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もはや完全に勇者には見えないですね

エポルカの町から南にある森は、特に特徴もなく名前も付けられていない、いたって普通の森だ。

強いてゆうなら自然が豊かで森林浴にはもってこい。

出てくるモンスターも時期を選べば対して強くないので、駆け出し冒険者の中では修行の場として知られている。

大人のグリズリーはなかなかの強敵だが奥に行かなければ会うことはないので安心して大丈夫……なはずだった……

ただ最近、オルメニクスという魔物が住み着いているという情報が入った。

オルメニクスは元々東の大陸に住んでいると言われている昆虫型の魔物で非常に獰猛な性格でその生態はカマキリとよく似ていると言われている。

顔には無数の眼と音に敏感な触角があり、手は大木をも真っ二つにできる鎌が4本ついていて、

体は鋼のように固く口には食べたものを即座にバラバラに切り刻む鋭い刃が何本も備えられ、

体内から吐き出す毒性の粘液はどんなものでも軽々と溶かしてしまう。

そんな特徴から別名「昆虫兵器」と呼ばれている。


そして俺はそのオルメニクスの討伐へと……


「無理無理無理無理!」

短い厨二病から覚めた俺は全力で否定する。


「何言ってるんですか、一緒に討伐するって言ったじゃないですか⁉」

上記の語り部アルクリーネが口を膨らませる


「一言も言ってねーわ、そんなこと」

「オルメニクスは別名「レア素材の宝物庫」とまで言われているんです……ぜひ、手に入れてみたいじゃないですか……」

――さっき聞いた別名と違うぞ


眼を輝かしながら語るアルをよそに俺は森の中に入っていく。

「あっ待ってくださいよー」

我に返ったアルが慌ててついてくる。


「まあ、オルメニクス討伐は冗談として、とりあえずグリズリーは確実に仕留めましょう」

「ああ、それはわかっている」

俺はアルの言葉に返事すると目的地の森を探索していく。


「しかしアルは本当に合成が好きなんだなぁ」

森に来てからずっと素材を拾いながら歩くアルを見ながら口にする。


「別に好きではないですよ」

「え?現に今だって合成のための素材拾っているし、家も合成屋だし家の跡を継ぐとかじゃないの?」

俺がアルの持つ素材を指さしいうとアルは素材を手で振り見せびらかしながら答えた


「これですか?珍しいから拾っているだけですよ。確かに素材集めは好きですが合成に使う予定はありません。合成屋も祖父がやっているだけです、私の両親は魔法の研究員ですし、合成も祖父の仕事を見て見よう見まねで始めたもので単に趣味でやっているようなもんです。私はどちらかというと開発や研究と言った調べたり発見するようなことが好きですね。

実際今回の冒険もこの森の調査と私の考えた合成を試したかったのがメインですね。」


アルはそういうと拾った素材をニヤニヤしながらじっと見つめていた。

まあ、そういわれると出会った時の本に対する集中力やスキルに対する知識にも合点が付く。


「ああ、そう……俺の合成も研究のついでか……」

 俺はぽつりとつぶやく


「あ、でも新しいアイテムの合成に関しては真面目にと組みますからそこは勘違いしないでくださいね。

話をしてたら本気で作りたくなっちゃいましたから」

「ああそうかい」

アルのフォローに口を尖らせつつも足を進めていった


森に入ってからおよそ30分。

俺たちが森の魔物と戦いながら前へ進んでいと近くから川の音が聞こえた。

その音を頼りに周りを散策すると林の中から小さな川と魚を取っている少し小さめのグリズリーを発見した。


「あれが目当てのやつか?」

「そうです、どうです?あのサイズなら大丈夫でしょ?」


確かにこのグリズリーは体長が2メートルちょいくらいで前に比べると比較的小さく、むしろかわいく思えてくる。


「しかしどうやって倒しますか?相手は小さくてもグリズリーです。他の敵よりもはるかに強いですよ?それに近くに親がいるかもしれません」

草陰に隠れながら小さな声でアルが話しかける


「お前、なんかいい魔法使えないのか?」

「私が使えるのは大体5大元素の初級魔法です、敵と戦ったのは今日が初めてですし」

――……こいつ今サラッととんでもないこと言ったよな。

あんなけ俺に自分を売り込んで冒険に連れ出しといて今回が初めてだと⁉

俺の気持ちを読み取ったのかアルは慌てて取り繕い始めた


「あ、たったしかに冒険は初めてですけど実践練習はよくやっていたし……あ、あともう一つが使える魔法があるんです」

「なにそれ?」

俺が怪しむ眼差しをアルに向ける。

「時限魔法です。相手の時を少しの間止められるんです」

思ったよりすごかった。


「すげえじゃん、それさえあれば……」

大抵の敵は倒せる。そう言いそうになった瞬間アルは少しもじもじしながら言い出した。

「えっと、ただこれを使うには条件があって。対象相手が半径1メートル以内とあと

止められる時間は詠唱時間1分につき1秒なんです。

――つかえねえぇぇぇぇ

範囲せま、効率悪すぎ!

そんなんじゃ唱えてる間に敵にぼこぼこにされるわ


俺は仕方なくアルは宛にせず、自分なりの方法で熊をしとめることにした


「仕方ない……これを使うか」

俺は四次元袋、マジックトートから小さな塗り薬のようなもの一つ取り出した。

「何それ?毒?」

「まあな、つってもしびれ毒だけどな」


これは元々グルド族が狩りの時に使う毒で本来なら矢の先に塗り傷口から体内に入れる毒だが、あいにく俺は弓は使えない。

なので袋の中からリンゴを一つ取り出すとそれに少し穴をあけ中に塗り始めた


「毒リンゴですか、その顔で毒リンゴとは……もはや完全に勇者には見えないですね」

「うるせー」


俺はアルの口撃を軽くあしらうと毒を塗ったリンゴをグリズリーの前へ投げた。

初めは警戒していたグリズリーも危険はないと判断したのかおいしそうにほおばり始めた


――うぅ……罪悪感が凄い……

生きるために必要なものを手にれるためとはいえやはり無害な相手を殺すのはためらいがある。きっと酪農の人たちはこんな気持ちで豚とかを飼っているんだろうなと思うとなんだか尊敬できた。

しばらくはおいしそうに食べていたグリズリーも時間がたつとピクリと動かなくなりそのまま倒れた。


「効き始めましたか……」

「そのようだな」


俺たちは草むらから立ち上がるとグリズリーの元へと駆け寄った。

するとアルはポケットからナイフを取り出すと逆さに持ちそのままグリズリーののど元を一突き刺した。


「安心しろ、痛みは一瞬だ……」

厨二っぽいことをいってかっこつけるとアルはそのまま手際よく熊を解体していった。


「うほほー、素材の宝石箱や―」

解体しながらアルは変なテンションになりはじめ次々と素材として剥ぎ取って言った。


――お前も、もはや完全にかわいい女の子には見えないけどな


「よし、取れるものはすべて取りました。」

アルはもはや骨だけの遺体を魔法で燃やし祈りをささげると取り出した素材を俺の袋に放り込んだ

「目当ての物は取れたのか?」

「はい、予想以上に取れました。これならきっといいのができるでしょう。ありがとうございました」

そういうとアルはニッコリとほほ笑んだ。


――か、かわいい

思わず思ってしまう

――駄目だイカン!さっきの光景を思い出せ

俺は自分の煩悩を消し去ろうと必死に心で抗う。


「何してるんですかー!その顔でそんなことしてたらほんとに不審者にしか見えませんよー」

その言葉にハッと我に返る

「さあ、早く帰りましょう親熊が戻ってくるかもしれませんし」

「そうだな、ならとっとと帰ると……え?」


俺たちが帰ろうとした瞬間、頭上に大きな影ができ始め思わず上を見上げると

そこには親と思われるグリズリーの首が現れた。


「……ってクビぃ―⁉」

とっさに首を避けると今度はさらにでかい影に覆われた


「え……あれって……」

さっきまで軽い口調でしゃべっていたアルクリーネが声を震わせ怯えながら上を指をさす。


俺はそっと指の方向に目を向けた


そこにあったのは

体長3メートル近くある熊の体をまるで骨付き肉にかぶりつくかのように貪る

怪物、オルメニクスの姿があった、そして顔にある無数の眼は俺たちの方向に向いていた。






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