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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
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第三十八話:なんとなく勝手な指導者

 さて、そろそろお遊びをやめて肉を焼こう。

 幸い、中森という存在を見て思い出した策がある。


「中森、ファイヤーエレメントの類は何体呼べる? 出来れば人数分確保して全員に肉を焼かせたいんだけど」


 この場にいる肉焼き要員は中森、中森妻、俺、郷田、名前も知らない男女一人ずつの六人。田神と実姉に童貞を奪われた男子はパートナーの『妖精』と共に置いてきた肉を取りに行っているためいない。友里亜を除外している理由は、なんとなくだ。どうも嫌な予感がしてならない。本人のやる気も無いみたいだし。ていうか、ならなんで手伝いに志願したって話だけど。


「はい、えっと……恐らく六体ほど呼べます。試してはいないのであくまで目算ですけど」

「ふむ、なら五体分呼び出してくれ。なるべく部屋の中央に呼べよ、壁に燃え移ったら俺を除いた全員が燻製になっちまう」


 俺の言葉に火事でも想像したのか焦った表情で中森にくれぐれもと念を押す郷田と他二人。中森は意外な事に心外だと言わんばかりの表情で部屋の中央に立ち、詠唱を始める。


「サモン・ファイヤーエレメント! サモン・ファイヤーエレメント!」


 中森が叫ぶと同時に二体の精霊が現れる。ほう、これが実物の炎の精霊か。なるほど、また一つ真実を確かめる事が出来たな。


「サモン・ファイヤーエレメント! サモン・ファイヤーエレメント! サモン・ファイヤーエレメント!」

「よし。郷田とそこの二人はそこに置いてある鉄串に肉を刺して焼け。各妖精諸君は協力して一つのエレメントで肉を焼いてくれ。中森、ご苦労だった。中……長沢のところに行って手伝って来い」

「「「了解」」」

『『『分かりました、イノウ様』』』

「はい、了解です」


 よし、これで肉を焼く時間が短縮できる。念のためにと鉄串――正確にはエストック状の警棒だけど――を用意しておいて正解だったな。それにしても中森の成長が無ければ実現できなかった事だし、改めて褒美を考えておかないとな。


「さて……っと、物は試し」


 中森を除いた各々が鉄串を手にファイヤーエレメントで肉焼きを開始するのを尻目に俺は肉の山に手を伸ばし、両手で一切れずつ掴んで直接ファイヤーエレメントに翳す。


「い、伊能様! 大丈夫なんですか!?」


 突然の自傷行為に慌てて友里亜が声を荒げる。その声に引かれて俺に眼を向けた郷田達もギョッと目を見開いて驚きを顔に表した。


「ん、大丈夫。俺ってばグールになったからそこそこ皮膚の強度が高いらしくて、あんまり熱くない。流石にあまり長く置いておくと感覚の問題で手を離すだろうけど、火傷まではしないと思う」

「「「グール!?」」」

「グールってなんですか?」


 ……あれ? まだ言ってなかったっけ? ああ、そういえば幹部にしか言ってなかったな。


「グールっつうのは人喰いアンデッドだ。ただし、俺はレミスタンさんという供給源があるからお前らは心配しなくて良い。特徴としては体のスペックがヒトの三~五倍ってくらいだ」

「い、いつの間に!? これは記しておかないと!」


 俺の説明に唖然とする友里亜を除いた三人。だけどすぐに「伊能ならなんでもありか」という目で俺を見てきた。うむ、順調に調教は進んでいるな。


「まあでも俺に喰ってほしいとか言う変態は歓迎だぜ。食べ比べとかしたいし」

「いや、それはちょっと……」


 名前を知らない女子がこの場を代表した答えを返した。まあ分かってるよ。


「冗談だ冗談。それよりほれ、手が止まってるぞ」


 俺の指摘に慌てて鉄串をひっくり返す三人。俺のほうは……もう少し焼いたほうが美味いだろうな。


「焼きあがったらそこの盆の上に置いて新しい肉を焼いてくれ」


 最小限の指示を出し終え、俺は肉焼きに集中する。それにしてもこの距離で炎を見る機会なんて無かったからわりと斬新な気分だ。まあ、ファイヤーエレメントだけど。




 その後も帰ってきた田神と姉に童貞を奪われた男子に俺の所業を見られ驚かれたり友里亜に俺の武勇伝を聞かれたりとそれなりに交流を深めながら肉を焼き、ついに用意した肉が美味そうな焼肉へと変化した。


「うし、そんじゃあ盆を運ぶぞ。友里亜は手伝いを呼んできてくれ。流石に焼いた状態でまだブツクサ文句を言うような奴もいないだろう。いたらぶん殴っていいぞ」

「分かりました! 伊能様!」


 結局最後まで何しに来たか分からない友里亜を伝令に頼み、肉を運ぶ。途中雑談しながらイルトミルジスに見惚れてコケかけたり友里亜が連れてきた手伝いとすれ違いながら広場へ着き、肉を置いてから再び小屋へ向かう。似たような事を二度繰り返してようやく全ての肉を運び終えた。


「よし! 皆お疲れさん。さて……」


 この場には『ヴィルキット』全員がいる。加えてヴルムやフォグザヌちゃんもいて、それなりに緊張感が漂っている。ふむ、まあでもそれなりに打ち解けたようにフォグザヌちゃんと話をしているメンバーもいるな。如何に日本人嫌いのフォグザヌちゃんと言えど、転移してきた時の自分と同年代くらいの同郷人を相手に会話は出来るようだ。なにやら百合臭い話をしているようにも聞こえるけど、俺は何も聞かなかった。誰がフタナリなだけだバーカ! バーカ! 付いてすらねぇし俺は男だ!

 ちなみにヴルムはただ黙々と人化の練習をしているので話しかけられても気づいていない。


「アフトゥン! ああ、いや、傾注! これより宴を始める。皆のもの! 食えや歌え!」


 ポカーンとなる一同。おい、ここは歓声を上げて肉に殺到する所だろ。


「えと、伊能。何の宴なの?」


 稲田が代表して聞いてきた。ふむ、そういえば趣旨を説明してからのほうが宴の理由としては受け入れられやすいだろうな。


「ああ、それはな……中森! 長沢!」

「は、はい!」

「……」


 比較的俺の傍に控えていた中森と中森妻を呼び、俺の前に立たせる。周囲の視線が中森と中森妻に集中し、二人とも羞恥に頬を染める。まったく、中森妻はともかく中森はシャキッとしろよな。


「二人共、これはお前ら二人の問題だ。まさかアレを俺に任せるとは言うまいな?」


 仕方ないので助け舟を出してやると、中森と中森妻が一瞬お互いに視線を向け、何か決意を秘めたように頷き……なんと衆目集まる場で堂々と手を繋いだ。それも恋人同士がやるような指を絡める熱いやつ。


 一同、シーンとなる。


僕たちは(私たちは)

私たちは(僕たちは)


 流石はバカップル、息ピッタリに声を揃えそのまま二の句を告げる。


「「婚約しました!!」」

『『『は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』』』


 事情を知っている者を除き、全員が驚愕と疑問溢れる悲鳴を上げる。なんともはや、なんて予想通りの展開なんだ。ていうか、これはネタに走ったのか? 結構マイナーだぞ?


「こ、婚約、だと?」

「え、それって付き合ってたってこと?」

「私長沢さんと同じ専科だったけど、知らないわよ?」

「中森! お前いつの間に恋人なんて作ってたんだ!?」


 等々、ざわめき溢れる場。

 流石に羞恥に耐えられなくなったのか、そっぽを向く婚約者二人。しかし手を絡めたままだという如何にもバカップルなその様子は、もう一周回ってとても微笑ましい物だった。少なくとも俺にとって。


「さてさて諸君! さあ諸君! 事情はハッキリしただろ? 今宵……でもないな。まあいい、宴だ諸君! 食べよ歌えよ戦えよ!」

「いや、戦わないからな?」


 『鍛治士』……伊藤にツッコまれた。えぇ、良いじゃん、戦おうよ。まあいいけどさ。


「ほら中森、中森妻も。せっかくの婚約パーティーなんだ、ゆっくりハメを外してドンちゃん騒ぎしようぜ!」

「はい! イノウ様!」

「……キャラが安定していない」


 なにか呟かれたような気もするけど、まあいつもの微妙にヴェノム()リングア()的な苦言だろう。気にする事は無い。

 それより。


「おう、てめぇら! 俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 自慢だけど、俺は即興歌じゃなく既存の、それも聞きなれた歌なら下手な歌手より巧いんだぜ! 突撃ラブハート!

 最初は呆れ返っていた同級生諸君+フォグザヌちゃんだったけど俺の熱気溢れる歌に段々感化されてきたのか、どうにか宴会らしい雰囲気になってきた。ゴブリンやオークたち、果てはヅィ・スコロペンドラ達まで熱狂するとは予想外だったけど。まあいい。


「おっしゃあ!」


 歌い終わり、次の歌へ移行。youはshock!


「てめぇらも参加しやがれ!」


 今度は同級生共でも歌える歌……少年よ、神話になれ!


「まだまだ!」


 お次はちょいとマニアックな歌。ガガガ、ガガガ、ガオガイガー!


「おらおら!」


 そろそろ終わらせねぇとな。going going alone way!


「そらシメだ! 盛り上がって行こうぜ!」


 答えは、そう……い、つもここに、あ、る……


「ふぅ……」

「お疲れ様ですわ、ニシキ様。とても素晴らしい歌でしたわ」


 燃え尽きた俺にレミスタンさんが紙コップと何かの塊を手に近づいてきた。


「おぉ、サンキュ。俺も久々に熱唱したぜ」

「その口癖も何かに影響されたのですか?」

「ん? お、おう……んっん! いや、元々俺は理知的じゃなく暴力的な性格だからな、熱狂的な方向に興奮すると言葉遣いまで荒くなるんだ」

「なるほどですわ……こちら、お飲みになられますか?」

「貰う。ありがとな」


 そう言って手に持った紙コップを俺に差し出してくるレミスタンさん。ありがたく頂く。コク、コク……ふむ、昨日飲んだのが酒だとすると、こちらはワインとでも言おうか。ほのかに香る鉄錆の匂いが鼻腔を擽り、舌に絡まるドロっとした半固体……というより四分の一固体という具合の血肉はほどよい旨味と濃い鉄の味を口の中で交互に感じさせ、喉を通るその瞬間はまさに極上。なんと、これほどまでに美味い飲み物がこの世にあったのか。


「――レミスタンさん、これは?」

「どうやらお気に召したようですわね。これはレベル8以上の戦闘系『ジョブ』持ちと同じくレベル8以上の後衛系『ジョブ』持ちの血と肉と心臓を5対4対1の割合で混ぜ合わせ、百年ほど熟成させた高級ブラッドワイン『テラ』ですわ」


 なるほど、心臓か。常に新しい血液が供給される部位となればその新鮮さは保障されているようなもの。四強能力的にはともかく、純粋に食材としてなら俺たちグールにとって破格の美味しさをもたらすのだろう。今回のはワインだけど。


「素晴らしい……中森と中森妻の結婚式の際は是非持ってきてくれないかな?」

「ええ、もちろんですわ。私のコレクションは残念ながら多くのアンデッドが好まない物ばかりですけど、ブラッドワイン系列だけは偉大なる魔王ロクル様もお認めになるのですから」


 ふむ、グールの頂点……というよりアンデッドの頂点であるパパが認める物を持ち出す、ということは……


「まさか……もう連絡したのか?」

「いえ、私からは特に。ですが、偉大なる魔王ロクル様は、ニシキ様の為ならば必ず応えてくださると思いますわ。ですから、偉大なる魔王ロクル様がいらっしゃることを前提として考えているのですわ」


 なるほど、納得だ。配下に性格を把握されているなんて、パパはよっぽど信頼されているんだな。流石パパ。最強の魔王。


「そうか、なら期待させてもらおう」

「はい、是非に」


 深々と頭を下げるレミスタンさん。よほど自分のお気に入りを評価されたのが嬉しいみたいだ。俺も分かるよ。本を勧めて、本を理解してもらえて、同じ話が出来る歓喜はまさに、天にも昇るような充実した日常だ。


「ではニシキ様、お食事でございますわ」


 そう言ってレミスタンさんはレミスタンさん自身の足と同じ大きさの銅い塊を俺に手渡し、宴の席へと戻っていった。なるほど、これが梱包形態の『邪狂』か。

 幸いそれほど硬くは無いようで、俺の麻痺爪でも十分引き裂けた。中から出てきたのは……流石レミスタンさん、きちんと皮を剥ぎ所々肉を削いでハッキリ『足』だとは分からないようになっている。ありがたい。


「そんじゃ、いただきますっと」


 まずは膝より下。ギチッ、ギヂギヂ、ブチッ……もぐもぐ、ゴクン。うむ、それなりに美味しいな。流石に人肉や猿肉は食べた事が無いから例えようも無いけど、まあ豚でも牛でも鳥でも魚でも馬でも兎でも鹿でも猪でも蜥蜴でも蛇でも無いと言っておこう。うまうま。


 さて……メインディッシュ、キュイス()だ。

 十徳ナイフからナイフを取り出し、一口サイズに切り分ける。流石にメインディッシュまで食いちぎって食べる訳にはいかないだろ礼儀的に。さっさっっと全て一切れサイズに切り分け、ナイフをしまう。変わりにフォークを取り出し、切り分けた肉に刺し、そのまま口に運ぶ。


 ……ほう、やはり目をつけた通り美味いな。グールになるために食った内臓やさっき食べた足の肉とは比べ物にならない。それに若干牛っぽい味が何気なく懐かしさを感じさせるのもまた、興があって良い。

 しっかり味わいながらも勢いに任せて食べた為か、カットした肉はあっという間に無くなってしまった。美味しかった。


「ごちそうさま、と」


 手を合わせて少し頭を下げる。

 辺りを見回せば既に宴もたけなわ。小食な奴らがまだ少し肉を食っているのみで、後は飲み水片手に雑談を交わしている奴らが殆どだ。俺の熱気に当てられたのか歌を歌っている奴もいる。ソーラン節とは渋いな。


「……さて、そろそろか」


 一つ呟き、宴の中心よりやや外れた場所でチマチマ食っている二人に近づく。


「長谷川、ガルハイシュ、準備は良いか?」

「…………」

「勿論ですとも我が主!」


 俺の問いに無言で計画書を取り出し首肯する長谷川と仰々しい言葉遣いで一々華麗なお辞儀を決め答えるガルハイシュ。今更ながら我が校は中々に濃い面子が揃っていたんだな予想より。

 後は、舞台を整えるだけ。


「長谷川、ブツはあるか?」

「…………見くびるな」

「ガルハイシュ、サポート頼むぞ」

「お任せ下さい我が主!」


 よし。後は……


「……イルトミルジス、指定場所で待機。ああ、長谷川とガルハイシュもあそこで待機しててくれ」


 イルトミルジスに、もはや念話と言っても過言ではない方法で指示を出しながら長谷川とガルハイシュにさっきまで俺が熱狂していた場所を指差しながら言う。二人は無言と仰々しい言葉で肯定する。


 そして俺はヴルムとフォグザヌちゃんの下で兎の肉を噛み千切って美味しそうに食べているナヴァンに近づく。

 予想通りフォグザヌちゃんから突っ込んできた尻尾をジャンプで避け、今は食事に集中とばかりに人化の訓練を中断して荒々しく肉を食べていたヴルムがフォグザヌちゃんを窘める。そろそろ様式美になりそうだな。


 予想通りの展開で三龍を和ませたところで本題に入る。


「お三方、ちょいと着いてきてもらえないか? これから新たなる演説だ。力を貸してほしい」


 俺の頼みに三者はそれぞれ……


「クぉん!」

「アネ……イヤ、ニシキヨ。オーケイダトモ」

「ふん、自らの言葉を納得させるためだけに龍を使うのね。所詮虫けらのような男という事……ああ、あなた。そんな目で見ないでよ。わ、分かったわよ」


 素直に首肯、何を今更と肯定、蔑んで窘められて渋々肯定、という物だった。フォグザヌちゃんはもう少しお淑やかになった方が良い。その内旦那に愛想尽かれるぞ?


「そうか、ありがとう。今回の演説は『ヴィルキット』の為にどうしても必要な事だったんだ。重ねて言うけど、ありがとう」


 竜。それはファンタジーに傾倒している人種でなくとも十分以上に畏怖を持つ種族。あまねく世界において上位の力を持ち、自前で『人型』になる力を持つ最強生物。残念ながら純人型ではないため可能性の幅は狭くなるのだけど、それを置くにしても間違えようの無い強者なのは確か。

 その下位互換とはいえ、立派な古龍とその子供が味方として、自らの主に肩入れしていると知ったときヒトは、絶大な安心を得る。真の意味で完全なる安全などありえないのだから、例えそれが幻想だとしてもなんら問題は無い。


 ようはやる気とモチベーションの向上なのだけど。


「よし、じゃあ行くか」


 そして俺は歩み出す。

 二度と戻れない、栄光ある組織の主としての道を。




 右にイルトミルジス、左にナヴァン。

 右後ろにヴルム、左後ろにフォグザヌちゃん。

 その合間に長谷川とガルハイシュ。


 眼前にはこれから何が始まるのか、一体どうなってしまうんだ、というような感情渦巻く『ヴィルキット』諸君の表情が手に取るように分かる。対して俺の配下は冷静そのもので、俺を信じきった目でこっちを見ている。おかしいな、歌を教えた、という理由で何かを与えるというラインに合格したドラキーはともかく、ほぼ何もしてないオークとかはなんで俺に懐いた? ふ~む、要調査だな。


 それはともかく。


「傾注! 諸君、待たせたな。中森夫妻婚約の宴は大いに盛り上がり、大成功と言っても構わないだろう」


 お二人さんが揃って頬の血流を促進させ、それでも絡めた手を離さない。

 その様に一瞬微笑み、次は組織の長としての顔を見せる。


「だけど、それは貴様らだけの成果ではない! 確かに、レミスタンさんの訓練ついでに狩ったアルミラージの肉も諸君の胃袋に納まったかもしれない。しかし、その殆どは我が配下の集めた肉だ。つまり、俺個人に依存していると言っても他ならない現状である!」


 何を今更な、という顔をされた。失敬な。


「いいか諸君! 一応言っておくけど『ヴィルキット』の最終目的は『魔王』の排斥と『勇者』の撃退だ。この内『魔王』は俺が対処しよう。するべきとも言えるけど。しかし、『勇者』だけは俺一人ではとても勝ち目が無い」


 この言葉に史上最大の衝撃が走った。おい、いくら俺が強くてもまだ最強って訳じゃないんだからそこまで驚くなよ。まあ『魔王』もまだ倒せないけど。


「『魔王』は孤独だ。排斥されるべき行為の果てにいるのだからな。しかし、『勇者』は基本的に一つのパーティーで行動する。単体では『魔王』に劣る『勇者』であっても、四人一組でこられたら厄介極まりない。某ツナギの配管工で例えるなら別の攻撃手段を持つクッパが四種類一気に出てくるような物だ。しかもプレイヤーが操作していると考えてもいいだろう」


 脅威が伝わったのか、一部の同級生がブルブル震えだした。他の同級生共も何となく想像できるのか、不安げな顔を作った。まったく情けない……クッパを倒すのはいつだってマリオと決まっているのに。


「しかし! 諸君らはゲームの登場キャラか? 否! 断じて、否である! この世界は諸君に『ジョブ』という形で無限の可能性を与えてくれる! つまり、登場キャラを増やそうと、ステージを弄くろうと、不思議アイテムを大量に用意しようと、チートだなんだと誰に文句を言われる筋合いは無い、正々堂々とした戦いになるという事だ!」


 そもそも『勇者』は勇者と違って寿命の概念がほぼ無いに等しいから年齢という確たるチートがある。こちらが多少悪知恵を働かせて戦力を用意したってなんら責められる筋合いは無い。ゲームで例えるなら『勇者』は時間の流れが遅い世界でゲームを研鑽した熟練プレイヤーで、俺たちはゲームというジャンルの知識を持っている技術者だ。どちらがよりズルイ(チート)なのか、言うまでも無いだろう。


「諸君の目的は、元の世界に帰る事だろう。しかし、俺は違う。俺は元の世界に帰っても『勇者』に付け狙われる。そして俺の大事な芯たる小説を奪われる事となるだろう……」


 うっ、しまった。仮体験が自動で発動して素で悲痛な顔が出てしまった。ちくしょう、個人の感情を出しては演説として失敗だと……

 ん? なんか目を逸らしたり涙ぐんだりしてるんだけど……これはあれか、感化されたのか? そこまで俺は悲しそうな顔をしていたと?


 ……流石俺。


「俺は! そんな事絶対に許さない! 何故なら! 本とは俺の命であり、唯一の価値なのだから! 見ろこの俺を! ふむ、確かに女と見紛う美少年で、戦闘に関してはイカレたほどに才能を見せる、まさに優等種と言っても良いだろう。だけど、俺はどんなブサイクになれと言われても、脂肪でブヨブヨの体になれと言われても、絶対に一冊の本を優先するほどの本馬鹿だ! そんな俺が本から切り離されて、まともな精神を保てると思うか? 否だ! きっとおぞましい事をするに決まっている。それこそ、誰も彼もを巻き込んで誰からも唾棄されるべきテロ行為を行って日本を壊滅させるような出来事を!」


 ここで真剣に顔を青ざめさせる奴ばかりがいるって時点で俺がどう思われているか分かるという物だな。まあ中森や怜悧さんは気づいているだろうけど。俺が暴れる事によって生み出されなくなる本がある。だから俺は暴れない、と。

 正解だよ。クソッタレ。


「勘違いしないように言っておくけど、これは脅しではない。恐らくこの先に待つ数多の誘惑や葛藤に陥った際にもっとも愚劣な策、すなわち俺を裏切るという選択をしないためのリミッターだ。しかし、こうでも言わなければ決して打倒出来る相手ではないという事だけは言っておこう。『勇者』は、覚悟を決めた者の感情を中和して戦いそのものを無かった物にする最低のチキン野郎共なのだから」


 想像してみろ。

 家族の、友人の、恋人のために勇気を振り絞って戦いの場に出たと思ったら。

 急に本物と何一つ変わらない姿、匂い、感触、雰囲気、言葉、心を持った家族、友人、恋人が現れる。そればかりか、「もう戦わなくて良い。辛い覚悟なんて背負う必要は無い」と言うのだ。

 凡人に耐えられる所業か? 否。むしろ逆、如何にも正しい『勇者』の側についてしまうだろう。

 そもそも、『勇者』とは決して悪なる存在ではないのだから。


「さて諸君、念のためもう一つ言っておく。俺は元の世界に帰るための方法を知っている。何故か? それは俺が小説家だからだ。諸君らも知っているだろう、クミオエット・J・エベミスの名と、狂道を突っ走る作品を。あれらは全て、実際にあると想定して書いた物が殆どだ。そして内容は酷く、異世界ファンタジーやSFに傾いていた。勿論、ラブコメや学園バトル系も書いてきたけど、それすらファンタジーやSFに連なる要素が入っていたのは疑いようの無い事実だ。そしてそんな作品を書いてきた俺が、実際に異世界へ転移した事でその正当性が示された訳だ。俺が元の世界に帰るための方法を知っている理由については、納得したことだろう」


 これには幹部を除いた約半数がうんうんと頷いて肯定を示していた。俺の作品は結構有名だからな。俺がクミオエット・J・エベミスだと知らない奴でも読んでいる可能性は十分ある。


「つまり、諸君は俺がいないと帰れない訳だ。そこで俺と諸君は契約を結んだ。俺が諸君に元の世界への帰り道と栄光なり財産なりを用意する代わりに、『勇者』を撃退するまで諸君が俺に仕える、と。ふん、馬鹿馬鹿しい。諸君らの判断は常識に照らし合わせれば致命的な間違いであり、平気でヒトを殺すような奴を容易に受け入れるべきじゃなかったんだ」


 おーおー、雲行きが怪しくなってきたって顔してるな。でもこれ以上やると本格的に感づかれるからやめ。


「だけど! 諸君らは幸運だ! 本来なら唾棄すべき独裁者が俺のような、賢智に溢れる者となって現れたのだから! なにを自惚れとヒトは言うだろう。だけど、だからどうした? 俺は効率を重視しながらもヒト個人という概念を無視しない、最高の組織を作ることが出来る! 虐げるだけの独裁者ではなく、執政者として諸君らに向き合う覚悟だ! 良いか! 独裁者とは、悪がなるから悪なのだよ!」


 実際、下手な民主主義なんかより帝政のほうが確率論と効率を考えれば最も優れた政治形態だからな。腐敗が確実に起こらない、という前提なら王政でも構わないけど。


「我が『ヴィルキット』、諸君らの栄光『ヴィルキット』。険しい道を登るハメになり、時には脱落者が出る事だろう。しかし、諸君は知っておくべきだろう。俺が決して諸君らを殺さないという事を、その生き様を忘れないという事を。そして、地位ある者として自らの言葉に責任を持つことを!」


 さて、まあ長ったらしくカンペも用意せずに始めた演説だけど、予想以上に盛り上がってきたなぁ……本当に大丈夫かコイツラ。俺だったらこんな支離滅裂な演説をほざくような奴は路傍の石より価値が無いと判断しているところだぞ。


 ま、ヒトなんて禄にヒトの話なんて聞いてない。空気で会話をしている生き物だっつう良い証拠だな。


「さて……そろそろ始めようか、諸君。我ら『ヴィルキット』の歴史に大きな足跡を刻み、栄光なる無二の道(オリジナルロード)を独走する為に!!」


 う~ん、確かにサクラは入れてたけど、こんなんでニシキコールが巻き起こるって……お兄さんちょっと心配。これからはちゃんとカンペ用意しよ。


 なにかを暴走させた気がする。

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