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伯爵の恋人  作者: 吉野華
第11章 夕暮れロマンティシズム
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第212話 薔薇色の人生(2)

「オニールさん、馬鹿言わないで。アレックス様はタティのものなの。あのぶりっ子にほだされていい顔していたら、あのてのお花畑は一瞬でいいように勘違いして、収拾がつかなくなるでしょう!?」


僕とカイトが話をしているやや後方では、ちょうどハリエットがイラついた調子でオニールに応じているところだった。


「あいつったら、ほんと信じられないノータリンなんだから!」

「お嬢ちゃんは、完全にタティの応援団ってわけか。でもさ、あの眼鏡って、確かあれだろ。おまえの家の傍系って言っていいような奴だろう。

本家の男爵令嬢が従者で、傍系の下級貴族の娘ごときが花嫁って、何かおかしくない? もしそれが実現しちゃったら、カティス本家の皆さん的には、それかなり屈辱なんじゃないの?

眼鏡の実家もまともな神経してたら、仮に求婚されたって、そこは辞退するところだろうと思うけどな」

「辞退なんかできるわけないでしょ!? 既にお妾にされちゃってるのに、結婚を辞退なんかしたら、タティは婚前交渉した恥さらしの娘っていうのが確定しちゃうのよ! アレックス様には絶対タティと結婚して貰わないと困るの」

「でも本来ならお嬢ちゃんと眼鏡はポジション真逆だったかもしれないのに、はっきり言って眼鏡の魔力が消えたせいでこうなっちゃったんじゃん。

おかげでお嬢ちゃんはその若さで残りの人生が決まっちゃったわけで、お嬢ちゃん的にはかなり眼鏡に迷惑かけられて、割食った形だろうに、なんでそこまで肩入れしてるのかなって思ってさ。おまえがアレックス様の嫁かよって、腹は立たないわけ?」

「別に。腹なんて立たない」

「なんで?」

「決まっているじゃない、友だちだからよ。それも只の友だちじゃない、タティは大事な友だち。大事な友だちの恋の味方をするのは、人間として当り前のことだわ。それにわたしは別にアレックス様になんて興味ないし。全然興味ない。だから特に羨ましいとも思わないわ。

何よりアレックス様の魔術師になったおかげで、お父様だって読んだことがない特別な魔術の本を読める立場になれたの。ルイーズ様にも親しくして貰ってる。かえって人生は開けたと感じているほどよ。だからわたしの人生は、まあまあ上手く行ってるわ。今のところ、特に問題もなく」

「なるほどね」


オニールは頷いた。


「お嬢ちゃん本人がそう思ってるなら、いいけどよ。

まあ、僕がとにかく思うのは、お坊ちゃま君の趣味がまったく理解不能だってことだな。だってさ、言いたくないけど率直な話、見劣りしてるじゃん。あの眼鏡。僕だったらタティは捨てて、シエラたんを選ぶけどなあ」

「これだから男は馬鹿だと言うの。シエラが自己中だって分からないの? ああいうのがもし友だちだったら、こっちは疲れるばかりで全然やっていられないってタイプよ。と言うかあれは同性の友だちなんて絶対できないタイプ。

恋人だってきっと、よっぽど心が寛くて、精神的に大人な男じゃないと受けとめきれないんじゃないかしら。でもそういうまともな男性は、ああいうノータリンは選ばないと思うけど」

「そうかなあ。そんなに悪し様に言わなくたって、シエラたん可愛いじゃん。要するに彼女は純粋すぎるんだよな。ほわっとしててさ、守ってあげたい感じ」


ハリエットは息を吐いた。


「男受けが抜群にいいのも、同性に嫌われる理由のひとつよ」

「お嬢ちゃんは、妙にませてんのな。それが十六歳の女の子の言うことかよ。あんまりシエラたんを僻むなって。

なんでそんなに気に入らないわけ? さっきも、きつい言い方してたよな。ヴァレリアも何かシエラたんには切れてたし、他の女も結構そんな感じなんだけどさ。

シエラたんはそんな人に嫌われるような性格ってしてないと思うし、特に彼女にはこれからいろいろと大変なこともあるんだろうしさ、あんまり苛めてやるなって。

要するにおまえらは、シエラたんが自分より可愛いから気に入らないんだろ?」

「これはそんな単純なお話じゃないのよ」

「そりゃあ飛び抜けた美人とは、誰だって友だちになんかなりたくないよなあ。だって自分が完全にお姫様の引き立て役になっちゃうんだから、面白くないわな」

「貴方ねえっ!」

「お嬢ちゃんは僻むより、自分のいいとこを自覚しなよ。童顔ラブリーなんていい素材じゃん。特に声が可愛いよね。彼氏とかいるの?」

「ろくに親しくもない女性に対してそんなことを聞くなんて、なんて無作法な人かしら。貴方、本物の変態だわ!」

「こんなの普通の会話だって。だって僕ら同僚だろ?

ああそっか、お嬢ちゃんはませてる割に男に免疫ないんだな。これは彼氏どころか、お父様しか大人の男性と話したこともないクチだな。そんなのが友だちの恋の味方とか、偉そうなこと言っちゃって、カワイイヤツ。そこでキャンディ買ってやろうか?」

「変態!」

「まあまあ二人ともね。これから何処に行くのかを考えてですね……」


そのまま僕らはつつがなく王城に到着し、殿下に拝謁するお約束の確認と幾つかの手続きを済ませ、華麗なる廊下を歩き、約束の時間が来るまで客人のための広間に通された。

天上の高い洒落た室内に、大人数が座れるテーブルと椅子が並べてある。壁には王家の紋章と勇ましい甲冑が並び、壁紙はえんじ色で、薔薇と金の装飾品が多い。賓客用の部屋ではないだろうが、十分に上等な部屋だった。

そしてそれ以外には壁一面に、フェリア王女の肖像画ばかりが随分多く飾られていた。金色の髪の美しい少女の絵だ。大領主の中には一国に相当する領地を持つ者もあるから、大国サンセリウス王家の姫君となれば、それはまさしく選ばれし姫君ということになるのだが、それにしてもその数があまりに多い。ひとつひとつ立派な額縁に入れられ、やっと手の届くような高さのところにまで、何処もフェリア様の絵ばかりだ。

十五年も前に亡くなられた王女様のことだから、どのような方だったのか、僕くらいの年代になるとよくは知らないのだが……、陛下はたったひとりの王女様を宝玉とばかりに溺愛して、この美しい王女様の姿をたくさん宮廷画家たちに描かせたそうだ。年齢がいってから、ようやく王妃様との間にもうけられた姫君は、陛下の輝く夢だったのだろう。一方フレデリック王子への接し方の落差は、王子が気の毒になるほどだそうなのだが、それはともかく絵の中のフェリア王女の大半が、やはりマリーシアにかなり似ているので、僕は内心の戸惑いを誰にも気づかれまいとするのに少し神経を遣った。

オーウェル公子の魔術師であるマリーシアが、その後どうなったのか僕は知らない。

トバイアも夫人も死んで、公子は死刑囚が収監されている檻の中にあるとなれば、彼の魔術師であるマリーシアも恐らくは、同様の罪状をかけられている可能性は高いだろう。公子の父親殺しを幇助、公子と姦淫、反政府思想、何でも罪をなすりつけ放題だ。

しかし何処かの名家の出でもない一介の魔術師がどうなったかなんてことは、新聞に報じられることもないし、僕としても積極的に調べようとは思わなかった。知ったところで僕がどうにかできる問題ではないからだ。

マリーシアのことは、ずっと心に引っかかってはいるが……、フェリア王女の面影があるというほどの素晴らしい美少女なわけだから、年齢的に言ってそろそろトバイアの毒牙にはかかっていなかったのだろうかとか、いろいろと心配なことは思い浮かぶが……。


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