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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
45/50

第四十五話:なんとなく主人公な中森(前編)

 今話、妙に続きそうになったので前編と後編に分けて投稿したいと思います。なんで主人公視点じゃなくてあくまでサブキャラの雄一郎視点の話が初の前後編になったんだろう……

 うぅ、酷い目にあった……

 なんて、嘆いている暇は無い。せっかくイノウ様が僕に重要任務を与えてくれたんだ。しっかり遂行しなくちゃ合わせる顔が無い。


 それにしても、あのユニコーンの贋作みたいな魔獣は強かったなぁ。咄嗟にマンティコアの存在を思い出してなかったらヤバかったかも。

 ある意味命の恩人である小さなマンティコアを一撫でしてから召還。どこか気持ち良さそうな表情で帰っていく。う~ん、そういう物だとは分かっているけど、よかったら次回の召喚もあのマンティコアがいいな。


 まあ、『召喚士』に応じるのは契約を結んだ魔獣以外だと完全にランダムだから無理な話なのは知ってるけど。


 気を取り直して戦士の霊と黄色い魔法剣×2を召還して新たにコボルトを召喚する。僕が命じられたのは資源の大量確保。だから、豊かな鉱脈を探り当てることが出来るコボルトを呼んだのだ。大量の鉱石より豊かな鉱脈の方がイノウ様も喜んでくれるだろうし。


キチキチ

「ん? どうしたの、シャサ」


 僕が勝手に名付けをした巨大蜘蛛が足の一本で、ある方向を指した。何かがあると伝えているのだろうけど、危険な物ならさっさと排除しちゃうシャサが、それでも動かないのなら何か意味があるのだろう。


 確認しようとその茂みに近づこうとした途端、凄まじい圧力、と、恐怖、が、襲い掛かってきたッ! グ、クッ……な、なんだ、これ……


キチキチ!


 僕が当てられたソレをシャサも受けたのか、慌てて僕の体とコボルトを糸と鋏角で掴み取り、さっきまで進んでいた方向へ走りだした。シャサが恐れるほどの相手って……トリゼェイソンさん級の魔獣があそこにいたのかな? うぅ、油断大敵だ。


 シャサに連れられたまま山目掛けて走り続ける内にあの恐ろしい圧力は消え去り、それに伴ってシャサも速度を緩めた。よく分かんないけど、どことなくシャサが安堵したような雰囲気だからとりあえず危機からは脱せた筈だ。


 召喚されていきなり拉致&疾走に巻き込まれたコボルトはというと、ありゃりゃ……完全にノびてる。というより、気絶した? あ、そっか。このコボルトもあの恐ろしい圧力を受けたんだ。なるほど、それで。


 ん? ってことは、あれ殺気?

 ……なんだか深く考えると恐ろしいことが起きそうだ。ここは大人しく先に進もう。


 ノックアウト状態のコボルトを一度召還し、新たにコボルトを召喚する。僕を見て嬉しそうにワン! と吠えたコボルトを優しく撫で、鉱脈までの案内を頼む。最初に召喚したコボルトと同じように顔を上げて何かを嗅ぎ分けるようにクンクンと鼻を動かし始めた。鉱石の匂いってどんな感じなんだろ。鉄くらいしか分からない。


 最初に召喚したコボルトより早めに嗅ぎ当てた様子のコボルトが匂いの元目掛けて駆け出す。その速度は大人の男より速く、とても追いかけることなんて出来ない。


「シャサ、お願い。もう一度乗せて」


 だから僕はシャサに頼る。トリゼェイソンさん達ほどではないにしても、僕が知る中では十分以上の速さを誇るシャサなら余裕で追いかけることが出来るからだ。


キチキチ


 初遭遇時とは比べ物にならない程に打ち解けてきたシャサは、快くOKをくれた。もうシャサがいない生活なんて想像出来なさそうだ。

 それは、まあ……由奈も同じなんだけど。


 っと、いけない。デレるのは安全地帯に戻ってから。惚れた緩みが死線の緩みだ。なんて、イノウ様の小説から引用してみたり。


 シャサの美しく輝く黒殻に少しばかり土足で乗り込むのに躊躇したけど、シャサは気にするなとばかりに体を沈めて僕のバランスを崩し、強引に背中に乗せた。感謝の言葉を口にしつつ、シャサの頭部(上半身)と胸部(下半身)の間にある腹部(?)を中心にピッタリとくっ付き、必死にしがみつけるところを掴む。可動域的に大丈夫なのかと思わなくも無いけど、そこら辺を考慮して走ってくれるのか挟まれてミンチ化とかは無い。


 僕がしっかりと固定された事を確認したシャサが走り出した。


「ありがとうね、シャサ。もう少しっぽいし、頼んだよ」

キチキチ


 何故かスピードアップするシャサ。もう少し速くなったらコボルト抜いちゃうんじゃ……まあ、その時は減速指示を出せばいいか。


 やがて目的の場所に辿り着いたのか、コボルトが立ち止まった。暴走しているかと思っていたシャサも素早く停止し、身を屈めておりやすくしてくれた。最初に会ったときのラン・ザ・デスゲームな雰囲気はどこにいったのやら。『召喚士』としての制御もほとんどいらないし。いや、ラン・ザ・デスゲームって自分で言ってて意味不明だけど。


 馬鹿な事を考えつつ、シャサから下りる。と同時に持参したタオルでシャサの体を拭き拭き。こんな綺麗な体に僕の土足痕が付くなんてもったいないからね。誰も見る人はいないとかそういう問題じゃなくて、綺麗な物にはソレ相応の態度を取らねばならない。って、イノウ様が言ってた。僕としてもシャサにはいつもお世話になってる(と言っても一日か二日くらいだけど)から、これくらいの労働は大した手間じゃない。


キチ、キチ……


 何やら擽ったそうに身をよじるシャサ。蜘蛛って外骨格にも神経通ってるんだ。初めて知った。


 さて。

 タオルを鞄の中に仕舞ってコボルトがここ掘れワンとばかりに駆け回っている場所を見る。

 森と山の接合部。そこに現れた凄い洞窟。何が凄いって上方向に50度くらい曲がってるんじゃないかって感じの地面が見える所だ。要するに角度がヤバイ。


 これ……登らなきゃダメ?


「ワン!」

「あ、うん。分かってる。行くよ? うん……はぁ」


 とはいえ、溜め息は漏れてしまうもの。仕方ないとはいえ、見える範囲だけでも凄いこの洞窟を登れと……

 まあ、行かなかったら僕の忠義が泣くね。


「ふぅ……なんとかシャサも通れそうなのが救いかな」


 ちょっと狭いような気もするけど、その時はシャサの鋭靭な鋏角で削り取るなりサンドワーム辺りを呼び出して拡張するなりすればいい。可哀想だとは思うけど、この先にどんな危険が待っているか分からないのだから置いていくわけにはいかない。


「シャサ、悪いんだけど殿(しんがり)を務めてくれないかな? 僕はまだ大した魔獣が呼べないから、一番大事なポジションにいて欲しいんだ」


 そう言いながら頭を下げようとした。しかし。


キチキチ!


 なんで君はそこまで喜んでるの? 意味が分からない……

 まあ、やってくれるというのなら感謝だ。


「ありがと。それじゃあ……サモン・スケルトン×3!」


 僕の力を言の葉にすると同時、三体のスケルトンが出現する。各々の手には朽ちかけた剣や斧があって、ボロボロの布切れを身に纏っている。

 彼(もしくは彼女)らは感情を感じさせない虚ろな顔をこっちに向けたまま指示を待っている。生きてないから余計なやり取りは不要みたいだ。


「なら、僕より先に洞窟……いや、坑道に入って。離れすぎないように注意してね」

カラカラ×3


 喋らないシャレコウベが返す乾いた音。ここにカサネホルちゃんがいなくて良かったよ。由奈には改めて感謝しないと。


 カラカラカシャカシャと予想以上に五月蝿い音を立てながらスケルトン達が坑道に入る。僕もそれに続き、その後ろをシャサが付いてくる。うむむ……念のため。


「サモン・ウィル・オー・ウィスプ。ええと、それと……」


 ふよふよと現れた青白い火の玉の光の下、イノウ様から貰ったモンスター辞典を開いて夜目と戦闘力を持つ魔獣を探す。グール、ガーゴイル、ドラゴン……ダークエルフもなんだね。呼び出すつもりは毛頭無いけど。カサネホルちゃんの件はともかく、もう嫌な悲鳴は上げたくない。


 う~ん……あ、これいいね。


「サモン……ガァ!?」


 なん、これ……頭痛が、うぅ……な、んだって?

 知、識が……これ、を越、えれば……進める、って…………


キチキチ!


 シャ、サ……ごめん。しんぱい、して、くれて……けど、僕は……


「さ、『サァァァァァモォォン!』


 尋常じゃない痛みを振り払う叫びが木霊し、空気を震わせる。

 覚悟を、決めろ……僕ぅぅぅぅぅ!


『ストリーガァァァァァァァ!!』

「ウルサイ」


 へぶぁっ!? あ、ああ、頭の中と外が痛いぃぃぃぃ!!


「ナンダ、何かオモシロイ事が起きるのかとオモエバ、ニンゲンからの呼びダシカ。これなら態々ルミスのジャマなどしなければヨカッタナ」


 なんだか……勝手なことを言われている。うぅ……頭が色んな意味で痛い。

 しかし、この程度の痛みで怯んでいてはイノウ様の近衛なんて務まらない。根性入れろ、僕!


「いてて……何すんの」

「フゥン、それなりに強く殴った筈だケドナ。オマエ、丈夫ダナ」

「ウゥゥゥ」

キチキチッ


 そんな事をのたまうストリーガと思われる少女にコボルトとシャサが思いっきり威嚇する。ありがとうね、二体共(別の種族を一緒に呼ぶときは体で統一するのがマナーらしい)。


「ホウ、黒蜘蛛はトモカク、子犬までワッチを威嚇スルノカ。随分と慕われてイルナ、ニンゲン」

「そりゃどーも」


 なんとかシャサに支えて貰いながら立ち上がり、改めて彼女を観察する。

 背は僕より少し高いくらいで、まん丸なのにどこか鋭く大人びた印象を与える深紅の目。それだけならまだ普通の人と変わらないように見えるけど、彼女にはどうしても人と区別が出来ない部分がある。それは腕から生える猛禽類の翼と頭、手、足以外の全身を覆う黒い羽。正直その、直視し辛いんだけど……その二つの膨らみと例え心の中といえど口にするのが憚れる箇所が羽でびっしりと覆われていなければ今すぐ土下座していた自信がある。


 しかし、いくら人間じゃないとはいえ仮にも相手は女の子。あまりジロジロするのは如何なものか。それに、僕には由奈という素敵な女の子がいる。不誠実はダメだ。


 僕は意を決して服を脱いだ。


「ン~? ドウシタ、ニンゲン? おもむろに服を脱ぐナンテ、誘ってイルノカ? それとも……」

「だぁぁぁぁ! なんでエロ方面に捉えるかな!? これ! 服! 着て!」


 そう言って僕は顔を熱くしながらもしっかりと服を手渡す。これで僕はシャツ一枚になったけど、彼女を見るたびに一々赤面せずに済む事を思えば、これくらいたいしたことが無い。


 しかし彼女は、くやしいくらいに可愛く小首を傾げた。あれ、どうしたの?


「……何のマネダ、ニンゲン」


 そして訝しげにまあるい瞳をやや細めて訊ねてくる。んん? 僕、そんなにおかしなことした?


「何の真似って……君は女の子なんだから、色々と隠そうよ。それに鉱脈ってなんとなく寒いイメージがあるし、気休めだとしても僕は自分だけあったかい格好でなんていられないよ」


 勿論、理由としては前者の割合が大半を占めるけど、後者の理由だって重要だ。せっかく護衛として召喚したのに寒さで動けなくなってもらったら困る。なんだか申し訳ないしね。


 そんな僕の言葉に彼女は、しかし。

 突然笑い出した。


「アッハハハハ! ニンゲン! オマエ、面白い事をイウナ。ワッチがどういう存在か知った上で呼び出したんじゃナイノカ?」


 ストリーガが……どういう存在か?

 ええと……イノウ様のモンスター辞典には梟と女性の姿を持ち、吸血鬼と密接な関係がある。って文が最初に来てたから、夜目と戦闘力を持つ魔獣として申し分ないかな、と思って召喚してみたんだけど……他にも何か特徴があるのかな?


「……えっ、と。とりあえず自己紹介をしたほうが早いかな。僕の名前は中森雄一郎。『召喚士』の『ジョブ』を持っていて、僕自身にはあんまり戦う力が無いんだ」

「タシカニ、見るからに貧弱ソウダナ。夜の方は役に立ちそうダケドネ」


 ほっといてくれ。ていうか、夜の方ってつまりそっちの方ですか。な~んか嫌な予感がするけど、今は無視だ。


「それで、僕の主。ニシキ・イノウ様に資源を探すよう命じられてから鉱脈を見つけたまでは良いんだけど、暗くて危なそうだったから前と後ろに魔獣を配置しておきたくて君を呼んだんだ。君の事は夜目と戦闘力を持つ魔獣……じゃなくて、魔物かな? とにかく、そういう戦力として召喚した」


 そう言うと、彼女はさっきより大きな声で笑い出した。


「アッハハハハ!! 夜目と戦闘力が目的ダッテ? それで、ワッチ……イイヤ、ストリーガをヨンダノカ? アッハハハハ! これはケッサクダ! クフフ、この事を知ったらルミスはなんて顔をするダロウナ! アッハハハハ! アッハハハハ!」


 ……何か、色々と勘違いしていたのかもしれない。ていうか、さっきからこの人(違う)ルミスとかいう人(違う……かも)貶し過ぎてないか? よっぽど嫌いなのかな……


 何かがツボに入ったのか、軽く五分は笑い続けてからようやく正気に戻ったのか、たまに忍び笑いをしつつも僕に向き直った。


「クフフ……イヤ、スマナイネ。クフフ、気にイッタヨ、ニンゲン……イヤ、ユウイチロウ。ワッチの名前はルー・ジェヴォーダン」


 何が気に入ったのやら、彼女……ルー・ジェヴォーダンがキラリと光る八重歯を見せながら手を差し伸べてきた。うぅむ……まあ、いっか。


「うん。よろしくね、ルー」


 そう返して彼女の手を握ると、少し顔を顰められた。なんだろう、心に何かが刺さった気分。しかし、彼女はじきに何かに納得したような表情を見せ、僕の心に刺さった何かを抜いてくれた。


「ワッチの事をルーと呼ぶのはヤメテクレ。本名にしたのはワッチダケド、他者に呼ばれると怖気がハシルンダ」


 ……自分の名前が嫌いなんだろうか? でも、自分で決めたって言ってたし……あ、そういえばイノウ様も今の名前は自分で付けたって言ってたっけ。もしかしたらファンタジーに身を置く人たちは自分で自分の名前をつけたがるのかも。


 う~ん……でも、ジェヴォーダンって呼ぶのもどうかと思う……そもそも男の名前っぽい感じがするし、どうしたらいいんだろう?


 ふと横を見れば、そこにはシャサがいた。

 あ……良いアイディアが浮かんだ。


「それなら、ルェダって呼んでもいい? ルーのルと、ジェヴォーダンの小さいェとダを組み合わせて、ルェダ」


 シャサだって、元々はシャサーレ・アレニエを短くして名付けたんだ。だったら、彼女だって愛称にして呼べば良い。略し方はちょっと違うけど。


 彼女は一瞬だけキョトンとした表情を作ったけど、すぐにさっきみたいに大きく笑い声を上げた。


「アッハハハハ! 夜に舞う吸血のフクロウに女らしい名前をツケルノカ? マッタク、面白いヤツダナ、オマエハ」


 どういう意味だろう。

 とりあえず否定的ではないので、そのまま行こう。


「それじゃ、改めてよろしく、ルェダ」

「アア。ヨロシクナ、ユウイチロウ」


 再び握手を交わす僕とルェダ。

 よーし、これで安心して進めるぞ! 早く攻略して、イノウ様に報告しなくちゃ!


 着実にチーレム主人公道を歩む雄一郎クン。最初はただクラタ某の暴走を伝えようとした忠兵Aの筈だったのに……どうしてこうなった。面白いしニシキ君じゃ出来ない事が出来るから私的にはありがたいですけど。さぁて、次回はどう困らせてやろうか。筆が進みそうです。

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