第三十九話:なんとなく卑怯な通告
さて、盛り上がったところで。
「ああ、諸君の心意気と忠誠心は理解した。静まれ」
大きな声ではなかったものの、それでもすぐさま沈黙が支配するという事は少なからずこの先に話があると理解していたっつう事だな。ふむ、幼稚な演説にすら酔いしれる愚か者という評価は多少修正しなければならんな。
「先に言った通り、『ヴィルキット』はまだ自立できていない。何故か? それは異世界にクラス転移したからだ」
ほう、何人かは俺の言いたい事を理解した上で実質の問題点を把握したな。そしてその後何をやらされるか――恐らく某鬼軍曹的しごき――を想像して青くなっている。
「クラス転移。良いか、召喚と違って何の前触れも無く異世界に跳ばされたんだ。当然の如く備えなんて出来ちゃいないし、よりにもよって文明の欠片すら無い森の中だ。さらに言えばチートな能力なんかも備わっていない。こんな状況で、四日もたたずに自立する? そんな馬鹿げた真似が出来るはずは無い」
自衛隊学校とか防大とかならいざ知らず、あくまで一般人にカテゴライズされる我が校の生徒がいきなりサバイバルなんて出来る訳無い。
だけど、しなきゃいけない状況なんだよな、ここは。
「しかし、そんな悠長な事を言っていて良いのか? 俺はやだね。さっさと強くなって、現代日本とは言わないまでもせめてベッドと天井のある場所で寝たい。そして本を読みたい」
嘘も方便。俺はイルトミルジス達がいればどこだろうと構わない。虫の上位存在とも言えるヅィ・スコロペンドラがいれば嫌らしい毒虫とかも寄って来ないだろうし。
「そこで諸君に問おう……力が、欲しいか?」
努めて、努めて厳しい表情を作り優しげな声音で訊ねる。ここで怖がらせても一般的に言う悪魔との契約にしか見えないだろうし。
で、返ってきた答えだけど……見事なまでに揃った首肯。本当にどこかの騎士団の亡霊でも乗り移ったんと違うか? ほら、ジャック君絡みで。
(無いぜ。彼らは皆……俺が魂を殺してやったからな)
重い。まあ、ジャック君同様堕霊になったり蔑称『NTR幽霊』ことシェイドになったりするよりよっぽどマシだ。年代的にもう成仏してるだろうし、もしかしたらその内の一人くらいは同級生共の中に転生した奴がいる可能性は無きにしもあらずだ。無論、記憶は消えているけどな。
まあいい。それより続き続き。
「……ならば与えよう。長谷川! 例の物を」
「…………了解」
後ろに控えていた長谷川がポケットから複数の小瓶を取り出して俺に手渡す。小瓶を受け取った俺は、それを同級生共(最近忘れかけているけど勿論教師二人もいる)によく見えるよう頭より少し高い位置に翳してみせた。
「これは長谷川とガルハイシュが作り上げた諸君らに力を与える薬だ。まずこの黒い粉……これは火薬だ」
途端、ざわめきが起こる。まあ、この短期間で用意出来るような物じゃないから当然だけどな。純度も怪しいし、下手したらうまく機能しないかもしれないけど……それが良いんだよ。
「そしてもう一つ。コイツは『擬獣薬』と言って、一時的に獣の力を身に宿す事が出来る薬だ。言っておくけど、あくまで一時的に変身するのであって二度と元に戻らないという事は無い。そこんところは安心しろ」
あからさまに安堵の息を吐く女生徒。ま、分かってるさ。年頃の少女が一生をケダモノの姿で過ごさなくてはいけないなんて、むご過ぎる。
「そして最後のこれ。これは筋力や速力、持久力に防御力などを高める『身体能力強化薬』だ。今俺が持っているのは筋力増強の薬だけど、長谷川とガルハイシュは他の薬の開発にも成功している」
ちなみに材料はこの森で全て揃うそうだ。どうも『採取士』という『ジョブ』を持った『妖精』がいるらしく、そのパートナーも『ジョブ』無しで採取が巧いらしいから材料については問題ない。あるとすれば入れ物だ。ヅィ・スコロペンドラと試合したときにガルハイシュに言ったような手は『ジョブ』のレベル的に難しい。けど、まあ、ようは零れなくて携帯できれば良いんだ。そこらの木を削って入れ物を作ることくらい今の俺なら簡単に出来るだろう。
「これらを使い、この近辺に生息する魔獣を殺す。そうすると『ジョブ』の経験値が溜まってレベルアップがしやすくなる。戦闘系の『ジョブ』なら狩りで獲物を捕らえやすくなり、生産系の『ジョブ』ならより日本にいた頃と近い生活を送る為の道具を作ることが出来るようになる。未だ『ジョブ』に覚醒していない者でも最低限狩りは出来るようになるだろう」
最初の「殺す」という言葉に少々不穏な空気が流れたものの、そういう意味ではあまり躊躇が無い奴らばかりなのでその後のメリット掲示に納得の意を示していた。
ふむ、余計な事は言わないのが政治を行う上で大切なのだけど……
それだと誠実じゃねぇわな。
「ただし、相応の危険もある。魔獣に油断して殺される事だってあるかもしれないし、予想外の魔獣が現れるかもしれない。もしくは動かすにはなれていない擬獣の状態で攻撃を受ける事だってあるだろう。パニックの恐怖なんて、それこそ俺が言わなくても知っている者は多いはずだ」
……ふむ、一応その辺の事は言われなくても分かっているようだ。数人の同級生共がなんとなく頷いた例を除けば全員が何らかの納得を含みながら頷いている。まあ、ここら辺の柔軟さが凡人の通う学校の生徒と俺達のような少々頭のおかしい奴らが通う学校の生徒の違いだな。もっとも、覚悟の方は期待出来そうに無いけど。
まあ、一丁前に半端な覚悟を背負う馬鹿よりはよっぽどマシと思おう。
「さあ、これが長谷川とガルハイシュが俺に提案したレベルアップを促す計画の概要だ。細かいところは追々突き詰めていくとして、今後は火薬、擬獣薬、身体能力強化薬を使ったレベルアップをメインに活動する予定だ。何か質問は?」
三、四、手が上がる。
「ん、そこの女子、言ってみそ」
「日山さんから薬を作る人は女子にするって聞いてたんだけど……なんで長谷川君が?」
……あ、忘れてた。
まあでも、『薬士』の『ジョブ』を顕現させたのは長谷川だけだったし、仕方ないだろ。
「女子の誰も『薬士』になりたくなかったからだ。そういう質問も良いけど、今はレベルアップ計画の事だけに専念してくれ。他には?」
おい、上がった手の数が二つ減ってるぞ。これだから暢気な学生共は……まあいいけど。
「ほい、そこの男子」
「名前くらい覚えとけよな……郷田だよ。俺の『ジョブ』は『武士』なんだが、どうやって戦えって言うんだ? 今までの狩りでは伊能サマが用意した木の槍を使っていたが、それは俺が戦闘系だからだ。他の奴らには厳しいんじゃないか?」
なるほど。あの時俺が借りを作ったお手伝いさんか。ふむ、確かに今後アルミラージやゴブリン以上の強さを持つ魔獣を相手にする時は木槍じゃ厳しいな。
「なるほど。ガルハイシュ、『擬獣薬』を使うと具体的にどのように変化するんだ? その答えによって武器を用意するかしないかが決まってくるんだけど」
「我が主、『擬獣薬』の材料には動物や魔獣の毛を使うのですから、その毛の持ち主を模した半獣半人となる筈でございます」
「ならば現在擬獣薬に入れる予定の毛は何の毛だ?」
「メインとするのはアルミラージなのですが……この森には魔獣となっていない狼も生息しているので、もし確保できるのならその毛を用いた方がよろしいかと」
ああ、そういえば肉山の中にあったな。一応毛皮も残っているし、そいつを使わせるか。
「狼の毛皮なら既にヅィ・スコロペンドラ達が一定数確保している。後で運ばせるからそいつを使った擬獣薬を生産してくれ」
「承りましたとも、我が主!」
「それと、その場合の変化具合を教えて欲しいんだけど?」
「それならば答えることが出来ますとも。この森に生息する狼の毛を用いた擬獣薬を服用してすぐに効果が現れ始め、二分ほどで変化が完了いたします。その姿は獣人というよりはライカンスロープに似ており、狼の特徴とも言える高い持久力と鋭い牙、爪が主な武器となるでしょう。しかし、五感等も強化されるので、カヤクを使用する際は注意したほうがよろしいかと。尚、効果が切れるのは服用から約二時間でございますよ」
ほう、中々どうして優秀じゃないか。今後ヅィ・スコロペンドラ達には狼を優先して捕らえてもらうか。
「だ、そうだ。勿論慣れるまでは訓練期間を用意するけど、武器に関しては問題ないと判断出来る」
「分かった。それなら良さそうだ」
『武士』こと郷田は十分に納得した、というような表情で質問を終えた。そのやり取りで同級生共と教師も不安材料が一つ消えたというような感じで若干空気が和らいだ。う~ん、お前らヅィ・スコロペンドラと同等の存在がまだ森の中にいる事を忘れてるだろ?
「よし、方針については納得したな? 次は俺直々に幾人かの生徒を選んで特別な訓練を行う件についてだ」
最初の言葉で力強い肯定の返事が幾つも飛んで来たと思ったら直後に訝しげな雰囲気へと変貌した。まあ、贔屓すると言ったようなものだし、当然っちゃ当然だけど。
「これについては幹部にもまだ言ってなかったけど、俺達『ヴィルキット』はいずれヒトの町へ行く事になる。しかし、そこは俺達の敵である『魔王』の配下が住人たちにとって肯定的な存在となっている可能性が非常に高く、また精神操作系の『ジョブ』持ちを数多くそろえていると考えられる。根拠は宗教。よっぽどの馬鹿じゃなければ宗教という奴がヒトに対してどれだけ影響があるかは分かるよな?」
宗教の違いで戦争が起こる世界だったからな俺達の世界は。この世界だって似たようなものだし、その効力を知っている敵性日本人共が利用しない手は無い。
「それに、『魔王』は性格や素行の悪い日本人を「お前は選ばれた存在だー」と騙して、自分の配下に加えているという情報がある。つまり、このままのこのことヒトの町に行けば確実に同郷人である敵性日本人に見つかり、精神支配されてしまうという事になる。そんな事は嫌だろう?」
いくつか疑問を顔に浮かべるものの、最終的には全員頷いた。よろしい。
「だから『ヴィルキット』の表の顔を作る訳だ。その候補として最も適切だと思われるのがサーカス団。何でかって言うと、異世界の言葉に慣れていない俺達があまり喋らなくても不自然じゃなく、多種多様な髪の色や仮面をつけて顔を隠していても問題じゃないからだ。遠方より来訪した一座で、身内以外と喋る事を禁ずるという掟があると設定すれば突然話しかけられたときにも大丈夫だ」
目からウロコが落ちた、とでも言わんばかりに目を剥く同級生共が半数。それ以外も多少の不満は覚えたようだけど一応の納得は見せている。ま、不満があっても言いにくいだろうけどな。なんせ提案者が俺だから。
「そのための特別訓練だ。『ジョブ』的に身のこなしが軽かったりサーカスに相応しい行動が出来る者を集めてレベルアップ計画とは別方向で俺が直々に鍛える。そうすれば最低限芸を行える人材は確保出来る。他の奴らは建前上半人前の雑用係といった形にすればそうおかしな事にもならないはずだ」
あ、俺直々に鍛えると言ったところでほぼ全員顔を青くした。おい、いくら俺でも精神に異常をきたすようなキチガイ訓練なんかしないぞ。そんな事して訓練終了時に殺されるなんて嫌だからな。
「さて、その人員だけど……一応聞いておく、立候補する者は?」
皆無。当たり前だ。
じゃあ、俺が選ばせてもらうぞ?
「メインは『武士』と『変身士』と『曲芸士』。それと『転送士』と『人形士』だ。嫌とは言わせないぞ。サーカスにはもってこいの『ジョブ』だからな」
郷田と名前は忘れた四名が生贄に選ばれた村娘みたいな表情をした。その他の同級生共は憐れみの視線を送っている。うん、この扱いはちょっと酷いと思います。自業自得と言われればそれまでだけど。
「……その反応で俺がどういう扱いを受けているかは分かった。ならば選ばれた諸君には飴を与えようじゃないか。例のパンモドキ、あれを毎食に付けよう」
ここで多少しか態度が改善しないあたり俺が連中の中でどういう存在なのかが伺い知れるってもんだな。まあ、こういう扱いが実に気持ち良いと言える俺なんですけどね。いや、マゾとかそういう意味じゃなくて、単純に頭のおかしい変態野郎だって思われてるのが良いって意味で。
……しまった、ウィルフィールの野郎に笑われた気がする。ちくしょう!
「とにかく、今言った五人は俺直轄のサーカス部隊として扱うため、見張りのローテーションからは外れてもらう。これは贔屓とかではなく、単純に日夜努力を続けてもらうためだ。反論は許さん」
絶望の怨嗟が聞こえてくるようだ。仕方ないだろう、この世界……というより俺は、認めたくは無いけど色々と巻き込まれる体質なんだから。運命に嫌われているというかなんというか……まあ、そんな俺に従う意思を示した己を呪うんだな。
「さて、いよいよ本題だ」
『『『はぁぁぁぁぁぁ!?』』』
今までの内容が非常に濃かった為か、本題なのにあっさりとしていたからか、当惑の絶叫が木霊した。う~ん、今までの流れから簡単に予想できるはずなんだけどな……
「二週間後、中森夫妻の結婚式を行う。その為には色々と物を集める必要がある。二週間のうちの一週間は『ジョブ』レベルの上昇に励み、その後の一週間で必要な物を全て揃えて二度と忘れられないような結婚式にしなければならない!」
同級生共は絶句した。そりゃ、異世界転移四日目でそんな事を聞かされれば一般的なヒトならそういう反応をとるだろうな。まあでも、この命令に異を唱えたら同級生の幸せを願わない不届きな奴になるから不満たらたらでも反論は出来まい。
ちなみに、中森夫妻は既に顔がオーバーヒートして立ったまま気絶しかかっている。うん、ここで倒れられても困るし座らせよう。
「まあ詳しい話は幹部に聞いて、それでも分からなかったら俺に聞きに来い。正直中森夫妻の結婚式に関しては二人にロマンチックな結婚式を行って欲しいという完全な俺の我侭だから事情説明はきちんとする。とりあえず今はそれで納得してくれ。以上で演説を終了する。ああ、幹部共は集まって会議な。ウミガメやるぞ!」
結局纏めるのが面倒くさくなって適当に終わらせる。そもそもコミュ障の俺が演技を使ったとはいえ大勢の前で演説出来ただけ上出来なのだから。
さあ、俺が考えた水平思考クイズを解いて見せよ! と意気込んだところで稲田から待ったがかかった。
「あの、伊能。僕達はいいとして、他の皆はどうすればいいの?」
あー、そうか。基本的にレミスタンさんやマジェスティアザクに従事して武技を鍛えているのだから、その二人を会議に呼べば当然することが無くなる。ならばせめて指示を出さねばなるまい。
「じゃ、男子は一メートルぐらいの棒を持って全員素振り。女子は……適当な体力づくり。流石に筋トレは出来無さそうだからグルシオス達に対して拳を打ち込め。グルシオス達は基本的に防御中心で、変な癖があった場合直せる場合だけ直せ。どっちも足腰立たなくなるか会議終わるまで続けろよ。じゃ、そういう事で」
『『『鬼! 悪魔!』』』
「「錦!」」
おい、どさくさに紛れて俺の名前まで罵倒のレパートリーに入れやがったな。ちくしょう、結構声が重なったから誰が言ったか聞き取れなかった。くそっ、憶えてろよ、枦山と田神!
という訳で。
「そんじゃ、第一回ウミガメ大会開始~♪」
「「「お前絶対やりたかっただけだろ!」」」
バレたか。
でもいいじゃん。実益も兼ねてるんだし。
「そんじゃ、第一問。ある男はとても口が大きく、大勢の罪無き者達を餌食にしていました。しかし、ある日その男はついに喉を詰まらせ、大勢のヒトに蔑まれながら非業の死を遂げました。さて、この男は何故死んだのでしょう?」
それなりに嗜みのある者なら、というか作家ならほぼ時間をかける事も無く答えた上でもっと上手な問題に変換して自分の物とするだろう問題を出す。実際、俺はこれを自信満々に言ってボロボロにされた過去を持つからな。
無論、今回はさらに良い問題を作って返したけどな!
「え、ええっと……とりあえず、初見の人もいるんだからまずは説明から入ったら?」
比較的ウミガメに慣れている稲田がもっともな事を言ってきた。
確かに。ウミガメは俺達の専科でしかやってなかったもんな。
「ん、じゃあ説明するか……まあ、超簡単に言えば出題者が一見意味不明な問題を出して、回答者が出題者に制限回数だけYESかNOかで答えられる質問をする。「その男は何々ですか?」みたいにな。出題者は回答者の質問にきちんと答えなければならない。俺達は相談無し回答権十回のルールでやってたけど、今回は初心者もいるし相談有り回答権二十回で良いぞ」
その後、何回か説明を補正して全員(ゴブリンのゴグリオスとヅィ・スコロペンドラのマジェスティアザクを除く)が理解したところでもう一度同じ問題を出し、質問に答える。
「その男が餌食にしてきたのは老人ですか?」
「NO、だな。老若男女はあまり関係ない」
「非業の死って悲惨な死に方って事?」
「知らん。少なくとも俺は嫌だ」
「その男はネゴシエイターですか?」
「NO」
「分かった、その男って伊能だろ?」
「てめぇムカデ入れっぞ。NOだNO」
「ニシキ様、その男は日本人ですわね」
「何故断定する。NOだ。人種もあまり関係ないな」
「…………その男、独裁者だな」
「だから断定すんなって。ヒトラー的な意味の独裁者ならNOだな」
「伊能、その男は「君には才能がある。そう、まるでルビーの原石のように!」とかなんとか言って無理矢理歌わせて、挙句に著作権だけ持っていくエセプロデューサーか!?」
「どんなトラウマだよ。NOですよ先生」
「ふむ、ならばその男、悪どい商いをしていたのでしょう?」
「……まあ、商売と言えなくも無い、な。YESで」
「あの、もしかしてその男の人って身代わりに選ばれただけの人?」
「それをYESと言えない俺を笑っても良いぞ」
「ニシキ、そのヒトって詐欺師?」
「職業的な意味でならNOだよ、ルカン兄さん」
その後も何回か質問はあったものの、どれも正解にたどりつけるような物じゃなかった。
そんな中、突然中森が何かに気づいたように口を開いた。
「えっと、イノウ様。その男が餌食にしてきたのって人間だけじゃない?」
「ふむ……YES」
それに続くようにして若い方の先生が尋ねてきた。
「それじゃあ、その人は大食いですか?」
「……YES」
最後に怜悧さん。
「錦君、その男の人は物理的に喉を詰まらせて死んだのかしら?」
「YESだ」
両手を上げて降参を示す。そこまでバレてたらもう答えを当てられたような物だからな。
ふむ、この三人は比較的頭が切れるみたいだな。
「それじゃ、アタシが答えを言ってもいいかしら?」
怜悧さんの問いにこの場の全員が首肯する。
妙に自信満々な表情で怜悧さんは俺の予想通りの答えを口にした。
「その男は隠れ大食いチャンピオンかなにかなのね。それで、今まではいろんな人を騙してご飯を奢らせては大量に食べていた。だから無垢な者、つまり騙された人や食材を餌食にしていた。しかし、ついに大量の食べ物で喉を詰まらせて、今までの恨み辛みが蔑みに変わり、死んでいった。非業の死っていうのは窒息死ね。確かに、アタシでも嫌だわ」
「正解だ。まったく、即席とはいえよく解けたもんだな」
正確には殿堂入りしてんのに様々な大会主催者を騙くらかしてタダで大量の飯を食っている、って設定が入るけど、まあ似たようなもんだし良いだろ。
それにしても、なんとなく自信が無くなるな……まあ、ストックはたくさんあるんだ。それに俺だけが問題を出すわけじゃないから、良い。
それに今、新しい問題も思いついたし。
超ドヤ顔を見せる怜悧さんに苦笑を返しながらも全員に視線を向け、告げる。
「ま、こんな感じで常識とか先入観をぶっ壊す遊びだ。言っておくけど、今の問題は圧倒的に簡単な物だからな。後、各人一つは考えて置くように。次の問題を誰に出してもらうかは完全にランダムだからな。あ、イルトミルジス達は免除な。流石に言葉を発せ無いからな」
俺の言葉がよほど気に入らなかったのか、辟易した表情を見せる多数。
しかし、怜悧さんや野原先生、それと中森は何か思いついたような表情をしていた。ふむ、次はこの三人の中から選ぶか。
さて、気を引き締めて会議と行こう。
「そんじゃ……会議に入るか。と言っても議題も無い形だけの会議だけど。何か報告はあるか?」
日山さんが手を挙げた。
「美七ちゃんが『採取士』のジョブになったって言ってました」
「ほう、新しい『ジョブ』獲得者か。フルネームは?」
「都崎美七です」
「よし、じゃあ書いてくれ。漢字が分からん。他に無いか?」
日山さんに名簿を渡しながら訊ねる。手を挙げたのは中森。
「えっと、その、由奈が」
「ヒューヒュー、下の名前を呼び捨てかよ、御熱いねぇ~」
「!! や! そ、そんな、こと……」
伊藤が茶々を入れて中森をりんご……いや、最早蟹や海老のようなと言ったほうがいいほど赤くなった。やれやれ、これだからバカップルは見ていて面白い。
「伊藤、からかうのは良いけど今は遠慮してくれ」
「え、止めねぇの?」
小首を傾げても可愛くないぞ。そういうのはロリっ子やショタっ子や男の娘がやるから良いんじゃないか。まったく、お前のような男は黙って腕を組んでいればいいんだ。
「まあ、幸せ税ってヤツだからな。そもそも孕……勝手に恋人関係になって婚約までした中森夫妻が悪いんだし」
危ない、孕ませたなんて口が裂けても言えねぇってのに。流石に現段階でそんな事が発覚すれば色々とまずい。下手したら強引に迫って強姦した挙句に結婚すれば全部解決なんて風潮になる可能性がある。
……まあ、やはりと言うべきか中森妻の歩き方がぎこちなかったから何人かの同級生にはバレただろうけど。
「す、すみません、イノウ様……」
「謝る必要は無い。元を辿れば俺が原因みたいなもんだし、相思相愛で覚悟があるのならばむしろ推奨するまである。誇れよ中森。長沢由菜は希少種だ」
歯に衣着せぬ物良いに何人かの幹部が唖然とした表情を向けてきた。なんだよ、事実しか言ってねぇだろ。まだよく知らないヒトをとか馬鹿は言うけど、俺が何回高校生やってると思う? それなりに人を見る目には自信があるし、悪い女が孕んでまで中森とイチャイチャする筈が無い。仮に怪しまれない為の演技だとしても、その仕草はあくまで自然体だった。何より俺は下手な役者より演技が上手い男だ。最初から最後までの全てが演技だとしても必ずどこかにある綻びを見つけることが出来る。
何より、俺のアテにならない直感がもの静かだ。
という事は、逆説的に考えて長沢由菜は悪い女ではなく、悪くないのなら良いのであり、ひいては良い女なのである。
「さて、話を戻せ中森。あ、サンキューな」
じわじわと心の中を侵食してきた疑問を理論武装で浄化し、書き終わった日山さんから名簿を受け取りつつ中森に続きを促す。仕方ないだろ、一度そうかもって思い出したらもうやめられないのが人間っつうもんなんだから。止められず、むしろ自分理論で勘違いを増幅させる人間よりゃマシだ。
「……あ、はい。その、『調理士』のレベルが上がったみたいです」
「ほう、それは今後の料理……いや、賄いに期待して良いという事か?」
受け取ったばかりの名簿の長沢由菜の欄に正の字の縦棒を一本引く。レベルを表している訳だ。
「え、はい。そうですけど……なんで賄いなんですか?」
「馬っ鹿野郎、新妻の手料理を食べられるのは夫だけに決まっているだろ?」
再び蟹と化す中森。もはや大名を名乗っても問題無いレベルである。
「う、あ……あう、あ、あの、ひゃの……」
「分かったから大人しくしとけ」
頭の上に湯気を幻視出来そうな中森を落ち着かせる。今更だけど異世界転移後に人間関係が滅茶苦茶な上書きを見せたな。まさか俺が同級生を祝福し、面倒を見てやる時が来るとは思わなかったぞ。
「他に何かあるか? はい、大谷先生」
すると年イった方の先生が真剣な表情で手を挙げたので指名する。
「この訳の分からん世界で……」
「俺が知っている世界を訳の分からんと申すか? ああん? つーか世界が認めた『ジョブ』を持っている癖に何抜かしてんだ。切るぞ」
一々俺の神経を逆なでするのが上手い先生だな、おい。
「う、す、すまん……ともかく、この世界で生きていく為には相応の覚悟と努力が必要なのはわかる。だけど、あまり虐待とかシゴキとかは……」
「言いたいことは分かったけど、ぶっちゃけ後二ヶ月くらいで俺とレミスタンさんの食人衝動が抑えられなくなるからその間にヒトの町にいかなくちゃならない。そしてそれに合わせて建前である『ヴィルキット』サーカス団を形にしなくちゃならない。その為にはぶっ壊れない程度に鍛え上げるしか方法は無い。それとも、この世界を訳の分からんと表現する先生なら何か良い案でも出せるって言うんですか?」
恐らく最初の食人衝動~辺りから既に反論できなくなっていただろうけど、この際現実を突きつけるためにあえて懇切丁寧に説明する。教師が生徒の安全を考えることなんて当たり前のこと。なら、その生徒が俺の欲望に喰い散らかされないようにするしかない。どっちみち俺には逆らえないんだから、そういう無駄な愚行は本当に止めてほしい。
「そもそもあんたも含めて同級生共は全員俺の奴隷だよ。奴隷をどう扱おうが俺の勝手じゃないか。よもや異世界に人権なんて持ってくる気じゃねぇだろう?」
新たなるクサビで完全に沈黙する教師。それで良い。もし元の世界でも守られていた試しが、非常に、とにかく、滅茶苦茶、まったく、ありえないほどに、とんでもなく、少ない人権なんて持ってこられたら……
俺は衝動のままにアギトを動かしていただろう。
「他には? 無い? それなら指示を与える。中森と……川越以外は長谷川とガルハイシュにレベルアップの為の作戦を聞いた後、各班を率いてレベル上げに向かえ。ゴグリオスは部下を従えて、ヅィ・スコロペンドラ諸君とレミスタンさんは万が一の為の護衛。ただし、一人死ぬまで手を出すな。リーダー共、お前らが率いる奴らは全員日本帰還に必要な人材だ。自分の判断ミスで殺すなよ。長谷川とガルハイシュは『採取士』コンビとウラガットの指揮権を与える。継続して計画の薬を生産し続けろ。ルカン兄さんとイルトミルジスは俺に付いて来い。以上で指示を終える。各自解散。俺の為に尽くせよ、望郷は俺の命にかかっているのだから」
先の会議とはまた違ったシメの形で終わらせ、俺はさっさと立ち上がってイルトミルジスとルカン兄さんを引き連れてヴルム達が待機している場所へ戻るのだった。
なんだろう、何かおかしな方向に暴走してる。おかしい。プロット的な物には従っているはずなのに。何故だ。解せん……




