第三十四話:なんとなく凪気味な動向
すみません、今回どうにも区切り所が見つけられず、時間を開けてしまったにも関わらず五千字程度の体たらく……本当に申しわけございません。
さて、ようやく俺自身の『能力』、狂紅の砲塔を試す時が来た。
気づけば周囲は僅かに明るくなっており、空に眼を向ければ数多の星々と緑に光る月が弱弱しくなっているように見える。そうか、この世界の月は緑なんだな。落ち着いた夜にしっかりと見ておけば良かった。
「何から試そうかね」
候補はいくらでもある。
火薬を用いるタイプの実弾系は感触から無理だろうって分かったけど、荷電粒子砲を始めとした各種ビームやパイルバンカー、ガスや火炎放射系等々。本当なら電磁石とコイルを使ったコイルガンや二本のレールの間に磁場を形勢させて撃つレールガンも使いたいけど、流石に性質的に無理があるだろう。何せ狂気と電気&磁力の関係性が謎だ。それに、どうせなら俺じゃなくてヅィ・スコロペンドラ諸君の外部武装に採用したいし。
「ま、構造が簡単なパイルバンカーから試すのが無難か」
そう言って俺は手ごろな木にパンチを加えて調子を確かめる。ウチの近くの森にあった木とは比べ物にならない硬度ではあるものの、特に変哲も無いただの木だ。またぞろじんめんじゅに奇襲を受けてはたまらんからな。出来るなら岩に打ち込みたいところだけどこの辺の岩は柔らかいらしく、下手すると木の方が硬いので遠距離武器の威力を確かめるには木が一番なのだ。
『パイルバンカー? なんだそりゃ?』
さて実験開始と狂紅の砲塔を出現させた時、不意にジャック君から質問が入った。意外だな、来るならフォグザヌちゃんからだと思っていたんだけど。
「パイルバンカーっつうのは俗に言う浪漫武器の一種だ。杭打ち機とも言う。元々は土木工事にて使われていた建機を一撃必殺の兵器に転用した物で、兵器としての性能はよろしくないけどエース専用の武器としてならこれ以上無い程の威力を誇る近接格闘武器だ」
『……オレの好みじゃない』
まあ、ジャック君は斬るタイプだからね。パイルバンカーはどちらかと言えば槍に近い武器だし、仕方ないか。
「じゃ、実験始めるから大人しくしとけよ」
フォグザヌちゃんがナヴァンを庇うような位置に立ったせいでナヴァンが見えないと抗議の声を送ってフォグザヌちゃんがダメージを受けた様子を最後に周囲が見えなくなる程集中する。ちなみに、減速世界とは集中のプロセスが違うので世界は加速しない。
――すぅーーー、はぁぁ。
狂紅の砲塔を眼前の木に打ちつけ固定。右腕との接続部に近しい空間へ火薬代わりの……狂気を、籠める。先の実験の、火薬をベースに、全面へ設置。杭を、用意。形状……釘。火薬設置各部、へ、連鎖用火薬、構築。タイミングは……ハッ、手動でやってやらぁ!!
ッッッ! アァ!!
裂帛を上げたのは『狂紅の砲塔』と俺の体、果たしてどちらだったのだろうか。
ズドン! という音が聞こえたはずだけど、今の俺の状況を把握する集中力なんざ残されちゃいねぇ。かろうじて分かるのは……
「実用的じゃ、ねぇな……」
あかん、いっそ眠気まで襲ってきやがった。
ここで倒れたら無様。カッコワルくはなりたくないという一心のみで足に力を籠めるよう必死に脳から命令を出し、咄嗟にジージャンの胸ポケットから十徳ナイフを取り出して右足の太ももに突き刺す。痛覚を刺激した情報が脳へと伝わり、一時的な興奮作用をもたらすアドレナリンが脳を埋め尽くす。おかげで仮の集中力が戻り、なんとか意識を纏め上げる。
「くっ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
この仮の集中が解けないうちに脳を再起動させるためにくだらない解説を頭に浮かべる。
強大な負荷がかかった脳が一時的に意識をシャットダウンしようとしたけど、甘い。今回の集中力霧散は意識を一点に集中させ過ぎたから起きた事だ。確かにヒトの演算能力の物理的限界をちぃっと超えはしたものの、全体的な集中力……言い換えれば気力にはまだ余力がある。分かりやすく想像するなら意識の集中を火種に例え、気力をガソリンに例えれば良い。さっきまでは燃やすものを一気に焼失させたせいで残りのガソリンにまで火が及んでいなかった状態。今は残ったガソリンに別の火種を加え、さらに思考という名の風で煽っている状態。だから、理論的には……というか俺の感覚に基づく理論で行けば十分気絶せずとも済む訳だ。
……ふぅ、なんとか持ちこたえたか。
「……こりゃ、なんとも」
熱を持っていた頭が冷えたおかげで周囲を見る余裕が生まれ、パイルバンカーで打ち抜いた木を見てみた感想だ。
杭というよりは釘に近い射出物は対象の木に直径十センチの風穴を空け、それでも勢いが衰えず穴の向こうの木に刺さって止まっている。火薬系実弾は完全に使い物にならないけど、パイルドライバー形式はある程度限定されるものの無用の長物とはならなさそうだ。例えば硬い岩盤を砕くとか、進行方向の巨岩を砕くとか。おもいっきし土木方面だけど。
「クゥ!」
「クぉん!」
ぽよぽよ×2
「おお、皆心配してくれたのか。ありがとうな、よしよし」
さりげなくイルトミルジスとナヴァンにボディタッチ。
「貴様、娘に触るな!」
いかん、バレた。
まあ、本当に軽いものだしテクニックとかナデ殺すとかそういう方面のナデナデじゃないから弁明は効いた。もの凄く睨まれたけど。
「…………相変わらず凄まじい狂気の放出ですわね。威力が上がったのは狂気の爆発を連鎖させたからですわよね?」
「その通り。砲身内部の上下左右に爆発力のある狂気を均等に籠めて、初撃に合わせて爆発を起こす事で威力を上げた。ふらふら千鳥足だったのは、そのタイミングをマニュアル操作で制御したからだ。集中力オーバー」
そこまで隙を晒しても威力がアレだけなんだよな……土木作業時はともかく戦闘時では割に合わん。
「ギミック付きの邪狂もあるにはありますけど、あれほど複雑な物は見たことがありませんわ。ただ、応用力の高さと引き換えに操作性は無いに等しいですわね。通常のアンデッドは自らの具現化である邪狂の扱いを無意識に悟っているのですわ」
なるほど。つまり、一々何々の原理を~とか、~を構築とかしている俺は劣等生な訳ね。いや、優秀な武器の代償と考えればイーブンか?
「ともあれ、今日の実験はこれで終了だな」
流石に集中力が持たん。それにちょっと集中力を使った実験が思い浮かんだし、節約節約っと。
「お疲れ様ですわ、ニシキ様」
狂紅の砲塔を消した俺にレミスタンさんが……なにやらスタジアム的な売店でよく見かける形のカップを手渡してきた。パパ、再現したのか。ストローまであるとは……材質が非常に気になります。
「ああ、ありがと……うま」
受け取って一口飲むと、それはもう美味しかったですはい。まるで超高級霜降り肉をドリンクに加工してヘルシーをブレンドしたかのような味がまさに絶品。
ただし、色が赤黒い。
これ、血か?
「お気に召したようで何よりですわ。ゴール暦1043年物のアルビノ酒ですの。私のとっておきの一つですわ」
「おおう……まあいい、ありがとな」
次からは飲む前に説明欲しかったけどな。
しかしゴール、ね……グールの別の呼び方だったか? パパが世界を支配していた時代があったんだ。しかも千年以上。流石。某ジャリスの騎士は関係ないだろう。
「貴様、人の心を捨てたか」
「残念。俺はとっくの昔……そう、三十年以上前から人の心なんて投げ捨ててやったぜ」
大体、フォグザヌちゃんだってヒトじゃなくて龍として生きているでしょうに。ヒトの心を保ったままだったら確実に廃人確定だろうよ?
……喰人衝動とか親近相姦とか、龍のコミュニティではわりと普通にあるし。
「(――ずずっ) ぷはっ……美味」
「うふふ……ますます気に入りましたわニシキ様。この味が分かる人をどれだけ待ち望んだことか」
なにやら感動したような表情を見せるレミスタンさん。おい、っつうことはこれ他のグールにとってゲテモノとかそういう扱いかよ。美味だから良いけどもうちょっと配慮とかしてくれないもんかね。美味だから良いけど。
「……というかなんで一品物を持ってるわけ?」
この人、パパに置いてけぼり食らわされた筈だよな。
「何故かあの後、スラリン様が届けてくださったのですわ」
なら返してあげれば良いのに。いや、それはそれで困るけど。もしかして厄介な物件押し付けられた? レミスタンさんって『六泥』とかいうパパの部下の中ではトップクラスの問題児って話だし、しばらく頭冷やせ的な意味で一時的な勘当でもされたのか?
……たぶんどっちもだろうなぁ。
まあ役に立ってるから良いや。
「なるほどね。報告とかもスラリン経由?」
「……口を滑らせましたわ」
「いや、大体予想つけてたから気にしなくていいぞ」
そもそも異常の塊である俺を魔王であるパパが放置する訳が無いからな。つまり、いつもパパが見守ってくれている。そう思うだけで、俺は安心出来る訳よ。
「そうなのですの?」
「うん。そもそもスラリンがパパと念話……的なことが出来る時点でそういうのがあるって分かってたから。それに後で少し話をしなきゃいけないと思ってたし」
「話……ですか?」
「ああ。せっかくの結婚式だし、どうせなら思い出深い方が良いだろ?」
ニヤリと笑う俺に疑問の表情を浮かべるレミスタンさん。そういえばレミスタンさんには言ってなかったか。まあいい。
「よし、撤収! そろそろ同級生共も起きるだろうし、俺がいたほうが良いだろう」
色々と説明しなきゃいけないこともあるし、何よりヴルムやレミスタンさんに口止めとかしないとだし。
さて、整理。
ニシキ・イノウとアネル。
この両者は区別すべきだ。
となると、同級生共――いや、一部は大丈夫か――には情報規制をする必要が出てくる。
この一部というのがポイントとなる。
現在、同級生の中で最も信用が置けるのは中森、怜悧さん、長谷川の三人だ。中森妻……長沢由菜は微妙だな。
彼らはそれぞれ恩、波長、仕事の面において俺を裏切る可能性が低い。中森だけは長沢由菜の為に葛藤とかはするだろうけど、最終的に俺が解決策を出せば頷く筈。逆に長沢由菜の方はまだ完全に俺の事を信用しきれていないため、中森に関わる脅迫を受けた場合裏切る可能性がある。もっとも、後でこの四人にデモンストレーションを行うから杞憂で済むと思うけど。
他の奴は基本信用しない。
本人の意思による裏切りの可能性は無い。敵が得意とする精神支配系の能力もパパに頼んで無力化するような道具を作れば良い。パパも敵の戦力が増える事は許さないだろうしね。利害の一致で俺の矜持は守られた。
後は口止めだけど……まあ、大丈夫だろ。奴らも馬鹿じゃない。話して良くないことはきちんと言うし、見せたものも他言無用と言い渡せば問題ない。
いずれ、アネルの勢力として迎え入れる時も。
「しっかし……ヴルムとフォグザヌちゃんの姿を見られたのはまずかったな」
古龍ともなれば大戦力だ。加えてヴルムは世界のトップを狙える程に高い飛行能力を持つ。言い方は悪いけど移動手段としては最適だ。『白髪赤眼』の特徴である『能力』に写りにくい力を使えばステルス性もバツグン。時代が動くね。
それを俺のためだけに使えないというのは少々惜しい。まあ、ヴルムは友だし拒否られればそれまでなんだけどね。
とはいえニシキ・イノウの、『ヴィルキット』の守護者という立場ならば問題あるまい。そもそも『ヴィルキット』にとっても強い戦力があるに越した事は無いんだから。
レミスタンさんの事も問題といえば問題だ。それに、ある程度魔王の事を同級生に話してしまった。俺と魔王に伝手がある……いや、別に知られても問題はないのか? ジャック君の言を信じれば今の敵性日本人に魔王ロクルの名を知る者はいない。ならば、レミスタンさんが魔王の部下と知れても……いや、ダメか。過去の記録が残っていれば調べられてしまう。
いっその事わざと裏切らせるか? いいな、それでいこう。
よし、これで魔王とかその辺りの勢力のことが知られるのに問題は無くなった。
ジャック君の事は基本言わない事にしよう。口止めもレミスタンさんと古龍夫婦だけだし、難しいことではない。
念のため『狂紅の砲塔』に関しても規制を敷くべきだろう。
纏めると、『ジャック君と『狂紅の砲塔』の事については基本誰にも言わない。それ以外の『世界』の知識を除いた事柄は説明しても良い』だな。妖精も一部の者を除いてこの規制範囲に入れるか。今のところ精神支配とか、その辺りの耐性があるかどうかは分からんし。ルカン兄さんなら大丈夫かな。
「ふぅ……とりあえずこんなところか」
頭の中で整理し終え、ふと呟く。いかんな、独り身が長いと独り言が多くて。いや別に良いけどね。言葉に出して認識を改めるっつうのも大事な事だし。
「まったく……異世界に行くなら一人が良かったんだけどよぉ」
一人ならこんな事気にせずイルトミルジスやゴグリオス、ルカン兄さん、ヅィ・スコロペンドラ達にヴルムにナヴァン。彼女らと共に好きに動けたというのに。はぁ……しかし、運命に嫌われているのなら仕方ない。運命は空間に属する事象で、人運は時間に属する事象。そういう意味なら、この人災と言っても過言ではない現状も諦められるというもの。
組織の長も嫌いではない。が、やはりぼっちを自称する俺は、一人のほうが楽しめるだろう。
友人や親友どころか今はイルトミルジス達がいるって? 馬鹿言っちゃいけない。友人や親友は個人で単数形。十把一絡げの個人で複数形の友達なんかと一緒にしてもらっては困る。ぼっちとは友達がいない人種の事であり、複数形ではない友人や親友がいくらいたところでぼっちであることには変わりないのだ。
イルトミルジス達はあくまで配下。ルカン兄さんは兄さんだし、ヴルムは友。ナヴァンは名付け子。ほら、友達なんて誰一人いない。
だから俺はぼっちである。反論は認めないし、間違っている事は重々承知。だが絶対に折れる訳にはいかない。俺は一般人や普通のヒトとは違う。同じ扱いをされるいわれもない。
話が逸れた。
とにかく、複数とは実に無駄であり、日本は今すぐ一人でなんでもできるように子供を教育するのが急務であるという事だ。
「はぁ、グチグチ言ったってなんにも始まらんかね」
大きく溜め息を一つ。ヒトは溜め息の数だけ幸せが逃げるというけど、そんなの絶対嘘だ。溜め息の多いヒトはもとの幸せ量が多かったのかって話になるし。実際、俺って溜め息ばっかだけどそれなりに幸せだったぜ。主に作家としては、だけど。
「……はぁ。さて、頑張るとするか」
適度に適当に結果を残すため。管理職も大変だ。
目が痛いー。パソコン見れないー。でも書きたいー




