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伯爵の恋人  作者: 吉野華
第12章 佳客
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第237話 模範的倒錯(2)

「僕のこと、嫌いなのかも」


僕は呟いた。


「んん、嫌いって……、まあ、確かに相手が相手ですから、そんな状態が続くようであれば、何も起こらないうちに根まわしを、取り敢えず閣下に対処を相談したほうがいいかもしれませんね。面倒事に巻き込まれては困りますから」


カイトが僕を慰めた。


「あの方はたぶん、貴方を競合相手と思っているんじゃないかと思うんですけどね」

「競合相手?」

「ええ。何かほら、魔法の能力がどうとか、勉強の成績がどうとか言ってたでしょう。得意分野で能力が被るのを、向こうさんは余計に気にしていらっしゃるんじゃないでしょうかね……。あのお偉いさんのほうがたぶん、アレックス様より年が上みたいだったから。何せ、王子様の先生役を取られたってのは、屈辱だったんじゃないでしょうか。公爵家の方では、プライドもそりゃあお高いでしょうし。

しかしあのお偉いさんは直情タイプではないでしょう。厭味を言ってはいましたが、貴方への対応を見ている限り、そこまで怒り心頭というわけでもなさそうだったので……、取り敢えずは様子を見るのがいいのではないかと。

嫌っているって意味で言えば、貴方よりは、数倍シエラ様を目の仇にしてましたからね。あれは大人げないくらいの態度で、ありゃ何なのか……」

「僕、彼と上手くやっていけると思う?」

「うーん、でもまあ重要なのは王子様であって、あのお偉いさんとは業務上はあんまり接点ないんじゃないですか? 貴方のお役目は、家庭教師みたいなものでしょう。とにかく王子様と上手くやってさえいれば、問題ないと思いますよ」

「そう、そうだよね……」

「それより俺は、あのファン・サウスオールって人のほうが気になったんですけどね」


カイトは言った。


「ファン卿? なんで?」

「フェリア王女殿下の乳兄弟が、なんで王子様の側近にいるのかってね。しかもブレーンってことは、まさに王子様の立ち位置から広報から、何から何まで王子様の利益を計算して物事を動かす腹心中の腹心ってことですよ。よっぽど優秀な方なんでしょうけど、その立場にいるためには、王子様に絶対の信頼を受けていないとならない。

しかしフェリア王女とフレデリック王子は異母姉弟、大雑把に言えば母親同士が敵対関係にあったわけでしょう。少なくとも王妃様サイドの人間は、フレデリック王子のことを今でも許してはいないでしょうし。なのにフェリア王女殿下の最側近だったような方がね、王子様の最側近みたいな立場にいるってのはちょっと、なんでかなーってね。

王子様は妾腹の王子ということで、周りには信用の置ける人間というのが少なかったのかもしれませんし、ましてやあの通りお若いから、これは所謂親切な顔で近づいて来る信用してはならない人物を、簡単に信用してしまっている可能性もあるなと」

「ふうん。僕はそんなこと考えてもみなかったよ。じゃあ今度会ったらファン卿に聞いてみるよ」


僕は言った。


「ん、本人に直接聞いちゃうんで!?」


カイトは慌てた。


「悪いかな?」

「いや……、うん、いいと思います。かえってそのほうが」


カイトはよく分からない返事の仕方をした。


「何だよその、何か含みがあるような反応は」

「いえね、二十歳ったら、そうですよなって思って」

「何が?」

「そういう若気の無邪気さは、大いに利用したほうがいいなと。そういう必殺技を使えるのって、今のうちだけでしょうからね。無礼にならないよう注意する必要はありますが、そこさえ押さえておけばアレックス様の身分だとまあ怒られることもないかも。俺も同席していいですか? 不意打ちの質問で本心も覗けるかもしれない」


僕は頭を振った。


「意味が分からない」

「貴方はまだ若いってことですよ」


カイトは言った。


「君も若いじゃないか」

「まあ、それもどうなんだろうって言うね。俺にはアレックス様みたいなこう、可愛らしさはないですからな。ラブリーさと言うか」

「そう? カイトは可愛いよ」


僕は言った。

すると何故かカイトが真顔になって身を乗り出してきた。


「それ、俺を愛してるってことですか」

「いや、そうじゃないよ」


僕は断った。

しかしカイトが追い縋った。


「んじゃ、たとえば俺の何処が可愛いですか?」

「いやっ、特に思いつかないけど。やっぱり可愛いことはないんじゃないか。人間って、心にもないことをつい言っちゃうことってあるよね」

「じゃあ、俺が可愛いとすると何処です?」

「えっ、何この会話?」

「たとえば……、顔ですかね? 貴方が俺を可愛いと思うとすれば」

「えっ?」

「それとも他に、俺に可愛い部分ってあるんですか? いや、ほんの……、あれっ、アレックス様引いてます?」






「でっ、何でしたっけ、魔術師のマデリン様ってどんな方でした?」


カイトはたった今の話は何かの間違いだとでもいうように、まるでマデリンの話のほうが重要な話で、痺れを切らしたような、そっちを急いでいるとでも言いたいような言い草をした。


「えっ、何だよマデリンって……」

「何者です?」

「彼女はマスター・カタリーナの娘だって言ってたじゃないか。何言ってるんだよ」

「そ、そうでしたけど……。じゃ、じゃあ、マスター・カタリーナってどんな方なんですか?」

「どんなって、つまりカタリーナっていうのは」

「いやっ、意地悪言わないで教えてくださいよマスター・カタリーナのこと。アレックス様なら頭がいいから、いろいろ詳しいでしょ。俺なんかより、いろんなことをご存知だから。アレックス様は、博識ですからね」

「えっ、博識?」


カイトはいいことを言った。


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