第六話:とりあえず説明してくれ
寝坊して投稿するのが一時間遅れました
さて、『ステータス発見器』もとい『妖精』を仲間にしたは良いけど、どう同級生と教師を説得しようか。
プランは三つ。
1.先ほどの『恐怖の演出』を盾に従属化させる。
2.テンプレに魔王から世界を救ってもらうため『妖精』が呼び出したとブラフを張る。
3.何らかの設定を持って俺が異世界の知識を知っていると認識させる。
プラン1は最後の手段だな。あまり押さえつけると反動が怖い。
プラン2は良い線行ってると思うんだよな。ただ、何故半日ほど放置したのかの説明が面倒くさい。
プラン3も良いけど、何故俺なのかの説明がやはり面倒くさい。
「う~ん……いっそ『勇者』に狙われているって言ってみるのもありか。別に俺だけ狙われてる、なーんて言わなくてもいいし」
同級生全員が狙われている設定。何で知っているのかと聞かれれば『心優しい妖精』が皆を哀れに思い『勇者』に離反してでも真実を伝えようとした、とか適当に答えればいいし。
重要なのは同級生と教師が疑問を持たずに俺に従属するよう仕向けるって点だ。
現在の同級生と教師は、程度の差こそあれ俺を警戒している。あんな非常識なパフォーマンスを見せたのだから当然っちゃ当然だけど。
まあいい。後悔先に立たずだけど俺は前に進んでいるから後ろに幾つ後悔が立っていようと気にしない。むしろ出来ない。ていうか気にしたら負けだ。
ともかく、頭の悪い――これでも悪口じゃない。愚民や能無しと言わなかっただけ俺の中での評価は高い。一般人と比べて、だけど――同級生と教師をプラスの感情で俺に縛り付けなくちゃならない。はっきり言って超面倒くさい。
だけどやらなきゃならない理由がある。『魔王』を倒す事もそうだけど、何より『勇者』と対峙した時に共に戦える強者を作らなきゃならん。基本『勇者』は単独ではなく男三女一の典型的な『パーティー』で来るからな。しかも相手によっては何パーティーも増えるし。とてもではないけど一人で戦えるような存在じゃない。
あるいはこの世界が元の世界の未来の姿だと説明してこの世界で生きていくしかないと説得するか。俺はその未来から送り込まれてきた諜報員で、未来に跳ばされて来る同級生と教師を守るべく過去に跳ばされたと説明すれば……
あ、ダメだ。ならさっさと過去に戻せって言われたらおしまいだ。
「中々良いアイデアが浮かばない」
「錦君、それたぶん寝不足だからだよ」
「いや、それはない。つうか寝不足でハイな時ほど良い書き方が出来るもんだし」
そもそも七徹出来る人間がたった一日寝不足なだけで頭が働かなくなるなんてありえない。
しかし……俺はパソコンで文字を打っている時こそが一番良いアイデアを浮かせられるんだよな。スペースキー押せば漢字を自動で変換してくれるし後になって消すときも簡単に出来るから一々手を動かす事にリソースを割かなくて済む。その分をアイデアもとい空想に費やせるんだからパソコンは偉い。
一応毎日学校には持ってきているけど……生憎と旧型で充電量が少ないから下手に動かして電気切れになってもらっても困る。最悪の最悪の場合データが飛ぶ。そうなればもう俺は生きていけない。忘れっぽい性格だからループするたびに小説の細々とした書き方が変わる。そして今まで書いてきたのはなんだったんだ……という喪失感に苛まれる。はっきり言って上位の拷問よりツライからほんっとうに嫌だ。幸い停止状態なら一週間は持つからその間に同級生と教師を篭絡して誰か一人を『エネルギー補充の出来るジョブ』に仕立て上げたい。
うむむむ…………
「ひとまず『ジョブ』の事を話してみるのはどうかな?」
あ、なるほど。先に希望を翳しておくわけだ。
「ナイスアイデアだぜルカリオン。ステータスを見れる『妖精』がいれば説得力は増すだろうし」
少なくとも俺なんかよりはな。
「だとすると、俺とは別の経路で同級生と教師に接触してもらわなくちゃならないな」
俺と知り合いだってバレたらとたんに信用されなくなる。嘘吐きは優しかろうと排斥される運命にあるのだ。特にこういう『とりあえずの敵』を作りたくなる極限状態ではな。
「設定は、そうだな……『神』から異世界人を助けるため使わされた事にしよう。帰る方法については一応『魔王』を倒すことで膨大なエネルギーが手に入り、それによって帰還出来るって事にしてくれ」
実際、『魔王』レベルならどの四強能力だろうと異世界単位なら跳べるくらいは能力の強度が強いからな。そこまでの高みに同級生や教師を連れて行けば自ずと元の世界に返れるようになる。どうやら『ジョブ』は『能力』の中でも最上位に近い能力っぽいからな。転移系のジョブにすれば成長次第で必ず出来るようになるだろう。
それに、転移系なら習得してくれと言い易いしな。主にルーラ的な問題で。
「うん、分かった。魔獣についてはどうする?」
「この世界における『種族』の特徴を魔獣や魔物に限定して説明してくれ。人や魔人とかの『人』がつく種族には無意味だって話してくれれば問題ない」
「分かった。みんなにもそう言っておくね」
「時間をかけてもいいから一人ひとり丁寧に説明してやれよ。大雑把はダメだ」
「はーい」
緑色のワンピースを着た友人を見送って、今までずっと構ってオーラを発していたイルトミルジスとウラガットを相手してや……
「そういえばさっきは雰囲気重視でスルーしたけど何でお前がここにいるんだよ!?」
そうだよ。何故ウラガットがここにいる? 木に糸をくくりつけた場所で待っていろと指示しなかったか俺!? 何で勝手に動いてんだよこのウドの大木め!
しかし、ウラガットは何やら地面にツラツラと何らかの文字を書き連ねていった。だから読めねーって。
「まあいいか。どうせもうイルトミルジスと熱い夜なんか過ごせないし」
むしろこれからの事を思って心の中が冷たいまである。
どうせ今日なんて無駄な行為と無謀な行為に体力使い果たして寝るだろ。そして見張りの生徒も慣れない野営で疲れて寝るだろ。そしたら最低俺しか起きてねーだろ。だったら警戒するのは俺の仕事じゃねーか。友人でも無いただの友達か同級生や教師のためになんで俺が無駄な警戒までしなきゃならんのだ……
まあ予測出来ていたからやるけど。
ああ、『妖精』もいるから暇つぶしにゃ事欠かないか。
いや、それより木槍を作るほうが建設的か? あるいはウラガットの葉をある程度毟ってHP回復系の薬草を確保するか。
……あ、そういえば。
「おーい! 『妖精』の誰でもいいからこっちこい!」
「はーい! 伊能様」
俺の呼びかけに一人の女性型妖精が元気に応えこっちに来た。
「ちょっと俺に『ステータス』の詳細を教えてくれないか?」
考えてみればこの世界においてHPとMP、もしくはそれに近い能力値について俺は何も知らない。さっき覚えた『角突き』もそこんとこ把握しとかないとおちおち使えもしないからな。
「ルカリオンは説明していなかったんですか?」
「説明聞く前に俺が質問攻めにしたからな。アイツは一々応えてくれて、本当に良いヤツだよ」
「狙ってるんですか?」
なんでだよ。
……ああ、お前、あれだな。
「ルカリオンが好きなんだな」
「そ、そそそそそ、そんなこと!?」
やっぱりな。その顔には恋する乙女の嫉妬が浮かんでいる。何に対する嫉妬かはノーコメントだ。
興味が湧いた俺はその少女型妖精を観察する気になった。
彼女はルカリオンと似たような意匠のワンピースを着ていて色は赤。髪の色は綺麗な群青色だけど眼の色は着ているワンピースと同じ情熱の赤。顔の形は淑やかそうな美人さんだけど活発で元気っ娘な雰囲気と髪&眼の色が邪魔をして『顔は可愛い』レベルだな。あ、翅の色は半透明な深緑色だ。
ちなみに胸は平均点。恐らくそこらへんも絡まってとても恋愛には向かないタイプだな。
「……ドンマイ」
「なんですかそれ!?」
待て、誤解だ恋する妖精。
「特別に、俺はお前に恋愛のアドバイスをしてやろう」
「な、ななななな、何言ってるんですか!? 童貞の癖に!?」
ハッ! 童貞はステイタスだよ。
おお、だから分かったのか。
「童貞だろうと恋愛は出来る。そして何かが出来るのなら上達する事だってある。ていうか、童貞か否かで恋愛が美味い下手と判断するのは早計も良い所だ。それなら男婦でも恋愛のスペシャリストになれるぞ」
俺の言葉にハッとする恋愛妖精。まあ今の戯言は聞いていなかったっぽいから恐らく俺が何のスペシャリストか思い出したのだろう。
「伊能錦様……いえ、クミオエット・J・エベミス様! 私に恋愛をご教授ください!」
うむ、俺に任せておけ。
「まず確認しておくけど……あ、その前にお前の名前は?」
「私、サフェリエって言います。エベミス様!」
「そうか、よろしくなサフェリエ。それと、気持ちは分かるけど日常では本名で呼んでくれ」
俺は恋する乙女の味方だからな。
「はい! 錦様!」
「よろしい」
だけど恋愛的にはよろしくない。
「まず、意中の相手以外の男を名で呼ばないほうがいい。出来るなら姓を言え。姓の無い相手には出来るだけ本名で呼んでやれ。愛称はダメだ」
「なるほど……ルカリオン、いえ、ルカンだけを愛称で呼ぶことで特別扱いしているとルカリ……ルカンにアピールする訳ですね」
「そういう事だ」
理解が早くて助かる。
「次に、お前は眼の色が顔に合ってない。だけど髪は清楚系で通るから目元を隠すツバ付きの帽子を被るといい。たまに見える眼の色が情熱の色……ロマンチックじゃないか?」
「は、はい! とっても素敵です!」
そうだろうそうだろう。
「で、同じ理由で服も色を変えろ。髪の色に合わせたい所だけど……あえて黒か白で行け。黒ならルカリオンの翅の色と同じだから親和性を狙えるし白なら純真だと無言のアピールになる」
「……!」
下手に同系統色で固めるとせっかくの綺麗な髪が栄えないからな。サフェリエは良い髪を持っているからもったいない。
それに、全体的に地味な色にしとかないと巨乳でも貧乳でもない胸が強調されるからな。胸に特徴が無い……というよりアピールポイントに選択肢が入るか入らないかで随分と反応が変わるからな。
「次は雰囲気だ。サフェリエの顔は活発とか元気一杯とかには向かない。そして俺の指導どおりの格好をするならば……静かで、お淑やかで、落ち着いた女になるんだ」
「落ち着いた女……ですか?」
そう、落ち着いた女。
「それがルカリオンの好みかどうかは知らない。だけど不変の肉体を持つのなら……あ、『妖精』って不変の肉体か?」
「は、はい。妖精は誕生したときから姿は固定されます」
「なら仕方ないな……とにかく、不変の肉体を持つのなら絶対に変わる可能性がある精神を変えちまったほうが何万年も掛けるより遥かに簡単だ。いいか、サフェリエ。女ってのは男に見向きされてから真価を発揮するもんだ。だけどまずは見向きされる材料を作らにゃならん」
例えるなら『宝の地図も言い伝えもダンジョンも用意し無い状態で宝を埋める製作者』だな。ホント、たま~になんでこんな特徴も無い所に!? ってツッコミたくなるような場所にレア素材があったりするんだよな。そのせいで物語進める上で結構重要な伝説の卵がアイテム的不備により孵らなくて消えたRPGがあるからな。どうも製作陣の『不幸な偶然』が重なりすぎた結果らしいけど、今思えばあのゲーム世界観の設定が俺の小説の設定と微妙に似てたからな。『勇者』の横槍が入ってたのかもしれん。『ゲームの不備を見逃す程度の不幸な偶然』を重ならせるだけなら『勇者』にとって生きる事より簡単な事だし。
「まあ、俺のアドバイスなんざ偏見と特殊な経験と妄想の入り混じった不確定なヤツだから最終的にサフェリエがどうしたいかで決めろ。案外ルカリオンもお前のギャップある姿に惚れる可能性があるかもしれないし」
まあゲームは今更どうでも良い。本当に今更だし。
「さんざん煽っておいて最後それ!?」
当たり前だバカタレ。
「うう……なんだか余計悩む事が増えた気がする」
「それで良い。悩むって事は判断材料が増えたって事だ。つまりより広く深い思考が出来るようになったという事であり、ひいては自分の後悔しない最適解を導きやすくなったって事だからな」
そもそも俺は恋愛のエキスパートではなく小説のエキスパートだ。物語の中の恋愛ならいくらでも教示出来るけど、現実の恋愛に興味は無い。俺の基準は不適合なほど高いからなぁ……俺の眼鏡に叶うようなヤツは大抵昼ドラ的ドロドロを引っ張ってくる。そんなめんどっちいことしてまで恋愛に興味は持てない。
「……もう、意地悪な人ですね」
俺の無責任極まりない(そもそも責任なんざ無いが)言葉はサフェリエにどう聞こえたのだろうか、その言葉で図ることは出来なかった。
「分かりました。私は私なりにもっと考えて、悩んで、結果を出します。いつか必ず、あの人を振り向かせる為に」
だけど、どうやら先のセリフから想像した俺フラグは無いようだ。いや〜残念(笑)。
「そうか。ま、こんな俺だけど恋する乙女は単純に好きだ。これを縁にいつでも相談に来てくれ。なんならストレス解消に付き合ってやるし」
「分かりました、伊能様」
うんうん。やはり恋する乙女の表情は良い。こう、人間より生き生きとしているというか、太陽より温かいというか、ブラックホールより包み込んでくれそうというか……
俺も恋すればあんな表情になるのだろうか。俺、乙女じゃないけど。
「というか、本題は『ステータス』の詳細なんだけど」
「ハッ! すみません私情に付き合っていただき」
いや良いよ。ここは仕事場じゃないし、極論サフェリエは俺の私物だからすることなすこと全て私情と言っても過言ではない訳だし。
それより。
「えっと、『ステータス』は基本的に『妖精』が視ることを前提としているので細かい概念……例えば数字に表したりは出来ないんです」
ふむ……こりゃ『体力』とか『魔力』とか言っても伝わらないだろうな。数字を詳細化する概念として捉えているってことは、数字が=で詳細化に繋がりやすい現代日本に詳しくないって事だからな。普通、体力は持久力とかの意味だし魔力はそもそもこっちの世界では魔族か『魔法士』系統のジョブ持ちしか持ってないから常識ではないかもしれないし。
「いや、俺が聞きたいのは『生命力』と『エネルギー』だ。特に二つがこっちの世界でどういう性質なのかが知りたい」
これなら大丈夫だろう。
その証拠にサフェリエも納得の言った顔をして説明してくれる。
「分かりました。こちらの世界では生命力が尽きると死にます。エネルギーは『ジョブ』や『種族』毎に変わるので厳密にコレという物は無いのですけど、一般人はこれに相当する力は持っていないのが常識ですね」
なるほどな。まあ世界の能力がまんま『能力創造』に近いんだから魔力に相当するエネルギーがいくつあっても不思議じゃないな。一般人はどうやらジョブを持てば自然に獲得するようだけど。
「そうか……そうだ、生命力は何らかの『ジョブ』で自ら消費する事ってあるのか?」
「あります。破壊魔法を使えるジョブの者は生命力と魔力を消費して発動させる超威力の魔法を使えるので」
ああ……アレか、メガンテか。
「それじゃ、生命力を消費する場合ってどんなときだ?」
「傷を受けた時や病に侵された時と、グールやリッチに生命力を奪われる時や命術士による譲渡、吸収時。後は種族特性次第ですね。ヴァンパイアは日光に当たると一瞬で生命力が枯渇して死にますし、ガストは正常な空気に触れると活動を停止します」
そうか。大体定番どころだな。ガストまでいるのは想定外も良いところだけど。
「んじゃ、生命力が増える場合は?」
「睡眠をとったり安静にしていると回復します。後は命術士の譲渡やHP……ヒーリングポーションや同系統の上位薬を飲むとかですね」
へぇ、そっちは意外に少ないのか。
「……それと、ゾンビを代表するアンデッドの中で上位に君臨する一部の化け物が自己再生能力を持っています」
と思ったらどうにも浮かない表情で、しかし嘘は吐けないとでも言いたいかのように嫌そうな声音で追加するサフェリエ。
おいおい、世界自らが生み出した『種族』、『妖精』が化け物と呼ぶなんて尋常じゃないぞ。何なんだその上位存在って。アンデッドにそんな因子は設定してなかったはずなんだけど……ッ!
「そうか。ありがとな、参考になった」
……とはいえ、ここでサフェリエに聞くのはよろしくない。人が嫌がる事をやると心が離れていくからな。なるべくなら契約関係だけじゃない縁が多いにこしたことはない。
「いえ。私達は自分と、兄弟と、親を助けて頂く身。この程度の用事に感謝など……」
「分かったからその無理な敬語やめなさい。捕え方によっては無礼になるから」
「そ、そう? じゃあ、普通の喋り方でいい?」
「むしろそっちのほうがありがたい。お前ら『妖精』は俺の物だけど、かと言って縛り付けて硬くなってもらっても困る。集団っつうのはバランスが大事だからな」
ゴムみたいなもんだ。硬すぎるとすぐ割れるし柔らかすぎると加工が難しくなる。用途用途によってこの程度の硬さ、柔らかさっつう風に分けなきゃうまくいかないもんだ。ちなみに、失敗例はゆとり教育だ。柔らかすぎな上に不純物まで混ぜたから失敗したんだ……もしくは、お堅い教育至上主義のクソボケが意図的に失敗するよう仕向けたか。
真相は闇の中だ。
「じゃ、そういう事で……そうだ、俺さっき魔獣のスキルらしき技を覚えたんだけど、何か知ってるか?」
日本の闇はどうでもいい。
ココに来てようやく本来の目的を思い出した。回り道も過ぎるだろうに俺の馬鹿。
「伊能様もモシャスだったの?」
しかし、何故目の前の恋する妖精は俺の事を緑の炎お化けだと判断しやがったんだろうか? 謎だ。
「あ、ごめん。モシャスって言うのは他個体の技を一定確率でコピー出来る特殊体質の事で、こっちの世界では有名なのよ」
……わお、ココに来て俺の知らない世界の情報キター!
「そうなのか……それじゃ、そのモシャスが覚えた技っていうのはどんな特徴があるんだ?」
内心の興奮を蜂の巣にして黙らせ、重要情報を聞き出すべく慎重に問いかける。ここで気持ちの悪い変態野郎と思われると一気に捨てられる可能性まで上がるからな。落ち着け、俺。びーくーる。
「え? えぇっと……あ、そうそう。モシャスの使う技は専用のエネルギーを消費するって聞いたことあるよ」
何故戸惑う。
「おお、そのエネルギーの名前は?」
ま、気にしない気にしない。
「んっとね、人間は『模力』って呼んでるよ」
模力か。そのまんま模す力だな。
だけどシンプルなほど理解しやすいのも道理。
「参考までに聞くけど、その模力って消費するとどうなるんだ?」
「どうって……使う技に相応しい模力は消えるけど生命力みたいに回復するし、一度全部ピッタリ消費すれば最大値の底上げが出来るくらいだけど。あ、後は技を模写する時にも消費するかな」
おお! ナイス! ナイスだサフェリエ!
「それで、モシャスは『能力』なのか?」
ここが一番重要。
俺の敵は『勇者』と『魔王』。勢力的に詰んでるような物だけど、モシャスが『能力』以外もコピー出来るのなら話は早い。いつか遭遇するであろう『眷属』をとっ捕まえてコピー出来るまで模写し続けるまでだ。
そして一度コツを掴んだのなら、俺は作者として使いこな……
「残念だけどモシャスは『能力』だよ」
撃沈! 俺の計画皮算用!
「そう、か……なら、まあ、いっか。お前は仕事してこい、恋する妖精」
「うん! 分かった!」
元気良く答えルカリオンの元に飛んでいくサフェリエ。どうも説明みたいな難しい話は嫌いなようだ。うん、今度から相談するのは別の妖精にしよう。所々気になる事を言っていた気もするけど、まあいい。いきなり最初から全てを曝け出せとも言えん。徐々に徐々に関係を深めて自ら告げてくれるのを待つのみだ。
「とりあえず俺はモシャスの練習や模力の検証だな」
夜の帳が下りた周囲は妖精の灯した光と照らされた物のみが支配している。
それが種族の特徴なのか、はたまた何かの能力なのかは知らない。けれど、その幻想的な光景は理屈を抜きに美しい。
ああ。
俺は、念願のファンタジーにいるのか。
嫌な事ばかりで楽しい事がちっとも無い『現実の世界』ではなく。
俺は幸せ者だ。
夢を叶えられたのだから。
ならば、俺は……
掴んでみせる。
今度こそ、幸せな人生を。
次回はクラスメイト出てきます