔なんてどれも同じに見えるの」
「へ?人間?」
そういうとドリスは頭にかぶっていたフードを外す、するとフードからは肩までかかるほどの長く綺麗な髪と横にツンと尖った耳が現れた。
「私はエルフなの……」
ドリスはそう呟いた。
そして俺はそれを見て固まってしまった。
――俺が異世界で見たいトップ3の一角エルフがこんなとこにいたとは……
性格が思っていたのと少しイメージと違うが、その見た目だけでも興奮を隠せないでいる。
「ここらへんじゃエルフは珍しいし、いろいろと危険も多くてね、普段は隠してるのよ……どうしたのショウヘイ?」
その言葉に我に返る
「あ、ごめんごめん、エルフは初めて見るものだからつい……で、話なんだけど、ドリスって前からよく剣を落とすの?」
「しょっちゅうよ」
「……魔法が上に飛んでいくことは?」
「あれはたまたま、基本は上下と16方位のどこかね……」
……
俺は一度咳を払うと質問を続ける
「使える剣技は?」
「基本は魔法を使用した魔法剣を得意としているわ……まあいつも使う前に剣落としてるけどね」
「使える魔法ってどれくらい?」
「今日使った上級魔法のイフリートの他に5大元素の魔術の中級全般、あと、回復魔法も使えるわ」
「ちなみにそれも全部方向がわからないのか?」
「中級は大体逆側に飛んでいくわね」
「え?ってことは逆側に唱えたら敵を狙えるということ?」
「……その発想はなかったわ、盲点ね」
――この子はドジっ子ではなくアホな子か……
「だがこれならもしかしたら十分戦えるかもしれない。」
俺はすぐさま戦略をメモにまとめてみる。
「でもたまに狙った方向に飛んでいくこともあるわよ」
「ああ、それなら大丈夫、そこは俺がサポートするよ、だから明日、もし敵と遭遇したら俺の指示に従ってくれないか?勝たせる自信はある」
俺は胸を叩き自信満々に言ってみせる。
そんな俺を見てドリスはちいさな微笑みを見せるとそっと右手を前に出す
「わかったわ、なら私はあなたを信じるわ、パートナーとして」
二人は月光に照らされがっちりと握手をする。
俺はここで初めてドリスと本当にパーティーを組んだ。
そして夜が明け始める。