ぼっちはいやだああぁぁぁぁ
――何故だ……なぜこうなってしまったんだ……
ギルドが依頼するDランクの集団クエスト、カラマまでの護衛、に参加するメンバーが集まり賑わう広場で俺は今、不安と焦りにまみれている。
前日、ナンパ目的で集団クエストの依頼を受けた後、このメンバーでいると他のメンバーと関わろうとしなくなるという理由でクエスト内ではソロとして行動しようとリッドが提案した。
初めは気弱で人見知り体質のあるレッグがこの提案を頑なに拒んでいた。だが押しの強いリッドに言葉で勝てるはずもなくまたペレスやモーリアもレッグの成長のためにとこの提案を受け入れた。もちろん俺もこの提案を賛成した、ここの連中はなかなかの粒ぞろいだし一緒にいると全部持っていかれる可能性だってある。
集められたメンバー、二十五人のうち見た限りだと女性の入率はソロが五人、パーティーにいるのが四人の計九人。職業はソロが皆剣士で男たちのパーティーに魔法使いの女性が一人、そして剣士、シューター、槍使いの三人の女性で構成されているパーティーだ。割と多い。
狙うはソロの女性冒険者……あわよくば女性のみで構成されたパーティーに……
そんな夢みたいなことを考えながら一人で声をかけていった結果
俺は今誰とも組めずにぼっちになっていた……
――ぼっちはいやだああぁぁぁぁ!
幼いころから野球でも学校でも常に輪の中心にいた俺がぼっちに耐えられるはずがない。
目につく女性に片っ端から声をかけたが「鏡を見てから言って来い」など失辣な言葉をかけられる。
たまにすれ違う他のメンバーたちはすでに女性を含んだパーティーとしっかり組めている。
レッグなんて気弱の性格と少し幼さが残る顔が母性をくすぐったのか女性だらけのパーティーに加わっている。
――ちくしょうぅぅぅぅぅ!
その光景を見た嫉妬と焦りで髪がぐちゃぐちゃになるくらい掻き毟る。そして気が付いたら見事にそれぞれのチームに分かれ俺は完全に一人ぼっちになってしまった。
そしてちょうど依頼主が挨拶のために顔を見せる。
依頼主は丸々と太った体型の行商人コールマン。カラナという町で大きな店を持っている富豪の商人だ。
コールマンは服からはみ出るほどの贅肉のついたからだで苦しそうにゆっくりとしゃべり始める。
「ええ~みなさん初めまして、今日皆さんに護衛の依頼を出したコールマンです。皆さんにお願いしたい任務はここから西にある行商の町、カラマまでの護衛です、最近はカラマの商人を狙った大きな山賊団がカラマまでの向かう途中で通る山を拠点にして悪事を働いおり非常に危険な状態なので護衛をお願いしました、報酬は依頼書に書いてあった金額ですが、もし旅路の途中で倒したモンスターから手に入れたらその素材を報酬の1つとして普通より高値で買い取らせていただこうと思っていますので、皆さんには是非モンスター退治の方にも精を出していただきたい。」
その言葉と共にコールマンがあいさつを終えて一礼し、にっこり笑うと集まった冒険者からは歓声が上がった。
しかし俺はそれどころではない。俺は今にも出発しそうな状況に焦り、必死で他に余った人がいないか周りを見回す。
「ではすぐに出発をするのでみなさん、お願いします。」
コールマンがそういうと近くに止めてあった馬車を引き町の入り口へと向かっていった。
結局ぼっちでクエストが始まってしまった……
――ぼっちなのをメンバーに悟られたくない
そう思った俺は町から出ると他のパーティーの後ろを歩き、パーティーに紛れて歩いていた。
――早くどうにかしないと
こんな苦し紛れの行動がいつまでも持つわけがない。あるいは気づいてるやつもいるかもしれない
俺はこの際男でもいいので誰かペレスのメンバー以外の人と組むことを考える。
すると目の前を歩く列の中で孤立している相手を見つけた。
頭にローブについているフードを羽織っていてどんな人かはわからないがこの際贅沢は言ってられない、俺は早速その人物に声をかけた。
「あのー、良ければクエストの間一緒に行動しませんか?」
俺の言葉にローブを羽織った人が振り向く、そしてその瞬間無理だと確信した。
相手は女性だった、フードを羽織っているので髪型まではわからなかったけどフードのとこからはみ出る前髪で色は紫だとわかった。気の強そうな釣り眼だが瞳は大きく顔は小さくて、その顔立ちはこのメンバーの中ではトップレベルの美少女だ。
彼女はは俺を見たまま無表情で黙りこくる……
――ま、無理だよな
俺はすでに諦めて頭をかきながら辺りに視線を散らす。だが……
「……いいわよ」
「え⁉」
予想外の言葉に目が細くなり声が裏返る。
「どうしたの?組みたくないの?」
茫然としていた俺が彼女の言葉で我に返り無言で大きく首を横に振る。
「そう……私はドリス……魔法剣士よ」
「あ、俺の名前は木戸翔平……」
「そう、ショウヘイね……よろしく」
初めて呼ばれた下の名前に心が爆発しそうになる。そして魔法剣士という職業。上級職ではないか!
俺は思わず後ろを向いてドリスに見えないようガッツポーズをした。
しかし俺ははしゃぐ心と同時に今とてつもない違和感を覚えた……
――罵倒がない
普段ならたとえ思っていなくても罵倒される顔に彼女は何も言ってこない。
受付のミレイなんて最近は俺への対応を壁と練習してるくらいだ。
「なあドリス?」
俺は教えてもらった名前を早速呼ぶ、少し照れくさい。
「……何?」
「俺の顔見て何にも思わないのか?」
そういわれるとドリスは俺の顔をじっと見続ける……
その行為に少し顔が熱くなる。
「……何かおかしいとこある?」
――なんだと⁉
まさか魔法の効果を受けていないのか?
俺は初めての普通の対応に喜びを隠せないでいる
しかし……ただ……そう、ただ何となくなんだが何故かそれに寂しさを感じている自分がいる。
俺はずっと罵倒されるのを嫌がっていた……そのはずなんだがなぜだろう……このぽっかり穴の開いたよな感覚は……
――俺はどこかで罵倒を期待していたのか?いや、そんなことは……
俺が考えながら歩いていると今度はドリスから話かけてきた。
「ねぇ、あなたって得意スキルはあるの?」
「スキル⁉」
――しまった!それがあったか⁉
その言葉に俺は自分のスキルのこと思い出した。
これは俺の抱えるもう一つの問題だった。
教えたらもしかしたら組むことを断られるかもしれない……
俺は少し戸惑うが、この際開き直ってやろうと冗談を言うように軽い感じでスキルの事を教えてみた。
「え~と、実は俺スキルオールGなんだ……どれも均等だから一応全部が得意かな、ははは……」
そう言って彼女にスキルカードを渡すそれと引き換えにドリスが自分のカードを渡してきた。
――剣スキルBに魔法スキル……A このギルドじゃトップクラスじゃないか……
俺が今まで加わったパーティーでもスキルBですら滅多にみあたらなかったのに
スキルB……ましてやAランクなんて初めて見た。
それと同時にドリスの俺に対する評価がすごく気になった。
ドリスは無表情のままじぃっと俺のカードを見つめる
「魔法Aランクなんてすごいな~俺とは大違いだよ……」
俺の言葉を聞くとドリスは目を瞑って小さく首を振った。
「……戦闘にスキルなんて関係ないわ……必要なのはいかにスキルをうまく使いこなせるかよ……」
そういうとドリスは俺にカードを返すと再び前を向き歩き始めた。
予想外……そしてすべてが出来すぎている。
俺の顔を罵倒しない、スキルをバカにしない、トップクラスの魔法剣士の美女とパーティー……
さっきまでの焦りがうそのように思えてくる……だがそれと同時に見えない恐怖に追われてくる。
この感覚……まるで異世界に来たときのようだ……
俺はこの嬉しい気持ちの隅っこに小さな警戒を刻み付けた……