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伯爵の恋人  作者: 吉野華
第11章 夕暮れロマンティシズム
183/304

第183話 重要機密(2)

「家を借りたらきっと楽しいよ。表向き伯爵邸に住んでることにするから、僕の家には邪魔臭い奴は誰も押しかけて来ないはずだ」

「閣下にも秘密にするんですか?」

「そうだよ。だって僕は大人の男だからね。兄さんは子供は私の言うことを聞いていればいいって、何かというとそれだろう。さっきだって言われたよ。でも、最近思ったんだけど、それ僕が三十になっても言いそうで恐いっていうのかな」

「まあ、うん……、言いそう。たぶん、言うでしょうな」

「だから僕がなんて言うかこう、自立した一個人だってことをね、兄さんに分からせる必要があると思うんだ。揺りかごにいる赤ん坊じゃないってことを、そろそろ分かって貰わないとね。だから暮らす場所くらい、自分で決めるんだ」

「でもルイーズ様が魔法でみつけちまうかも」

「ルイーズのことは何とかして抱き込むよ。彼女は兄さんと違って、少しは話の分かる人間だと思うから。そうすれば誰にもみつからない。きっとヴァレリアも嫌がらせに来られないだろうな」

「あっ、それ素晴らしい。俺も一緒に住んでいいですか?」


カイトが急に身を乗り出して、乗り気になって執務机についている僕に近づいた。


「いいよ。カイトは料理はできるの?」

「まあ、簡単なもんなら。何でも自分でやらなきゃいけない時期が長かったですからね、結構家事は得意です」

「そうか。僕も料理は嫌いじゃないから、じゃあたまに自炊したりして楽しめるね」

「おっ、そりゃ楽しみじゃないですか!」


カイトは指を鳴らしてはしゃいだ。

彼の楽しい雰囲気に、僕もつられて思わず笑顔になった。


「いいね。何だか楽しみになってきた。

ねえ、召使いはやっぱり若い女の人がいいかな。身の周りのことをしてくれる人は……、この城で僕が使っているのを、連れて行こうかとも思ったんだけど。そのほうが気心も知れているし、でも……、タティのことを思い出してしまうから……」

「それなら、新しい人を雇うのもいいかもしれませんね」


カイトは言った。


「そうか」


僕は気を取り直した。


「そうだね。じゃあ、その方向で検討しよう」

「新生活ですからね」

「うん」

「家を探すのに、アレックス様ご希望の条件を教えてくだされば、俺が予め物件を当たっておいてもいいですが……、ああ、でも」


カイトはふと室内を見まわして、他に誰もいないことを確認してから僕に言った。


「シエラ様はどうするんですか?」


僕はその言葉を聞いて、一瞬カイトを見入った。

僕は彼がシエラを想っていることを知っているからだ。でもカイトがそれを知られたくないと思っていることも分かっていた。きっと僕との関係を悪くするのを恐れて、遠慮をしているのに違いないのだ。

正直に打ち明けてくれたなら、僕は何とかしてシエラをカイトに譲ることだって考えるというのに、まったく彼の謙虚さときたら度が過ぎて、彼の人生に損害をきたすレベルなのだ。

僕は小さく息を吐き、すぐに彼の想いに気がつかなかった素振りで、首を横に振って話を続けた。


「分からない。シエラについては。そもそもおかしいのが、僕の結婚相手だなんて言っていた割には、兄さんはその後何にも言わないんだよ。結構横暴なやり方でシエラと結婚しろなんて言ってたくせにさ、なんでか正式に婚約って運びにならない。

もしかして、兄さんがシエラを気に入ったのかなとも思ったんだけど、でも彼のシエラに対する態度は妹を可愛がるような態度で、口説いてる様子もないし……、何考えてるのかよく分からないよ。まあ主君命令だから、彼女とは何となく上手くやっているけどね。

国境ランベリーに古くから住む貴族や民衆のアディンセル家への求心力のために、旧候の妹姫であるシエラをアディンセル家に迎えるという話だったと思うんだけど、僕が赴任するからと言ってシエラが外に出ちゃうのはどうなんだろう?」

「そうですねえ、んじゃ、閣下のご判断次第となるでしょうか」

「もっとも君の判断も、介入の余地があるかもしれないけどね。君が心を開けば」


僕はふと、心理学者のような正確さで、カイトの気持ちを見透かして言った。

カイトはゆっくりと僕を見た。

それからどういうわけか、彼はあたかも話が分からないとでも言うように首を振って、僕に聞き返した。


「何です?」

「何ですって、だからつまり、自分の胸に手を当ててご覧」

「自分の胸に手を当ててって、自分のおっぱい揉めってことですか?」

「くだらないこと言ってないで、素直になればいいんだ。何か、僕に打ち明けるべきことがあるんじゃないか?」

「打ち明けるべきこと? いや、ないですよ。

貴方最近どうも胸に手を当ててとか妙なこと言って、もしかしてまた見当はずれなこと思ってやしないですか」

「そんなことない。僕は鋭いから。これでも兄さんと同じ血を引いてるんだぞ、こういうことは普通の連中より鋭い」

「そうですか」

「うん」

「正直に言うと」

「うん」

「俺は女の胸を揉みたいんですが。自分のじゃなくて」


カイトは自分の胸の辺りをもぞもぞと触りながら言った。

僕はむっとした。


「なんでそこでふざけるんだ」

「いや、ふざけてないですけども」


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