第五話:とりあえず確認させてくれ
今回の話は癖が強いです
「え……?」
「ルカリオン先生、お願いします!」
約束とは違うだろうけど、まあオプションと考えて話してもらおう。むしろ世界を知っている俺にとってこっちのほうが重要だし。
「いや、良いけど……もう遅いよ?」
ぬぬ、確かによく見れば周囲は完全に夜の帳が下りている。子供は寝る時間だな。
「それじゃ……ぐっすり寝て明日また教えてくれ。俺はこれから同級生共を扱いて見張りとはなんたるかを教えに行くよ」
「キミが寝るの! なんで妖精のボクが寝なきゃいけないのさ!」
む、もしかして寝る必要無いのか?
「大丈夫だ、俺は七徹も平気なくらい精神力が高い。むしろ最低三日は起きてないと安心出来ないまである」
「ヒトじゃなかったの!?」
失礼な。ただのネトゲ廃神だ。
「……まあ時廻りの業を負ったキミなら本当に大丈夫だろうね。それじゃ、魔獣についての講義を始めようか」
何かを諦めて新たに何かを得たような顔で授業開始を告げるルカリオン先生。
「よろしくお願いします、ルカリオン先生!」
勤勉な生徒である俺はきっちりと挨拶するのであった。
「まず、大丈夫だとは思いますが魔獣と魔物の違いは分かりますか?」
「はい、魔獣と魔物は人型ではない能力を使うモノの総称で、魔物は知性と理性を持ち魔獣は本能の赴くままに行動します」
「その通りです。キミのたどり着いた世界がこの世界と似ていて助かりました」
ということは……どこか違うところもあるということか? まあ世界が違うんだから当然っちゃ当然だけど。
「この世界の能力は『ジョブ』なので魔獣にもジョブはあります。ただし、大抵は想いとなるほどの知能が無いので種族がジョブになっている場合が多いです。例えばイルトミルジスちゃん……」
ルカリオン先生がイルトミルジスに視線を向けた瞬間固まった。よく見ればルカリオン先生の眼が薄っすらと光っているような気がする……魔眼か? イルトミルジスに何か起きているのか?
答えは驚愕の表情で頭をブンブンと振って再びイルトミルジスを観察したルカリオン先生の口からもたらされた。
「この子……『兎騎士』のジョブを獲得してる」
はて、土岐市? 陶磁器日本ナンバーワンの名古屋通勤圏がどうかしたのか?
「その、先生?」
「ハッ! す、すみません。いきなりだったので少し動揺してしまいました」
そんなに驚く事なのか、土岐市。凄いな土岐市。流石だな土岐市。
「ええと、まず魔獣のジョブは大抵が種族となりますが、例外もあります。例えば有名所で言えば龍騎士ですね。『人間』の身でありながら竜の下位互換とはいえりっぱな龍を従えた彼らはどのようなジョブを持っていようと『龍騎士』のジョブを授かり、龍達も『騎龍』のジョブを授かります。詳しく説明すると長くなりますし感覚的な話ですので割愛します」
ほう、こっちの世界には龍騎士がいるのか。龍調士ではなく。珍しいな……まあ、こっちの竜の基準が高ければありえないことじゃないな。
「魔獣の中には『騎龍』のように他者と繋がりを持つことで得る事が出来る『ジョブ』やイルトミルジスちゃんのように『想い』が『ジョブ』に昇華する事もあります。それら特殊な『ジョブ』を持つ魔獣は『スペシャル』と呼ばれ、恐れられるようになります」
ほうほう、『スペシャル』。つまりは『特殊』。そりゃ土岐市なんて奇天烈なジョブが出る……
いや、なんぼなんぼでもおかしいだろ……ああ、『兎騎士』か。字面的に。
「スペシャルの域になると魔物も混ざってきますが、魔物は魔物で『ジョブ』ではない種族の能力を持っている種が多いので『ジョブ』持ちは少ない傾向がありますね」
だろうな。こういう意思で左右される能力取得方法は魔物には向かない。力が足りている間はな。
「それと魔獣や魔物……いえ、この世に存在する全ての『種族』に共通する性質ですが、種族の特徴を破壊されると一度だけ破壊部位が蘇り破壊した相手に恐怖故の服従を誓う事になります。ただ、『スペシャル』級の魔物や魔獣はその後主を認め忠実なる徒になる場合があるので一般的に強者と呼ばれるモノ達の配下には『スペシャル』な魔物や魔獣がいる可能性が高いです。もっとも、どうやら錦君はまた世界の法則を自力で編み説いたみたいですけどね」
やはりか。というか『種族』まで絡んでくるとなると……この世界、意外にヤバイかもしれん。いや、別に俺レベルだと大した問題じゃないけど『現代日本』の学生(と教師)だったあいつらがうるさい事になる。
何せ俺の想像だとヒトの種族特徴は……心及び脳だからな。
脳はともかく心を破壊するって事は、すなわち執拗な拷問か大切な存在の『破壊』を意味する。誰だって身動き取れない状態で愛する家族が死なない程度の拷問や陵辱をされ続ければいつかは心が壊れる。一部の強者はリベンジャーとなるだろうけど、はたして一般人がそれをされれば……?
そして、一旦心を壊された状態で修復された者を奴隷とする制度がこの世界に定着しているとしたら……?
それら諸々の事情を鑑みると、同級生と先生にヒトの種族特性を話すのは危険だな。最悪の場合同級生が全滅する。それは俺にとってちょいと都合が悪い。
っと、ここで質問だな。
「質問」
「はい、錦君」
「種族の特徴を複数持っている種族はどう扱われるのですか? 竜族で例えれば『翼』、『人化』、『知性』、『ブレス』辺りですか。それら全ての基を潰さないといけないんですか?」
「はい、その通りです。ただし、竜族の場合『ブレス』は種族の能力なのでカウントされません。恐慌支配が成立するのはあくまで種族独特の特徴を破壊した場合に限ります。種族の能力は関係無いのです」
そうか。なら一々吐息袋なんて面倒な場所にある器官を破壊しなくてもいいな。あれ心臓の近くにあるから下手するとただ殺すだけになるんだよ。
「それでは魔獣や魔物についてはこれくらいですね」
ふむ。わざわざ言わなかったって事は魔獣も魔物も扱いは俺の知っている世界とあまり変わらないのか。青いねぇ、ルカリオン。
「ありがとうございました、ルカリオン先生」
「いやいや、これもボクの兄弟と親のためならどうってことないよ」
それに、友達……だしね。と、頬を赤らめてモジモジしながら呟くルカリオン。やべえ男色が目覚めちまうレベルだぜ?
「だけど断る!」
「……え?」
「俺とルカリオンは友人だ。友達じゃない」
「……そういえばどこかの種族に友達の中に優先順位をつけるために、言い方を変える人たちがいたね。キミもそう?」
「そうだ。ちなみに俺にとっては友人のほうが格が高い」
ヒトがそういうの考えるのって珍しいね、との言葉を頂いた。まあ作家って半分人間やめてるようなヤツが多いからな。主に俺とか俺とか俺とか。
「それより、イルトミルジスの『ジョブ』はなんなんだ? 『兎騎士』だっけ? それと、他のアルミラージより大きい説明が欲しいんだけど……?」
「ああ……そういえば魔物や魔獣にも経験値システムはあるんだよね。たぶん他のアルミラージよりレベルが高いんだよ。アルミラージは小型魔獣だからね、ある程度大きくなったら後は強くなっていくだけで大きくはならないと思うよ?」
へぇ。まあ、魔物や魔獣は存在自体『半能力』的だからな。他の『種族』より成長の仕方がおかしくても不思議じゃない。
「イルトミルジスちゃんの『ジョブ』だけど、たぶんキミを守りたいって想ったんじゃないのかな? それか潔癖な忠実を捧げようと想った、とかかな? とにかく『騎士』系のジョブはそんな感じの『想い』が昇華して顕現するジョブだよ。『兎騎士』は……跳躍力と脚力の強化及び主の寵愛を受ける毎に強くなる、か。わざわざ跳躍力と脚力に分けている部分が肝かな?」
だよな。普通わざわざ二つに分ける理由が無い。跳躍力は脚力の一種だし。アルミラージという『跳ねる』種族って点を考慮すればおのずと分かる事だな。
……そういば今までスルーしていたけどなんでルカリオンはイルトミルジスのジョブが分かるんだ?
知らない事が出てきたらとりあえず質問、をモットーにしている俺は想ってくれたイルトミルジスを構い倒しながらルカリオンに聞いてみた。
すると、帰ってきたのはとてつもなく俺にとって都合の良い答え。
「だって、それが『妖精』だもん。『妖精』は視た相手のジョブとステータスを確認する事が出来るんだ。能力じゃなくて『種族』の特徴だから『世痛の波』や『生命の力』、もちろん『能力』や『灰の原色』も視る事が出来るよ」
ほ、ほうほう……こっちの世界では四強能力はそう呼ばれているのか。
いやそんなことはどうでもいい。重要なのは『ステータス』だ。
「お前……ステータスを自由に見れるのか!?」
あるいは眼が血走っていたかもしれないと自覚があるほど凄い顔(自分の事だから表現の仕方が分からん)で迫る俺にルカリオンが少したじろいだ。
「え、その、えと……見れる、よ?」
ハッと自分の醜態に気づいて落ち着いて再度訊ねると少し動揺した風にルカリオンが答えた。すまないな、野郎に迫られても気持ち悪いだけだったろうに。
「そうか……それじゃあ、俺を見てくれないか?」
一瞬異世界の人間である俺にステータスが存在するのかと疑問に思ったけど、あの転移が異世界規模なら大丈夫だと思い直した。基本的に異世界同士は元々同じ世界という設定だしな。この世界がそのルールに従っている根拠は無いけど、可能性としては十分だ。
「分かったよ」
ほらな。
「ええと……『ジョブ』はまだ決まってないね。かといって他の能力を持っているわけでも無い……あれ? 確実に能力じゃないけど、かといって普通の技能でもない曖昧な力が……あ、時廻りの業に引っ張られてるだけだね。能力値的な話なら錦君の世界の人間とこっちの人間はあまり変わらないみたいだね。もっとも、キミのほうがこっちの世界の同年代の子より全体的に優れているみた……精神力だけ異常に高い!?」
……そうか、あの妙に手に吸い付く縫い針の感触や外気温-5℃~45℃でも寒暖を感じない生物失格な体感温度の正体はそれだったのか。我ながらおかしいとは思っていたけど慣れで済ましていたからな……精神力? 何それ魔法の威力が上がるの?
「後、ほんの少しだけど『灰の原色』の才能がある。『生命の力』も適性はありそうだよ」
!? ま、マジか……!!
「よっしッ!! これで少なくとも鍛錬次第では『勇者』を超えられる! ありがとうルカリオン!」
「う、うわぁ! やめ、やめて! 振り回さないで~!」
おっと、喜びのあまりルカリオンの細腕を掴んで小躍りしていたようだ。浮かれるな俺、ただの『四強能力』程度で『勇者』に勝てると思うなよ。反省反省。
「……ん? 気になったんだけど、もしかして俺『魔王』や『大罪人』になれる?」
「『魔王』はなれると思うよ、条件さえ満たせば。ただ、『大罪人』の芽はまったく無かったから可能性は無いよ。たぶん無理だろうけど『勇者』になる可能性はあるよ」
へぇ、俺に『大罪人』の素質は無いのか。まあ本来の作用が『感情の無秩序増幅』だからな……元々付け上がり癖のある俺には向かないだろうな。
『勇者』? 不可能に決まってんだろ。条件が厳しすぎる。あれはヒトには向かない……方法が無いわけでも無いけど現時点の俺じゃどっちみち無理。
だけど。
「『魔王』……か」
『魔王』。俺の思い着いた彼の存在に成る条件は意外に簡単だ。ただ、偶発的に生まれることは殆ど無いから、ある意味においては『魔王』よりなりやすい『勇者』より数は少ない。
何故なら、『魔王』になるためには『同族』の血肉が異常なほど必要だからだ。
「う~ん、一応キミの世界とこっちの世界の人間は『種族』レベルで同じ存在だけど、オススメはしないよ」
「だよな……しかもこの世界って悪の『魔王』に食まれているんだよな。そんな状況で新たな『魔王』が生まれたら本格的にビッグバンが起こりかねないし」
もっとも、五年以内に俺曰く『面白い事』が起こればその限りでも無いけど。
「それよりまだジョブが決まっていないのには安心した。想いで変えられるのなら後から取得したほうが有利だからな」
「あくまで『能力』の範疇だからね。大陸規模の自然操作や全空域の天候操作みたいな『星』の力や世界障壁の類は無理だよ」
その辺は考慮済み。伊達に自力で世界を思い着けた訳じゃない。
……あ。
「なあ、聞きたいんだけど俺のいた世界にも俺以外に『世界』へとたどり着いたヒトっていたのか?」
「いたはずだよ。殆どはたった一つの異世界単位でしかなかったけどね。ただ、一人だけキミに匹敵するかそれ以上の見識を持っているヒトがキミと同じ小説家でいたけど」
…………ま、当然あのヒトだな。会った事ねーけど。
「だけど、恐らくその人物が『世界』を出版したのは十年も前だぞ? よく『勇者』に目をつけられなかったな」
「だってあのヒト並みの『魔王』や『大罪人』を超えた『世痛の波』による隠蔽をしていたんだもん。キミが世界の真実を知ったとバレて走査されたせいでようやくバレたんだよ?」
なん……だと? 俺の、俺のせいで……あの人が、『勇者』に目をつけられた!?
「けど、普通の悪の『魔王』どころか『勇者』が作った組織の中の誰よりも強かった上に敵対意思が無かったからいざという時に『勇者』の手助けをする代わりに手出ししないって契約を結んでいたからキミが気に病む必要は無いと思うよ」
……どうやら顔に出ていたみたいだな。
だけどそうか、あの人ヒトじゃなかったのか。どうりでとんでもない発想力と筆の速さだったわけだ。ますます一度会って話がしたくなった。
「いやぁしかし助かったよルカリオン。お前のおかげで俺は小説を書き続ける道を再発見する事が出来た。ありがとう」
俺が尊敬する彼の作家はひとまず置いておいて、この小さき友人に心からの感謝と敬愛を籠めて頭を下げる。理念や矜持、プライドに金科玉条のためなら死を選ぶ事すら出来る狂った俺だけど流石に何の力も持たないまま『勇者』と対峙した時、抗うのは不可能だ。『勇者』は決して暴力的な存在じゃないから、俺のようなタイプの強者にとっては性質が悪い。ルカリオンは、少なくともそんな『勇者』の前で自害出来る程度の力は身につくと教えてくれたのだ。感謝の念を感じずにいては作家と名乗るなんて悪魔と契約しようと出来るわけがない。
「えへへ、どういたしまして」
『世界』を知る者として『謙遜する』などという無粋な真似をしないルカリオンに俺の好感度は跳ね上がった。もう打算抜きでも本当に感謝するレベル。もしくは俺史上最短で『親友』に引き上げるまである。
「本当にありがとうな、ルカリオン。イルトミルジスの件もあるし、何かお礼をしたい」
基本的に『俺の親友』の間柄では『貸しは帰ってこなくて当然、されど借りは何倍にしても返す』という暗黙の了解がある。命を救ってもらったら高価なアクセサリーで返し、立場を救ってもらえば私有地で返す。あくまで例だけど、基本的に当人が用意できる上位の『品』もしくは『行動』で感謝の意を示すのが流儀だ。
「ええぇ、それじゃあお願いしちゃおっかな?」
純粋なお礼を断るような迷惑極まりない性格じゃないルカリオンは少し嬉しそうに微笑みながら答えの決まった問いを投げる。
「もちろんだよ。俺に出来ることもしくは将来的に出来る事ならなんだってする」
クミオエット・J・エベミスの名に誓って、な。
「う~んそれじゃ……――!」
……うぁ、ん? なん、だ? 俺に認識出来ない……言葉? もしかして『妖精』の力か? 『妖精』に関しては知らないから確証は無いけど……
「ルカリオン、勇者の卵を見つけたって本当か?」
ガサガサという藪を揺らす音と物騒極まりないセリフと共に表れた三十五人の妖精が確証してくれた。
おい、誰が勇者の卵だ。
「うん! それに、異世界から来た知識のある『ジョブ』を持たない子供もいるよ」
ルカリオンを含めて三十六名の『妖精』がここに集まっている。みな似たような姿形だけど当然ながら服や顔は違うし翅の色も何種類かある。子供から老人まで年齢層も豊かだ。永命種だと思っていたけど老化はするのか?
「みんな、紹介するよ。彼は伊能錦君。この前『勇者』が警戒していた彼の作家だよ」
コラ。そういうところを強調するんじゃない。ていうかいらないよねその説明。
しかし、『妖精』達にとっては朗報だったらしくピーチクパーチクとやや興奮気味に騒ぎ出した。
「おおお! あのクミオエット・J・エベミス!?」
「『世界』を二つも見つけて、多数のセムセジを発見した救世主!?」
「『十二の使者』の一廻りを完全解明した奇跡のヒト!?」
「ファンです! 握手してください!」
「すげー! 『灰の原色』と『生命の力』の適性まである!」
「マジか!? 流石トラブル誘発体だぜ!」
……コラ。
「ヒトを指差しながら名前呼ぶんじゃねえ誰が救世主だ誰が奇跡だありがとうファン俺には『ジョブ』の適性もある誰がトラブル誘発体だコラ!!」
聞き取れた内容だけでも反発しておく。他にも何か薔薇や百合にまつわる恐ろしい事も聞いたような気もしたけどきっと気のせいだ。
そもそもトラブル誘発体って、大抵の小説の主人公のことじゃねーか。俺は違う。俺は主人公にはなりえない。俺はちょっと頭のネジが歪んで締まった作家だよ。俺なんかよりよっぽど主人公に向いた人間なんていっぱいいる。
……よし、セルフ誹謗で付け上がるのは防止した。
「まったく……紹介に預かった伊能錦だ。よ、よろしくな」
やめろ、そんなキラキラした眼で見るんじゃない。付け上がるだろ。
「ツンデレだ!」
「やっかましい!!」
「ツンだ!」
「黙れ!」
「よろしくね、英雄さん」
「……あ、ああ、うん、そうだな、よ、よろしく……」
「デレだ!」
「コノヤローーー!!!」
俺の行動に一々クスクスと楽しそうに笑う妖精共。ちぃ、この邪悪な羽虫共が。
「みんな、からかっちゃダメだよ。真面目にやろうよ」
ルカリオンの一声でぴたっと笑い声が収まる羽虫の群れ。
「まあ、妖精って基本的に悪戯好きだしな。つっても可愛い物だし、気にしてないから事情を説明してくれ」
「ごめんね錦君……ボクが皆を呼んだのはキミのクラスメイトに皆を付けたいからなんだ」
……ああ、そうか。コイツらルカリオンと同じ『妖精』だもんな。だったら……
「親のために、か?」
黙ってもニヤニヤしていた妖精共の顔が真面目一色に変わっていった。分かりやすいな、『妖精』。
「皆まで言うな。どうせ自分達じゃ何も出来ないし『勇者』も『神』も助けてくれない。けど、自分達の生みの親のために何か力になりたい……そういう事だろ?」
妖精達は黙って頷いた。
……ここで嘘を吐くのはコイツらに対する侮辱か。
「いいか、俺はルカリオンの為に『魔王』を殺す。その為の手段として貴様らを『使う』。それでも良いなら俺に頼め」
俺は綺麗ごとが嫌いだ。他人の為に空気を読むのも。
だけどルカリオンの、『親友』候補の為ならば俺はコイツらを助ける。力になる。だけど気を使ったりしないし、時には同級生と同じく何の痛痒も無く捨て駒に使う事だってある。
それでも良いのなら、それでも俺に頼るのならば……
「うん、みんな覚悟は出来てるよ。例え『生命の力』に還元されようと、『灰の原色』に分解されようと」
ルカリオンの言葉に真剣みを増した『妖精』達も頷いて返した。なるほど、ルカリオンがこのコミュニティのリーダーか。
「ならば」
イルトミルジスとウラガットに離れるよう指示を出して腰のナイフを抜き取る。おいおい怯えるなよ『妖精』。別に無駄死にしてもらおうってんじゃねーから。
俺は左手に握ったナイフを持って、一つの舞いを披露する。
くるりくるりと眼を瞑りながら舞い、握ったナイフを何度も何度も空中に放り投げる。落ちてくる音と投げた姿勢から情報を逆算した予測を元にギリギリのところで刃の腹を摘んでは再び上空に投げ、頭や体に突き刺さる寸前にキャッチする。
「我、誓おう」
加速する動きの中で俺は約束の言葉を口にする。
「汝、『妖精』の願い『魔王の排斥』」
感情を殺した言葉を舞いに紡ぐ。
「我、汝ら『妖精』の願いを叶えんがため、『妖精』に従属を求める」
中二病と、笑いたいのなら笑うがいい。
この命がけの舞いこそが俺にとって最も真摯な『契約』の証。余計な事を契約の中で成功させることで、その契約が決して破れぬ誓いであると運命付けられていると示す事が出来る。つまりはたとえ『勇者』が邪魔しようと『魔王』が強力になろうとも、俺は必ずこの契約を守り通すという決意の表れ。
言うならば、『契の舞い』
「敵ならば俺が打ち砕く。お前らはその間俺の奴隷だ」
やがて、舞いは終わる。
気づけばナイフは俺の腰に納まっていた。手は使っていない。
きはは……これは、今までにない契約の効果が期待できるな。
つまり俺は『魔王』に匹敵する力を持つことが出来るという最も強力な自己暗示にかかったという事だ。
俺にとってもこの契約はプラスな事だったな。
「お前ら、ソレを示す事が出来るか?」
それは『世界』を知る立場からの問い。
そして受け取るは、同じ『世界』を知る立場の者たち。
「「「はい。我ら『妖精』は『魔王』が滅されるその日まで伊能錦様の物。なんなりとお申し付けください」」」
よろしい。
作家の矜持はある程度封印だ。これから同級生を説得して幾つかの制約を結んで、『妖精』と同じ立場に持っていかなくてはいけない。イレギュラーがどうのと言っている場合じゃないからな。
ともあれ。
「イルトミルジス! 演技で疲れた俺の心を癒してくれ!」
「クゥクゥ!」
イルトミルジスー!
土岐市にこだわりがあるわけではないです