第134話 罪業(3)
「やめて、アレックス様、何するつもりなの」
もがきながらルイーズが言った。
僕は左手でルイーズの両腕を頭上に押さえ、もう片方の手で彼女の身体の感触を楽しみながら、鼻先をルイーズに押しつけたまま囁いた。
「ルイーズ、どうしてだよ、本当はおまえだってこういうことをして欲しかったんだろう? いやらしいことをさ。正直に、僕のことが欲しかったって言えよ。前だって、僕のことが好みだって言っていたじゃないか」
「あっ、あれはリップサービスよ。貴方が、いじけていたから……、そんなお世辞も分からないなんて、私は貴方みたいな坊やなんてお断りだわっ」
「ふん、坊やね……、いちいち癪に障ることを言う女だ。まあいいよ。何とでも言ったらいい。僕が本当に坊やか、それともそうじゃないか、これからたっぷり教えてあげるから」
そして僕は服の中に手を入れルイーズの胸元をまさぐった。ほっそりした身体の上をすべり、掴み応えのある大きな乳房に直接触れると、彼女の肌の感触は吸いつくように柔らかい。これは上等の女だということがすぐに分かった。
「嫌よ、離してっ」
胸を掴まれたルイーズが発する悲鳴や弱った態度は、あまり男慣れしている女のものとは思えなかったが、そのギャップがおかしくて僕は彼女を責めた。可哀想に、彼女は僕にあえなく押さえつけられ、胸をまさぐられていて、身動きが取れないのだ。
首筋に唇を這わせてやると、ルイーズはまるで男を知らない少女のように震えていた。
「優しくしてあげるよ」
僕はルイーズの耳元に囁いた。ルイーズを床に組み伏せ、抵抗をする彼女を嘲笑うように上に伸しかかった。互いの吐息は熱く、もしかして僕を誘惑しているのかと思ってしまうくらいルイーズの渾身の抵抗は無力で、やる気がなかった。僕の身体を押し退けようとする彼女の身体に体重をかけ、細い腕を掴んで床に押しつけてやるだけで、もうどうすることもできないのだ。後はあまり内容のない悲鳴を上げることが精一杯だった。
そして僕はルイーズを嘲りながら、自分が女でなくて本当によかったと思った。こんな哀れな生き物もないだろう。男にとって垂涎ものの魅力的な身体をぶらさげて歩きながら、それを守る腕力さえ持たないとは……、女とは、まさに男の温情や良心に縋らずには生きられない哀れな者たちなのだ。僕の言いなりにされていたタティとのときも思っていたが、子供と侮っていた相手にさえ、やすやすと押し倒されてろくに歯向かえないとは、さぞかし屈辱的なことだろう。
それでも少々混乱状態にあったルイーズが、そろそろ冷静さを取り戻したのか、魔法を唱えようとするのに気づいて慌てて彼女の口許を手で押さえた。
言うことに従わない反抗的な女とは腹立たしいものだ。どうせ腕力で僕に勝てるわけはないんだから、さっさとおとなしくすればいいのに……、彼女は魔術師としての特別な教育を受けた、頭のいい部類の女だと思っていたのだが、どうもそうではないらしかった。
僕はルイーズの顎を掴んで乱暴にキスし、ルイーズが少なくとも呪文を唱えるために呼吸を整えなくてはならないだけ息を塞いでから、顔をあげて彼女を蔑んだ。
確かに僕は年下かもしれないが、好みだなんて言っていた以上、ルイーズだって本心ではきっと僕のことを憎からず思っているくせに、こんなに嫌がってみせるなんてさすがに往生際が悪いと思ったのだ。
「まったくどうして嫌がるんだ」
憤慨して僕は言った。
「僕のこと、嫌いじゃないってことは分かってるんだ。それなのに、こういうふうに嫌がられると、まるで襲っているみたいで気分が悪いんだよ。僕のことを嫌がるなんて失礼にもほどがあるんだ。乱暴になんかしないって言ってるんだから、おとなしく言うことを聞けよ、勝手な女だな」
「かっ、勝手なのはどっちですの? 貴方、この状況でそれはどんな理論よっ。
ねえ、お願い落ち着いて。こんなこと、許されることじゃないわ。絶対に許されることじゃない。
アレックス様、貴方はこんなことができるような子ではないはずよ。お願いだからこんなことはやめて……」
「煩い、おまえは男をみくびるからこうなるんだ。こんなことをされるのは、全部おまえが悪いからだ。誰が坊やだ、夜中に男を部屋に上げた時点でこうなることくらい分かれよ。
ルイーズ、おまえは兄さんの女のくせにこんなことも分からないのか? これだから女は頭が弱いって言うんだ。じゃあ僕が教えてやる」
「ああ、本当に……、お願いだから冷静になって頂戴。
貴方自分が何をやっているか分かっているの? どんな馬鹿なことをやっているか」
ルイーズは僕の頭を手で押さえ、顔を近づける僕の口づけを拒みながら生意気な口をきいた。
その手を払い除けて、僕は言った。
「分かってるさ」
「いいえ全然分かっていないわよ、ねえ、お願いだからこんなことはやめて、私――」
「知ってるさ、おまえは兄さんの大事な女なんだろう。
だけど僕のタティは魔力をなくし肺病に罹った。きっと今頃泣いているんだ。でももう治らない。後は死ぬのを待つだけだ。
おまえはそれを知っていたのに、僕にタティを抱くようにけしかけたんだ。おまえは酷い女だよルイーズ、兄さんの命令なら無実の死刑執行さえ厭わないジェシカよりも更に酷い。
僕のタティはもう死んでしまうのに……兄さんの女であるおまえが無事なんて不公平だ。
だから僕はおまえのことも滅茶苦茶にしてやるんだ。僕が決めたんだぞ。だから言うことを聞くべきだ」
僕はそう言ってまたルイーズの唇を無理やり奪った。何しろ嫌がる女に覆い被さり、唇や舌を絡めてやる卑猥な感触がたまらなかった。無礼にも僕を拒否しているものを押さえつけ、無理やりこうしてやるのが。
右手をルイーズの肢体に這わせ、彼女の脚の隙間に腕を差し込んで、その太股を押し上げ強引に僕の胴を割り込ませた。するとルイーズは小さく悲鳴を上げ、性懲りもなくまた僕を押し退けようとしていたので、僕はルイーズの腰に手をまわして引き寄せ、もっと僕に下半身を密着させてやった。それでルイーズは酷いショックを受けたようだったが、僕はそうじゃなかった。僕に逆らうなんて、そんなことはできないことだと思い知らせてやるのはひたすら愉快なことだった。
しかし、行為をするには最低でも服をずらさなければならないのだが、押さえつけることをやめるとまたルイーズが抵抗をするだろうからどうしてやろうかと考えた。ルイーズが分を弁えないで、素直に僕の言うことを聞かないせいで、僕はいつも彼女の唇の動きに注意して、いつでも手で押さえるか、キスで塞ぐかしていないといけないのだ。只の女じゃない、魔法を扱える女というのは、非常に厄介だった。
でも僕は、自分の女を僕に寝取られたことを知ったら兄さんがどんな顔をするか、想像するだけで興奮した。きっと殴られるのでは済まないような制裁があるだろうが、僕は何もかもがもうどうでもよかったのだ。ルイーズが嫌がれば嫌がるほど、僕はたまらなく興奮していたのだ。この女を僕の女にする必要があったのだ。ルイーズの気持ちを考慮するつもりなどまったくなかった。




