第四十三話:なんとなく軽めな異教
今回、少しクドイかもです。
喉の渇きが苦しみを生み始めた。
そして俺は何度気を失えば気が済むのだろうか。そろそろ特技に気絶を追加しなきゃならんのじゃないか? お空が近い。
「ニシキ! 体は大丈夫?」
「クゥ!」
「クぉん!」
カタカタ
シメシメ
ガサガサ
ぽよぽよ×2
目を開けてすぐに飛び込んできたのは、ルカン兄さんの心配そうな顔とイルトミルジスの紫角、ナヴァンの灰色の翼だった。
俺は自然と苦笑を洩らしてしまう。
「ルカ……うぇ、ぎもぢわるい……」
「まだ喋らないで。気づいていないかもしれないけど、凄い熱だよ。顔色も悪い」
うっ……なんとなくインフルエンザに似た感じだと思ったけど、そこまで酷かったか、俺の状態。
「起きたか、ニシキ」
その声はどこかぼんやりした耳に上から届いた。頭の気だるさを無視して上を見上げると、いつも通りのカッコイイパパがいた。うぅ、吐きそう。
「無理するな、大人しく寝てろ。ほら、いにしえの秘薬」
そう言って渡されたのは赤い丸薬。ネタは分かるけど秘薬どころか飛躍しちゃってんじゃねーのって感じのドス黒い赤だ。レミスタンさんの血肉飲食シリーズか?
腕を上げようとして、出来なかったので口を開けて放り込んでもらった。モゴモゴ……
「おいじい」
「……肉体的には回復した筈なんだがな」
パパの言う通り、倦怠感は消えた。でも妙な気だるさは一向に去らない。まるで精神攻撃でも受けたみたいだ。
「うぅ……でも、吐き気はだいぶ収まった。ありがとう、パパ」
「よせ、俺はレミスタンのお菓子をあげただけだ。礼ならルカリオンに言え。ずっと看病してくれたんだぞ」
「そうなんだ……ルカン兄さん。
「お、お礼なんて、当然の事をしたまでだよ。ニシキはボクの弟なんだし、ボクじゃニシキを回復……」
ありがとっ」
「はうっ!! そ、その笑顔は反則だよ……!」
俺の本心を最大演技力で表現した結果、ルカン兄さんがフラフラとダウンしてしまった。パパが呆れたような視線を向けてくる。
「妖精を素の状態で落とすて、mjdk?」
「マジ。七十パーセントの『剥き出しの嬉しさ』と二十パーセントの『演技の仮面』、十パーセントの『家族愛』が織り成すマジック」
「演技って……ああ、でも『最大の伝え方』をする為の応用元としては最適か」
その通り。ていうか、パパが微妙にVIPPER。今まで隠していたみたいだけど、今回チラっと顔を見せてくる。まあそういう言葉を知っている、ってだけかもしんないけど。
俺? モラルの低さに尻尾巻いて逃げてきたが。なんなのあの世界mjJK。こういう不適切な言葉を使いまくった挙句コテハンが浮かないようにと考えすぎて逆に糞コテと化してしまった俺が悪いのだけど。良い子の皆は絶対に関わらないように。いぢわるなおとながたくさんいるから(経験談)。悪い子や大人は……まあ、良いんじゃない? ルール守ってりゃ叩かれる事も(ほぼ)無いし。俺は責任を持たん。ジャック君の好きなようにしなさい。
(それもそうだな。お前が元の世界に戻ったらお前を殺して適当な人間に憑依してROMってみるか)
mjdk。いや、殺されねぇけどよ?
ふむ、余計な事を考えたおかげで精神的にも大分楽になったな。まったく、俺としたことが。そもそも言語侵略なんて元の世界でも数え切れないほど行われてきた事だし、主観翻訳能力が備わる勇者召喚と同じ事と考えれば何も問題は無い。それなのに俺は無様に倒れて、このちょいと喉が焼けてる感じからしてゲロまで吐いた。なんたる軟弱。なんたる素人。異世界で、実感上俺より優れた知識を持つ者がいないからと油断していたようだ。精神の緩みは肉体の緩みにも繋がる。しゃきっとしなきゃな。
とりあえずイルトミルジスの頭を撫でながらパパに幼女エルフの現状について聞く。ルカン兄さんはノックアウトしちゃった為に使い物にならないのだ。そんなルカン兄さんも可愛い物ではあるけど。
「カサネホルは中森雄一郎の下にいる。やっぱり命の恩人だからか、ありゃ相当惚れてるな。見た目幼女なせいか雄一郎も由奈とかいう小娘も気がついていないようだが」
マジで主役ロードを突っ走ってやがったか……ま、中森を最強の主人公に仕立て上げてみるのも悪くは無いか。非離脱クラス転移召喚士最強チーレム。ついでに『魔王』に『勇者』にロマン道具まで付けてやろう。いやいや、三白邪眼に魔改造義手。魔剣に『ドラゴン』の手下にビットにチートポーション、最強執事に戦うメイド、世界観錯誤の機動兵器まで用意しちゃうぞ。今ここに、『雄一郎最強化計画』が産声を上げた。
目下のところは、もう三人くらいハーレム候補用意するか。中森妻には悪いけど、俺、主人公を作るのが仕事なんだよね。よぉし、はりきって人外娘を集めよう。
ん? ヒトの嫁? お父さん、許しませんよ? 最低でもリザードマン辺りを嫁にしてもらわにゃ。ハーフくらいなら許す。
「そうなんだ。ところでパパ、天使ちょうだい」
「いきなり何を言い出すかと思えば……そこにいるだろ」
いや、確かにルカン兄さんマジ天使だけどさ。そういう意味じゃなくて。
「天使だよ天使。神族の一種で、そう強くない奴」
「本当になんでも知ってるんだな。神族なんて言葉が十六、七の子供の口から出るとはな」
そりゃあ、騙る神と騙らない神がこの世には存在するからな。一々他の種族に騙らなければ騙す事さえできない奴なんて、『種族』の括りに入れられちまう程度の存在だ。『種族』なら当然仲間がいるし、何々族で括ってしまう方が区別もしやすい。ていうか単純に『神』に対して恐れ多い。
「で、なんでまた天使なんか欲しがる? いや、神族なんてたった一柱を除いて全滅してるから、やる事は出来ないんだがな」
「狂気に対してどんな反応を示すかな、と」
狂気という感情が持つ性質の一端は掴んだ。それは聖なる存在に触れる事で消滅するという性質。ならば確かめねばなるまい。存在自体に神聖な属性が宿る「普通の神族」に俺の狂気を当てればどうなるかを。
前々から考えてはいた事だ。今ならパパがいるし、パパにとっても有益な実験だから遠慮なく頼めると思ったんだけど……全滅してたんなら仕方ないか。
「……半堕天使、と俺は呼んでいる」
あ、実験はもうしてたのね。
「詳しく」
「と、言われてもな……ニシキが新たな半堕天使を生み出そうというのなら、俺はお前を八つ裂きにしてでも止める」
OK、分かった。碌な結果にならんのね。
「安心して、もし神聖なる属性を宿すものに狂気の力を近づけたらどんな反応を示してしまうのか、それを確かめたかっただけだから。知らずの内に悪影響を与えるような行動なんてしたくなかったからね」
「そういう事か……にしても、その歳と種族で随分と頭の回転が速いんだな。元の世界では天才か何かだったのか?」
いや、そうでもない。
「合理性と経験値の結果だよ。俺以外にもこういう世界の事にたどりつけていたヒトは結構いたらしいし、たまたま俺が多めに想い着けただけ。別に天才って訳じゃないよ」
「あのクミオエット・J・エベミスらしからぬ言葉だな? 論より証拠。その後の論に価値はあっても値段は無い。だっけ?」
……あの子のセリフか。そうだな、そうだ。
「ん、なら前言撤回。俺はちょっとループしてるだけの天才なんだよ」
「……いや待て、ループ? なんの話だ?」
あら、パパには言ってなかったっけ。
「俺はループしてたんだよ。現代ループ。今回が三度目の人生。初の異世界転移だよ」
「現代でループしてる奴がいたのか……その賢智も納得だな」
「あ、いや、世界に関する知識は最初の人生の……小六の頃に身につけたよ」
絶句するパパ。まあ、その頃は『異世界』の事しか想い着けなかったけどね。
……そう考えると、やはり俺は天才なのか。うむうむ、この才の代わりに他のほぼ全てが劣っているという事だな。なるほど、実に利にかなっている。
「そんな事より……俺はどのくらい寝てたの?」
「大体一時間くらいだよ。あまり心配かけたくないだろうから、この場にいない皆には内緒だよ。カサネホルちゃんは例外だけど」
正気に戻ったルカン兄さんが答える。うむ、中々分かってるじゃないのルカン兄さん。流石俺の兄さんだ。
「ん、分かった。ありがとうね、ルカン兄さん」
「良いよ良いよ~、ニシキは根が純粋で良い子だから、この世界を思って辛い思いをしたんでしょ? そんな優しい子の為に動くのは妖精として当然だよ。よしよし」
「ふにゃぁ……」
「なる、これは惚れるわ」
ナァナァナァ……はっ!
「そ、それより……よし、真面目な話をしよう」
ほんっっっとうに名残惜しいけど、そろそろシリアスになる頃だ。
「悪いけど、中森達のところまで案内してくれないかな?」
「良いけど、体と心は大丈夫なの?」
「無問題と言いたいところだけど、まだ少しだるい。でもWHOに引っかかる基準じゃ……デフォルトで引っかかってるから判断材料にならん」
「懐かしい言葉が出たな……世界保険機構」
「違う。世界保険機関。まあ奴らほど信用できん機関もそう無いけど」
製薬会社と癒着してパンデミック宣言するし。ほんと、アレは無いわ。そしてそれを無かった事にして平気な顔で現社に出す教育庁とかほんとアレだわ。アレ過ぎてスレを荒らし過ぎたまである。そのせいで叩かれまくったんですけどね。いやぁ、喧嘩売るんじゃなかった。
「そんな事よりルカン兄さん、連れてって?」
「う~ん……」
あ、ルカン兄さんの目が少し光った。ステータスを確認されているようだ。
「若干衰弱気味だけど、大丈夫そうだね。分かった」
「衰弱って……よほど異世界が日本語に侵略されていた事実がショックだったのか?」
「まあね。今は理論武装があるから平気だけど、正史ではありえない言語が広まってるのは『世界を知る者』としてあまり許容出来ない」
本来ならありえた、ならまだいい。しかし、それが広まってしまうのは問題だ。何故なら不自然であり、場合によっては知的生命の敵、セムセジを呼び寄せるハメになるくらいなのだから。誰だって日本で育った純日本人の子供がいきなり英語をペラペラ喋り出したら不自然に思い、時に気持ち悪く感じてしまうだろう。それに近い。俺は特に幻想にしがみついて生きてきた人間だから特に、な。
「それだ」
唐突にパパが指摘してきた。なんだろ、理論武装について聞きたいのかな?
「『世界を知る者』とニシキは言うが、そもそもなんなんだ?」
「歩きながら説明のパターンに入ろうか」
という訳でルカン兄さんに先導を任せ、六体の小動物(『世界』基(ry)を侍らせながらパパと歩く。
「『世界を知る者』。俺が異教を意味するラテン語のハエレシスと呼んでいる彼の存在は、簡単に言えば『世界』の知識を持つ者の事だよ。パパも実際に異世界に来ているから、世界が複数存在するのは分かるよね?」
「それくらいはな。ついでに言うと、高位の転移系『ジョブ』を使えば行き来出来る可能性がある事までは掴んでいる」
「へぇ、それは是非詳しく聞きたい事だけど……今は『世界を知る者』に関する話が優先」
俺はイルトミルジスとナヴァンを撫でながら、記憶の倉庫を掘り返す。
「そもそも、世界という概念は三つ存在する。一つ目が俺達のいる『異世界』。二つ目が異世界の元、『別世界』。そして三つ目が全てを生み出した『原初の世界』。この内、『別世界』にまで知識の幅を広げた者を俺は『世界を知る者』と呼んでいるんだ。本来なら絶対に知覚する筈が無い知識。つまりは異なる教えって事だからね」
「……根拠はあるのか?」
「無い。でも、同じ『世界を知る者』の知識である『四強能力』や『大罪人』の存在を始めとした多くの類似点から考えると、『無いとご都合主義』になるからね。あると思うし、ルカン兄さん達『妖精』もある程度知っている筈だから、しいて言えばそれが根拠かな」
「ルカリオン、今の話は間違っていないか?」
「うん、間違ってないよ。『原初の世界』っていうのは始めて聞いたけど」
ありゃ、『妖精』は知らなかったのか。まあいい。どうせまともな手段じゃ行けねぇような場所だ。知っていようと知らなかろうと、あまり変わらないだろう。
「話を戻すよ。『世界を知る者』には二種類の成り方があって、一つがパパみたいにひたすら強くなる事。そうすれば嫌でも世界の法則が見え始めてくるからね。実感あるんじゃない?」
「確かにそうだが……よく分かったな?」
「それがもう一つの成り方。こっちは俺が該当するタイプで、推論や状況証拠や謎電波によって偶然真実に辿り着くんだ。可能性上、『世界を知る者』になりやすいのは前者だね。もっとも、俺は後者のタイプの中でも相当変り種らしいよ。おかげで『世界』が悪の『魔王』に害されたくない『勇者』に追われるハメになったけどね」
「は、勇者? 俺達を殺そうとする奴らに、ニシキが?」
「それはただの勇者種。俺が言ってるのは、『世界に影響を与える者』としての『勇者』。同種族の九十九%から同感情を向けられた者が成る。全宇宙の四割を占めるヒトじゃどう足掻いてもなれないってのは、一種の皮肉かな?」
「宇宙って……そこまでいけば別種族じゃないのか?」
「甘い。生物学が必ずしも『種族』の基準になる訳じゃないんだ。重要なのは魂……厳密に言えば魂の外核。それが同じ個体を、すなわち『同種族』とみなすんだ。だから意外にリザードマンとかもなりにくい。宇宙の厳しい環境にはヒトの体より適応しやすいからね」
「……分かったような、わからんような。今すぐ消化するには重過ぎるな」
だろうね。俺だって何年も掛けてここまで想い着いたんだから、いくら六千年を生きるパパといえども簡単に追いついてもらっちゃ俺の立つ瀬が無い。
「とまあ、『世界を知る者』の説明はこのくらいかな。ぶっちゃけて言えば知識チート。それだけではなんの力も持たない頭でっかちだよ」
「本当にぶっちゃけたな。だけどお前は強いだろ?」
パパが疑うような視線を向けてくる。うん、それ初めて会った『世界を知る者』が実力者だった時に見せる反応のテンプレだよ。
「本当に、そうかな?」
そして俺はそう返すしかない。と同時にパパに向けて拳を振るう。パパは難なく受け止めるも、すぐに怪訝げな表情を作る。
「妙に軽いな。まだ体調が優れないのか?」
「やっぱりか……いやぁ、今の俺ってグールの平均より筋力弱いよ。大体一割くらい下がった?」
「どういう事だ?」
「こういう事」
模力を『生命の力』に変換して腕から伸ばす。パパは驚いたように一歩分俺から距離を取った。
「な、なんだそれは……俺の本能が危機感を抱いているんだが」
「う~ん、やっぱり『放狂』保持者だと『生命の力』に過剰反応するみたいだね。これは『自身のあらゆる力という概念』を魂のフィルターに通して全ての能力を切り裂く、理を突破する力、『生命の力』だよ。魂の力が宿ったこの力は、正の感情の塊と言っても過言じゃないからね、仕方ないよ」
「なんてチート」
「それは言わない約束。まあ、よほど熟達するか才能が無いと放出した力は一生戻ってこないんだけどね。俺はまだ使えるだけだから、普段は自動回復する模力を変換しているけど、この前筋力まで変換しなきゃならなくなった事態に陥ってさ」
「なるほどな。そういう力もある訳か。これがあれば……いや、というかなんでニシキが使い方を知っているんだ?」
「そりゃ、何度も小説で出してきたからね。四十何年の経験もあるし。ああ、後パパは『魔王』の方が向いてると思うよ」
ルカン兄さんがピクリと反応した。大丈夫だって、もはや世界を蝕んでいるのは『未知の世界に影響を与える者』で、『魔王』じゃないって分かったんだから。
「はぁ? 俺はもう魔王だが……あ、待て、さっきの勇者の件と同じか?」
「その通り。『魔王』は四強能力によって異なる習得方法があって、パパはたぶん大罪人だから世痛の波は外せないし、世界最強という事だから『能力』も外せない。後は、なんとか狂気の力に合った習得方法を考えるだけだね」
「いやいやいや、待てって。そもそもその『魔王』ってなんなんだよ?」
「『魔王』の解釈には色々あるけど、俺は『魔がさした王』って考えてるよ。なにせ成る方法が方法だし、早めに宣告しておかないと『勇者』に目をつけられるし」
俺も『魔王』の中でも『大魔王』に近い力を手に入れれば、『勇者』なんぞに狙われる必要もなくなるってのにな……まあ、いい。今は我慢だ。余計な力をつけると『勇者』に察知されやすくなる。我慢しろ、俺。
「え、ちょっと待ってニシキ」
と、ここで先導していたルカン兄さんから待ったがかかった。あれ、何か知識に欠落があったか?
「お父さんが『大罪人』ってどういう事?」
そこか。パパが微妙にへこんでいるけど、まあそこらは『大罪人』の業として諦めてもらおう。
「どういう事も何も……視れば分かるよ」
「…………え」
「ステータスを見ているのか? ルカリオン」
ルカン兄さんの目が光り、そろそろ見慣れてきた驚愕に染まり、パパがまたしても怪訝げな表情を見せる。何気に俺の存在が常識ブレイカー。ま、その結果生まれるいろんなしがらみ関連はもう運命として受け入れよう。
「ほん、とうに……これは、悔恨?」
「説明しよう。大罪人とは、『世界』で最も重い罪を犯した者が成る、本来なら知的生命の敵、セムセジの事である。最も有名なのは七つの大罪だけど、極限られた『世界を知る者』は七つ以外の大罪を知っており、俺が知っているのは狂気、搾欲、種棄の三つ。狂気は例外として、他の大罪はどれも七つの大罪に近い罪で、搾欲は強欲に、種棄は怠惰に近い。主な作用は罪の暴走。副作用が世痛の波の肥大化及び圧倒的カリスマの取得。パパの場合は傲慢に近い悔恨で、たまに後悔に溺れると何十年も戻ってこれなくなるんじゃない?」
「なっっ!!」
図星だったみたい。うん、うん、分かるよ。大罪となるまで己の感情が増加する程の悔い。それがどれだけ深く強く、悲しい物か。でも今は罪に流されちゃダメ。コツを教えるから、気を取り直して?
「いい? 『大罪人』になってしまえばもう後戻りは出来ない。罪の感情を受け入れることは出来ても抑えることは出来ないし、その生活はとても苦しいものになる。だから、未来について考えるんだよ。酷なことを、何も分からないくせに、と思うのは至極当然。でも、それが出来なければ止まる。復讐も出来ず、新たなステージに辿り着く事も出来ず。大丈夫、今は俺という新たな息子もいるし、ルカン兄さんだっている。だから安心して、パパ」
「…………まいったな、反論材料が全部潰されちまった」
そりゃそうだよ。一々反論して、それが切っ掛けで罪が顔を見せたら取り返しがつかないからね。
「なるほど、それなら納得だ。そうか、俺は……大罪人、なんだな」
「そういう事。ほら、それより『魔王』になる方法を教えるよ。パパの知るパパ達以外の『魔王』を越える力が身に付くんだよ」
「……なんだと!?」
ちなみに、既に歩みは止まっている。新事実にパパもルカン兄さんも足が動かないからだ。ルカン兄さんの場合翅だけど。
「当然。元々世界最強だったパパが『世界に影響を与える者』に進化すれば、その力ははかりしれない。まあ、パパの同種がいないと意味無いんだけどね。ところでルカン兄さん、パパの種族って?」
「え、えと……うん。えっと、大分変質してるけど、大本は喰鬼だよ」
「それは、他に存在する種族?」
「可能性はあるけど、そこまで育つかどうかが胆になるね」
「ならOK。パパ、残念だけど世痛の波は諦めてもらう。あれは同種の心臓または核を九百九十九個、己の心臓または核に連結させなければいけないから、数が少ない種族じゃ無理。その代わり『能力』なら出来そうだよ。あれは同種の生血を自分の体積と同量を飲み干すだけでいいから。まあ二、三体必要だろうけどね」
「……なるほど、それはまさしく魔がさした行動だな」
吐き気がする。とまで言いそうだった。
「悪いが、喰鬼は特殊な種でな。同じ奴を作るには一から育てないと中々生まれない。食う為に同種を育てるなんておぞましいことが、俺にはできん」
「それでこそパパ。まあ、まだ『勇者』になってないみたいだから未発見の喰鬼はいそうだけどね」
「……は?」
「いや、だから『勇者』は同種の九十九%に同一感情を向けられると成るからさ、もしパパが全ての喰鬼を支配下に置いて、そのすべてに尊敬の念を抱かせれば自然と『勇者』になるんだよ。まだ『異世界』単位でも大丈夫だから間に合うし」
実は突然変異が一番成りやすかったり。とはいえ、一定以上の力を持たないと成れないから数自体は少ないんだよね。
俺の提案を信じきれなかったのか、ルカン兄さんにも確認を取るパパ。それでいいよ、たった一つの情報源を真に受けて取り返しが付かないことをするような魔王は世界最強なんかじゃないんだから。
ルカン兄さんは俺の言葉を肯定した。
「そうか……『勇者』はどんな力を持つんだ? そしてそれは、あのクソッタレのゴミクズ共に通用するのか?」
「『勇者』の本質は『勇気ある者』。力は副産物に過ぎないってのが『世界に影響を与える者』なんだけど、それが同じ『世界に影響を与える者』なら十分互いを害する事が出来る。今回の場合はわざわざ『勇者』にバレないよう『魔王』を隠れ蓑にする程度の力しか持たない奴が相手だから、パパが『勇者』なり『魔王』なりになれば十分復讐を遂げる力が得られるよ」
気になるのは『勇者』共がこの世界に来ていない事くらいか。どうもルカン兄さん達とは接触があったみたいだけど、何故『魔王』を始末しない。世界の申し子、『妖精』ですら欺かれたのだからこの世界に来た『勇者』ならば件の『魔王』をほうっておくとは思えない。イカレた馬鹿が人為的にセムセジを復活させたか何かで忙しいのか?
少々不気味だけど……今気にしても仕方ないか。
今は『勇者』より魔王。つまりパパだ。
「……分かった。ならば当座の目的は喰鬼の探索とスカウトか。ニシキには返しきれない恩が出来たな」
「もう、そんな事言わないでよパパ。俺達は仮とはいえ家族なんだから、持っている知識で家族を助ける事くらい当たり前の行動だよ」
頭を下げようとするパパを制止して言う。それに、パパからは俺の原点と重要な知識、『邪狂』と『狂気の衣』という力を貰ったからね。恩だなんだって話ならそれで十分打ち消しあっているよ。むしろ俺のほうがまだ恩が多いくらいだ。
「それに、パパが強くなればクソッタレのゴミクズ共もぶち殺せる。異世界に日本語なんて浸透させやがった屑共を許せるほど俺は人間が腐っちゃいないよ」
「それもそうか。分かった、ならこうだ!」
うわっ! パパがいきなり頭ワシャワシャしてきた!? ぐわぁぁぁぁぁぁ。
「ぱ、パパぁ……」
「フハハハハハ! 辛気臭い話はもうおしまいだ! 未来を見据えて歩かなきゃならないんだ。だったら、進む道は楽しい方に限るだろ?」
「お父さん……」
……きし。まあ、それもそうだね!
「よ~し、だったら龍について語ろう! 実はついさっき古龍を仲間にしたんだよね。ヴルムっていう名前で、白くて赤い眼のワイバーン……」
「待て待て待て待て!! 古龍だと!? この森に一体いる事は把握していたが、黒蛇に近い筈だぞ!?」
ありゃ……きしし、まあ古龍について説明するのはいつもの事だ。辛気臭い話にはならないし、中森達がいる場所までの暇つぶしにはもってこいだろう。
新年明けましておめでとうございます。今日は誕生日なので読者様のPVが誕プレのようなものです(笑) もうネタに使うくらいしか価値の無い誕生日……悲しくなんてないんだからねー(無気力)




