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伯爵の恋人  作者: 吉野華
第8章 運命の少女
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第59話 夜会の片隅にて(2)

「だからそうやきもきしなくたって、兄さんの天下だってそういつまでも続くわけじゃない。兄さんが不老不死とでも言うならともかくね。

今にファンである君が絶賛する殿下が世間を惑わす絶世の貴公子ともなれば――、母親の出自の悪いと難癖をつけて彼を軽視する諸侯の目も変わってくるだろう。女性は彼を下にも置かず、彼に視線を注がれる一瞬のために、生命を賭けて闘うだろう。殿下に処女を奪って欲しいって王宮に殺到するんだ。

そして僕にはまるで関係ないこの勢力図も、後十年もしたら、僕とは関係ないところでまた違って来るだろうさ」

「王子と閣下、同時期じゃないのが惜しいですよね。同世代じゃないから比較が難しい。幾つ違うんでしたっけ、そう、倍違うのか……」

「そう。そして子供でもなければ中年でもない青春真っ只中のはずの僕らは、まともに女にありつけることもないってわけさ。嫌になるね」


僕が言うと、カイトはそんな気なんてないくせにと言って僕のことを笑った。


「そんなことはないよ」


僕はシェアのことを探していたことを根拠にそう答えた。


「素敵な女性がいれば、いいなって思ってるよ」

「そんなことを言って。さっきから、何度か声をかけられているのに、まったく素っ気無くしているじゃないですか」

「そんなことはないよ。大して声はかけられてない」

「でもかけられているでしょ」

「少しはね」


カイトがしつこいので、僕はそれを認めた。


「駄目じゃないですか、もったいないことをして。せっかくこういう場なんだし、少しくらい話をしたっていいんじゃありませんか。女のほうから声をかけてくれるなんて、よっぽどってことなんだから」

「よっぽど?」


僕がたずねると、カイトは頷いた。


「よっぽど貴方が気に入ったってことです。常時女に囲まれてる閣下のあの状態が異常なんであって、普通はね、女から男に声なんかかけやしないものなんですから」

「本当に? なんでそんなことが君に分かるんだ?」

「俺が声をかけられたためしがないからです」


カイトの憮然とした言葉に、僕は妙に納得した。


「あ、今ものすごく納得されましたね」


カイトに睨まれ、僕は首を竦めた。


「とは言え幾ら貴方が女たちに比較的好ましく思われる傾向にある美青年であったとしてもです。都会の姫君なんてのは、連日のパーティーが普通で、何しろ場慣れしているそうですからね。はっきりしない男なんか、歯牙にもかけて貰えないですよ。

何と言っても、彼女たちは強い男が好きなんです。これは俺の持論でもあるんですが、女ってのは親切で、綺麗で、しかも強い男が大好きなんですよ。女ってのはだいたいそうでしょう。そしてその中でも貴方に決定的に足りないのは強引さです。だから、もっと強気で行かないと」

「そうやって炊きつけないでくれ。それに、僕にはタティがいるんだ。他の女と話しなんかしたら、タティを裏切ることになる」

「話しぐらいで裏切りになるわけない」


カイトは呆れたように言った。


「そうかな、だって僕はタティが他の男と話すのだって嫌なんだ。すごくイライラする。最近じゃ執務のときは、夜に僕が帰るまで本当に部屋に鍵をかけて閉じ込めておきたいくらいだよ。

まあそんなことをしなくても、幸いとタティは出歩く性格じゃないからね。さすがにそこまではしてないけど心配でさ。僕って何処かおかしいんだろうか」

「ううむ、そいつは独占欲ってやつでしょうな」


カイトは腕組みをして偉そうに唸った。


「無論だ。女性を所有することは、一人前の男として当然の義務だからね」

「所有って。しまいにゃ貴方、執務中は彼女に貞操帯を強制しそうな勢いですな」

「この王都滞在の数日の間は、本気でそれを考えたよ」


僕がため息混じりにそう言うと、カイトが悲鳴をあげた。


「アレックス様ってきっとサディスティックだって思ってましたっ」


カイトはフォークを握ったまま手を胸に添えると、まるでタティみたいな言い草で僕をからかったのだった。

すると、近くにいた何人かの人々が彼のふざけた態度を見て、僕らに失笑するのが分かった。周囲には国中から集った大勢の貴族がいるのに、彼の傍若無人さには閉口する思いだった。


「タティが大事だからだ。この気持ちを君に理解して欲しいとは思わないよ」


僕は、カイトがまたおかしな真似をやらかしやしないかと思って、彼とは他人の振りをしたい気持ちでそう言った。


「太陽神は独占欲を捨てなさいと説いていますよ」


カイトは打って変わって真面目な態度で言葉を続けたが、カイトのおちゃらけた性格は天性のものであり、僕のような男には理解不能の性質だ。従っていつ突発的に発揮されるか油断がならないので、僕は二度と彼への警戒を解かなかった。


「こんな場所で君と神学の話なんかしたくないね。まったく、ふざけるのか真面目にするのか、どっちかにしてくれ」

「神学がどうしたって?」


そこへ不意に、僕は背後から声をかけられた。


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