運がいいのか悪いのか
「なあ?これを奴の体内にいれたらダメージ与えられるか?」
俺はアルに手に持った火炎瓶と煙玉を見せた
「火炎瓶と煙玉ですか?」
「ああ、相手は一応昆虫型のモンスターだろ?なら火は有効じゃないのか?そして体内に煙球を入れることで過呼吸くらいにはできるんじゃないか?そうすればダメージもあたえられるし、弱っている隙に逃げ出せるんじゃ……」
現時点で逃げるのも倒すことも無理だろう……ならばせめて相手を弱らせてから逃げることを考える。
しかしアルは俺の提案に対し困り顔で答える。
「そうですね……、確かにそれができれば敵にダメージを与えられると思います。でもそれも体内に入る前に口で粉々にされるのでは?」
そう、問題はここだ、オルメニクスの口には刃のような歯がついており、そこで大抵のものは粉々にされる。
そうなってしまうと体内に入る前に火炎瓶は粉々にされて体内に入るまでに火は消えてしまい煙玉の煙は外で発生するだろう。
そこで俺はアルに思いついた作戦を伝えてみた。
「……面白いです、面白いですよ、その作戦!!実際成功するかはわかりませんがやってみる価値はあります!」
――よし!
俺はアルのお墨付きをもらうと小さくガッツポーズする。これで少しは希望が見てきた。
俺は早速作戦のためにアルに火炎瓶と煙玉を渡す。
アルは早速作業に取り掛かろうとするが一旦手を止めて俺の方を向く。
「そういえば先に言っておきますけど、もしこの作戦が成功したとしてもあなたの考えてる通りにはならないと思いますよ」
そうつぶやくとアルは作業に取り掛かった。
―― 一体どういうことだ?
アルの言葉が気になった。
――
傾いていた夕日はもう水平線に隠れて始めている。
あれから俺たちはずっと木の陰に隠れているが、オルメニクスも出入り口前から一向に動く気配はない。
そしてその間、アルは作戦で使う煙玉と火炎瓶にとある細工をしていた。
「もうすぐ夜だな、もしかしたらこれがラストチャンスかもな」
「そうですね、これが失敗すれば終わりですね」
魔物は夜になると活発になる、もしそうなれば俺たちは他の魔物との戦闘も避けられなくなり戦闘の騒ぎでオルメニクスにも見つかってしまうだろう。
「怖いか?」
俺の質問にアルは少し間を置き答える
「……はっきり言って怖いですね……でもそれと同時にこの作戦の結果にすこしドキドキしている自分がいます。キドさん、この発想はすごいです……まさかアイテムに時限魔法をかけるなんて」
そう、俺はアルの覚えている時間を止める魔法をさっき取り出した火炎瓶と煙玉にかけるよう提案した。
時を止める魔法で止まったものは文字通り時間が止まる、つまりどんなに攻撃しても変化は出ず
魔法が解けた瞬間に一気に降りかかる。
これを煙玉と火炎瓶にかけることでオルメニクスの刃に潰されることなく体内に入りちょうど中に入ったところで破裂するという考えだ。
ただ、アイテムにこの魔法をかけるという実証例がないため実際できるかは不明だった。
俺達は火炎瓶と煙玉にできる限りの時を止めるためひたすら魔法をかけ続けている。
ただ、今は二人とも時計を持ち合わせていない。
だから現在でどれくらい時間がたったのかはわかっていなかった。
ただもう夕日が落ち初め魔物の動きが怪しくなりこれ以上は危険だと判断し行動に移し始める。
これで失敗したらもう魔法をかける時間の余裕はない。これが最後の勝負だ。
アルは使い続けていた魔法を解く、するとアルの半径1メートル以内に入ってるすべての物の動きがピタッと止まった。ここから時間との勝負が始まる。
早速行動を開始する
俺はまずオルメニクスの視界が悪いことを考えおよそ正面から40メートルの所に立ってみた
どうやらまだ向こうは見えていないようだ。
――この距離なら外さねえ。
俺はまずオルメニクスに火炎瓶と煙玉の存在を知られないように、視界を完全に遮るため今日3つ目の閃光弾を投げる。
オルメニクスは前と同じようにもがき始める。そして今度は時間の止まった火炎瓶をオルメニクスの口にめがけ投げ込んだ、物を投げることに関しては一切音は出ない、オルメニクスは火炎瓶の存在に気づくことなく火炎瓶は口になかに入っていった。
作戦は成功したかはわからないが粉々にされた様子はなかった。
そして次に煙玉を投げ入れる、実はこの煙玉、アルの提案で火炎瓶よりも少し遅れて魔法をかけてある。
理由はわからないが、話によれば煙玉が先に破裂した方が良いらしい。
俺は二つを投げ入れた後すぐさま木の陰に隠れ、時間が立つのをずっと待つ。
――1、2、3、4……
自分の心の中で時間を数える
――31、32、33、34、35、
まだ敵に変わった様子はない
――……55、56、57、58、59……
――60!
心で測っていた時間はは1分に達した。
……だが敵に変化はない
魔法が失敗したのか、心の時間を数えるのが早かったのか、魔法が解けるまでまだまだかかるのか
何も起こらないことに焦りを感じる。
しかしその数秒後オルメニクスの口とお腹から煙が出始めた。
オルメニクスが苦しみ始める
――今ならいけるんじゃないか?
俺はすぐに立ち上がり出入り口に行こうとした、しかしアルに腕をつかまれ引き止められる
「アル?」
「今は行ってはいけません」
今オルメニクスはもがいていて俺達どころではない、行くなら今しかないはず……だがアルはそれを引き留めた
「なんでだ?逃げるなら今しか……」
「いいえ、逃げる必要はありません、私たちの勝ちです」
「え?」
アルの言葉に心の焦りが一瞬で消えた
――一体どういうことなんだ?
そんな顔で見つめていると勝利を確信し余裕を持ちはじめたアルが授業をするように説明していく。
「キドさんに質問です。あの煙玉の煙は何でできていますか?」
「え?」
アルのいきなりの質問に顔をしかめる
「……中に入ってる火薬かなんかの煙とか?」
「違います、煙玉の煙は相手の目くらませなどが目的なんです。だから火から出る煙ではなく化学物質から作られているのです。」
???
アルが何を言っているのが理解できない
アルはまた質問を続ける
「第2問、何故オルメニクスのお腹から煙が出ているのでしょう?」
オルメニクスの体は鋼のように硬い、少なくとも怪我で穴が開いたわけではない、ならば……
「尻か?」
その言葉にアルがドン引きする
「……正解は呼吸する穴から出ているのです。昆虫は気門という穴から呼吸をしており場所は腹にあります。」
――へえー
アルの余裕を見てか、現在大ピンチだということを忘れ純粋に感心していた。
そしてアルが指で3を示し最後の問題を出す
「そして第3問、今、オルメニクスのお腹は煙玉の煙を発生させるための化学物質が充満し、気門から空気が入っていますここに火のついたものが入るとどうなりますか?」
俺が答える前にアルが答える
「……爆発です」
その瞬間。オルメニクスの体が膨れ上がり凄い音と共にオルメニクスの体は破裂し、あちこちに飛び散った。
「え?なんで?」
一体何が起きたかわからなかった
「粉塵爆発です」
「粉塵爆発?」
「はい、粉塵爆発とは空気中にある粉塵が加熱され燃焼を起こし爆発を起こす現象の事です。
キドさんの持っていた火炎瓶と粉末の化学物質で作った煙を使った煙玉とお腹から空気の入れる昆虫の生態構造で、
オルメニクスのお腹はこの現象を起こすのに必要な基準の空気、粉塵、発火源を見事満たしていたのです。」
ここで俺は、アルの言っていた「あなたの考えてる通りにはならない」の意味に気づいた。
結果は考えていた以上の事が起こった。
アルはお腹の破裂したオルメニクスが動かないのを確認するとこちらに振り向き指で輪を作りオッケーの合図を出した。
――全く……運がいいのか悪いのか……
運悪くこの世界に飛ばされて運悪くとんでもない敵と戦うはめになり運よくその敵を倒していく。
「ま、考えてても仕方ないか……」
とりあえず今は少しでも早く町へ戻るためにアルの解体作業を手伝うとしよう……
無い知恵絞り考えました。多少理論がおかしくても目を瞑ってください。