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伯爵の恋人  作者: 吉野華
第12章 佳客
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第291話 秘密のときめき

その後、僕らは馬を調達してホリーホック市内の街路に出た。ここは治安的に問題が多いからとのダグラスの計らいもあって、ホリーホック城から出立する際に護衛騎士を三十名ほども引き連れて欲しいと言われた。その面々を見るなり、そんなの要らないと僕は思わず言ったのだが、ここにも兄さんの事前命令が抜かりなく入っていて、とにかく僕には護衛がつかないと、当直の人間が処罰されるからと責任者に泣きつかれた。

そんなわけで、僕の周りには三十名からなる一個小隊が僕の護衛についたのだ。何が気に入らないかと言うと、連中が僕と年が変わらない奴ばっかりだったのだ。彼らは馬に乗って道を行く僕の周りを固めるだけで、別に会話とかをするわけではないのだが、その一個小隊を指揮する人間を含めて全員二十代、それも隊員は二十歳そこそこの若い奴らがほとんどのようだったので、当然ながら居心地が悪く、次第に僕の口数は減った。

何せ横にも後ろにも、騎乗した同年代の男がぞろぞろいる。おまけに絶対個人的には係わらないであろう、不良の一歩手前と言うか、かなりやんちゃそうな奴らも混じっていたのだ。彼らはもし道ですれ違ったら平気で僕を馬鹿にしたり、因縁をつけてお金を奪おうとするに違いない。軍紀違反をしているわけではないのに醸し出されるチャラチャラした雰囲気。

だがだからと言って勿論、一見すると真面目そうな奴でも、油断はできない。たとえ見た目が真面目そうに見えたとして、本当のところ、ずっと性根の腐っている、実は不良なんかよりもよっぽど薄情や残酷を兼ね備えた奴だって紛れているものだ。

とにかく、このての男の集団というのは、本当に、昔苛められたことを鮮明に思い出させてくれるのに事欠かないと言うか、とにかくそこにいるだけで存在が悪夢そのものなのだ。僕は領主じゃないけど、どうにかしてこういう奴らにだけ、ピンポイントで重税を課してやれないだろうかとつくづく思う。どうせ今だって昔と変わらず誰かに嫌がらせやイジメをしているに違いないのだから、僕だってそれぐらいしたっていいはずだ。


「若い男は何せ機動力がありますからね。護衛に頼もしいです」


内心びくびくする僕に、カイトが馬を寄せて見当違いの慰めを言った。


「馬の機動力があれば十分だよ。こいつら全員シエラを見たいだけなんじゃ……」


馬に跨り手綱を持ちながら、僕は連中を睨んで強がった。


「うーん、あり得ますね」

「これだから男は頭に来るんだ。図々しい奴が多いんだよ。上手く言えないけど」

「まあ、他の男の行動は何かと勘に障るもんですよ」


ちなみにハリエットは馬を操れないそうなので、散々もめた挙句今は僕の後ろにしがみついて座っている。何をもめたかと言うと「未婚のレディが男になんか触れるわけないでしょう」という、そういう感じのことだ。馬に乗ったことがないと言うから、最初は僕の前に座らせようとしたのだが、厄介なことに、出立間際になって断固ハリエットが拒否した。


「だって、それって、いかがわしいでしょうっ!?」


堅固なホリーホック城正門広場前に用意された馬の前で、そのときハリエットはそう主張していた。


「どうして馬車にしてくれなかったのよ。レディがいること考えて」


しまいにはハリエットは僕を見上げて、僕の不注意を怒るのだった。


「また君は訳の分からないことを言って……」

「お嬢ちゃんはレディじゃなくて、ガールだろうよ」

「だって、君はお転婆っぽいから、乗馬くらいできると思ったんだ。それに馬車の中にいたら君の案内が全体に伝わらないと思って。シエラのところに行くには、君が行き先を指示するんだよ。いいから乗るよ」


僕が葦毛の馬の手綱を持ってハリエットを手招きすると、ハリエットは重ねて拒否した。


「いえ、無理よ。そんなところ、座れないわ。いいわ。わたし、走ります」

「馬の背中に乗るんだよ。大丈夫、二人で一緒に座れるよ」

「そういう意味じゃなくてっ!」

「じゃあどういう意味?」

「だから、それはっ」

「乗らないと馬蹄に潰されますよ。夜道だし、ここから一個小隊が護衛につきますから」


我侭を言うハリエットを、見かねてカイトがなだめた。


「んじゃ、アレックス様の前が嫌なら俺の前にしときますか」


するとハリエットがびくっとして、僕に対するよりは多少丁重に両手を振って拒否した。


「え、遠慮しますっ! どうして分からないのよ」

「そりゃそうだ、カイト君なんかじゃ嫌だよな。カイト君は平民だからばっちくて嫌だってさ。じゃあよ、僕ちんとこにしとくか? サービスしとくぜ」

「貴方がいちばん嫌よっ!」

「ったくお嬢ちゃんは、案外むっつりスケベさんだな」


オニールが、ニヤニヤして言った。


「分かってるさ。男のアレが気になって嫌なんだろ?」

「な、なな何言ってるのよ」

「得体の知れないものだから。だから一緒に座るの嫌なんだよな。どうせ、そういうことなんだろ? 拒否ってるのは。異性を意識しすぎなんだよ。まったくよ、何ませたこと考えてるんだか。

でもおまえみたいな化粧っ気もねーガキんちょじゃ、こっちはエロい気分になんかならねーから、妙な心配するなって」

「なっ……」

「まったくしょうがねーヤツだなお嬢ちゃんは。ガキが一丁前に色気づいて。でもま、そーゆう処女丸出しの態度も嫌いじゃないぜ。寧ろ初々しくてオーケーだ。

ほら来いお嬢ちゃん。イケメンの僕ちんが気持ちよくさせてやるよ」


そう言って、オニールが軽薄な笑顔と人差し指で、ハリエットに自分に寄るように招いた。明らかにハリエットの反応を面白がっているのだが、見ている僕がむかっとするくらいチャラチャラした態度である。


「なっ、なっ……」

「どうした、赤くなって。さては意味が通じたんだな。まったくマセガキだなー。

そっかそっか、お嬢ちゃんは見た目と違ってエッチな女の子なんだな。エロいことに興味があるのか? 何だったら僕ちんが初めての男になってあげてもいいよん」

「バカーッ!! 変態っ! 変態っ!!」


そんなこんなで僕の後ろに乗ることで合意するまでに、十分くらいかかったのだった。


「絶対振り落とさないでよ。わたしがこうして貴方にしがみついているのは、単に馬に乗るのに慣れてないからだから勘違いしないでくださいね」


なだめすかしてどうにかハリエットを僕の後ろに乗せると、彼女は僕の腰に手をまわし、ベルトをがっちり両手で掴みながら、今は背中で威張っている。


「えっ、勘違い? 勘違いってどういう意味?」

「黙ってっ」

「頼むから落ちないでね」

「そう思うなら、もっとゆっくり走ってっ」

「牛に乗っているんじゃないんだよ。僕ね、馬術は結構得意なんだよ。男らしい感じ」

「ちょっと、よそ見しないでっ!」


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