第三十一話:なんとなく重要な雑談
ええ、ほぼ一周お休みして申し訳ございませんでした。悪夢程度で執筆に影響が出るとはまだまだ未熟者です。それじゃ今日も楽しく狂っていこー!(←最近ナリをひそめていた深夜テンション)
さて、意味の無い命のやり取りも刹那のうちにあっけなくすぐさま圧倒的速さで瞬時に終わった事だし。
「なにか、言い残すことは無いか?」
「申し開きもございません」
土下座でもしよう。
「そうかじゃあ死ね!」
「ヤメナイカフォグザヌ!」
何か高出力ビームみたいなブレスを放ちそうだったフォグザヌちゃんをヴルムが押さえつける。今回に限っては全面的に俺が悪いのでフォグザヌちゃんの凶行にとやかく言える立場じゃないし、ヴルムの制止は後で感謝を物に変えて送らねばならん。ここに来て俺の人徳が良きものであると知れた事も感謝しないとな。
「クぉぉん! クぉぉぉぉん!」
「ああ、泣かないで、妾の童よ。あんな男の事は忘れろ」
紛らわしさと変わり身の早さのどちらにツッコむ方が良いだろうか? とりあえず地面に頭をツッコむ勢いで頭を下げておこう。あと、最後の言葉はちょっと傷ついたです。
「ハァ……アネルヨ、コソダテトハ、カクモムズカシイモノナノカ?」
どこか疲れたように訪ねてくるヴルムさんの雰囲気がまるで育児に疲れた育成系男子みたい。やだ、守ってあげたい。
イノセンスさん、どっかいって。
「ケースバイケースとしか言いようが無い。まったくトラブルが起きずともすくすく育つ子供もいれば、どんな星の下に生まれたのか様々なアクシデントを呼ぶ子供もいる。どっちにしろ、親は相応の苦労をする事になるだろうけどな」
前者の子供ならば大きくなったときに状況の変化を受け入れづらくなったり、わがままに育つ可能性もある。一方で後者の子供はそもそも無事に成長する事すら容易ではないだろう。
ただ言えることといえば……
「育児は、覚悟が大事だ」
都度三回の人生で、どれだけ子育ての現場を見てきて、子供好かれ体質(ただし、ヤンチャな子を除く)を有効活用したバイトを行ってきたことか。たぶん二桁の後半はいく。そんな俺の中で芽生えた育児に対する姿勢を、言葉にするならそういう事だ。夜泣きやオムツの交換等は序の口。アスペルガーだのADHDだのの子供を育てるのってとてつもなく大変なんだよ。って、俺を育てたお母さんが言ってた。
他にも害のある変態や身代金目的の屑共に我が子をさらわれないよう常に注意しておかなくてはいけないし、教育と洗脳あるいは調教の境目を把握する観察眼も必要になる。どこまでが子供の喧嘩でどこまでがイジメかと真剣に考えなければならないし、子供のわがままをどの程度許容するかしないか、あるいは子供のやりたい事をやらせてやるのかやらないのか。挙げ出せばキリが無い。
性質の悪い事に、これらは一度でもミスするととたんに一生の後悔と子供の未来を少しずつ潰すことへ繋がってしまう。さらに兄弟がうまれれば、兄弟間のパワーバランスや甘え度の調整……当然、失敗すれば掛け替えの無い兄弟を引き剥がしてしまう事になる。
これだけ挙げてまだ子育ては楽だとか考えている阿呆は今すぐ俺の前に来い。頭蓋骨の形が変わるほど拳骨をお見舞いしてやる。
最後のはともかく、それらの苦行を説明すると深く納得したのか、感心したように何度も頭を上げ下げするヴルム。
「アネルヨ……ハジヲシノンデタノミタイ。ワレトフォグザヌノコソダテニ、キョウリョクシテクレナイカ?」
そして心が折れる寸前のようなか細い声で依頼……いや、懇願してきた。へぇ、『灰の原色』による会話ってそういう細かい芸も出来る訳ね。脳内保存しとこ。
「……アドバイスは出す。だけど、直接的な協力はしないつもりだ」
「ナ、ナゼダアネル!? ワレトアネルハトモデアロウ?」
う~ん、それを言われると弱るんだけど……俺だって、全面協力したいさ。
「ならますます娘さんが俺に懐いて、両親を省みない子供に育つ可能性があるぞ? お前はそれでいいのか?」
「ウグ……」
痛いところを突かれた、とばかりに逆鱗を守る形で翼と尻尾の位置を変えるヴルム。ほう、龍は痛いところを突かれると逆鱗を隠すのか。覚えておこう。
「だぁいじょ~ぶだって。根は良い子だろうし、二龍の子供なら愚かでは無いはず。一応の自我もあるようだし、いざとなったら……な?」
キシキシ
そう言って首から下げる百足笛を摘んでヴルムに見せる。心なしか娘様の鳴き声が大きくなった気がします。気のせいであってください。
「オイ愚物。右か左か選ばせてやる」
だから、怖いと。娘様の鳴き声が大きくなったって! 恐怖の龍だよ。恐龍だよ。
「出来るなら左目で。涙腺潰れてるからドライアイが酷いの」
「よし、では右目を潰してやろう」
選ばせるって、反対の選択を選ばせるって意味だったんですね。分かります。
「フォグザヌヨ、オマエハカシコキリュウダト、オモッテイタノダガ……」
「あ、あなた!?」
珍しい、夫が妻に愛想を尽かしかけている。しかしどとなく冗談臭が漂っているのに少しも気づかず狼狽しているフォグザヌちゃんも中々乙女だと思います。
「……分かったわよ。ヴルムに免じて許すわ」
「この度はまことに申し訳ございませんでした。以後このようなことが無いようしっかり愛でたいと思います」
「一回殺そうか!?」
間違えた。
「しっかり注意したいと思います。ご息女に害成す者は一切近づけません」
「チッ……分かったわ」
ほんっとうに渋々といった具合で……あ、ヴルムに窘められた。
「……分かったわ」
言葉は穏やかでもその青筋が心の内を表してますね。本当にどうもすみません。
「……マ、イイダロウ」
そのことはヴルムも十分理解していたらしいけど、フォグザヌちゃんが俺を拒絶するそもそもの原因も考慮していたらしい。見事な妥協点だ。世の夫にも見習ってもらいたい物である。妻には妥協を求めるくせに。
……まあ、俺には関係ないけど。
「マッタク、カスリキズテイドニ、ドウヨウシオッテ」
「かすり傷程度!? 何を言っているのよあなた! 子供が傷付いたのよ!?」
うぉ、子育て中両親のテンプレ会話キター。まさか龍の親子で初めて見るとは思わなかった。
「…………ヴルム、確かに子供は傷を負って育つものだ。けど今回の場合、俺という保護者の代わりがいながら子供に傷をつけてしまった。これは親御さんの信頼を裏切ったという事になる。罰を受けるのは責任ある大人として当然の事だ」
ふと日本人は、こんな時でも俺の事を子供と扱うのだろうな。と思った。
「…………ソウイウ、モノナノカ?」
「そういう物だ。だから俺が親御さんからどのような仕打ちを受けようと、それは仕方の無い事だ。むしろ当然と言っても良い。庇ってくれた事は本当にありがたいけど、これはTPOとして知っておくべき事柄だ。TPOっつうのは時と場所と場合に応じた行動や服装をしろという意味だ」
「……コンカイノバアイ、シカタノナイコトデハナイノカ?」
「いや、俺がもっと徹底して安全排除に尽力していれば問題自体が起こりえなかった。ならば、子供を預かっている時に全力で本気を出さなかった俺に責がある」
「ダガ、ケッカテキニ、カスリキズダケダッタノダ。コロスノハ、ヤリスギダロウ?」
「……結局のところ親次第としか、信賞必罰を是とする俺には答えられん」
「ナラバワレガユルソウ。アネルハシャザイトブベツヲウケイレタ。ツミニオウジタバツハ、モウウケテイル」
……ありがてぇ。本当に、ありがたい。
「ありがとう、ヴルム。俺は、どうやら良き友を得たようだ」
土下座の姿勢を解き、今度は左足を地につけて左腕を前に出し、左手を右の肩に触れるまで伸ばす。背筋は適度に曲げ、珍らかな事に心から恭しく頭を垂れる。
「イマサラ、キヅイタノカ?」
そんな俺に降りかかってきたのは気軽な掛け声と、ゴロゴロ! という雷鳴にも似た大きな笑いだった。
「さて、これより人化実験に入りたいと思います」
「いきなり何をトチ狂った事を言い出すのだ……」
ほう、ツッコミとしては無難、されどそれが良い。実に堅実なツッコミだ。これはもう一人前ちょっと前のツッコミニストを名乗っても問題ないレベルではなかろうか? 偶然だろうけど。
「クぉん?」
鳴き止んでまだ一分とたっていない娘様が肩の上でキョトンと首をかしげる。ちょ、娘様、頬がくすぐったいからあまり動かないでおくれよ? うっかりナデたくなるだろ。そしたら今度こそフォグザヌちゃんに殺される。
「あ、フォグザヌちゃんは帰っていいよ。その姿だとどうせ人化出来ないだろうし」
「あん? どの口がそれをほざいているの。貴様が二度と妾の娘に傷を付けないよう監視するに決まっているだろう」
うっ……それを言われると痛い。
「む、確かに。なら……あ、待て。その前にイルトミルジス達に指示を出し直さないと」
えぇっと……確か、イルトミルジスとウラガットが特殊スライムの護衛をしていて、その近辺にいるのが伝令役の新たなゴブリン、グルシオス。んで、ゴグリオスを始めとしたゴブリン十一体が俺とヴルムの戦地で掃除中。オークニ体とドラキー三体が水資源探索と確保を続行していて、七体のヅィ・スコロペンドラの内セネクトウテが今ここにいて、トリゼェイソンとキャステラウムがヴルム達の住処近くでアルミラージ狩り中。他は確かマジェスティアザクの下で修行中。ファロとセカロドが近くで待機、レミスタンさんは何も知らずに狩り中。クラタのアホは生きている。ってところか。
「……トリゼェイソン、キャステラウム、確保した肉を所定の位置に置いた後イルトミルジスとウラガットの仕事を引き継いでくれ。オークニ体とドラキー三体はそのままで、センチピルダー、オズマンタス、サンクティス、マジェスティアザクは五体と協力して水資源の確保。ゴグリオス……お、もう終わったか。なら水資源確保組に合流してくれ。グルシオスは引き続き任務続行。クラタのボケ……一々驚くな。これからイメージする場所へ赴き、妙齢の美女に広場へ来いと伝えろ。あ? 行けば分かるっつうの。疲れてる? ならその仕事を終えたら次にイメージする場所へ来い。休ませてやる。ウラガットは長谷川&ガルハイシュの下で待機。イルトミルジスとファロとセカロドは今からイメージする場所に来い」
ふぅ……こんなところか。俺が出席する婚約発表は夜が明けて少ししたあたりで開きたい。そのための肉も大分集まっただろうし、現状水はいくらあっても困る事は無い。腐ったら腐ったでまた別の使い道があるしな。
「……まさか、配下への伝令、だと? その数を一度に……おのれ、貴様は魔王だったのか!?」
フォグザヌちゃんがなんか勘違いしてる。俺をパパと同列にするなよ、恐れ多い。
「いやまだだし。そもそも『ジョブ』すら持ってねぇよ。パパ……っと、魔王ロクルに近しいグールとしての力も無いし」
「パ、パパ、パパぁ!? あの魔王を、パパ呼ばわり、だと?」
何やらトラウマスイッチでも入ったかのようにガクガクし始めるフォグザヌちゃん。ちっさいころに遭遇してトラウマったとか?
ありがとうパパ。おかげで面倒が減ったよ。
「それじゃ、フォグザヌちゃんがフリーズしている間に人化実験を開始したいと思います」
「クぉん!」
お、ナイス合いの手。娘様はコミュニケーション上手だな。
「人化とは竜種、つまり四足と一対の翼を持った上位爬虫類生物が持つ種族由来の特殊能力の事だ。基本的に龍と呼ばれる四足のみか一対ずつの足と翼、あるいは蛇のような身体的特徴を持つ爬虫類生物が使用することは出来ん。だけどヴルムのような古龍は例外で、限りなく竜に近い……それも竜種の中で最も強き存在に与えられる称号『ドラゴン』に匹敵する力を持っているから使う事が出来る」
まあ、流石に成り立ての古龍が『ドラゴン』級の力を持っているとも思えないけど。
「フム……ハクシキダナ、アネルは。シカシ、ナラバフォグザヌニモ、カノウナノデハナイカ?」
「良い質問だ。フォグザヌちゃんは古龍の中でも特殊な進化を遂げたようで、ワームと呼ばれる龍と同じ形状をしている。人化っつうのは竜の系譜という『種族』的に他の存在より上位の存在であるからこそ可能な『人に化ける』能力だけど、腕と脚というある程度ヒトに近しい身体的特徴が無いと行使は不可能だ。つまり、フォグザヌちゃんは身体構造上出来ないという訳だ」
人化するプロセス的にもアウトだしな。
「ナルホド……スマナイ、ハナシヲツヅケテクレ」
「問いとは良き物であるから、謝る必要は無い。人化自体はそう難しい能力でも無い。頭のてっぺんから徐々に全身へ意識を移していき、全身くまなく意識を移し終えればもうヒトの姿だ。ヒトの姿を持続する時は最初に意識を移した頭のてっぺんに少しだけ集中力を割けば良い。龍の姿に戻りたいときは集中を解けば一発よ」
もっとも、個竜によって多少の違いは出てくるけどな。
「フム…………ム、イシキガソレタカ」
「いくら難しくないと言ってもコツの掴み易さは別の話だ。ゆっくりやれば良い」
そもそも俺がヴルムに人化を覚えてもらおうと思ったのは左肩に乗る可愛い娘様が俺に懐きすぎて長時間離れられなくなってしまったからだ。さすがに娘様を一龍でヒトの町に連れて行く事は出来ないから、せめてヴルムだけでも保護者を同行させたい。そして、白く紅い眼を持った古龍なんて連れてったら注目して下さいと言っているような物だ。子龍ならまだ運よくテイム出来たと言い訳できるし、いざという時に隠すのも簡単だ。
「…………ハッ! 娘に何をするの!?」
「いや何もしてねぇだろ!?」
言いがかりも甚だしい尻尾の一撃をスレスレで回避。
ったく、再起動して早々に攻撃するんじゃねぇよ! どこのツンデレだ。
「まったく……ちょっと娘様をナデて悶えさせただけだろうに」
「それが駄目なんだって分からないの!?」
再び飛んでくる尻尾。おい、今吹き飛ばしたら辛うじて肩に摑まっているだけの力しか残っていない娘様まで吹っ飛ぶだろ。考えなしの駄龍め。
「おのれ……本気ではないにしても並みの魔獣ですら避けられない妾の攻撃をことごとくよけて……」
「あいにくだけど、俺は魔石持ちヅィ・スコロペンドラの攻撃すら見きれるぞ?」
ヅィ・スコロペンドラは魔獣の中でも上位に位置する強き魔獣だ。この森のヌシ的存在であると言っても過言ではない。その最強の中でも魔石持ちであるキャステラウムの攻撃すら最後の攻撃を除いてきちんと見きっていたのだから、俺の戦闘スキルが如何に高いか伺えるというものだ。あらやだ、なんか俺がナルシストみたい。
「くっ……己の童の異常すら見抜けない不甲斐ない妾が心底憎い!」
勝手に憎んでてくれ。
「ふん、修業が足り……お、来たかお前たち!」
「クゥ!」
ぽよぽよ×2
さらにフォグザヌちゃんを煽ってやろうと口を開いた時、視界に俺の天使が映った。この三体が来たからにはフォグザヌちゃんなんてどうでもいいね。ああ、俺の癒し!
「ほぉらほらイルトミルジス~、ご主人様のナデナデだぞ~」
「クッ……クゥ!」
俺的に随分久しぶりなマジナデをイルトミルジスにほどこし、あっという間に骨抜きにする。心なしか朝日を貫かん角まで柔らかくなっている気がする。本兎の気合が関係しているのだろうか?
でも関係無い。俺の両手は執筆とイルトミルジスを撫でるために生まれてきたのだから! ナデナデ~!
「な、あ……スライム、だと? 特徴部位の破壊が存在の消失に繋がるスライムを、二匹も配下にしているなんて……うわ、こっちに来るな!」
ぽよぽよ×2
と、今度は娘様がどこか非難めいた鳴き声を上げた。ほう、そんなにイルトミルジスと同じ扱いを受けたいか。ならば感じさせよう、俺のナデテクを!!
「こ、こら貴様! 妾の娘に……ええいスライム!」
厳かな動作で娘様を肩から下ろし、右手でそのままイルトミルジスを、利き手である左手で娘様を……ナデ倒す!
「こ、こら! 逆鱗に触るッ……コォォォォン!?」
耳をつんざくような嬌声もなんのその。俺は一心不乱にナデ続ける。途中、俺の中で何かがカチッと重なったような幻音が聞こえ、新たなる高みを垣間見た……俺のナデナデスキルが、レベルアップした。
「クゥ!? ク、ッッッ!!」
「クぉん!? クぉぉん!!」
さらに巧く、さらに激しくなった俺のナデナデに得られる快感がバーストしたのか、まるで……考えるのはやめよう。この子達を穢すわけにはいかない。まだ清らかなる身のこの子達に抱くような考えではない。よし、俺はナデナデ昇天略してナデ昇させる機械。俺はナデ昇させる機械……
「キ、キサマァァァァァ! 妾の童にコォン!? げ、逆鱗はやめコォン!」
清らかならざる身のフォグザヌちゃんはよからぬことを考えた罰を受けたようだ。そのままイキ狂って気絶してしまえ。
「クッッッ!!」
「クぉぉん!!」
「なんですの、この無秩序は……」
おっと、二度目のバーストピッタシのタイミングでレミスタンさんが……背中に巨大なリュックサックを背負いながら現れた。どこぞの変身系小人か。
言われて、改めてこの場を第三者視点で見てみる。俺の108ある特技の一つ、『リアル三人称視点』だ。
ともすれば動くのを我慢しているようにも見える精神統一中のアルビノ古飛龍、ニ体のスライムに犯されながらも俺に殺気を向けようとして嬌声を上げる黒い蛇っぽい古龍、そして眼の色を変えてニ体の無垢なる小動物を変態的な手つきでナデ回している一人の変態……
裁判でたら一発でドロップアウトですね。
「これはっ、違う! 俺はただナデているだけで……」
「痴漢冤罪の恐ろしさ、味わってみます?」
途端、ヒートアップしていた俺の心がクールダウンした。
「……二度目で三回、三度目で五回、味わいました」
「…………妄言ですわ。忘れてくださいまし」
「いや、大丈夫。世の中の穢れ具合に絶望した時の記憶を思い出しただけだから。その八人の馬鹿女共は全員論破して逆に名誉毀損で訴えて勝ったし」
ちなみに、二度目の時は俺が同性愛者であるという痴漢冤罪用の証拠とある程度地位のある小説家×未成年作家であるが故の信用性を使って裁判に勝ち、三度目はそれに加えて去勢済みであるという動かぬ証拠を突きだして勝った。あの悔しがる顔、今思い出すだけでも笑えてくる。
「その邪悪笑みでその方達の末路が手に取るように分かりますわ……」
レミスタンさんが何か言っているけど別段気にしない。俺が邪悪なのは今更だし。
とりあえず、息も絶え絶えなニ体を安静にさせ、ファロとセカロドを引き上げさせよう。
「ファロ、セカロド、もう良いぞ。それ以上やると良夫の恨みを買いそうだ」
良夫とは勿論ヴルムの事だ。
ぽよぽよ×2
「ああ、すまないニ体とも。俺だってお前たちにナデナデしてやりたいさ」
だけど、俺がお前たちに素手で触れれば傷ついてしまう。お前たちがそれを望んでいないと知っているから、俺はお前たちを撫でる事が出来ないんだ。俺だって、苦しいよ。
「……そうだな、スラリンに師事して体内酸濃度を完全支配する術を学べ。そうすれば、お前たちもイルトミルジスのようにナデてやれる」
ぽよぽよ!×2
うんうん、向上心の強い配下で俺も誇り高いよ。
よし……俺も素のニ体に触れても大丈夫な体を作ろう。その為にも早いとこパパみたいな一角のグールにならないと!
「クッ、殺せ!」
「黙れクッコロさん」
クッコロさんは殺しちゃいけないってパパとは違う俺の尊敬する魔王も言っているんだよ。
「また妙なバテレンの言葉を……」
ツッコミの中に個性を入れるか。上手い手なんだけど語呂がな……
「そもそも、龍って性欲強いだろ。しかも自慰が下手。配偶者つまりヴルムとの体力差を考慮するに満足するまで性交渉する事も出来ない。そんなフォグザヌちゃんの欲求不満解消を手伝ってやったんだからむしろ感謝しろよな。ファロとセカロドに」
「貴様何故それを!?」
真相は闇の中。
だからって近くの木に八つ当たりしに行くのは良くないと思います。
まあいいや。
「ちと遅れたけど、紹介するよレミスタンさん。こちら新米古龍のヴルム。ヴルム、こちら魔王軍『アンデッド・リジョン』総指揮官レミスタン・ホルセイテッド殿」
「クッ、シッパイダ……ン? アア、ハジメマシテ、ホルセイテッドドノ。ワガナハヴルム。フォグザヌノオットデアリ、アネルノトモノダ」
「こ、こここ、古龍!? ……は、初めまして栄光なる古龍ヴルム様。レミスタン・ホルセイテッドと申しますわ。偉大なる魔王ロクル様に仕える者です」
ほう、古龍を讃える時はそういう風に言うのか。
「あ、アネルって俺の新しい偽名ね。こっちの世界に属するものとしての名前だ」
「……色々と言いたい事はありますけど、今後はその名でお呼びいたしましょうか?」
「同級生共と教師がいる場では避けてくれ。奴らにアネルの痕跡が残ると今後に差し支える」
あくまで『ヴィルキット』の長『ニシキ・イノウ』。あくまでこの世界の徒である『アネル』。
両者は似たようでまったく異なる存在だ。決して表に出てはならない日本の影が付きまとうニシキ・イノウと俺という個人がなんの制約も無く世に出る事が出来るアネル。この違いは世を支配した敵性日本人共に対して大きな有利を俺に与える。しかし、それはあくまで両者が別人物、別組織の者である場合だけだ。
そこら辺の考慮もおいおい話しておかなくちゃな。
「それより、まだ紹介する奴はいる。コイツはヴルムより歴の長い古龍、フォグザヌだ。今は逆鱗をスライムにやられて悶えていた羞恥を吹き飛ばす儀式をしているところだ。ヴルムの妻でもある。あ、中身はパパと同類だから」
「なるほど、同郷人を憎む転生者という訳ですわね。栄光なる古龍フォグザヌ様、私は偉大なる魔王ロクル様に仕える者、レミスタン・ホルセイテッドと申しますわ。フォグザヌ様の敵は偉大なる魔王ロクル様の敵。同じ道を歩む者として、以後よしなにお願いしますわ。とはいえ、念のため偉大なる魔王ロクル様に報告させていただきますわ」
その時、意識を現実に戻した直後にビクビク震えだすフォグザヌちゃん。なんだ、まだトラウマが残っていたのか。
「…………ホル、セイテッド? ひょっとして『九つの銅い骸?』」
「あらあら……懐かしいですわ。そのように呼ばれていた事もありますわ」
フォグザヌちゃんが五体倒置した。いや、四肢は無いから全身倒置か。
レミスタンさんの邪狂は五つのヒュドラだったはずなんだけど……もしかして段階とかあるのか?
「もも、申し訳ございません。どうか、どうか娘と夫の命だけは……」
「…………どこかで見たことがあると思いましたら、あなたあの時の黒龍ですの?」
再びビクッと震えて肯定するかのように頭を動かすフォグザヌちゃん。これはそうとうのトラウマを抱えていらっしゃりますね……俺が魔王ロクルの養子だと知ったらどんな反応を取るだろうな? ニヤニヤ。
「あの時の事は気にしていませんわ。ですから頭を上げてください、栄光なる古龍フォグザヌ様。あなたは既に偉大なる魔王ロクル様と同じ世界で生きる存在なのですから」
「は、はぃ!」
蛇に睨まれた蛙というか妖怪に眼を付けられた旅人というか……さっきまでの強気はどこ行ったフォグザヌちゃん。
「ま、当人同士の問題は後でよろしくやってくれ。はい、最後。ヴルムとフォグザヌちゃんの娘様だ。名前はまだ無い。両親の特徴の欠片も見つからない皮膚を見れば分かると思うけど、つい最近まで悪霊に取り憑かれていた。で、ちょっと特殊な摘出法を使ったからもしかするととんでもないタイミングで変な事をするかもしれないけど、その時はよろしく」
「あらあら……分かりましたわ。こんばんは、栄光なる古龍ヴルム様とフォグザヌ様のご息女様。私はレミスタンと言いますの。よろしくおねがいしますわ」
「クぉ、クぉ……クぉん?」
「あらあら……可愛らしいですわね」
「クぉん♪」
嬉しそうな声を上げてレミスタンさんの手に自身の鼻をこすりつける娘様。その様子にガクブルするフォグザヌちゃん。いや、レミスタンさんの配下という立場と俺の養子という立場を鑑みればむしろ俺にそういう態度を取るはずなんだけど? そこらへんどうよ?
蛇足だな。
「うっし、とりあえずこれで自己紹介は完了だな。後は……よし、とりあえず同級生をあべしして寝かせてこよう」
「……それ、永遠の眠りって意味になるわよ?」
どうやらツッコミに意識を割り振る事で精神を保つことにしたらしいフォグザヌちゃん。うん、ちょっと勢いが足りないかな? 三十点。
フォグザヌちゃんと魔王軍のアレコレはいずれ外伝的なノリで判明させます。




