第三十二話:なんとなく難儀な後始末
イェーイ、USBが行方不明になって普段執筆に使っているワード専用と化したXPの内容を家パソコンで直接なろうに書き写してるぜ! 半年後くらいに失明しないかが目下の不安……私のことながら随分お気楽な人生だぜい!
さて、流石にあべしするとぼぉんってなるからズビシッだけで済まそう。やだ、小説家らしからぬ擬音のオンパレード。ストレスでも溜まっているのかしら?
……脈絡も無く口調が変わるのはいつもの事だしなぁ、いまいち判断つかん。
「そんじゃ、夜更かししているイケナイ同級生を物理的に眠らせてくるから、お前らここで大人しくしてろよ」
「貴様のために起きているっていうのに、随分な物言いね!」
うむ、良きツッコミだフォグザヌちゃん。サービス込みで六十五点。
「クゥ!」
ぽよぽよ×2
「クぉん!」
「ん? 一緒に来たいのか? 俺的には良いけど、気付かれないようにそっとついてこいよ? バレたら厄介だからな。特に娘様。下手に声を出すと怖い怖いフォグザヌお母さんが五月蠅いからね」
「人……龍が下手に出れば好き勝手言って……」
本当の事だろうに。親馬鹿フォグザヌちゃん。
「ヴルムはそのまま人化の練習。セネクトウテはマジェスティアザクの下で修業再開。あ、レミスタンさんは俺の飯を用意しといてね」
「ウム、オーケイ」
キシキシ
「分かりましたわ。ご注文などはございませんか?」
「そうだな……太ももの肉とかお願いできる?」
「へ、変態がいる。多機能付き変態が」
黙れフォグザヌちゃん。多機能付き変態のそしりは受けるどころか既に大幅アップグレード&アップデート済みの究極之変態な自覚はあるけど、今回のはエロ方面の意味じゃないし。ただ単純に太ももの肉っておいしそうだなってナチュラルに思っただけだし。グールの本能に従って何が悪い。
とりあえず、これだけは言っておこう。
「食欲すら性欲に変換して考えられるとか、フォグザヌちゃんマジ若いっスねwww」
「ム・カ・ツ・クゥゥ!! いずれ八つ裂きにしてやる!!!」
そんな怨念籠もった言葉をバックに同級生が寝ずの番をしているだろうと思われる場所へ向かうのだった。
「あ、錦君」
「お、怜悧さん」
意外な事に最初に遭遇したのは怜悧さんだった。俺の為につい最近までただの同級生だった怜悧さんが起きていてくれるとか俺の人徳が留まるところを知らない。
「こんな時間まで起きて……肌に悪いから早く寝なさい」
「せっかく人が親切に起きていてあげたっていうのに、それは無いじゃない」
いやでも、夜更かしってほんっとに肌に良くないのよ? 毎晩シッポリヤることヤってるなら話は別だけど、ネトゲ七徹祭りした後のリカバリーがどれだけ大変か……分かってるから商売に出来るんだよね。上客のGANTHさん、みっちーさん、ダークネスマウスクイーンさん、断り無しに異世界来ちゃってすみません。今まで教えた健康美容方法を駆使して頑張ってください。今まで小遣いありがとう。
「るっせ。俺なりの照れ隠しだっつうの。ありがとよ」
脳裏に浮かんだネトゲ仲間(リアル女)に心の中で土下座しながらわりに演技力入った照れ隠しをする。
「そういう事は言わないものよ? はぁ。アタシって気遣いされる価値も無い女なのね」
なんて芝居がかったセリフなんだ。危うく本気にするところだった。
「気遣いはされないほうがいいぞ。相手を傷付ける事を承知の上で本音を言い合ってればその分片方が秘密主義になることもなくなって浮気の可能性が減るし」
「……その解釈の仕方は無かったわ」
若干呆れを含みつつも納得したような声が返ってきた。まあ、その場合夫婦喧嘩も絶えなくなるって事なんだけどね。喧嘩するほど仲が良い夫婦だと良いね。
「冗談はともかく、本当にもう寝て良いぞ? いきなりでビックリしただろうけど、ヴルム……あの龍達は俺の仲間だ。不必要に暴れることは無い」
「あんまりよ。アタシが今まで起きていた理由が、本当に分からないと言うの?」
初っ端からえっらい爆弾落としてくるなぁ。何、フライマンタかドダイなの?
「むぅ……確かに、近くで己の命を軽く吹き飛ばしてしまうような存在が活動していれば嫌でも眠くなくなるか。道理だな」
「呆れた……それとも、錦君らしいと言えばいいのかしら?」
え。
「……ひょっとしてマジで俺に惚れた?」
「その言葉を引き出したかっただけよ」
ククッ、なるほど。一杯食わされたな。
「そんな事言って、実は惚れているオチとかないよな? もしそうだったら怜悧さんに失礼だから正直に答えて欲しい。主に俺の矜持のために」
「良き友人としてならともかく、結婚したいとまでは思わないわ」
だろうな。俺だって怜悧さんの立場ならこんな奴を好きになりたくないし。
(あなたから別たれた私は良いと思っているけど?)
黙ってくださいイノセンスさん。なりゆきで許しているとはいえ、好き勝手に思考をジャックしんといてください。
「なら良い。ともかく、ご苦労様。ゆっくり眠ってくれ」
「え、何を……」
二の句を告げさせる間もなく頸動脈に手刀を落とす。そして蘇生措置を施し、安全を確保した上で同級生共が集まって寝ている場所へ連れて行き、そっと寝かせる。これが普通の健康状態だった場合は暴行罪でポリスのお世話になるところだけど、異世界転移故の精神的疲労及び睡眠不足が重なったため幸いにもすぐに眠ったようだ。そう判断し、もし駄目だったらと思って伸ばしておいた麻痺爪を仕舞う。運んでいるときに起きてもらっても困るからな。念のため、という奴だ。
「あ、イノウ様」
「……こんばんは」
さて、お次は中森夫妻のようだ。ちなみに、途中で長谷川&ガルハイシュが木にもたれかかって眠っている姿を見たので一つ手間が省けた。
「おう、お疲れさん。それはそうと夜更かしは感心せんぞ。特に妊婦さんはな」
途端、真っ赤なりんごちゃんが二つ完成。山形のりんごより熟れるのが早いな。
「まったく……ほれ、中森妻だけでも先に寝に行け。流石にこんなに早くから子供に影響があるとは思えないけど、万が一という事もある」
とりあえずそんな口先だけの心配を文句に中森妻を寝に行かせる。幸い、頭が沸いてまともな思考が出来なくなっていたので誘導は楽だった。本来なら中森夫と添い寝したりとかしたかっただろうけど……すまん、今はそれどころじゃない。
そうして邪魔者を排除し、ここからは大人の時間。
「で、中森。婚約発表はしたの?」
何気ない風を装って重要な情報を訪ねる。
りんご状態から比較的さくらんぼと言っていい状態に回復した中森は素直に答えた。
「ま、まだだよ。イノウ様の音頭で始めようと思ってたんだけど、あの龍がイノウ様を連れて現れたからうやむやになっちゃって」
「そうか……良かった」
いや本当によかったよ。集めた肉や水が無駄にならずにすんだという事なのだから。
「よし、それが分かれば十分だ。他に何か連絡すべき事案とか無かったか? どんな些細な事でも良い」
「う~ん……そういえば訓練中に骨折して長谷川君の作った薬を飲んだ工藤君が、その、よ、欲求を抑えられなくなって手を出しそうになって逆に女子にリンチされてた」
……あの馬鹿。よりによってなんでお前なんだよ。あのエロの伝道師め。死なない程度に針で刺されてもまだ懲りないか。始末書まで出したオズマンタスに申し訳がたたんな。
「なるほど。些事だ。今後気にしなくていいぞ」
「え、う、うん。わかった」
よろしい。
「じゃあ……アレを出せ」
そしてまた唐突に意味不明な要求を課す。
「へ? あ、アレ?」
「いや、すまん。大蜘蛛のことだよ」
自称常識人で遊ぶのもそこそこに円滑なコミュニケーションで無駄を省くためにさっさと目的を言う。妻帯者(仮)にセクシャルなイタズラするのもアレだしな。
「え、えっと……なんでですか?」
「だって巨大蜘蛛とか超ロマンじゃん。五歳かそこらの頃にアラゴグを見て胸がざわついた俺を舐めるなよ。ハグリッドもビックリだよ」
ムカデとかもそうだけど、あいつらは小さいから気持ち悪いのであって、大きくなれば普通にカッコイイ。ここでそれはおかしいと考えた奴。逆に考えろ、ワニとかカッコイイけどムカデ並みに小さかったら嫌じゃん。サルとかヘビとかも。だから大きい=カッコイイの法則は間違っていないはず。
「……分かりました。少し待っててください」
幸いにも俺のトンデモ思考が何を繰り出すのか分かったものじゃない事を分かっている中森は面倒くさい文句を一切言わずに作業にかかってくれた。うむ、中森の成長が見られる。異世界でそういう応用力の高さは大きなアドバンテージになるぞ。
「しかし……この短期間で『召喚士』の本質を俺より早く掴むとはな。意外な天才っつうのもいるもんだ」
この呟きはどうやら召喚に集中している中森には聞こえなかったようだ。
そうだな……この世界の能力、『ジョブ』に含まれる召喚とは、『想像召喚』と『契約召喚』に分かれていると俺は推測している。
『想像召喚』はネトゲやFF等の『能力が固定された召喚獣』を呼びだす力で、『契約召喚』じゃ『テイムした魔獣等を呼びだす』力だと考えた方が良い。
両者の違いは『成長』の一言に尽きる。
『想像召喚』の方は使えるようになれば術者の魔力や精神力にもよるけど、ある程度安定した戦力を供給する事が出来るけど、あくまで術者の能力が上昇しない限り同一召喚獣は一切成長しない。
それに反して『契約召喚』は対象と契約を結べばいつでも召喚及び召が可能となる。これは術者の成長補正はまったくかからないものの召喚個体自体が成長していく、いわばネトゲでいう戦闘ペットのような召喚獣だ。メリットは種族限界まで成長し続ける事で、デメリットは死ぬとそれっきりになってしまうってところか。
話を聞く限り、どうにもこの世界の召喚系能力者『召喚士』とはそのような能力を持っていると考えられる。他にも秘密があるのかもしれないけど。
そして中森が異常な速さで突破した召喚士の本質。言い換えれば『術士系の壁』は、魔獣の操作という力と召喚に求める力。これに尽きる。
本来、召喚とは何かを呼ぶという行為を指す。そこからファンタジーというフィルターにかけられ、徐々に別の意味となった単語。それが召喚だ。
色々考えるのが面倒くさいな……とどのつまり、『ある目的の為に呼び出して目的を成功させたい』という願いが籠められた能力であるという事。
魔獣の操作は目的の成功を約束させるための力。召喚に求める力は目的をはっきり理解している事の証明。まさに『召喚士』という『ジョブ』の要とも言える要素。
その二つを自覚し、尚且つ支配してのけた。恐らく偶然だったとはいえ、それが『召喚士』としててつもないアドバンテージ……いや、練度となる事か。現に、その二つを理解しただけでレベルが三つも上がったのだから実際に役に立つのだ。聞く限り理解っつうより強く意識したって感じだけど。
ハッキリ言ってこれから中森がどんな道を進むのか、俺には予測できない。想像は出来るけど。
たかが『能力』。されど『能力』。
この世で一番種類が多いのは『能力』だ。それはあらゆる四強能力で他の能力に該当しない、もしくは比肩しない特殊能力はすべて『能力』というくくりに纏められてしまうほどに。
ともすれば可能性は、『ヒトのもの』と同じくらい存在する。
だから、予測なんてつけようがない。
まったくフライングも良い所だ。ヒト……いや、『人間』に例えれば六十八十のジジイババアになってようやく気付ける『能力』の深淵にも等しい知識だというのに。つくづく一般人の皮をかぶった天才だと思い知らされる。
あ、俺は天才の皮をかぶった劣人な。
「……召喚、ジャイアント・スパイダー!」
そして唐突に、現れた。
キチキチ
「うおぉぉ! デ・カ・イ・ク・モーー!!」
お、落ち着くんだ・ZE、俺。冷静になれ、びーくーる。近所迷惑だ。
ヅィ・スコロペンドラとあまり変わらない体躯はえも言えぬ迫力があり、無機質にこちらを見つめる黒い瞳はまるでオニキスのよう。八つある脚は細くあれど、どこか引き寄せられる感覚が見た目にそぐわぬ重厚さの証拠を突き付けてくる。筋肉の密度がヒトと違う。どことなくヅィ・スコロペンドラと同じ類の筋肉だ。
そして何より、捕えるより仕留めるといった目的に進化したのか、ともすれば死神の鎌と形容してもなんら不思議ではない、瞳と同じオニキスに似た色を持つ鋏角が素晴らしい。自ら獲物を求め、狙った命を狩り取る死の狩人。年甲斐も無くそんな中二を思考の中で爆発させてしまうほどにカッコイイ。
まあ、ヅィ・スコロペンドラのほうがダントツでカッコイイけど。
「でかした! でかしたぞ中森! ところで、召喚詠唱は適当か!?」
「え、えっと……あ、はい。適当です。言葉は関係ないから」
「よし! ではコイツの種族名はたった今からシャサーレ・アレニエだ。ほれ、複唱!」
「へ!? え、えと……シャシェーレ・アレニィエ?」
「……発音がなぁ。ちと待ってろ」
そう言って俺はポケットから鉛筆とメモ帳(パパ謹製。超便利かつ書きやすい)を取り出してカタカナで「シャセーレ・アレニエ」と記入。ついでに『フランス語』と付け加える。綴りは覚えてないけどその手の中二病御用達の書(本ではない)ではわりと定番なため、一々悩む必要も無くパッと閃けた。
ちなみに、意味はストレート『蜘蛛の狩人』。
「なるほど。シャサーレ・アレニエ。分かった」
そんなこんなで意外に沢山情報を記載されたメモ用紙をビリっと破いて中森に渡す。中森は眠たそうだったけど、俺のメモを一目見ただけで大体の事を予想したようだ。よし、これで一々説明する手間も省けたな。
「うし。じゃあ次は名付けだ」
「あの、イノウ様。そろそろ寝かせてもらえませんか? 実はあの後一回由奈と……」
「皆まで言うな! テメェ性懲りも無く!! ごちそうさまだ馬鹿野郎! さっさとくたばれ!」
「疲れてくぺっ!?」
この愚物、いや色物が……場合によっちゃグーが飛んでもおかしくなかったからな。一撃の下で意識を刈り取ってやっただけでも感謝しやがれってんだ。
「さて、よっこらせっと。ん? お前さん、帰らねぇのか?」
キチキチ
さっき中森妻を寝かせた場所に連れてこうと担いだところで、未だに召還されていない大蜘蛛……シャサーレ・アレニエが眼に入った。もしかして術者の了承が無いと帰れねぇとかじゃないだろうな。だとしたらちょっと厄介だぞ。俺が(物理的に)説得しなきゃならんじゃないか。それも夜が明けるまで耐久レース。
と思ったけど。
「おお、ありがとな。おかげで運びやすくなった」
キチキチ
どうも中森の制御を離れてもコチラに友好的らしく、ともすればワイヤーと形容してもなんらおかしくないほど頑丈で細い糸で俺が中森を背負う形で固定してくれた。背負うのが一番運びやすいんだけど、固定されてないとやっぱり移動しづらいからな。体格的に。正直お姫様抱っことか野郎IN野郎でお送りする最悪な運搬方法を選定しなきゃならんのかと嘆いていたところだ。
「しかし、お前さんもよく分からんやっちゃな。契約があるとはいえ、それは強制されたものだ。制御が離れた今、何故暴れない?」
『召喚士』という『ジョブ』が出来る事を大雑把に分ければ『召喚&召還』と『制御』になる。その内の『制御』からこのシャサーレ・アレニエは脱しているのだから、理性無き魔獣として暴れ出してもなんら不思議じゃない状態な訳だ。
キチキチ
しかし、虫でも虫人でも無い俺に彼の蜘蛛の言が分かるはずもない。
この世界特有の法則『弱従強臨』とでも言うべき『配下』と、同じくこの世界特有の能力『ジョブ』による『召喚獣』は似ているようでまったく違う。『配下』なら恐怖や忠誠等の感情によって主の命に従うし、『召喚獣』なら洗脳に近い制御によって主の命に従う。
つまり、俺の『配下』のように自分の意思で行動、つまり大人しくしている事がない。それが『召喚獣』というものであるはず。
「だというのに……持続型の命令でも出してたのか? いや、『制御』というのは現在進行形の行動だ。戦術の一環として待機後攻撃の指示を出す程度ならともかく、術者が気絶した後も継続するとは思えん」
後考えられるとしたら……この個体が特別であるという理由だな。
「お前さん、転生者か?」
…………オイ。
絶対にありえないと思っていたリアクションをされて俺は思わず頭を抱えた。
「この場所、絶対何かあるだろ……きっととんでもない秘密が隠れているに違いない」
おかしい。何故こうも異世界にまつわる『何か』がこの場所に集まるんだ。
……いや、どっちかと言えば『世界を知る者』の視点でしか視ることの出来ない事象ばかりが起きている。と表現したほうが正しいか? そもそも覚醒した『白髪赤眼』や古龍も珍しいと言えば珍しいけど、異世界要素が絡んでいるかどうかと問われれば間違いないと言えるし。ヴルムやフォグザヌちゃんが古龍となったプロセスに異世界要素が紛れていても、それは変わらない事実だ。
だとすると……
キチキチ
「いや、別に他言するつもりはねぇよ。それなりの理性があって中森に従っているのならそれでいい」
鬱屈とした予想を振り払うように蜘蛛へ声をかける。どうでもいいけど外野が見たら気が触れたヒトなのかと思われるだろうな。小説家としてはむしろ美徳だから別に良いけどさ。
「とりあえず確認しておくぞ……お前、日本人か?」
否定、か……つまり、外国人か別の異世界出身の転生者か。嘘か真か、定かではないけど……ま、中森への恭順を見れば危険は無さそうだな。
というか、日本語を理解することは出来るんだな。召喚者である中森の影響か?
「この分だと、他にも魔獣化転生者がいそうだな……ただ、どうにもキナ臭い」
そもそも、この世界に限らず異世界から異世界への転移または転生または召喚なんて人で有る無しに関わらず結構頻繁に行われている。『能力』すら確認されていなかった元の世界でさえ、サバトだの神隠しだのバミューダ海域だの……それっぽい現象が後世まで伝わっているくらいだ。特にそういう色が濃かった中世ヨーロッパに近しい『時代』の世界なら、場合によっては一般人にすら知られていても不思議ではない。
だけど、それにしても解せない。
この森で、フォグザヌちゃんを除いて一度も敵性異世界人と出会っていないのだ。
仮にこの森がそういう特異点とでも呼べる存在が集まりやすい場所だったとする。実際、俺を始めとしたクラス転移や『白髪赤眼』個体の複数発生、異世界の魂を宿した古龍に日本人を酷く憎悪する斬属性の堕霊なんて奴らがこの森に集まった。もっと言えばルカン兄さん達『妖精』の存在や魔王たるパパの索敵対象となっていた事も特異と言えば特異だ。
だというのに、敵は一向に現れる気配が無い。
この場所には世界的に見ても戦力となる個体が多い。トリゼェイソンにキャステラウム、ヴルムなんかは俺が関わらなければただの魔獣でいられたのだから、そいつらをテイムするなりなんなり出来たはずだ。
それが行われていない。
どころか、監視すらない。
「あるいは世界の意思か?」
ルカン兄さんはこの世界に自我らしきものがあると言っていた。ということは、自らを蝕む輩とそれらに敵対する可能性がある者とを別々の場所に纏める。なんて、無意識行動というか、ヒトの免疫機構というか、まあそんな感じのあれこれが機能していてもなんらおかしくない。
『未知の世界に影響を与える者』が世界の力を吸い尽す方法は検討がつかない。しかし、それ相応の手間と時間と力とエネルギーが必要である事は確か。現にパパが奴らに酷い目にあわされたのは最低でも三千年前だ。そして、自称『世界』の守護者『勇者』の介入が始まる前に世界の力を吸い尽さんがため、世界の防壁を綻ばせる『世痛の波』を負の感情と共にまき散らす屑共を呼びこんでいる。そして、レミスタンさんの情報によれば敵性日本人共はこの世界のヒト社会に大きく食い込んでいるらしい。恐らく、効率よく半恒久的に『世痛の波』をまき散らすために『未知の世界に影響を与える者』がなんらかの力を与えているのだろう。精神支配的&物理交渉的な。
そんな大がかりな事を何千年も続けてきたんだ。
いくら自我の希薄な世界と言えど、絶対に気付かないなんて保証はない。
「とは言っても……いや、要調査。か」
推測は結局のところ物質的ではない。ヒトとは目に見えない事は中々信用できないもので、それはある意味で正しい。魔法の話やロマンチックなロボットの話をされても、見える範囲の出来ごとで無ければ無いものと同じなのだから。
地道に調査するしかないな。
「ともあれ……シャサーレ・アレニエさんよ、これからもよろしくな。上手くいけば完全な人型は無理でも擬人化や人外化でアラクネ的ヒト要素にはなるけど、生前と同じような姿にしてやれるから」
キチキチ!
おお、何やら興奮したように大はしゃぎしまくるシャサーレ・アレニエ・どうでもいいけど我ながら人名みたいだな。もうちと捻ったほうがよかったか?
キチキチ!
……まあ、どうでもいいや。
たぶんユニーク個体に近かっただろうし、種族名をそのまま固有名にしてもなんら問題は無いだろう。
…………とりあえず、
そこでまき散らした糸は後日回収させてもらうからな?
先日、気が付けば評価がついてました。
なんと言ってよいのやら……とても、嬉しかったです。それはもう、生まれて初めて目を見開くという経験をするほど。
今後とも読者様の期待に応えられるよう、努力したい。そう思いました。




