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私はアルクリーネの本当の姿だ

森からの帰り道、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

本来なら夕方には町に帰ってる予定がずいぶん遅くなってしまった。

あれから俺たちはオルメニクスの残骸から取れる素材を袋に詰め込んだ後、早々と森から出ていった。

不幸なことに爆破で倒してしまったことで、アル曰くレア素材の宝庫と呼ばれるオルメニクスからは取れるものは少なかった。

まあ命があるのが奇跡だ、それ以上多くは望まないでおく。


森を出たときは生きて帰れたことを実感するたび潤ませていたアルだったが今は調子を取り戻し今日森で得た情報をメモに取りながら歩いている。


「コラ、書きながら歩くとつまづくぞ、ただでさえ夜で見えにくいんだから」

「大丈夫です、キドさんの顔ほどじゃありません、あ、キドさんの顔は見えにくいんじゃなくて。

醜いんでしたね。」

アルのダジャレまじりの口撃に再びチョップをかます、そんなやりとりをしていると遠くにぼんやりと町の明かりが見えてきた。それを見たアルはメモをするのをやめ駆け足で走り出し、見事につまづいた。


――メモしてなくても一緒か……


町に着くと俺たちはさすがに疲れていたので、今日はもう帰宅し明日また会う約束を取り付ける。

ただ、帰る間際に、アルがオルメニクスの素材の分配をしていた。

俺がもらったのはオルメニクスの眼玉を1個だけだった


「あなたにはそれで十分でしょう。」

そう言い残しすぐに家路に帰って言った。


――命がけで戦ったのになんか不公平な気分だが素材なんて俺が持ってても意味ないしな。


とりあえず俺も自分の宿屋に戻る。

宿屋に戻るとちょうど食事処は賑わい時、ボロボロになって帰ってきた俺だがクリスに容赦なく手伝いに駆り出された。

疲れてはいたが手伝いをしていると、生きて帰ってきた実感がして、気が付けば楽しく過ごしていた。

その後、3人で食卓を囲い、食べ終わると自分の部屋で今日の疲れを癒した。


――次の日の朝

……悲しいかな、もはや習慣というより習性となっている早朝のランニングは体がボロボロでも行ってしまう。

俺はランニングをした後、部屋で休憩と残りアイテムの確認をして時間をつぶすとトレースへと向かった。

店の扉を開けると昨日アルが座っていたカウンターにはバーコード頭のいかにも頑固そうな顔をした

老人が新聞を読んでおり、俺に気が付くとギロリとこちらに目を向けた

――この人がこの店の主人のアルの爺さんだな。なかなか頭固そうな人だな……。

あくまで自分の偏見だが大体職人肌の人は頑固なイメージがある

未だに現役で合成屋を営んでいるこの老人はさぞかし頑固なんだろう……そう思えて仕方なかった。


「何か用かね?」

老人が不機嫌そうな声で話しかける。


「あ、えーとアル……じゃなくてアルクリーネさんいますか?」

呼称を改め本名で言い直しアルの事を尋ねるとしばらく沈黙が続いた後老人がゆっくりと口を開く。


「……私はアルクリーネの本当の姿だ」


――…………

いや!こんなタイミングで微妙なボケかますなよ!

いきなり来た爺ギャグの処理に困る俺は破れかぶれで返してみる


「あの……ボケているんですか?」


「…………うむ!」

どうやら正解したようだ。老人は満足そうに小さくほくそ笑んだ。

多分ギャグのボケと老化によるボケを合わせてみたんだろう。

とりあえずこの人がアルの祖父であることは間違いない。


「君がキド君だね?どうやら聞いた通りの男のようだ」

―― 一体どういうふうに紹介したんだ?

少し疑問が残ったが老人が改めて自己紹介を始める


「私はこの店の主人のラルク・トーレスだ、孫から話は聞いている、昨日は孫のボケをうまく返してくれていたみたいだね。」

――いや、他にもっと話すことあっただろ。それとも森に行ったことは黙っているのか?


俺の疑問をよそにラルクは話し始める

「昨日何していたかは知らんが、よっぽど疲れていたのかあいにくまだ寝ておってな。君が来たら先にギルドへ行って来てほしいと言っておった」

「ギルド?なんでまた」

あいにくまだクエストを受ける予定はない

「理由は知らんがギルドに行くとしたらクエストか素材の換金?しかないじゃろ」

「素材の換金?」

「ん?換金を知らんのかね?ギルドの受付に行けばクエスト中や修行で手に入れた素材を換金してくれるんじゃ」

その言葉に昨日もらったオルメニクスの眼玉を思い出す


――とりあえずこいつを換金して来いということか……

俺は話を聞くと改めて訪れることを告げギルドへと向かった。



ギルドに入るのは登録以来、だから2日ぶり、あまり日は立ってないが久しぶりに来た感じだ。

中に入ると俺を見て周りからオールGという言葉が入った会話が聞こえる、まだ俺の話題は冷めてないようだ。


「いらっしゃいま――あ⁉」

俺に気づいた受付嬢のミレイが2度ほど咳こみのどを整えると笑顔で向かい入れた。

多分前回のブサイク発言を気にして次は間違えないようにと意識しているのだろう、その律義さに少し感服する。


「いらっしゃいませキドさん、本日のご用件は何でしょう?」

「素材の換金をしたいのですが」

「素材の換金ですね、承りました、今回はどのような素材をお持ちしてくれたのでしょう?」

俺は袋の中からオルメニクスの眼を取り出した。

そうすると驚いているのか気持ち悪がっているのかミレイの表情がみるみる青ざめていく


「え⁉うそ⁉ちょっとまって⁉これって……」

ミレイは驚きのあまり、カウンターに身を乗り出してくる。


「あの、すみません、失礼ですが」

「なんでしょう?」

「本当にブサイクですね……」

――本当に失礼だなこの野郎……

ミレイが首を2度振り改めて言い直す。


「すみません、失礼ですが、この目玉は何の目玉ですか?」

「オルメニクスの眼玉です」

質問の答えにミレイはさらに驚き、そのまま質問してくる。


「これ、どうやって手に入れたんですか?」

「森にいたオルメニクスから取りました」

「それってつまりあなたがオルメニクスを倒したんですか⁉」

ミレイの言葉に周囲がざわつき始める。

「え、ええそうですけど」

俺の言葉に周囲が騒ぎ始めた


「そんな……オルメニクスを……でもこの目玉は……」

ミレイが一人でぶつぶつ呟き始める。


「とりあえず、今は確認が先ね、誰か!森へ行って来てください!」

ミレイを俺をほったらかしにして大声で衛兵に指示を出す。俺は言い出しにくそうに声をかける。


「あのう……」

「ん?あ、すいません、素材交換でしたね、ではこの素材、100000ギルで買い取らせていただきます」

「10万⁉」

予想以上の高さに思わず声を上げる

「そんなにオルメニクスの眼玉って貴重なんですか?」


俺にはただのでっかいいくらにしか見えない。

「ええ、オルメニクスは倒すのが難しいですから。本来ならBランクの5人以上のパーティーが挑む相手です……ちなみに何人で倒したんですか?」

「二人です」

「ふたりぃ⁉」

ミレイが再び驚きの声を上げる


「そんな……二人でどうやって……ボンズさんは今はいないし剣聖さまもまだ到着していない……じゃあ他に誰が……」

ミレイがまたぶつぶつ呟き始めた


「……まあ、とにかく、こちら、素材分の代金です、オルメニクス討伐の報酬は確認が終わり次第払わさせていただきます……しかしわざわざ討伐依頼をした剣聖さまになんて言おう……」ミレイは報酬のはらいを済ませると愚痴をこぼし始めた。


――そういえば武聖に依頼を出したってアルが言ってたっけ?

どうやら討伐依頼を出した武聖は剣聖、カーライルの事だったらしい。オルメニクスはもう倒したがこの町に来るのだろうか?もし来なくなったのなら少し残念だ……最強の剣士の実力を一度見てみたかった。

俺はお金を受け取ると大騒ぎになっているギルドを出てアルを訪れに行った。


俺は再びトーレスを訪れるが店に入るとそこに人の姿はなかった。

店内を探ってみるとカウンターの奥からわずかに声と物をたたく音が聞こえる。

俺は小さく会釈をしてその奥へと入って行く。

音をたどって中に進むと奥には鍛冶場のような場所がありで合成を行っているアルとそれを指導しながら見守るラルクの姿があった。

「焦るなよ、まだ溶けきっていない、素材が完全に溶けきるまで火から離すなよ。」

「はい。」

アル体中汗だくになりながら金床に素材を溶かしている

どうやら素材はオルメニクスから剥いだ口についていた刃のようだ


――相変わらず凄い集中力だ。


アルとラルクは俺の存在に全く気付かずひたすら合成を続けている。

とてもじゃないが声はかけられる状態じゃない。

アルは溶けきった刃を金床から離すと金づちで叩き続け棒状の形にしていく。

そして今度は近くにあった大きな水晶のような石を取り出した。

「それは、魔力結晶⁉アルよ、魔力結晶は火に近づけるだけで溶け一瞬でそのまま蒸発することを忘れたか⁉」

「いえ、ですからおじいちゃん、この魔力結晶に10分ほどの時限魔法を唱えてください。」

「時限魔法?……なるほど!その手があったか!」

アルの考えを察したラルクはアルに言われた通り魔力結晶に魔法をかけた


――やっぱ凄い人はすぐに魔法をかけられるんだな


アルが1時間かけて1分止めたのに対しラルクはわずか10秒足らずで10分の時を止めた。

この爺さんもただ物ではない。

そして魔法のかかった結晶をアルは金床に入れた、時がとまったままの魔力結晶は火の中で溶けずにいる

そしてしばらくするとそれを取り出し棒状になったオルメニクスの刃の上に置き金づちで叩き始める。

何も起こらないままひたすら叩き続けるすると魔力結晶に変化が起こる。

結晶は一瞬だけ溶けるとすぐに棒と合成をした。


「……魔力結晶に時限の魔法をかけ溶けると同時に合成が行われる……まさか魔力結晶を合成に使うとはな」

「昨日、得た知識です。」

アルがにっこりと笑うとラルクは小さく微笑んだ。そしてやっと俺の存在に気づいた。

「あれ?キドさん、何時の間に?」



「はいこれ、約束の品です。

そういうとアルは俺にいろいろなアイテムを渡してくれた。」

「これが俺の武器……」

「はい、まずはグリズリーの爪と鉄球を合成した球です。爪の素材で球は鉄球よりも軽く持て硬さは鉄と爪の硬さでさらに固くなった球です、作るのは簡単で、量産もできます。」

「おお」

投げるサイズも重さも野球ボールに近い


「そしてこれがオルメニクスの鎌とグリズリーの爪、あとウイングバードの羽で作った球です。グリズリーの爪の硬さで先っぽにはオルメニクスの鎌の刃がついてあり、さらに風切り羽の力で投げたときに切る風で球は加速します、対象物から遠ければ遠いほどどんどん加速されます。しかしこれは数がないので使った後の回収お願いします。」

――効率悪っ


「そして次はこれです、オルメニクスの身体の素材と手袋で作った手袋名前はまだです。

オルメニクスの鋼のような硬さでできた革の手袋、これなら相手の攻撃を素手で受け止められます。」

つけてみると手袋をつけているようだが感触はグローブに近い。


「そしてこれがキドさんのアイディアで作った武器です。」

そういうとアルは先ほど作っていた棒を渡してくれた。少し加工したのか手で持つところが細くなっている。その形はバットに似ていた

「バット……」

思わず声に出して呟いた


「バット?名前はまだつけていませんがその名前にしましょう。バットはオルメニクスの刃で作ったもので固さは鋼にも劣りません、さらにそれにバリアの魔法が入った魔力結晶を合成しました、その武器なら盾にもなりますし魔法を打ち返すことが可能です」

……魔法を返し盾にもなる武器


俺はバットを両手で丁寧に持ち思わずつばを呑んだ。

ボールにバットにグローブ……

手にしたものはすべて野球で使うものだ。


だがこれは野球をするものではない……この世界で俺が生き残るための俺だけの武器


「アル本当にありがとうな、助かったぜ!」

「いえ、こちらこそ助かりました」

アルがぺこりとお辞儀を返す。


「1日だけだったけどお前との冒険なんだかんだで楽しかったぜ、こんな顔だけど、また機会があったら冒険しような。」

そう言い俺は手を振り店を出る


「キドさん!」

俺は不意にアルに呼び止められた。


「えと……私も冒険楽しかったです、良ければ……」

アルが少しいうのをためらっている

俺はアルの言葉をひたすら待った。

「良ければ……ええと……良ければ……」

……

「またいらしてください!」

「おう」

アルの言葉に大きく返事を店を後にした



――

木戸が出た後アルクリーネがポツリとつぶやいた

「良ければ、パーティーを……組みましょう……ううん、今はまだ……」

いつかまた冒険するために、魔法を覚えよう……アルクリーネはそっと心に誓った。





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