表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
一章:憧れの異世界が効率レベリングの場に変わるまで
3/50

第三話:とりあえず話を聞いてくれ

 何故かアルミラージより懐いてくるじんめんじゅと当のアルミラージをナデナデしながら、俺は今被告兼弁護士の立場に立たされている。検事は各専科のリーダー、裁判官は先生二人だ。


 原因はじんめんじゅを堕とした件について先生や生徒の激質問責めを察した俺が反射的に「弁護士を呼んでくれ」と厨二ったからだ。元々個性豊かな人材が集まる校風故、俺を中心にドラマでよく見る裁判の形が取られたのだ。意味の無い事を……


「それでは、これより裁判を始めます」


 うぜぇ……俺的にはさっさとすませてアルミラージと熱い夜を過ごしたい。ここは異議申し立てをしよう。


「前略、これより弁護士の主張を開始させていただきます」

「お、おい、そこは空気読めよ……」


 空気が読めるのなら通信制の学校なんか来るか。


「まず、俺はアルミラージがヒトに懐いたプロセスに注目しました。アルミラージは見た目どおり角の付いた兎です。逆に言えば普通の兎に角が付いた魔物がアルミラージと言えます」

「ふむ、続けたまえ」


 カッコつけても滑稽なだけだ先生。


「俺や一部の生徒がアルミラージの角を折った後、アルミラージは自分の角を折ったヒトに懐きました。つまり、アルミラージは自身を魔物たらしめる物、つまり角を折った人間に懐くという習性を持っているということです」

「物的証拠はあるのですか?」


 今あるわけないだろ。アンタの頭は飾りか。


「……現時点での証拠能力はありませんけど、野生のアルミラージを捕獲して公式に実験することで証明することはできます。余計な事を言わせるな」

「うっ……すまん」


 分かればよろしい。


「この裁判の議題はこっちのじんめんじゅを服従させた事です。当時、俺は、だ・れ・の! 助けもこない状況で絶望的な戦いを強いられていました。そこでふと浮かんだ策に乗っ取ってじんめんじゅの個性を打ち砕いただけです」

「いや、あの時は生徒に危険な事はさせられないし、あっさりと、その、アルミラージ? とかいう化け物兎を……」

「あ゛? 誰の前で兎を化け物とか言っちゃってんの? 周囲を東京湾で囲われたコンクリの住み心地をモニターしてもらうよ?」

「悪い! 本当に悪かったから! そのナイフをしまってくれ!」


 まったく、俺の前でこんなかぁんわゆい生き物を愚弄するなど、危機意識の足りん教師だ。俺はやるときはヤルって普段から言っていたはずだけどな。

 まあいい。次は無いからな。


「……今回は、まあ周囲を森に囲まれているという状況の中で火を武器にするという愚を冒さなかった点のみを見て五万歩譲って許すとします。ただまあ、あそこで俺が策に成功していなかったら生徒たち含めて皆殺しでしたでしょうけどね。ただし後でアルミラージが満足するまで遊び道具になる事」

「……それについてはすまんかった。俺は……」

「それより先は言わない。周りを」


 オイ、そこの……なんか不正があると騒ぎ出す半野次馬的ポジションの同級生と検事役のリーダー共。お前らがこの教師をそんな非難の目で見る資格なんてないからな。


「コラ、お前らだって人の事は言えないぞ。ここをただのジャングルか何かだと勝手に認識して、ゲームの基礎知識である常識外の動物が潜んでいる可能性を無視してじんめんじゅなんつう現実に置き換わるとこれ以上無いほど厄介な奴近づけといて、挙句俺に加勢しない? 和を尊ぶ日本人が落ちたもんだなぁ、オイ」


 言うと、何人かの同級生は目を伏せてバツの悪そうな表情を浮かべてそっぽを向いた。だけどやはり、反骨精神溢れる現代日本の学生が納得するはずもなく。


「ふざけんな。自分だけ武器持っといてズルイだろ!」

「なんで私達が危ない目にあわなきゃいけないのよ!」

「じんめんじゅなんて雑魚だろ、すぐ倒せよ」

「たかが兎のために先生に敬語を使わなくなるのは良くないと思います」

「そもそも作業に参加してなかったくせに偉そうよ!」

「和を乱してるのはお前だろ!」


 かーっ! こんっれだからどいつもこいつもティーンエイジャーは嫌いなんだよ。

 そして、愛すべき俺の趣味製造機でもあるんだよね♪


「ハッ、これだから甘ちゃんは」


 両手に侍らせていた花(兎と樹)を手放してわざと演技がかった仕草で場を扇情する。おちょくりやすい現役高校生共はもはや敵意の籠もった目で俺に注目する。例外はさっき目を伏せたヤツらと俺の所属専科の同級生、それに教師二人か。


 大衆の目が集まり十分場が盛り上がった所で俺はたまたま朝寄った本屋でもらった大き目の袋に手を突っ込んだ。ちなみにこれは木槍のところに置いていた物で、八割くらいこうなることを予想していたためじんめんじゅを堕として尋問に入る直前くらいに持ってきておいた物だ。


「お前ら、コレを見てもまだ同じ事が言えるか?」


 取り出したのは、袋に入りきる限界ギリギリの大きさの毒々しい大蛇の死体。

 この時点で気の弱いヤツは腰を抜かした。


「おーおー、どいつもこいつも笑えるツラ晒しやがってぇ。そんなんじゃこの先なんか耐えられないんじゃないかよ?」


 わりと本心からこみ上げてくる笑いを押し殺しながら蛇の顎を掴んで引きずり出し、躊躇無く蛇の肛門より少し上部を切り裂く。


 途端、ドサドサドサッ! と流れ出てくるムカデやこの蛇より小さな蛇等などどれもが初見で危ないと分かる何十匹もの生物の死体。

 ハッ! この程度で気絶したり失禁してやがるヤツがいるぜ! まったく軟弱な坊やにお譲ちゃんだこと。しかも割合的に少ないはずの野郎のほうが多いときた。まったく平和ボケ極まれり、だな。


「これはテメエらが楽観気分で暢気に無駄なバリケードやどんな性質を持っているのか分かりゃしない草木を集めている間に俺が仕留めた危険生物予備軍だ。最初は見たことのある種類の蛇が食料になりそうだと内臓その他を除いていたんだけどよ、運の悪いことに目に見える範囲の寄生虫がうようよいたから死体袋として活躍してもらってたって訳だ」


 こういう演出が必要になるかもしれないと危惧していたから、というのが真相だけど。コイツラ普通の、それこそ日本にでも生息している普通の生物がいたからこそ魔物の法則に気づけたというのもある。


「誰だっけ? 手伝いもしないで偉そうにとか言った、ヤ・ツ☆ これだけの量の危険因子を排除し続けていたんだぞ? むしろ誰より貢献してるだろ」


 本来独断行動は結果論で許されるような事じゃないけど、今は楽しい楽しい論破タイムだ。粘着質かつ筋の通った俺だけのルールを押し付けまくるために利用するぜぇ? 論破っつうのは不合理や不義理を指摘するだけじゃない。いかにこちらが正しいか錯覚させ、その上で相手が納得できるよう言葉を選び誘導する事こそが楽しいんだ。


「んで? 次は俺だけ武器を持っているだのじんめんじゅが雑魚だの自分たちが危険な目にあう必要は無いだの言ってくれちゃうお馬鹿さんか? 俺がコイツを持っているのは今まで積み重ねてきた人脈と功績、それと金のおかげだ。知ってるか? 英語の国には随分と昔から子供の諜報員がいたんだぜ? 日本に無いと誰が言い切れる?」


 実際無いけどな。今の日本を動かしているやつらは基本子供を下に見ているから重要な仕事どころか簡単なお使いすら頼まないだろうからな。

 俺がこのナイフを手に入れられたのはたまたま身内に軍関係者のいる知り合い(もっとも、前の人生における、だけどな)の外人をヤクと暴力とストレスから救ってやったからだ。身内が乱物の国で薬物中毒者になりかけたことを公表されたくなかったその軍関係者に国際電話(当然前の人生で知った番号)でナイフを報酬に用意してくれればバラさないと通達し、契約書まで書かせて手に入れた一品だ。


 しかし、事情を知らない――もし知っていたら日本に子供の諜報員がいる証明になってしまう――同級生共は勝手に妄想を広げて俺にとって都合のいい『恐ろしい力を持つ狂ったスパイ』と解釈したようだ。クックックッ、こんな嘘くさい事よく平気で信じられるよなぁ、おい。きししし……おっと、もう少しで堪えきれずに笑いが洩れるところだった。危ない危ない。


「じんめんじゅが雑魚だっつうならテメエらで殺してみせろよ弱者共。長柄武器どころか長剣すら無い状態で勝てる相手じゃねえんだよバーカ! DQが異世界の手本だと思うのなら勝手にしろ。それで死ねばいいんだ。それと、普通に日本の都会で勉強してた俺達が何の前触れも無くこんな場所に転移させられたんだぞ? 危険が無い筈無いだろ愚か者」


 大体、俺がアルミラージを錯乱させなきゃ串刺しにされてた癖に。


「さて次、『たかが兎のために先生に敬語を使わなくなるのは良くないと思います』、だって? お前頭大丈夫か? 俺とじんめんじゅの間に入って俺を助けようとてくれたのは一体どこの誰アルミラージさんですかぁ? おざなりで断片的でも敬語モドキを続けられる俺の精神は褒められても良い筈だ」


 おーおー、あからさまにダメージ受けて崩れ落ちる教師二名。今はアンタ方責めてる訳じゃないからしっかりしてくれ。


「さあさあ、こんな完成完璧無敵超人な俺にも弱点はある。それは他人との記憶力の弱さだ。俺の専科のヤツらは知ってる筈だぞ、何せ未だに名前を覚えきれてないからな」


 いやホント、どうにも昔からどうでもいいヒトの事を覚えるのは苦手どころか無理なんだよね。ループ繰り返しても何故か克服出来ない俺の魂に刻まれた弱点。まあ俺が認めたヒトや興味を持った物や強烈な記憶とかは部分的な完全記憶能力なんじゃないかってくらい鮮明だけど。


「その乏しい乏しい記憶力で覚えておけた最後の話だ、よ~く聞けよ愚民共。誰かは忘れたけど『和を乱しているのはお前だ』なーんてほざいた低脳野郎がいたよな? 正直一番キレてんのはそこなんだよ」


 クッ……堪えろ、堪えるんだ俺! 今笑ったら台無しだぞ! たとえ漫画やアニメみたいにヒトの顔から血が抜ける様があんなにはっきりと見えていても!


「テメェかぁ……くふふ、テメエ後でどうなるか分かってないよな? 耳にムカデ入れるなんて中の上どころの拷問じゃすまないような恐ろしい事……具体的にはケツの穴をコレじゃないナイフでムカデが入れるくらい切り裂いて適当な木の根元に縛りつけ、入り口にムカデの死体を置いて放置。やがて仲間の死臭を嗅ぎ取ったムカデの群れがキサマの入りやすく食いやすい肛門から腸をゾワゾワと這い上がり噛み付き、痛みで悶えることも出来ず体を中から食われる恐怖を味合わせてやる」


 くふっふふふ! ああ、もう最高! だから好きだぜ脳無しティーンエイジャー! この程度の応用拡張拷問如きで立ったまま失神するなんてよぉ! 拷問はありふれた物かまったく未知の物じゃなきゃあんまし効果はねえからそんな方法で報復するか、ば~か!


「良いか、テメエらもよ~く聞いておけよ。そこの馬鹿みたいになりたくなかったらな」


 拷問の様を想像でもしたのか、それとも俺の狂い具合に恐れたのか、先ほどまで非難轟々だった同級生共はガクガクブルブルと震えだした。まったく、校風柄毎日のように喰う種や寄生する獣、亜なる人に死刑囚の遊園地な漫画とか読んでるくせに、いざそれが現実味を帯びてくると途端に震えだすなんて……

 おいおい、なんだか可愛く見えてきたぞ。そうか、これが神の視線なのか。この状況で出来るかどうかは分からないけど、今書いてる小説の未来に組み込んでみよう。きっとさらに素晴らしくなるだろう。


 それはともかく……さてと、ここで決めなきゃ男じゃない!!


「俺は……最初から和に入っていないから乱しようがねぇんだよ!」


 ……あ、あら? 先ほどまでとはまた別の沈黙が流れているような……? あ、あれー? 俺的に超かっこよく決めたのにそれは無いよー……


 まあ俺小説家だしその辺の残念属性の言葉の扱いなんて心得ているけどな。チィ、極限状態でも変わらないのか。メモ帳が欲しいところだぜ。


「ま、安心しろ。実際に狂った事すれば数の暴力に押されて最後には殺されるか俺にとって死ぬより辛い状況に落とされるだろうし、ここが異世界ならやがてテメエらになんらかの特殊能力がつくかもしれねえ。その利用価値が分からんほど俺は馬鹿ではない。何より……」


 先ほどの『恐怖刻み』方程式の演技を終えた俺はすぐさま慈愛の眼差しと崩した表情で告げる。言っていることは一般的にクズの極みだけど、さっきまでのアレと比べれば一周回ってギャップに萌えるかもしれない。そうなると超超ラッキーなんだけどさ。ま、そこまで高望みもすまい。


「俺の同級生の中にはわりと良いヤツもいる。さっき愚か者共が俺に非常識な非難をぶつけていた際に申し訳無さそうな顔をしたヤツ、とかな。そいつらの為にも、俺は不用意にテメエらを傷つけたり罠に嵌めたりはしねえよ」


 ……う~ん、今ので希望が芽生えたような表情で俺を見てくるヤツが何人かいたけど、この状況はちょっと不味いな。俺はなるべく干渉しないようにしていたかったのだけど……まあ、あの状況に追い込んだのはコイツラだし、今からでも距離を置けばなんとかなるだろ。

 最悪でも内通者は確保出来ただろうし。


「ただし、俺を害したりこの……あれ? どこいった? …………あ、いたいた。あそこのアルミラージとじんめんじゅに手を出したら殺す」


 おおう。意外に殺気が湧き出てきたぞ。今ので未来の内通者逃がしたかもしれん。

 まあいっか。


「おし、それじゃ……おーい! 終わったぞ!」


 未だ少し震えている同級生に踵を返し、広場とは少し離れた場所で何やら小突き合いをしているアルミラージとじんめんじゅに声をかける。ちなみに、今じんめんじゅに手を出したら殺すと宣言したけど対人戦で俺より役に立ちそうだから庇護に置いただけで別に感情的に求めてないからお前は近づかんで良い。顔超怖いし。


「おお~! アル……」


 飛び掛ってくるアルミラージを真正面から喜色満面で受け止め、愛い獣の名を告げようとして不意に口ごもる。そういえばアルミラージって俺が勝手に呼んでる『種族』名だよな? 他にもいるようだし、このままアルミラージと呼ぶのもおかしな話しだ。

 よし、受け止めたは良いけど手を出してこない俺に不思議そうな目で首を傾げる可愛いコイツの名前を決めよう。


 とはいえ、ここでピョンキチだのアルラーだのバニーだの安直な名を付けるのは俺のプライド的に嫌だな。かといってあまり凝った物やアリス等の人名を付けると異世界の世界観をぶち壊しかねない。軍用大型ナイフを持っている時点で世界観もクソも無い訳だけど、それならば名前くらいは元の世界から離してもいいだろう。


 よしよし、なら俺が俺のルールで名前を決めても問題はあるまい!


「うっし、今日からお前の名前は……イルトミルジス、でいいか?」


 フッフッフッ。コレこそが俺の108ある得意技の一つ、『即席名前作成』だ。意味は特にないしどこかから流用しているわけでも無い、なのに何故かイケてると大人気だ(無論SNSや友好関係を使わない限られた世界内での話まあ自画自賛だけど)。


 問題は名前の概念をアルミラージが知っているかどうかだけど……


「クゥクゥ」


 おお! 理解してくれたかイルトミルジス! もうもう、この愛い奴め!


 もう我慢できん! よし、ちょっと森の奥に行って構い倒そうそうだそうしよう。邪魔する奴は三枚に卸す。


 とはいえここで同級生とはぐれても面白くない。泣く泣くイルトミルジスを下ろして一旦広場に戻る。いきなりどこかへ行ってまた戻ってきた俺に同級生はあからさまにビビッてたけどどうでもいい。


 俺の荷物……リュックサックにナップザック、肩掛け鞄にウェストポーチとなんで一学校にこんなアホなほど荷物が必要なんだとよくツッコまれる四つの入れ物全てを持ってイルトミルジスの下へ戻る。無いとは思うけど大型ナイフを見て俺の荷物を漁ろうとか考える馬鹿がいる可能性はある。中には素人の手に渡したくない物もあるし、俺の目に届く範囲に置いておいた方が良いだろう。


 イルトミルジスの熱い視線を我慢してリュックサックの中から裁縫鞄を取り出す。小学校で注文する事になるカッコイイドラゴンの絵がプリントされた裁縫鞄の中から取り出したのは鮮明な赤い糸。それを手近な木に括り付けて糸巻きを手に持つ。テーセウス方式だ。いざというときの備えが役に立った。


 さて、いざ俺とイルトミルジスのハネムーンに……


「おいじんめんじゅ、なんでお前までついてくるんだよ」


 何故かコワモテお兄さんまで付いてきた。ハッ! ま、まさか、これが世に言う……つ・つ・も・た・せ?


 なわけあるか。


「雰囲気ブチ壊しだ。ここで待ってろ間男」


 男かどうかは分からないけど。

 しかし、何故かじんめんじゅは怖い顔のままガサガサと頭上の葉を揺らして否定の意を示す。しばき倒したろかコラ。


 ……なんだ? 枝で地面にラクガキ……? 田舎の子供かよ。

 いや、この意味のありそうな記号の羅列……もしかして文字か!?


 生憎サッパリと分からないんだけど……お、一つの単語を器用に枝で指してからイルトミルジスを指した。ふむ、これはイルトミルジスの事か。しかし、その下の単語も同じようにイルトミルジスを指した。どういうことだ?


 そして最後の単語を自分に指すじんめんじゅ。その単語はお前か。


「で? 何が言いたい?」


 俺の問いにじんめんじゅはさらなる単語を二つ書き、そのどちらも俺に指した。いや、だから分からない……

 待てよ? この五つの単語……もしかして種族と名前か? 二つの単語が当てはまるのは俺とイルトミルジスだけ。さっきのやり取りで自分も名前をつけて欲しかったのなら頷ける理由だ。


「そうか、お前も名前が欲しかったのか」


 頭上の葉はガサガサと縦に揺れた。


 これは……すまないことをしたな。何がと理屈で説明は出来ないけど、すまないことをした。


「悪かったな。よし、ならお前は今日から…………ウラガットだ」


 じんめんじゅに合う名前を思いつくのに意外と時間がかかった。何故だ。


 ともあれ時間を掛けたおかげかじんめんじゅはコワイ顔を嬉しそうな顔に変化させて小躍りを始めた。今更だけどファンタジーなんでもありだな。体を魔力で覆っているって設定とかならありえるけど。


「ほら、名づけてやったんだからここで待ってろ!」


 お、意外に素直だな。よしよし、良い子だウラガット。


「さぁてイルトミルジス、行こうか?」


 クゥクゥと声帯が無いわりにハッキリとした唸り声……いや、もはや鳴き声で肯定的な返事を返してくるイルトミルジス。もう一周回って俺がアルミラージになってくっつきたいレベル。人里(人じゃなくても可)見つけたらそういう魔法が無いか探してみよう。




「この辺で大丈夫か?」


 独り言のつもりで呟いた確認の言葉にイルトミルジスがクゥと返してくれた。何この可愛い生物。もう絶対離さないんだから!


「それじゃ……行くぜイルトミルジス!」

「キミは誰?」


 !?


「誰だ!」


 俺とイルトミルジスの甘く切ない肉欲の宴を邪魔する愚か者は!

 腰にある大型ナイフに手をかけながら周囲を見回すと、そこには妖精がいた。


 …………は?


「ボク、ルカリオン。キミは?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ