第三十六話:なんとなく遠方な楽園
さて、色々と諦めた事だし。
「怜悧さん、同級生共を起こしに行ってくれ。教師二人もだ。ちょいと訳ありった事情だからこの場では伏せさせてくれ」
「分かったわ。じゃあね、ナヴァンちゃん」
「クぉん!」
離れていく怜悧さん(とパートナーの『妖精』)に別れを告げるナヴァン。この大きさでキチンと挨拶が出来るなんて、ナヴァンは偉いなぁ、ナデナデ。フォグザヌちゃんは図体のデカさ=龍にとっての年齢に似合わない礼儀作法の持ち主だってのに。
「さて、同級生共へ気の滅入る演説を……と言いたくは無いけどその前に」
日本語の使い方がおかしい自覚はあるけど、俺は基本的にヒトを肯定するような発言は嫌いなんだよね。これでもヒト嫌いなんだぜ? 笑えるだろ、ジャック君。
「宴会材料の確認だ。行こうイルトミルジス、ファロ、セカロド、ナヴァン」
「クゥクゥ」
ぽよぽよ×2
「クぉん」
半ばお決まりとなりつつある一行を侍らせて、俺はマジェスティアザク主導特殊練兵場へと足を向けた。
……こりゃまた。
「派手に集めたなぁ……」
キシキシ
ポツリと呟いた言葉に緑のハイバンダナを巻いたマジェスティアザクが同意するように頷く。周囲には他の水資源回収組の姿も見え、丁度良いタイミングで来たと言える。
眼前に聳えるのは立派な小山と表現しても遜色無いものだろう。それが土の代わりに肉を、草木の代わりに骨を、枝葉の代わりに皮を、川の代わりに血を使って作られた物で無ければ。いや、時代(十六世紀頃)と場所と見方(イカレた貴族視点)によっては芸術と言われても納得しそうなものである。現代でも嗜み程度に倫理観がぶっ壊れている奴なら素晴らしいと感じるだろう。かく言う俺も、この山には一種のカリスマとでも言うべき魅力を感じている。
「……これを意図的に作り上げたとしたら、トリゼェイソンやキャステラウム、ついでに訓練の合間に狩りをしていた同級生共にレミスタンさんはセンスが良いな」
もちろん偶然だと思うけどね。
そう、この山は『ヴィルキット』が生み出した初の成果なのである。長谷川&ガルハイシュの薬も間違いなく成果ではあるけど、集団としての成果ではない。
割合的にはアルミラージが六割、オークが三割、ドラキーや俺が見たことの無い狼っぽい奴を含めたその他が一割といった感じだ。流石にヅィ・スコロペンドラやゴブリンはいない。食べたくないしな。
「これだけあれば肉以外の素材にも使い道はありそうだな。骨とか」
恐らく、解体が失敗したか面倒になったか所々肉に張り付いたままの食には適さなさそうな素材を見て呟く。オークの骨なら打撃武器やトンコツになりそうだし、ドラキーの骨は加工次第でウチワになる。狼の骨や牙や爪も武器になる。
流石にアルミラージの骨はそういう素材には転用出来なさそうだけど、角もあるし焼いて灰にすれば水の洗浄に役立つだろう。原始的なろ過装置が作れそうだ。ああ、同級生共が屈服させたアルミラージ達の防具として加工するのも面白そうだ。
他にも毛皮なら加工しなくても直接敷くだけで布団代わりになるし、『裁縫士』の練習にもなる。血だって量を回収できればトラップや、少々強引だけど染料の代わりになる。効率や倫理観を捨てればあらゆる生物の死骸に無駄な部位は無くなるのだ。
……それとなく隠してある吐瀉物は見なかったことにしてやろう。
「まあ、今は肉が優先だ。時間的には三十分が限界……キャステラウム、ここに来い。センチピルダー、キャステラウムと交代だ。ちゃんとトリゼェイソンの言う事を聞くんだぞ。その他のヅィ・スコロペンドラ諸君にゴブリン、オークは俺と一緒にレッツ解体」
キシキシ×5
「ゴギガ」
『『『ゴギガ!』』』
「プギュ」
「プギィ」
うむ、よろしい。
「今回は時間が無いからそこまで丁寧にやらなくても良い。肉と、その他に分けてくれ。間違っても食うんじゃないぞ。後でちゃんと分けてやるから」
俺の言葉に再び魔獣の合唱が広がり、早速作業に取り掛かってくれる諸君。やはり魔獣は良いな……そういえば配下状態の生物って魔獣と言うのか? それとも魔物? う~ん、悩むところだけど一応元魔獣だから魔獣でいいか。ゴブリンやオークは微妙なところだけど。一応人型種族なんだけど世界毎で扱いに差がありすぎるからな……亜人と言うには魔獣に近すぎるし。
まあ、こっちでは魔獣と同じみたいだし魔獣で統一しておくか。名前を尊ぶ日本人としてはあまり不適切な言葉で呼びたく無いのだけど。
「モシャス……ダメか。ドラキー諸君は超音波で発声練習だ。出来ぬとは言わせんよ?」
「「「キキィ!」」」
大変素直でよろしい。元の世界でのコウモリには無理だろうけどこっちのコウモリ……というより正式名称コバンコウモリという立派な魔獣であるコイツラならまだ可能性はある。いずれ擬人化薬を飲ませてアイドルグループを結成するのだ。グループ名はBAT’S。アイドルっつか頭悪そうなバンドグループって感じだな。
「そんで……クゥゥゥラタァァァァァ!!」
「ひゃ、ひゃいぃぃ!」
コソコソ隠れていたクラタのボケを呼び寄せる。
「ん? つかどうして起きてる? 寝なかったのか間抜けめ」
「こんな恐ろしい場所で寝れるか……いえ、寝れませんでございます!」
ふん、そんな豆腐メンタルでよく精神支配系なんて『ジョブ』を得ようと思ったな。親が泣くぞ。ったく、ヅィ・スコロペンドラという森の強者の匂いが他種族の血と共に漂っている場所なんてフォグザヌちゃん級の脅威でも来ない限り安心が保障されているようなものなのに、何故寝れんのだ。猟奇物の傍? 知らんな。怖がるほうが悪い。
「とにかく、貴様はくたばっとけ」
「ひ、な、なに――」
恐怖に歪んだクラタの表情を一瞥し、手刀を食らわせ強制ログアウトさせる。疲れで壊れてもらっても敵わんからな。一応使い道もあるし、道具は大切に扱わねば。
「さて、始めるとするか……」
解体作業の邪魔にならないよう愚か者を脇へどかし、戦闘には使えないものの激しい消耗が無い解体にはまだまだ実用的な部類の大型ナイフを腰から抜き取って手近な肉を引っ掴む。アルミラージの肉だったらしく、白い毛皮が所々くっついている。毛皮と肉の間に刃を入れ、サクサクというよりはギチギチといった感じに引き裂いていく。こういうのはエクスカリバーだの村雨だの英雄的な切れ味の刃物でも使わない限り純粋な切れ味でどうにかなるもんじゃないからな。魔獣は肉体構成が普通の獣とは段違いに強靭だし。
むしろ本職でも無いのに良くやっている方だ、俺は。ゴブリンなんか見てみろ、手で強引に引き千切っているせいで毛皮にもったいないほど肉がついたままだ。それなりに鋭靭な刃を持つヅィ・スコロペンドラ達でさえ俺と同じ程度の拙さと言えばその難しさが伝わるだろう。しかし、ゴグリオスだけは滅茶苦茶丁寧で作業も通常より少し遅いくらいで効率的には上だ。相変わらず頼れるなぁ……
ところで、俺は誰のために解説してるんだ? まあいい、別人格共の暇つぶしにでもなれば御の字程度に考えておくか……
途中キャステラウムが参加したことにより一気に作業スピードが上がり、残り六分の一程度まで作業が進んだところでタイムアップ。ふ~む、予想より多く採れたな。やはり労働力とは素直でなくてはな。
「よし、次はコイツを運ぶぞ。ナヴァンはフォグザヌちゃんとヴルムにこの事を伝えて広場に集まるよう言っておいてくれ。イルトミルジスはその護衛。ファロとセカロドはスラリンのところに行ってナヴァンと同じ内容を伝えろ。その他の奴らは肉を運ぶ手伝い……なんだと!?」
指示の途中、トリゼェイソンから『自然由来スライム復活』の連絡が入ったため、思わず声を荒げてしまった。いかんな、魔獣の長としての自覚が足りないのかもしれん。
コホン。
「とにかく、指示通りに動け。俺はちょっと用事が出来たからまた後で」
そう言って俺は足早に森の中を駆ける。胸の奥のウズウズが止まらないせいだ。早く、早く見つけないと。スライムという種の多様性と応用力を知った俺はまさに新しい玩具を得た子供。
遊びたくて遊びたくて仕方が無い俺は、ただの餓鬼と化して森の中を駆ける。
茂みを突きぬけ岩を跳び越えじんめんじゅを薙ぎ倒しながら駆け、ようやく目的地にたどり着く。
キシキシ
「おうご苦労さんトリゼェイソンそれでスライムはどこだどこですどこなんですかの三段活用!」
おっと、興奮の余り滅茶苦茶な事を口走ってしまったようだ。
流石に醜態だろうと逸る心を落ち着かせ、改めて自然由来スライムを設置した場所を確認する。
まずは木。
カタカタ
「うん、苦しそうだな」
見れば哀れスライムは木の穴を拡大でもしようかという程、こう、なんというか広がろうとしていて、今にも破裂しそうだ。穴を大きくしてやるべきだったな。
まあそれはともかく外見の確認だ。
大きさはほとんど木の中に埋まってしまっているので良く分からん。けど、普通のスライムよりは小さそうだ。体色は材質の木と同じ肌色で、質感は……なんだろう、『生きたスライムの木彫り』って感じ? 未知だ。名付けるならウッドスライムとでも言うべきか。
とにかく、実験は成功だな!
ガタガタ
「待ってろ、すぐ楽にしてやる」
そう言って左手の爪を伸ばす。念のため『生命の力』でガードしながら左腕ごと後ろに引き、ウッドスライムの核があると思われる場所目掛けて思いっきり突き出す。
ガズッ
「う、嘘だろ……いくら爪の切れ味が良いほうじゃないとはいえ、ヒトの三~五倍の筋力を誇るグールだぞ俺は? なのに半分も通らないうちに止まった……だと?」
恐るべき硬度……代わりにスライム特有の流体ボディでは無くなったようだ。まあ木が流れるって言われても正直どうかと思うし、ストーンスライム的扱いで問題ないだろう。
しかし、たかがちょっと硬いだけの木を吸収しただけで何故ここまで硬くなった? というか抜けん。なんてこった、収縮率が異常だぞ。これは強くなった分の弱点か? 待て待て落ち着け俺、冷静に考えてみるんだ。
スーハー、スー……
ガタガタ
「……ハぁっつつつつつつ! 痛い痛い痛い!」
やめて! それ以上俺の指を虐めないで! 潰れる! 潰れちゃうぅぅぅぅぅ!
『はぁ、何やってんだよ』
ウッドスライムが埋まっている木に足をかけて思いっきり力を籠めて腕を抜こうとしていると、急にジャック君が顕現してそんな事を言ってきた。なんだよ、夢中になって変形ロボで遊んでいたら可動域に指挟んでしまった的なこの現象の何が悪いってんだ。
『その意味不明生物がなんなのかは知らんが、とりあえずオレを使え』
「そうかその手があったかでかしたジャック君。ところで、お前はいつ俺にお前の使い方を教えたんだ?」
この野郎、霊術師でもない俺が分かるはず無いだろう。能力の感覚的な話なんだぞ、霊の行使っつうのは。
『ああん? あんだけ知識があってなんで分からねぇんだよ?』
「テメェは植物学者全員が実践的に草刈出来るでも思うのか? 知識と経験は必ずしも吊り合うものじゃねぇんだよ」
『チッ、だったら教えてやるよ。その体寄越せ!』
なんて横暴な奴だ。
だけど仕方ない。堕霊であるジャック君は使われる事も使う事も得意じゃないけど、長年の経験ってもんがある。狂気の供給源が俺にあってジャック君追い出しが心で出来るのなら、まあ……
「よし、俺の体を使え! ジャ――」
キシキシ
あら? 左手を締め付けていた圧力が急に消え……
『せっかくのチャンスが!?』
おいジャック君。そのセリフはなんだね。ったく……後で狂気お預けの刑だな。
「とにかく……助かったトリゼェイソン」
キシキシ
「それでも、だ。お前は俺の大切な仲間だ。仲間が俺の為にしてくれたことへ礼を言うなんて、それこそ当然の事だろう?」
ヤバイなぁ、異世界来てから表情筋が緩みまくりだ。演技に支障が出るかもしれん。でもいいさ、トリゼェイソンや仲間のためなら!
「っと、わりと本心気味な茶番はともかく……これが核か」
トリゼェイソンはその鋭靭な顎で俺の左腕から左手にかけての部位を削り取っただけらしく、ウッドスライムはまだ生きている。しかし、どうも俺の爪先は核付近まで届いていたらしく、ほんの一部だけ周囲の体とは違う色の部位が目に入った。よし、こいつを壊せば……
「いや、復活した時に幹が邪魔になるか……センチピルダー、トリゼェイソン、斬れ」
キシキシ×2
指示した途端、唸る旋風。
センチピルダーが上、トリゼェイソンが下の木を圧し折るように斬り取り、あっという間に一本の木が歪な丸太と化した。ふむ、切り口を見るにセンチピルダーは正真正銘力ずくで叩きつけ、トリゼェイソンは侵入口に刃を入れ力任せに斬り取った、って感じか。性格が見えるな。
「ふむ、これで十分だろう。では」
今度こそウッドスライムを貫かん意志を左腕に籠め、麻痺爪を真っ直ぐ構え腕を引く。カタカタと震えるウッドスライムの重複点を見極め……
「っらぁ!」
気合一拍。ウッドスライムの核と思われる部位を貫く。一撃で砕けた核は、しかし。
カタカタ
俺が左腕を戻したときには周囲の木片を吸収し、流線型の輝くボディへと変じていた。張り付いていた木は再生時のよくわからん法則によりパージされたようで、綺麗な湾曲板となって転がっている。ふむ、直接火にかけるので無いなら鍋の代わりになりそうだな。回収しておこう。
「……再生速度は特に変わらない、と。まあ何はともあれこれからよろしく」
カタカタ
震えているなぁ。まあ、ルカン兄さんの話だと配下にした後しばらくは恐怖ゆえの従属状態になるらしいし、今までが異常なのだと思って諦めよう。
よし、では恒例の名付けタイム行ってみようか。
「ウッドスライムだよな……ウイム? う~ん、なんかしっくりこない。モクリン? キッコロの妹みたいだな……プラントとスライムでプライム? なんだかなぁ……スラッド。スラッドでどうだ? いや待て、お前オスかメスか? ○×で答え……無理か。じゃあオスだったら体を動かせ、メスだったら動くな。それスリーカウント、スリー、ツー、ワン、はい!」
カタカタ
「オスか。じゃあスラッドで決定だ。これからよろしくな、スラッド」
カタカタ!
……う~む、スライム種って名前をつけるだけでこんなに喜ぶものなのか? いや、基本的に思考能力すら無いのが普通のスライムだし、『名前』にも意味があるから分からんでもないんだけど……まあいい。
「よし、次は土に埋めたスライムだな。名称は……ソイルスライムか? マッドではないし……黙れウィルフィール。狂気的なマッドじゃねぇっての」
頭の中に響いた笑い声と馬鹿というありふれた罵倒に文句を言いながら新たな魔獣ハーレム要員を侍らせ、土に埋めたスライムのところへ移動する。
シメシメ
「文字にすると悪代官が思い起こされそうだな」
そいつは土の中から脱出でもしようとしているのか、妙に湿っぽい音を出しながらもがいていた。どうでも良……くは無いけど、どうしてこうスライムって復活間際が哀れな形になるんだろうか? そういう運命なのか?
「何はともあれ……昇天!」
例によって例のごとくソイルスライムの中心点めがけて腕を振り下ろす。今回はただの土を材料にしている事が幸い――戦力的な意味では不幸に近いだろうけど――したのか、容易に核まで爪が届き核を破壊した。
シメシメ
「よし、復活したな。センチピルダー、トリゼェイソン、掘り起こせ」
キシキシ×2
掘り起こしたソイルスライムはウッドスライムよりも小さく、ところどころにヒビが入っているものの剥離することは無く、輝いてはいないけど流線型のボディだ。デフォルトなのか?
「さて名付けだ……オスかメスか? オスだったら動け、メスだったら動くな」
……
「メスか。よし……ソライ。ソライという名にしよう。今日からお前の名はソライだ。よろしくな、ソライ」
シメシメ!
よしよし、スムーズに事が進んでよかった。使えるかどうかは別として、俺の魔獣ハーレム要員に加えるのは決定だな。なんだかそのヒビが妙にチラリズムだし……エロいスライム略してエロイムめ。
カタカタ
シメシメ
いよいよ獣×獣の次元を超えた変態的なチラリズムに悶々していると、何やら自然由来スライム同士で交流が発生したようだ。なんだろう、配下どうしのやりとりは分からない。でも嫌悪とか憤怒とか心に浮かべると逆流するらしいから、少なくともそういうやりとりはしていないはずだ。良いね、流石俺の配下。
「……すまないけど、そろそろ行くぞ。今度のは逃す可能性があるからな」
トリゼェイソンからの報告では草由来のスライムはまだ動いていなかったらしいけど、油断する事はあるまい。まあグルシオスを置いたらしいし、よっぽどのことが無ければ……
「悪い、先に行く! 無理しない範囲で全員ついてこい!」
ちくしょう、グルシオスから危険信号が届いた。すなわち嫌悪だ。何かあったのだろう。一刻も早くかけつけないと。
……なんだこりゃ
「グギガァァァァァ!?」
ウネウネガサガサ
もう一度言う。
なんだこりゃ。
ガサガサ
「ゲギギャ!?」
「…………ゴブリン、オス、触手、陵辱。性別がメスだったら良かったのにな~と思う俺ってやっぱ手遅れだよなぁ……」
そう、グルシオスは今、陵辱されているのだ。
緑色の、ヌメヌメしていない触手によって。
……テンプレ的に「誰得だよ!?」ってツッコむのもアレだよなぁ、どうしてくれよう?
「……ハッ! 男の娘フラグ、いただきました!?」
「ゴガギ!」
グルシオスから怒りの波動が伝わってきた。なんだよ、良いじゃないか男の娘。男の娘判定の基準はべらぼうに高いから、下手な女より惹かれるのが男の娘という人種なのによ。
ちなみに、一回目の人生時点で男の娘陵辱物にハマった次期はあった。
元凶はバカとテストと召喚獣が名物のラノベだ。題名言っちゃったね。
「それはともかく……トリゼェイソン、グルシオス陵辱に夢中な内に隙を突いて溶解液! くれぐれもグルシオスとスライム(?)の中心は外せよ!」
キシキシ
よし、もう少し隙が生まれるまで観察だ。
大きさはソイルスライムのソライと同じくらいで、全体的にキッコロみたいな葉っぱの集合体といったシルエットだ。それでも流線型を維持しているのだからスライムという種族も不思議だ。
特徴的なのは、今もグルシオスに嫌悪感を与えている緑の触手だ。よくよく見ると草を纏めて鞭のようにしている。他のスライムより身体操作力が高いな。こりゃ凄い。でも陵辱に使うのは……う~ん、たぶん縛り上げているだけだろうけど、その縛り方がなんとも判断を狂わせる……
っと、隙が出来たな! トリゼェイソンが溶解液を吐き、スライム(と言って良いのか甚だ疑問だけど)……リーフスライムとでも呼称すべき彼の魔獣の側面を大きく削いだ。だけどちょっと危ないな。若草色の核が露出している。もう少しズレていれば諸共溶かしていただろう。ちょいと反省な?
「……そうしょげるな。今後頑張れば良いさ」
キシぃ……
ええい人間臭い奴め。でも良いよ。俺はヒトは嫌いだけど人間は好きだからな。愛という感情を欲したのは俺だし、人間は個体差を除外すれば全員が愛するという事が出来る、『種族』の中で唯一の括りなのだから。
「っと、今のうちに……ッ!」
気合と共にナイフを投擲。酷使したとはいえ未だ素人目には歪みが分からない程度には優秀な大型ナイフは、狙いに違わずリーフスライムの核へ激突した。スライムの核は刺突にも弱いらしく、呆気なくピシリとヒビが入る間もなく砕け散った。う~ん、でも耐久度は高いらしい。わりと強めに投げたはずなのに貫通しなかった。ヤバイな、そろそろ使うの控えないとナイフが死んじまう。こんな酷い扱いでもアイツに貰った大事なナイフだからな。鍛え上げる事に否は無いけど、壊すのは……
「っと、回収しないと」
感傷に浸るのもそこそこに、若草色の核に刺さったままのナイフを引き抜く。ふむ……流石は世界の法則。再生空間中に異物があると復活しない……いや、復活待機中とでも言うべき状態になるらしい。構成は元の世界と同じようだし、元の世界と比べて上位と言っても過言ではないかも。その分割りを食ってる世界があるだろうけど……少々気になるな。
ガサガサ
「ん、とりあえず名付けだな」
世界の事も気になるけど、今の俺には関係無い。万が一その世界に飛ばされる事があるとして、対抗手段なんて無いに等しいからな。現状。
「ふむ……オスかメスか○×で答えよ」
ガサガサ
「…………何故グルシオスを陵辱した」
てっきりメスだと思ったのに……男の娘フラグいただきました!?
「ガグゥゥゥ!」
グルシオスが気持ち悪そうにリーフスライムを睨み付けながら唸り出した。うん、気持ちは分かる。誰だって、ゴブリンだって腐った婦女子の餌食になるような真似は嫌だろう。
「まあいいや。問題は当人同士で解決してくれ。それより名付けだ」
う~む……オスだよな。でも男の娘の可能性もあるし……リフム? リーム? むむむ……ラーフ、リーム、リーライ、スリーフ。微妙だな……ポルトガル語のロードとフォリアを合わせてローアとかどうだ? ローア、ローア……うん、男の名前としても女の名前としても不自然じゃないな。カミーユに比べれば。
「よし、お前の名前はローアだ。清く正しくよろしくな?」
ウネウネガサガサ!
「うん、握手するのは良いけどね。さりげなく足に絡めようとするのはやめなさい」
ガサガサ
このスライム……さてはエロ神の眷属か? 何故俺まで縛ろうとする? 世界の意思か? 世界の意思なのか?
……個体差でスルーするしかない話題だな。
「なにはともあれ……実験は大成功と言っても過言ではないな」
カタカタ
シメシメ
ガサガサ
交流中。ちょっと参加したい。
それはともかく……木に埋め込んだスライム、土に埋めたスライム、草で覆ったスライム。その全てにおいてスライムは復活を果たした。核、少量の体液、構成素材。それが揃えばスライムという種は本当に無限の可能性を秘めている。まあ、素材にもよるだろうけど。刀の山を用意しても意味無いと……言えるかね? 想像が出来たんだけど……まあ、さらなる実験が必要っつうことだな。
「とにかく……これは俺のスライム軍団計画を発動させるに相応しい実験結果なのでは?」
スライム。
俺はスライムが好きなんだよ。スケルトンとか、ゴブリンも好きだ。何故かといえば普通のヒトが馬鹿にする雑魚に相当する種族だからだ。いや、それも理由の一つであるというだけか。勿論見た目とかも同じくらい好きだ。
話を戻すとして……ヒトが馬鹿にする存在で軍団を組み、ヒトを蹂躙する。これほどスカッとする事はないだろう。それに普段虐げられている分、愛でると応えてくれる。
そう。
彼らは、頑張らなければ何も応えてくれないヒトなんかとは比べ物にならないほど、愛する事に甘美を与えてくれる者達だ。ヒトは、例えば家族の間柄でさえ、あらゆる行為に天秤を乗せる事が出来てしまう生き物。そんな種族に無条件の愛を向けられるほど、俺は頭花畑状態じゃない。
でもコイツラは違う。
理性を持たぬ魔獣だからこそ、愛でると愛で返してくれる。勿論すぐに返してくれるとは限らないけど、それでも……嫌な感情を向けてくる事なんて無い。
(キミにとって嫌な感情って、一杯あるよね。例えば?)
チッ……ウィルフィールが。
(知ってるだろ? 苛立ち、気遣い、無関心、勘違いした愛。代表的なのはこんなもんだ)
(馬鹿だね☆)
(……貴様本当に俺から派生した人格か? 何故俺の一回目を知っていてその言葉が出てくるんだよ)
(だってさ、それって結局キミが努力だの頑張るだのを出来なかったのが悪いよね? 出来ないって言って、才能が無いって言い訳して)
(……お前、本当に俺か? いや、なんでもかんでも非難したがる癖が固まって出来たお前なら、そういう事を言っても不思議じゃねぇか)
(キミがそういう自分が嫌だって言うからボクが生まれたんじゃないか。忘れてたの?)
(……ああ)
(まったく、いつもいつも余計な事は覚えているのに、なんで大事な事を覚えてないの? やっぱりキミは馬鹿だよ)
(……うるせぇよ。知ってんだよ、そんなこと)
(ふふん。まあボクはキミがどうなってもどうでも良いけどね。キミって人格が消えてもまた別の人格が生まれてボク達を閉じ込めるだろうしね)
(擬似メイン人格の事を言っているのか? アレは俺の意思が無いと……)
(108ある特技はキミの特技じゃないよ。脳を含めたキミの肉体が覚えている肉体依存の特技だ。キミが消えた瞬間、防衛手段として自動的に新たな人格が生まれるはずだよ。さっきの聖母のような子が有力じゃない?)
(……)
(まあそんな事はどうでもいいよ。ねえ苛立った? 苛立ったよね?)
(チ……はいはい、苛立った苛立った。だからさっさと黙れウィルフィール!)
(ハァ……馬鹿が)
チッ……相変わらずウザい奴め。もう知っていることをペラペラペラペラと。
ちくしょう……ちくしょう…………クソが、クソ……
キシキシ×2
「ギグ、ガゴギゲ」
カタカタ
シメシメ
ガサガサ
……やはり魔獣は良い。
ヒトなんて、自分を含めてやっぱり嫌な奴だ。
昔の俺や先の俺なんて関係ない。ましてや、もとは一つだった別人格共も。
今の俺にとって、やはりヒトとは嫌な奴で魔獣は心の友だ。
『人間』という括りで言ってしまえるほどのヒトが現れることはあっても。
この想いは、未来永劫変えられる事はたぶん、無いのだろう。
一週間更新に変更して正解でした。なにせこの話、半分以上は昨日一日にようやくエンジンかかって完成したのですから。これからもよろしくお願いします。




