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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
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第五十話:なんとなく円滑な交流

 さて。


 狂紅の砲塔を使って掘る掘る掘る。

 『生命の力』を纏って削る削る削る。


 右手に構えた鮮やかな赤を讃える砲塔で壁を打ち、砕く。

 左手の爪に纏った薄緑の刃で壁を引き、裂く。


 そんな風に頭の中でウィルフィール共に実況してやっていると、ふと思う。

 俺、なんでツルハシも使わないで壁掘ってるんだ?


「クゥ!」

「そうだな、イルトミルジスと共同作業をする為に掘ってるんだったな」

「違いますよ!? 単調作業で飽きるのは分かりますけど、現実逃避しないでください!」


 おお! おお!? むぅ、頭が沸いていたみたいだ。


「あー、すまん雄一郎。どうも単純作業時従事すると戯けた事が頭の中を巡る癖があってだな」

「どんな癖ですか」

「いや、お前だって分かるだろ? 例えば黙々と宿題をやっていたら、ふと8や3や0や69がエロい数字に見えてきたりとか」

「生々しい! 無いですよ、そんなマニアックなの!」

「えー、無いのー? まあ、俺も普通の奴に飽きた時に戯れで使ってただけだけど」

「ダメだこの人、修学旅行の夜かなにかと勘違いしてる」

「すまんな。俺は元々おしゃべりなのに何故か誰とも話が出来ない。そういう病気だと思ってくれ」

「ああ、ADHDとかですか?」

「軽い上に分類は違うけどな。どっちかってっと……いや、どうでもいいか」


 こういうのを一般人に説明したところで、どうせまともな理解は得られない。というか、それが他者である限り絶対に理解される事なんて無い。なら説明するだけ無駄だし、余計な地雷を掘り起こしかねないからやめだ。


「そこで止められると逆に気になるんですけど」

「そうだな。雄一郎の子がそこらの精神障害だったら色々と教えてやるよ」

「一生聞きたくないです」


 そういうの、本人を前にして言うのもなんだと思うけどな。俺だから別にいいけど。


 っと、ここで疑問だ。


「そういえばルカン兄さん」

「何かな、ニシキ?」

「先天性の精神障害って『妖精』のステータスにも現れるの?」

「現れるよ。流石にニシキ程数が多いのは珍しかったけど。ちなみに、自覚してるかしてないかも表示されるよ。ニシキは全部自覚してるよ」


 そこらの三流小児科より凄いな。ていうか、全部自覚してる俺も俺でなんなんだよ。


「そうなんだ、分かった」

「精神病とかも分かるんですね、『妖精』って」


 雄一郎が不思議そうに呟く。まぁ、ステータスって言えば能力値とアクティブの状態異常が表示されるだけだからな。その不思議も分からんではない。


「まぁ、ここが電子の世界と仮定した場合に該当する概念がステータスってだけだし、色々と差異はあてしかるべきだろう」


 あ、雄一郎が「また訳の分からない事を言い出したけどほうっておくと碌なことになら無さそうだからとりあえず聞いておこう」的な溜め息を吐いた。まあ、普通は分からん。


「……えっと、電子の世界って、つまりゲームの事ですか?」

「そうとも言えるし、少し違うとも言える。VRMMOという概念については知っているか?」

「ええ。黒の剣士とか銀の鴉ですよね?」

「基本だな。ちょうどいい機会だし、雄一郎にも少しは『世界』の事を教えておくか」


 ちっと作業効率は落ちるけど、後々のことを考えれば損にはならない。自陣に『世界を知る者(ハエレシス)』に近い存在がいるといないとじゃ随分心労も変わるからな。


「まず、さっきの話の続きとして、電子の世界だ。VRMMOの世界が大元で、言葉通り電子で構成された世界の事だ。その内、精巧過ぎる世界は実際に存在する異世界の模倣であり、『世界を知る者(ハエレシス)』が電子の世界と言えば基本は後者を指す」

「分かったような分からなかったような……」

「それが普通だ。そもそも、『世界を知る者(ハエレシス)』なんて量産型でも無い限り、一つの世界に二桁いるかいないかくらいだ。ここでミソなのは《星》ではなく《世界》という点だ。星なら一人いれば多い方だし、宇宙全体で見ても二桁しかいない、ってのはやっぱり異常だ」

「……言われて見れば。この世界、と言っても普通に星とか黒い宇宙はあるんですよね。そのどこかにいる宇宙人も含めて二桁前後って事ですか?」

「その通り。そして、現在進行形の事だから分かると思うけど、世界はいくつもある」

「そのくらいは分かりますよ」

「うむ。ならば分かるだろう? 『電子と似た何かで全てが構成された世界』がある可能性を」

「…………まあ、可能性くらいは」

「その世界の事を俺達は電子の世界と呼んでいる。厳密に言えばもっと細かく別けられるんだけど、それは学者のする仕事だからな」


 勘違いしてもらっては困るのが、俺達『世界を知る者(ハエレシス)』は本質的に言うと哲学者であり学者ではないという事だ。大まかな概念は知っていても、ではどのような根拠があって言っているのかと問われれば「推測」としか答えられない。ここら辺、性善説とかと似たようなもんだろう。


「んで、電子の世界は当然数多のVRMMOと同じように演算装置が無ければ動かすことが出来ない。それは逆に言うと世界のあらゆる事象が演算出来るという事だ。ステータスはその産物。この説明で分かったか?」

「えぇっと、つまりわり算の答えをかけ算で出しちゃうのと同じって事ですか?」

「……まあ、逆説的にという意味なら間違いではない」


 分かりやすくするのが得意な奴だ。


「ま、電子の世界と言っても様々な種類があるからな。一見普通の世界と何も変わらないような世界もあれば、ガッチガチにSFチックで固めた世界もある。もしかしたらこの世界もどこか異なる世界では普通にVRMMOとして稼動している可能性もある。まあ、これに関しては聞いても答えてくれないだろうけど」

「ごめんね」

「ルカン兄さんが謝る事じゃないよ。元々の仕様に従えず、文句を言うほど愚かなつもりはないしね」


 申し訳無さそうなルカン兄さんをフォローする。実際、知っていようと知っていなかろうと、特に問題は無い。プレイヤーが現れたら現れたでその時だし。


「……あれ? でも、そうするとルカリオンさんがステータスを見ることが出来るのなら、ここは電子の世界なんじゃないですか?」


 ほう、鋭いな。

 って、ちょっと考えれば誰にでも分かるか。流石に求めすぎだ。


「ちょっと違う。ルカン兄さん達『妖精』は『世界』から直接生み出された子供だ。『世界』というある意味でこの世の全てを内包した存在から生み出された子供が、何かの物質で出来た物の性質を見極める力を持っていてもおかしくはない。もしくは、ある意味で『子供の世界』と言う意味で同じ存在である『世界』に対する検索エンジンとして働いている、みたいな」

「つまり、世界がインターネットサーバーで妖精がスマホって事ですね」

「……その可能性もある、って事だ」


 本当に訳すのが巧いな、こいつ。まあ、俺が一々ややこしくするからかもしれんけど。


「なるほど。『妖精』のステータスは常に上書きされ続けているから、変わったところは変わったまま、変わらないところは変わらないまま、なんですね」


 ついには俺の言いたいことが全部言われてしまうまでになった。成長したな、雄一郎。


「そういう事。ま、あくまで可能性上それが一番高い、って考えるだけにしておけ。詳しい事を知ったところでどうにもならん。あくまで分かりやすい基準。これが重要だ。それと、電子の世界をゲームの世界と一括りに扱うなよ。ゲームがあくまで主人公とその周囲の人物またはイベントに関わる『一つの物語しか見ることが出来無い』のに比べて、電子の世界は力がある存在なら遍く全ての物語を閲覧可能……その逆もまたしかりであり、力無き者が奇跡を起こす事だってある。フラグとカオス理論には気をつけろ」

「大丈夫、分かってます。多分、ある程度レベルが上がれば『ジョブ』も感覚でどのレベルにいるとかは分かりそうですし」

「……それが出来るのはお前だけだ」

「え? 何か言いました?」

「いや、お前に聞かれるとコミュ障的な意味で都合が悪いからなんでもない」

「え、イノウ様ってコミュ障だったんですか? あれで?」

「意外だろ? 四十何年分に相当すると胸を張って言える人生経験があるからこそ出来るハッタリだよ、いつのものは」

「へぇ、そうだったんですか」

「そこは「ヘー、ソウダッタノカー」だろ」

「なんで県民ショウ?」


 俺の今更な告白はともかく。

 主人公ってサラっと自慢するから始末におけない。上げ辛さのわりに効果の上がりが悪い(未検証)『ジョブ』のレベルが、一般の感覚で分かろう筈が無い。


 でなければ何故レミスタンさんがレベル何々の戦士系ジョブだの後衛系ジョブだので作った酒を持っているんだ、って話だ。

 あれは確実にレベルが分かっていないと出来ない真似だ。『能力』とは違う本人の『才能』もあるのだから、経験則で判断するのは無理がある。『実力』と『品質』は違う。だから、それを計る為の何かがある。そしてそんな物が作られた理由として真っ先に挙げられるのが『実力を示す』事。いくら自分がレベル10だと主張しても言いくるめられてしまえばそれでおしまい。言いくるめられるような物が『ジョブ』レベルの物差しなら、それは曖昧なのだろう。


 逆説的に、『ジョブ』のレベルを本人や周囲が悟るのは難しい事であり、普通は計る物か『妖精』が無ければ推し量る事は出来ないと分かる。


 それをこともなげにどうにか分かりそうなんて……これだから天才肌の天然主人公は困る。

 だから主人公だと言われればそれまでだけど。


「それなら雄一郎、今お前のレベルは幾つだ?」

「えっと、ちょっと待ってください……シャサと契約した時と今回のを合わせると……5か6です」


 早すぎだろ。確か一般人で7まで行けば良いほうで、10あたりが天才だろ?


「……まさかニシキ以外にも規格外がいたなんて。6、だよ」


 マジかよ。


「凄いな。あと一つで一般人の生涯分並みだぞ」

「あはは……ぐ、偶然ですよ」

「やかましいわ主人公が」


 とは言うものの、分からんでも無い。

 雄一郎はレベル1の時点でシャサと地獄の鬼ごっこをしていた。どういう経緯があったかは知らんけど、その時にシャサを契約まで追い詰める程の『劇的』で2。シャサとの契約自体で1。そこからカサネホルの召喚とモンスター召喚の経験、そしてバイコーン討伐で1。ルー・ジェヴォーダンという《異端》の召喚で1。


 これだけの早々たる経歴を積めば、そりゃレベルも上がるわ。

 そんな経歴を積めるのは主人公だけ、というツッコミは無粋かね?


「……なぁ、雄一郎」


 ふと、思いついた事がある。

 が、これは流石に本人に許可を取らなければやれない……いや、やってはいけない事だ。俺はどうしようもなく狂ったメンヘラ野郎だけど、誇りも矜持も持たないマッドサイエンティストであるつもりはない。


「なんですか、イノウ様?」


 この間にも採掘は続けられている。

 つまり俺の視線は目の前の壁に向けられていて、雄一郎の表情を窺うことなど出来ない。

 そこに少し不安を感じる。けど、それだけじゃない。今までに無かった何か心強い鎖が含まれている。コレ、は…………信用、だろうか。


 ……ヒト嫌いの俺が、よくぞ成長したもんだ。

 ルカン兄さんやパパと同じくらい、雄一郎にも感謝しないとな。


「お前、強くなりたいか?」

「何言ってんですか。当たり前ですよ」


 こ、こいつ、寸分の迷いも無く言い切りやがった。


「何故だ?」

「僕はイノウ様の近衛で、由奈の大切な人ですからね。強いにこした事はありません」


 ……言うじゃねぇか。

 だったら。


「……ヒトを、捨ててみるか?」

「あ、すみません、それはお断りです」


 ……え?


「由奈がまだヒトですから。彼女に相談しないと僕は自分の種族を変える事なんて出来ません。それはいくらイノウ様の命令でも、無理です」


 なるほど。コイツは筋金入りだな。


「そこまで奥さん大事にするつもりがあるなら、まあ今は何も言わないでおこう。ただし、ここがファンタジー世界だという事を忘れるなよ。ゾンビもいれば吸血鬼もいる。キマイラ技術に船幽霊に魔法薬。なりたくなくても人外へと至ってしまう事はあるんだ。そこら辺、常に頭の中に入れておけよ」

「……はい」


 まあ、そんな事よりよっぽど殺される事のほうが多いんだけどな。

 もっとも、覚悟は出来てそうだけど……ん?


「ストップ!」


 気になった。

 ただそれだけの理由で、俺はリーダーの意向も無視して咄嗟に声を張り上げていた。


「うぇ!? え、えと、えと……や、やめなさい、それ以上はいけないわ?」

「クゥ!」


 採掘作業開始の際に悪ふざけで出した命令を律儀に守った雄一郎の声を聞き、少しだけ冷静さを取り戻す。


「すまん、リーダー。だけど、この先が何か凄く気になる。悪いけど一時的に現場の指揮権を譲り渡してもらう。異論は?」

「ある訳がありません。コボルト、やめて」

「ワン!」


 雄一郎の指示にコボルトが掘る腕を止め、何故かツルハシを雄一郎に渡す。


「……え?」

「やっぱな……つくづく面倒くさい運命だコンチクショウ」

「え? え? ど、どういう事ですか?」

「簡単だ。俺達を呼ぶ事が出来る何かがこの先に待ってんだよ」


 案の定、雄一郎は困惑顔を作った。ま、呼ぶ事が出来る何かっつったらクで始まる邪神辺りしかいない訳だから、仕方ないと言えば仕方ない。


「要するに、癖の強い生体金属か何かがこの先にあるって事だ。そういう魔獣かもしれねぇけど、十中八九違う。ノームちゃん、この先に魔獣はいそうか?」

「たぶん~いません~」

「確定だな。流石に山の中でノームが感覚狂わせるなんてありえん」


 そんなアホ臭い能力に特化したってせいぜいがノームを狩るくらいしか利用目的が見つからないし、ノームを捕獲または殺害するには水が必要不可欠。しかし、後者はともかく前者の場合人が死ぬような勢いや量の水を使えばまず間違いなくノームも死ぬだろうし、後者にしてもなんの目的でノームを殺すのかが分からん。しいて言えば『ジョブ』の経験値だろうけど、こんな土色美人以外のノームが滅多に現れないような場所に置いておくにしては、手間をかけすぎだろう。エレメンタルを積極的に殺すような馬鹿生物は自然発生しないし。


 結論。十中八九向こうにあるのは生体金属の類だ。


「そんで、お前さんはまだ気づいてないかもしれねぇけど、たぶんお前さんも呼ばれてるぞ。そこのコボルト君が良い証拠だ。コボルトは採掘種族だから、滅多な事では自らのツルハシを他者に渡したりしない。それなのに躊躇無くお前さんに渡したって事は、ここがお前さんしか掘れない場所だから、って言ってるようなもんだ」

「……そうなの?」

「ワン!」


 コボルト君が肯定するように吠えた。やはり採掘種族はそこらの感覚も鋭いな。


「さて、では掘るとしようか。まず雄一郎、どこを掘りたい?」

「え、えっと、僕はドワーフじゃないんですけど……」

「いいから直感で選べ。さっきも言ったろ? 呼ばれてる筈だって」

「……分かりました!」


 あ、コイツ疑う事を諦めたな。

 何か色々な事を放り出した様子の雄一郎が、ツルハシを振り上げる。なるほど、そこか。

 なら俺は……ここだな?


 掘り続けながら考える。

 どうにもこっから先は採掘に集中した方がいい気がする。会話をするな、他の事を考えるな、掘り続けろ……そんな風に言われている気さえする。

 はてさて、この先に何が待ち構えているのやら……


 すみません、一か月ほど旅に出ます。

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