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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
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第三十七話:なんとなく近道な遠回り

 今回、説明くどかったり長かったりします。荒削りな部分もあるので矛盾とかあったらぜひお教えくださいませ感想で。

 さて、気分を切り替えていこうか。

 カタカタシメシメガサガサ&ウネウネと交流を続ける自然由来スライム……なんか不細工な名前だな。ガイアスライム? いや、既存感が半端無いな。

 ルカン兄さんに聞いてから決めよう。


 ともかく……自然由来スライム(仮)を見て癒されながら嫌な気分を108ある特技『マシンハート』にて振り払う。完全に振り払えず再び纏わりついてきそうな感情の残滓はジャック君が美味しそうに食べてくれた。堕霊便利。


「さて……センチピルダー、トリゼェイソン、グルシオス、任務達成ご苦労。諸君らの働きは俺に大いなる野望を与えてくれた。大儀なんてもんじゃない。不恰好な言葉で許してくるのなら、超巨儀であると告げたいくらいだ」

キシキシ!

キシキシ

「ギグ……」


 ん? なになに……ああ、そうか。そういえば伝令役に任命していたな。その役をトリゼェイソンに取られ、挙句陵辱されてしまい申し訳ないと。ふむふむ、なるほどな。


「いや待てよ。お前なんで俺に対して忠誠心を抱いている?」


 この世界の生物従属の法則において、配下は主に好待遇を受け主を認めなければ忠誠を尽くすことは無いと聞いた。だけどグルシオスは『申し訳ない』と俺に悪びれている。これは恐怖故ではなく、『主の信頼を裏切った』という認識が無ければ生み出せない感情である。グルシオスにはゴグリオスにとってのハイバンダナのような贈り物はしていないにも関わらず、である。それがちと気になる。


「ガギギ、グギガガ、ゴギグゲ」

「ほう、思うところはあるものの、自身が肯定してきた事は弱肉強食。殺されなかったのなら従うのは当然、と。良い心がけだ。けどそこまで悔やむ事はないぞ、お前はどうやら戦闘が得意らしいし、そんな奴を伝令役と縛り付けた俺の失態だ」

「ゴグ、ギギ」


 うむ、素直なのは良いことだぞ。

 まあ、ウラガットという例外もいるし、グルシオスは遭遇時から武闘派だった。考えてみれば不自然なところはなにも無い。


『なんであの支離滅裂な感情からそこまで正確に聞き分けられるんだよ』


 ケプッと負の感情(おやつ)を食べてご満悦なジャック君が顕現しながらそんな事を言ってきた。俺の体を乗っ取ろうとしたお仕置きをふと思い出したけど、俺にとって余計な感情を食ってくれたんだから良しとしよう。よかったなジャック君。


「そりゃ、主だからな。それに俺は小説家であり『仮体験』を使いこなす狂人だ。感情から言い分を推測する術くらい持ってるさ」

『『仮体験』って何?』

「体験した事を頭の中で再現して何故そうなったかを推測する、俺の108ある特技だ。それなりに才能があれば誰でも使えるぞ」

『……なんとなく言いたい事は分かる。けどオレには才能が無さそうだ』

「理解できるだけで十分才能はあるさ。伸び代が俺より短いというだけで。さて、そろそろ行こうか。都合十分くらいは経っただろうし、そろそろ行かないと同級生共が不審に思う」


 というわけで。


「センチピルダー、トリゼェイソン、グルシオスは俺について来い。スラッド、ソライ、ローアはこの場にて待機。危険が迫ったらお互い協力しあって防ぎながら俺に知らせろ。この場を離れないと約束出来るなら食事も許す」

キシキシ!

キシキシ

「ガギゴ」

カタカタ

シメシメ

ガサガサ


 よし。これで準備オッケーと。


『なあ、なんでその意味不明スライム共は置いていくんだ?』

「アネルの戦力にするためだよ。この研究成果は長谷川とガルハイシュだけに伝えるし、二人にもしっかり口止めはする」

『なるほどな。分かったぜ』


 そういえばジャック君もあの話は聞いていたんだな。説明する手間が省けた。




 ドンと詰まれた食肉の山を前にして、俺は告達する。


「さぁ諸君! 慈悲深き俺からのご馳走だ! 存分に焼きたまえ!」

『『『黙れ精神異常者!』』』


 おお、予想通りの賛美が俺を包み込むようだ。これだから民衆は操りやすくて助かる。生臭坊主(なまぐさぼうず)万歳!


 イルトミルジスとヴルムを含む魔獣組は、とりあえず大人しくしているようだ。ヒトの相手は俺の役目ってか。分かってるじゃねえか、ちくしょう。


「不満かね?」

「当たり前だ!」

「ふざけんな! 明らかに元がなんの肉なのか丸分かりじゃねぇか!」

「ゆ、指!? う、う、う、うで、が……(バタッ)」


 あらら……オークの腕を見て女子生徒が一人気絶した。まったく、ただのソーセージ強の肉塊じゃないか。ガットコーティング(腸詰)されているかいないかだけで差別するんじゃない。まあ光ってるか光ってないかだけで蛍とゴキブリを差別するなって言われたら無理って答えるだろうけどさ。ほんと、外見はほぼ一緒なのになんであんなにゴキブリって嫌われるんだろうな。三回の人生を送った俺にはあまり関係ないけど。そもそも森ゴキブリならわりと身近だったし。小さいムカデのほうが俺は嫌いだね。ゲジゲジとかも無理。


「まあまあ、腹の中に収めれば同じだって。それに、昨日お前らが食ってたのもアルミラージの肉だぞ? 兎の肉を食ってたと思えばこのくらいなんでもなくなるだろ」

「伊能、それは無理だよ」


 なんだ稲田。昨日嬉々として兎肉を食っていたお前に説得力は無いぞ。


「じゃあ何か食べるもんってあるの? そりゃ探せばきのこも木の実もあるだろうけど……魔獣と毒性植物の脅威を天秤に乗せるほどの価値があるってのか?」


 俺の言葉に押し黙る一同。かと思えば。


「確かにそうだよな。そもそも元の世界では牛や豚のミンチ焼きを食ってたようなもんだし、今更拒否するのは偽善だ」

「そうよね。それに、昨日のお肉は美味しかったんだし、私としては拒否する理由は無いかも」

「俺ももっと兎肉食べたい」

「伊能様、自分に調理を手伝わせてください!」


 チラホラと肯定的な意見が。最後の子はヅィ・スコロペンドラとの試合時も俺の事を伊能様と言っていたよな? アホなのか物好きなのか……


「まあいいや。そこの手伝い志願少女は決定で。それとセネクトウテにイルトミルジス。ああ、竈に火をくべる『鍛治士』もだ。他に誰か率先して手伝いたい奴はいるか?」

「ありがとうございます!」


 ……なんだろうかこの懐かれよう。明らかに普通じゃないんだけど。

 だけどまあ悪い気分ではない。ヒトは嫌いだけど人間は嫌いじゃないからな。


「お前、名前は?」


 先ほどの肯定組と、彼らに感化された数名が手を挙げる様を満足に見つつ彼女に尋ねる。


「はい! 自分の名前は中野友里亜と言います!」


 友里亜? そのキラキラネーム聞いた事あるぞ。


「もしかして『吟遊詩人』の?」

「はいです!」


 ひょっとしての問いかけに力強く頷いて返す友里亜。あれ? 俺は基本苗字&呼び捨てを使うんだけど、何故か友里亜は心の中でも下の名前で呼んでしまう。何故だ?


 まあいい。北斗神拳継承者の恋人と同じ綴りって理由かもしれないし。


「なるほど、それならこの態度も納得か」

「え……じ、自分、何かおかしな事しましたか!?」


 ん? ああ、この言い方に反応したのか。


「そうじゃない。試合の時も俺に肯定的かつ様付けだったから、なんでかねって思ってただけだから」

「聞いていてくださったんですね! ありがとうございます!」


 そう言って頭を下げる『吟遊詩人』の友里亜。

 『吟遊詩人』とは、能力的に見れば演奏や歌で味方に良好ステータスを与えたり、敵に悪性ステータスを与えたりする事が出来る『ジョブ』だ。

 では、その根底となる想いとは?

 答えは『衆目集める物語を語りたい』である。もちろん細部は違うだろうし、言葉も違うかもしれないけど、意味合い的には合っているだろう。

 彼女がどんな経緯でそんな『吟遊詩人』になったのかは知らないけど、それならば確実に偉業を成すか許しがたい大罪を犯すであろう俺に近づきたいと考えてもおかしくは無い。もしくは俺に華々しい未来を見出し、それを物語にしたいと思ったのかもしれない。そのための手段として『吟遊詩人』になったのならば、この態度にも納得がいくという物である。


 面白い。前者ならともかく後者ならば……


「まあな。俺を謳ってくれるんだろ? なら、忘れるわけにもいくまいて」

「伊能様ってたまに変な言葉を使うんですね」


 確定。こいつは後者だ。


「ああ。俺ときたら下手に隠し事も出来ないもんだから、今まで蓄積した知識を知らず知らずの内に言葉に乗せて披露してしまうんだ。おかげで口調が定まらないもんだから俺の人物像は百面相の如く存在するまである」


 七名と二体と『妖精』七人のおともを引き連れ中森妻の仕事場へと向かいながらそう説明する。実際、ネット上では老齢な人格者扱いされたり技術だけ身につけた子供扱いされる事もあれば、現実逃避の結果を小説にした醜男扱いされる事だってあったからな。勿論、小学生作家として話題になる前の話だけどな。


「そうなんですね! 忘れずに記しておかないと……」


 なんとふところから手帳とペンを取り出してメモを取り始める友里亜。内ポケットを活用する奴なんて俺と俺の親友を除いて初めて見たぞ。ていうかテメェなんで肉持ってねぇんだよ。まあその細腕に期待するほうが悪いってもんだけど。

 あと、わりと胸が大きいから実に扇情的な仕草となっている。見ろ、ついてきた同級生のうち野郎共がガン見してやがる。けしからん。


「お前ら何見てんだ?」


 けしからんので全員に聞こえるように指摘する。野郎共はバッと視線を逸らし、女子は……意外だな、キッと睨み付けているようにも見えるけどからかっているような雰囲気がある。端的に言えば目が笑っている。まあ、あの学校は色々と(さと)らしい奴じゃないと受け付けない感じだからな。男に幻想見てる女なんていないだろう。中森妻? あんなの例外だ。


 ちなみに、当の友里亜は天然なのか野郎共の仕草に首をかしげている。


「まったく、これだから童貞は……」

「「「やかましいわ!!」」」

「俺童貞じゃねーし」


 え、そうなの? 裏切り者? って感じに野郎三人が非童貞の野郎を見る。


「えー、そうなの!? 枦山君おっとなー」

「ねえねえいつシたの? 入学前?」


 流石悟っちゃった系女子。こういう生々しい話を忌避感無く続けてやがる。その姿に童貞三人が若干引いている。そういう風にヘタレているから出会いがねぇんだよ。素の俺が言っても説得力無いけど。


 何故かノリノリで聞いてきた女子二人(友里亜、メモなう)に非童貞野郎はどこか遠いところを見るような目をしながら口を開いた。


「入学前。あれはハジメテを迎えた日の翌日だった。当時無知だった俺は何故か母親ではなく三つ上の姉に不安から相談し、俺の話を聞き終えた姉は俺に狩る者の目を……」

「もう良い。それ以上言うと辛くなるぞ」


 濃いなぁ……場の空気が妙な事になっている。まあ、現実に親近相姦とかありえないって思うのが普通だし、仕方ないといえば仕方ないんだけど……それにしても。


「いや、俺シスコンだから辛くない」


 どうりでまんざらでも無い顔をしてやがると思ったら。


「まあそれなら良いけど……っし、着いたぞ」


 木の板で囲まれた中森夫妻の愛の巣に。

 それはともかく、さてさてセネクトウテ。


「出番だ。俺が出てくるまで手加減しながら掘れ」

キシキシ


 セネクトウテがどういう原理か未だによく分からん方法で地面を掘り始め、俺はグールの筋力を活かして壁を越え……不時着した。


「テメェラコラ! 何朝チュンしてんだ色情魔め!」


 いや、分かるよ? 俺だって恋人が出来て愛を確かめ合う肉体的接触をナイトフィーバーしちゃうような事があった翌日の朝は相手と一緒に目覚めたいと思う。

 だけどこの状況でそれをやるか貴様らは!? しかもご丁寧に脱衣してやがるし……なにより、俺提供の常備布団の中でナニやってたんだよって話だこんちくしょうめ。


 まあ、可能性上無きにしも非ずな訳だからセネクトウテに手加減させたんだけどね着替えの時間を稼ぐために。


「い、イノウ様!? こ、これは……」

「……ちっ、良いところだったのに」


 この女……いや、気持ちは分かる。落ち着け俺。


「コホン。さっさと着替えろ。同級生共が来るぞ。ああ、セネクトウテはすぐ来るから驚くなよ」


 それ以上の茶番に付き合う気にはなれず、さっさと壁の外へ跳びだす。まったく、異世界転移四日目の朝になんで俺はこんな体験をしなくちゃならねぇんだ?


「あの、伊能様! 何かあったんですか?」


 チッ、内容は聞こえずとも口論をしていたのはバレたみたいだな。

 よっぽど「朝チュン」と答えてやろうかと思ったけど、まだダメだ。色物関連のアレコレに好イメージを持ってもらうためには同級生共全員を集めてその場で婚約発表をしなければならない。真相を知るヒトなんて少ないほうが良いんだ。


「いやなに、ちょいと着地に失敗して驚かせちまっただけよ。いかんな、どうもこの体にまだ馴れて……」

「ライアー」


 あん? 嘘付きだと?


「何の話だ」

「私の『ジョブ』は『真贋士』。隠す気が無い嘘なんてすぐバレるよ」


 おいおい、リーダー共は何をやっていたんだ。馬鹿みたいにくっちゃべってただけとかだったら承知しねぇぞ。


「はぁ……お前、名前は?」

「田神留実。嘘つきは嫌いだよ、リーダーさん」


 田神留実、か。とりあえずジョブ帳にメモ。肉を一旦下ろして懐からノートを取り出す。


「漢字は?」

「……何それ」

「閻魔帳じゃねぇんだから安心しろ。ただの名簿だ」

「嘘じゃないみたいね。田神は田んぼの神様。留実は留める木の実って書くよ」

「了解了解……他に未申請の『ジョブ』持ちはいるか?」


 いないか。なら良いんだけど……まったく、管理する側にもなってみろってんだコノヤロ。


「それはともかく……確かに俺は嘘を吐いた。だけど作戦上必要な嘘でもあった。どうせ数時間後には判明するんだから黙秘権を行使させてもらうぞ」

「なにそれ……まあ、分かったよ」


 さっきとは違う意味で妙な空気になったな……まあ俺にとっては苦にならんけど。この程度でへこたれるようなら狂人を誇りはしない。


 少ししてセネクトウテが地面を掘り終えた。ふむ、やはり物理法則だけじゃねぇな。『ジョブ』の恩恵を受けているのか。でなきゃこんな短時間で簡易とはいえ崩落防止処理まで施すなんて出来るわけが無い。後でルカン兄さんにヅィ・スコロペンドラ達の『ジョブ』とレベルを確認してもらおう。


「おし、入れ。大丈夫だとは思うけど、足を滑らせないようにな」


 この辺の土質はやや乾いた赤土って感じだ。この辺は熱帯に近い気候があるらしいからたぶん正真正銘の赤土だろう。ただ、何故この肥沃な森にやせ土に分類される赤土が広がっているのかってのには疑問を覚えるけど……まあ、地球に無い赤い土だって言われればそれまでだけど。ちょいと性質を調べてみたい。


「あ、そこの『鍛治士』」

「もう名前忘れたのかよ……伊藤だよ」

「あーすまんすまん。じゃあ伊藤、お前は昨日と同じく竈に火を入れてくれ」

「おう! ……何がどういう理由で『鍛治士』なんだ俺は」


 それについては同意する。


「そんじゃ、火ぃ頼んだぞ」


 それだけ言って俺もセネクトウテの掘った穴に入る。入って分かったけど、どうやらセネクトウテも細かいところによく気がつくらしい。傾斜はやや深いものの、踏ん張れるようにささやかな出っ張りが作られている。ますますこの短時間で作られたものとは思えない。


 っと、考え事は後だ。危うく先行した田神達の背中にぶつかるところだった。


「うー、勢いで手伝うって手挙げたけど、この血取れるかな?」


 どうやら変な空気を払拭して雑談タイムに入るようだ。


「ほんとよね……やばい、少し後悔してきた」

「あれ、知らないの? 返り血とかの血関連の汚れは石谷のパートナーに頼めば消してくれるぞ」

「そうなの? というか石谷って誰?」

「あー、専科違うし交流無いから分からないか。特に特徴のある奴でもないし、後で案内するよ」

「ありがとー、助かったよ」

「……さりげなく点数稼いだなこいつ」


 ふーん。そういやヅィ・スコロペンドラ達と試合したときにルカン兄さんに紹介された『洗浄士』の『妖精』がいたっけ。そいつのパートナーが石谷某と。

 あ、思い出した。会議後新たに『ジョブ』を獲得した奴だ。確か潔癖症のきらいがあるって話だったな。んで現状が嫌過ぎるからせめて衛生面をなんとかしたいって想いが『ジョブ』になったんだ。なんで俺こんなに覚えてんだ? アンデッドの敵だからか? いやいや、ゾンビやスケルトンじゃあるまいし……まあ神聖な物にダメージを受けるのはパパの薬酒で分かってるけど。あれかね、この世界のアンデッドという括りに存在する者は全て狂気の力を無自覚に内包しているとかかな。本来、普遍的なグールは神聖属性じゃダメージを受けないはずだし。ヴァンパイア然り。それどころか一部のゾンビやゴーレム的なスケルトンだってダメージを受けない種がいる。

 ちょっと待て。ということは、神聖な属性は狂気を打ち消すからアンデッドを退散させることが出来る。って事か?

 ……ありえる。

 考えてみれば一般的にアンデッドに分類される霊だって普通の幽霊は神聖な属性の攻撃を受けても特別影響が出るって事は無い。正確にはアンデッドじゃないってのもあるけど、それにしたって構造的には殆ど変わらない悪霊や堕霊が神聖なる属性でダメージを受ける事に説明がつかない。

 まだ仮説だけど、なんとなくまた一つ真実を掴めた気がする。


「…………い、おい! 伊能……サマ!」

「……ん? お、ついたか」

「ついたかじゃねーよ! 背中! 俺の背中に肉が!」

「っと、そいつは失礼。よいしょ」


 一旦肉を置いて……あー、荷物は置いてきたんだったな。


「んー、借りにしとくか。お前、名前は?」

「え、いや、別にそこまで……元に戻してもらえるし」

「いやいや、こういう縁を蔑ろにしておいて組織の長は勤まらんよ。良いからさっさと名前を言え」

「そこまで言うなら……郷田雄峰」


 ふむ、郷田郷田……ほう。


「『武士』、か……なるほど。丁度良い」

「え、何、何なの。なんか凄いやっちゃった感が半端無いんだけど何この嫌な予感!」


 何か悲鳴を上げていたけど、もう確定事項だから諦めろ。


「それより……火は灯っているな。よし、焼くぞ」


 まあ竈状で、しかも継ぎ火とか出来んから焼くのは中森妻だけだけど。『調理士』の熟練度系経験値も上昇させてやりたいし。


「早速仕事……人使いの荒い」

「まあそう言うなって……スペース的に中森と一緒に作業出来るぞ」


 最後のセリフを小声で言うと中森妻はボッと顔を赤くしてカクカク頷く人形と化した。うん、やっぱカップルは扱いやすい。


「え、ていうかなんで中森がここにいるんだ? それにそこの布団……」

「わー! わー! さあ焼こう今焼こうさっさと焼こう!」


 なんて強引かつ怪しんでくれといわんばかりの言い訳を並べるかねコイツは……しゃーない。


「いぶかしむのも分かるけど、中森は長沢の護衛だ。中森、なんか適当な魔獣を呼び出せ」

「は、はい……サモン・ファイタースピリット!」


 ふと戦士風の幽霊が現れた。

 田神達は目を剥いた。


「ゆ、ゆゆゆ、幽霊!?」

「キャー!」

「こ、これが幽霊! 初めてみたな……」


 いや、一部は非常に興味津々なようだ。

 それより。


「この馬鹿! 適当っつったろ!? なんで騒ぎを起こすような魔獣を召喚した!?」

「す、すみません! リペトレイション・ファイタースピリット」


 間違った言葉で戦士風の幽霊を帰還させる中森。まったく、最近の若い奴らは適当の意味を履き違えているから始末に終えない。適当っつうのは元々適した行動っつう意味だってのに。


「えっと、えっと……リザードマンで良いですか?」

「そこはフェアリーとかウィル・オー・ウィスプの出番だろうに……まあいい。呼び出せるならリザードマンで……というかリザードマンって魔獣なのか?」

「正確には魔獣ではないのですが、『召喚士』の『ジョブ』で呼び出すのは可能ですよ、イノウ様」


 『吟遊詩人』友里亜のパートナーが答えてくれた。ふむ、やはり正式な魔獣ではないのか……


「中森、試しにエルフを呼んでくれ」


 意味不明な発言に中森がポカーンとなる。


「え、えっと、なんで?」

「いや、世界によってはエルフも魔獣の一員だから、検証の意味も兼ねて。なんならドワーフとかホビットでも良いぞ?」

「了解。それじゃ……サモン…………エル、フ!」


 ほう、多大な負担を代償にすればエルフでも呼び出せる訳か……しかし。


「ふ、ふぇ!? こ、ここ、ここ……」

「今すぐ送還してさしあげろ! 幼女誘拐事件の主犯にされたくない!」

「は、はい! ごめんね? リペトレイション・エルフ!」


 演出も無しにいきなり現れた幼女エルフは召喚された時と同じようにふっと消えていく。くそったれ肝が冷えたぞ馬鹿やろう!

 いや、今のはエルフを呼べと言った俺が悪いんだから中森を責めるのはおかしい。でも俺が取り乱しても仕方が無いじゃないか。だって、あの幼女エルフ……


「月桂樹の枝と葉に兎の毛皮を組み込んだ冠を被っていたって事は、まさか……」

「い、イノウさま。何か懸念があるんですか? というかもしかして僕、やっちゃった?」


 っと、独り言の癖が出たな。見れば中森だけでなく不安げな表情の田神達と何故か手帳片手にキラキラした眼で俺を見てくる友里亜が。

 う~ん、言って良いのやら悪いのやら……まあ、いっか。エルフの設定なら普遍的だし、隠すほどの事でも無いな。


「ああ、もしかしたら中森は巻き込まれるかもしれん。あの幼女エルフ、たぶんエルフの娘……この言い方は誤解を生むな。端的に言うなら、大族長の孫……いや、歳的にひ孫だ」

『『『はぁぁぁぁぁ!?』』』

「だ、大事件じゃないですか!」


 うん、友里亜だけはブレずに記し続けているな。神経が図太いのは良いことだぞ、吟遊詩人としてはな。

 ちなみに、中森妻は肉焼きに集中していて会話に参加していないため、いきなり大声を上げた田神達に白い眼を向けている。それでもしっかり肉をひっくり返しているのだから『調理士』の『ジョブ』補正は凄い。


「こ、こんっ、根拠、は?」


 ややどもりながらも気丈に問いというより確認をしてくる中森。なるほど、知らぬうちに自分が高貴なる方の子々孫々を誘拐してしまったと後から知ったヒトはこんな顔になるのか。勉強になった。


「あの幼女エルフ、月桂樹の枝と葉と動物の毛皮で作られた冠を被っていただろ? 月桂樹の葉言葉は『死ぬまで変わらない』。これは春夏秋冬いつでも緑の葉を咲かせる事から来ている。まあ有名なところでいえばギリシア神話のアポロンとダフネン……ダフネの物語だろうな」


 一旦言葉を置く。


「月桂樹っつうのは何故かどの世界でも最低一言語は月に由来する名前をつけられる。そしてエルフは太陽より月を好む種族だ。なんでかって言うと、森と共に生きるエルフが太陽の光を独り占めすれば森が育たなくなるから、太陽に比べれば植物に対する影響が少ない月を求めるんだ。だからエルフは程度の差はあれどの世界でも月桂樹に特別な意味を見出す。月桂樹っつう部分では納得しただろ? はい、質問は?」

「なんで花じゃなくて葉なんだ? 普通花言葉って……」

「月桂樹の花の花言葉は裏切り。気高いエルフがそんな花言葉を冠する花を飾るはずがないだろ?」

「いや、それ元の世界の話だろ?」

「そうだ。だけど不思議な事に、エルフが住む森の月桂樹は麻酔成分が強い花をつけるんだ。まあ、月桂樹に限った話じゃないけど。それはともかく、月桂樹の花は色が薄いから葉を取ろうとして触れてしまうこともある。その時に不快感程度の麻酔効果をもたらすから、森と生きるエルフにとって『裏切り』だと感じられてしまうんだ。そんな訳で、葉言葉はともかく花言葉はどんな世界でもエルフにとって『裏切り』なんだよ。他に質問は無さそうだな?」


 確認に首肯で答える一同。若干一命こっちの事など構いもせずに手帳とペンに仕事をさせている少女がいるけど。


「そんじゃ、次。エルフは狩猟民族だ。もちろん植物も食するけど、毎食肉がついてくる程の狩猟民族はエルフだけだな。肉しか食べない種族は除外するけど。で、狩猟民族エルフは幼い頃から弓を使う。ただし、本当に小さい頃、つまり誕生から三十年~百年も生きていないような幼子は当然狩りで獲物を仕留める事なんて出来ない。けど、族長の子孫とか一部の才能ある子供はそのくらいの歳でも獲物を狩る事が出来る。で、族長の子孫の場合現状で最も狩るのが難しい獲物を仕留めた際に毛皮を剥ぎ、エルフを象徴する月桂樹の枝と葉で作られた冠に組み込むっつう風習がある。これはどこの国や世界でもヒトがライオンやワシを王者の象徴として扱うのと同じ理由でどこの世界でも共通する性質だ」


 また一旦置く。


「あの幼女エルフ、冠に兎の毛皮をつけていただろ? アルミラージの影響でそうとは思えないかもしれんけど、本来、兎っつうのは的は小さいは小刻みに動くはでとても弓で狩るには向かない動物なんだ。にもかかわらず、あの幼女エルフは兎の毛皮を冠につけていた。ここまで言えば皆まで言わなくても分かるだろ?」


 頷く一同。舌が乾いてしかたないな。


「んっ、んん……というわけで、ほんの数秒とはいえそんな幼女を誘拐してしまった中森は、まず注目の的になるだろうな。それも悪い意味で」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 血涙も流さん勢いで絶叫する中森。

 と。


「ど、どうしたの、雄一郎」


 地獄耳中森妻こと長沢由菜が中森にかけよった。


「い、いや、なんでもない。だから戻って肉を焼いていても大丈夫だよ」

「そう……雄一郎がそう言うならいいわ。でも、何かあったら私を頼ってね?」

「もちろんだよ、由奈……」


 ……コイツラをラブコメ時空にふっ飛ばしたい。俺が懇切丁寧な説明で舌の根を乾かしているというのに、甘ったるい桃色空気をぶち込んで俺の喉を潰す気か? まったく……とりあえず支給した水を飲ませてもらうぞ。


「あ、イノウ様!」

「……私と雄一郎の水」


 ブフッ! ゲホッ、ゲホッ……こ、この! バカップル共が!


 約一年ぶりにドラゴンラージャ図書館で借りて読みました。やっぱり最高ですね……と言う訳で、後半若干影響が出てるかもです。

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