ここは異世界だ日本の法律は通用しない
「いやぁ、さっきは悪かったねぇ、特徴はブサイクな顔って聞いてたからさ、しかし、まさか旦那より顔の悪い人はいるとはねぇ……」女性は悪びれた様子もなく謝罪すると、思わず許してしまいたくなるほど豪快に笑った。
あの後、店の客足が増えたこともあり、その勢いで店を手伝わされることになってしまい、
客足が遠ざかったあとに、改めてテーブル席でおもてなしをされていた。
「いやはや、妻が失礼なことをしたね。これは手伝ってくれたお礼と失言のお詫びのしるしだ」
そういうと男は自ら奮ったお店自慢の肉料理を出してくる。
調理は民族式の調理を施してありずっとグルド族に滞在していた俺には慣れ親しんだ味だった。
この陽気な二人はここの宿屋兼料理屋の主人のゴドーと奥さんのクリス。
二人はグルド族の族長のオッズとは幼馴染らしく町で暮らしてる今でもオッズとは交流が絶えないらしい
「しかし驚いたねぇわし等が集落を去ったあとに、そんなことになっていたとは」
「あたし達がいたら熊ごときに遅れは取らなかったよ」
そういうとクリスは腕をまくり力こぶを作って見せてく。二人の陽気なやり取りにはなんだか元の世界のような平凡な日常を思い出させられる。
でもこの二人、普段はおちゃらけてはいるが戦闘に関してははオッズと同等の実力で集落にいた時は、この三人で大抵の魔物は撃退していたらしい。
ちなみにこの店の料理は主人自らが森まで取りにいってるとか
「そうだ、部屋なんだけど二階にある右手にある部屋の1番奥にある部屋を使っとくれ」
「あ、はい、ありがとうございます。代金の方は……」
「いや、代金はいいよ。」
ゴドーの言葉に俺は驚いてしまう。
「いや、でも……」
「村を救ってくれたお礼だ。いくらでも泊まってってくれ」
「どうせ今日来たばっかで金もろくにないんだろう?ならせっかくだしその浮いたお金で何か買えばいいさ」
確かに今持っているお金は謝礼としてもらった宿屋の料金だけで足らなくなる、もし、この金が浮くならアイテムの方に回せる。しかし……
「でもやっぱり、さすがにただで泊まるのは……オッズからもお礼はもらったし」
「別にいいんだよ、今でこそ、里を捨てこの町で生きているけど、あそこはあたしらが生まれた育った故郷には変わらないんだよ、だからこれはあたし達の故郷を救ってくれた個人としてのお礼さ」
「それに元々宿の方は客はあまり入ってなくて部屋は有り余ってるからな」
「いや、ならなおさら……」
「だからこそ嬉しいんだよ、こっちとしてはずっと夫婦二人だからね。
たまに話し相手になってくれるだけでも十分だよ。」
「それに聞くところによれば君がいた世界は凄く平和だったらしいじゃないか
そんなところからいきなり1人で放り出されてここまで来るのに大変だっただろう」
「……」
唐突な優しさに言葉にこちらの言葉が出ない。
「大丈夫、もし本当にお金に困ったらあたしが体で稼いでやるよ!!」
「そうだな、二人で魔王退治でも行くか!」
そういうと似たもの夫婦は二人そろって豪快に笑い始めた。
そんな二人の笑いに俺は愛想笑いで返していた、いや、愛想笑いでしか返せなかった。
――駄目だ……涙が出そうになる
俺は必死で目からこぼれかける涙をこらえ続けていた。
この異世界に来てからずっと元の世界へ戻ることと、この世界で生き抜くことを考え過ごしてきた。
普段は感じなかったがやはりどこかで焦り、不安を感じていたのかもしれない……だが二人の陽気さと優しさはそんなことを忘れさせるくらい暖かかった。
俺は涙を堪えながらご馳走してもらった料理をなんとか平らげると早速言われていた部屋に入る。
部屋の中はベッドと机が窓際に続けて並んであり、その横には人が3人ほど座れるスペースがあった。
俺は早速ベットに荷物を置くとためていた涙をこぼしながら所持金の確認と今後の予定を立て始める。
元々初めの予定では簡単なクエストをこなしてアイテムを買う資金を集める予定だったが宿屋のお金が浮いたのでその予定を省けることとなった。二人には本当に感謝したい。
ただ必要なアイテムはどれも金額が高く宿屋のお金でも多くは買えないので
俺は材料はこちらも持ちの代わりに安くアイテムが買える合成屋へ行くことにした。
――次の日の朝
俺は習慣の早朝のランニングをこなすついでにこの町を散策してきた。
帰ってきたころにはゴドーがちょうど朝ごはんを作っていた。
「今日の予定はもう決まったのか?」
朝食のグルド族風ハムエッグを食べながらゴドーが尋ねてくる。
「とりあえず合成屋でアイテムを作ろうと思ってます。」
「そうか、ならトーレスの店を訪ねるといい」
「トーレス?」
俺は初めて聞く店の名前に疑問を抱く。
――そんな店あったか?
ランニング中に一通り見てきたがそんな名前のお店はなかった。
「知ってる人は知っているこの町一番の合成屋だよ、儂の紹介なら割引も聞くだろう」
そういうと店の地図を書いてくれた。
「おや?ブサイクが二人そろって朝食かい?朝の風景には似合わないねぇ」
店の掃除をしているクリスが小ばかにしたように笑う。そのままつられて3人で笑った。
宿から外に出ると俺は気持ちを切り替えて朝ごはんを食べているときにゴドーから教えてもらった、合成屋、トーレスに向かっていった。
――ほんとにこんなところにあるのだろうか?
地図に書かれている場所は商業地区から離れた住宅地区。周りを見渡してもあるのは普通の家だけお店らしきものは見当たらなかった。
そのまま歩いて20分、町中に小さい看板で「合成屋トーレス」と書かれた看板を見つけた。
――ここがトーレスか
なかを少し覗いてみるが客足はなさそうに見えた。
とりあえず中に入ってみようと俺は店の扉を開ける。
中に入ると目にしたのは店中に広がる本棚だった。
それは合成屋というより本屋にしか見えない。
俺は1つ本をとってみる、するとそこには見たことない数式や合成方法がびっしりと書かれていた。
――もしかしてこれ全部合成に関する本か?
あまりの多さに思わず圧倒される、そしてふと奥に目をやるとカウンターでずっと本を読んでいる少女を見つける。
――人いたのか、ここの子供だろうか。
少女は年はルウと同じくらいに思われ髪は緑色、前髪が切りそろえられていて後ろ髪はクビが隠れる程度まである。澄んだ青い色をした瞳は瞬きもせず、こちらにも気づかないままにひたすら本を読み続けていた。
「あのー」
少女に呼びかけてみるが反応はない。
「すみませーん」
目の前まで近づき声をかけるが全く気づかない。
「おーい!」
今度は近くで大きな声で呼ぶが気づく様子はない
――……
パシッ!
俺は悪いとは思いながらも少女の頭を手のひらで叩いてみる……が全く反応はない
――駄目だ、ピクリとも動かない。
俺は諦めると少女が気づくまで待つことにした。
――それにしても凄い集中力だな、
じっと待っていても気づかないほどの集中力に感心する。
――いったいどんな本を読んでいるんだ?
本の内容が気になった俺は全く俺に気づかない少女の横から顔を出し本を覗き込んだ。
「ルモアールの公式……?」
本の内容を思わず音読する
「……え?、うわぁ⁉」
「うお!」
今まで反応のなかった少女の驚きに思わずこちらも驚いてしまう
そして何をしても反応のなかった少女が顔を近づけたことで我に返ったことで少しへこむ
「ちょ、ちょっとあなたなんですか?いきなり人の顔にそんな醜い顔を近づけて!衛兵呼びますよ?」
少女からドギツイ言葉に心が折れそうになるがなんとか踏ん張り事情を話す。
「ちょ、ちょっと待て、おれは客だ!」
「そんなひどい顔した客がどこにいますか!衛兵呼びます!」
――こいつ客をなんだと思っているんだ。
そう突っ込む前に衛兵を呼ぼうとしていた少女を必死になだめていた。
――10分後
「つまりあなたは本当にお客さんなんですね?そういえばここお店でしたもんねね、忘れてました。」
――大丈夫か?この娘
言葉に出そうになるがここは止めておく。
「では、改めましてここは……何屋でしたっけ?」
「俺は合成屋だと聞いている」
「そうそう合成屋でしたね」
少女は少しおどけて見せるとそのまま話を進める。
「で、いったい何の御用でしょう?ブサイクな顔を治したいとか?」
「できんの⁉」
「無理です」
――できんねえのかよ~
きっぱりと言い切った少女の言葉に少し落胆する
「で?実際のご用は?」
「アイテムを作ってほしいんだけど」
「アイテムですね?顔を変えるアイテムとか?」
「あるの⁉」
「ないです」
――ないのかよ~
きっぱりと言い切った少女の言葉に少し落胆する
「で?実際のところなのですが、あいにく店の主人の祖父は今外出中でございません」
「あ、いないの?」
その言葉に少し落胆する
「ですが、私で良ければ作らせてもらいますが?」
「あ、できるの?」
「はい、一応孫ですからね、素材と必要なリストさえもらえれば」
少女にそう言われる俺は少し落胆する……
とはならずと俺はほしいアイテムのリストと袋に入っている素材を渡した。
「閃光弾に煙幕玉……それと鉄球ですか……なんか丸いものを欲しがりますねぇ……あと素材に石材が多いのはどうしてでしょうか?」
「ああ、それは敵にぶつけるようだよ」
「え?敵にぶつける?」
「ああ、俺武器使えないから」
その言葉に少女は何か気づいたようだ。
「ああ、もしかしてあなたが昨日から噂になっている……」
――やはり噂になっていたか
「確か顔の醜さだけで相手を戦闘不能にしたというキドさんですか」
――その噂流した奴こっちこいやぁぁぁ!
思わずっ心の中で叫ぶ
「じゃあこれらのアイテムは全部……」
「ああ、戦闘で必要なアイテムだよ。」
その言葉を聞くと少女は少し真剣な表情を浮かべて話し始めた。
「見たところ投げやすそうなものが多いようですが?」
「ああ、投げるのは得意だからな、物を投げて相手を怯んでいる間に叩くってのが俺の戦闘スタイルになって行くと思う。」
「なるほど……」
少女は考えると何か思いついたように話し始めた。
「ならば物を投げて敵を倒すというのはどうですか?」
「え?」
少女の言葉に思わず驚く、何故ならばこの世界では基本的に武器以外で敵を倒すのはほぼ無理に等しいからだ。ダメージを与えられるアイテムはあっても殺傷能力の高いアイテムはそのまま武器認定されたりするはず。
「そんな事できるの?」
「アイテム次第では可能です。」
「でもそんなアイテム聞いたことがない」
そもそもこの世界では武器スキルが主流だから俺みたいなやつでもいない限りアイテムで敵を倒そうなんて考えてもいないだろう
「なければ作るんですよ?」
「え?」
少女はそういうと来ている履いてるスカートのポケットからメモ帳を取り出し、手帳に書いてある素材と袋の素材を照らし合わせ始めた。
「大体の物はそろってますね……あとは強固な爪だけですね、取りに行きましょう」
そういうと少女は立ち上がり外に出る準備を始める
「お、おいちょっと待て、いったいどこに行くつもりだ?」
慌てる俺を見て首をかしげながら答える
「どこって?素材を取りにですよ」
「どこに?」
「たぶん今なら近くの森にいると思いますよ。日帰りで行けますよ。」
「いるって何が?」
「素材の魔物です」
「そいつってどんな奴?」
「大した相手じゃないですよ?ただのグリズリーです」
――イヤイヤイヤイヤイヤイヤ
無理に決まってるだろ
こっちは先月そいつとやりあって死にかけてんだぞ、
そういうと俺は荷物をまとめ早々と店の入り口へと向かった
「ちょっと、なに帰ろうとしてるんですか!アイテムはどうするんですか」
「いや、だってグリズリーなんて勝てるわけないだろ、アイテムは別のところで作ってもらうわ。」
帰ろうとする俺の腕を少女は反対側に引っ張る。
「大丈夫です……、わたしも行きますから……」
「お前が来るからって……どうなるんだよ……」
少女の引っ張りに必死で抵抗する。
「大丈夫です……こう見えて私魔法使いですから……」
――ピクッ
魔法使い……その言葉に思わず心が揺らいだ
異世界に行ったら見てみたいトップ3と言えば魔法、エルフ、ドラゴンだろう(個人的な意見です)
俺は魔法が使えない、だがせめてもし仲間に魔法使いがいたならば
――イヤイヤイヤ
だからと言ってグリズリーは厳しすぎる。
やはりここは断って……
「それにこんなかわいい女の子と一緒にパーティー組めるんですよ?言って損はないじゃないですか」
――ピタッ
その言葉に出口に向かっていた足が止まった
女の子とパーティー、しかも二人っきり……
その言葉に胸が弾む。
俺は後ろに振り向き腕を引っ張る少女を観察する
確かに容姿はかなりかわいい告白とかされたら断る自信がない、ただ年齢がネックだな
「君、年いくつ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ?」
さっきまで俺に対して失礼な事をマシンガンのように連発してきたお前が何を言うかと思いはおいて置き。とりあえず推定年齢は14,15くらいと予想してみた
俺はここで自問自答してみる
――相手はかわいいがまだ子供だ
だがここで逃したらもう女の事とパーティーなんて組めないかもしれないぞ?
――だが組んでどうする?年齢的にも手は出せないぞ?
それはあっちの話だろここは異世界だ日本の法律は通用しない
――しかし中学生くらいの子に手を出すとは犯罪じゃないか、俺はもうすぐ成人だぞ?それにロリコンじゃない
考え方の問題だ、30歳の男と26歳の女性、と考えてみろ
……答えは出た
「君、名前は?」
「アルクリーネ、アルでいいです。」
アルクリーネ……これが俺と初めて組んだパーティーの仲間の名前だ……




