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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
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第二十九話:なんとなく曖昧な回答

 前回龍の子供に取り憑いていた悪霊の事を錦君は駄霊と言いましたが、あれは罵倒の意味であって正式な名前ではありません。紛らわしくてごめんなさい。

 さて、早いとこ制御して説明に行かねば。


「うぎぎ……おい、無駄に暴れるな。今俺が気絶すれば俺との繋がりが切れてフォグザヌちゃんやヴルムに八つ裂きにされるぞ」

「クソが。死ね」


 なんともストレートな表現で罵倒してくるも己の不利を悟ったのか大人しくなる堕霊。そうそう、貴様のような根性無しは飼い主の言う事を素直に聞いてりゃいいんだよ。


「アネル、ソヤツガワガムスメヲ?」


 ヴルムがフォグザヌちゃんと共に娘さんの看病をしながら静かに訊ねてきた。ほう、娘さんの体が蝕まれていた自覚はあったのか。フォグザヌちゃん、いくら娘が可愛くてもそういうことは素直に言うべきだよ。誰が治療方法を知っているか分からないんだから。


「そうだ。つっても、報復とか考えるなよ? コイツ、今は俺に乗り移ってるから下手に害すると俺までダメージを受けるからな」


 だからその溜めやめてくれ。つか、その位置だと俺にもブレスかかるから。


「……ソウカ」


 幸いにもそれだけ呟いて構えを解くヴルム。う~ん、親の愛ってイイね。


「ねえちょっと! 悪霊なんてどうやって引っ張り出したのよ!」

「少し待ってくれるかフォグザヌちゃん。今ちょっと大事な事するから」


 ぎゃあぎゃあ五月蝿い。それでも英知ある古龍か。情けない。


「さ~て、と。まずは貴様の名前を教えろ。拒否ったらすぐさま狂気を隠して貴様を枯れさせる。俺には分かるんだぜ? 堕霊っつうのは自分で自分を維持するだけの負の感情を生めない落ち零れシェイドだ。今繋がっている俺から狂気の供給が絶たれたら、貴様は転生も出来ずにここで消えちまうぞ」


 堕霊。幽霊がシェイドに成る程の負の感情を生んだにも関わらずそれを持続出来ず存在を繋ぎとめる事が困難となった幽霊の派生。それは半ば寄生生物のような存在で、宿主が死ぬか栄養が供給されなくなればすぐに構成物質の繋がりが解け、周囲に拡散してしまう。


 分かって言っている俺は、やはり悪党が似合うのだろうな。


「塵芥の輩が……ジャック」

「そうかジャック。では何故日本語を話せる? 歴代の宿主にそれっぽい奴でもいたか? あ、これから先の質問に拒否権は無いから。嘘だと思ったら即狂気を隠す。きちんと言葉を考えてから口にするんだな」

「チッ……米橋廉一郎、熊沢拓馬、近藤智久、上野恵、早川翔、控井省吾、宮沢明野、鈴宮海人、竹森綾女。全員俺が喰った屑の名だ」


 ……ふむ。続けるか。


「なるほどな。そんじゃ、次だ。貴様はよほど異人……異世界、いや、日本人が嫌いなようだけど、どういうことだ?」

「腐ったドブネズミのような奴が口を開くな。オレの家族と友人と恋人とペットを惨殺したクソ野郎が。絶対に許すものかよ」

「じゃあ、その日本人は宗教関係者か?」

「五分の虫より劣る害獣が。その通りだ死んじまえクソが。何が神のお言葉だ。何が神のご意思だ。妹の体が目当てなだけのイカレた色情魔がぁぁ!!」


 …………ほう。


「なるほど。つまり、妹さんを助けるために一致団結して迎え撃ったもののあえなく返り討ちに。死ぬ間際、つまり幽霊となったときにシェイド級の憎悪を抱くもその気持ちが続かず、堕霊となって仇の日本人をゲリラってたってところか。ヴルムとフォグザヌちゃんの娘さんに取り憑いたのは、フォグザヌちゃんのヒト嫌いに惹かれたけどフォグザヌちゃんが強すぎて取り憑けなかったから、ってところか?」

「三途に送ってやる。そうだ」


 そうか。


「なあ、魔王ロクル、って聞いたことあるか?」


 俺の言葉にピクリと反応をしめすジャック。ほう、意外に年季が入ってんな。


「……何故その名を知っている? お隠れになられたのは三千年以上も前だぞ」

「不思議な縁もあってな、俺は魔王ロクルの養子だ」

「…………『妖精』の名は」

「ルカリオン。俺の義兄さんだ」

「…………他、配下の者は」

「妖狐と夜鷹のハーフ忍者コウガルン、雷獣と雷電竜を喰って進化した超スライムスラリン、最初期からパパの配下をしていたデス・グールレミスタンさん。面識があるのはこれぐらいだ」

「……聞き覚えがある。魔王ウォルス様が魔王ロクルと会話をしている時に聞いた名だ」


 先ほどまでの苛烈な態度はどこへ消えたのやら。過去を思い出すような声音で呟くジャック。パパ以外の魔王か。少し気になるな。


「…………信じよう。魔王ロクルの名を知っている日本人はもういない」

「そうか、それはありがたい。んで、そんなパパの子供たる俺が、そういう屑をどう扱うか。貴様には分かるんじゃないか?」


 ジャックは押し黙る。どうやら何か葛藤しているようだ。その間、手を離すわけにはいかないけど暇っちゃ暇なのでヴルムに『紫の妙薬』の場所を伝え、取りにいかせた。恐らく待機しているであろうゴグリオスにもその事を伝え、素直に渡すよう指示を出す。娘さん、身体的損傷はともかく体力的な損耗がヤバそうだからな。何、これも友人のよしみ、って奴だ。


 およそ十分後、ヴルムとフォグザヌちゃんの娘さんが『紫の妙薬』を飲んで規則正しい寝息を始めた頃。

 微妙に忌々しそうな表情でジャックが口を開く。


「……………………良いだろう。魔王ロクルも魂は日本人なれど我が同志。貴様も同輩ならば、オレを使ってクソクズ共を殺せ!」


 交渉成立。面倒なやり取りが無くて助かったぜ。


 だって、な?


「そうか……なら早く俺の心に取り憑け。そろそろ限界だ。ヴルム、俺のアルミラージ、イルトミルジスの先導に従って俺を運んでくれ。後は……よろしく」


 最後の気力を振り絞ってイルトミルジスその他の配下にこの事を伝え、ジャックが俺の中に入ってくるグズグズとした不快な――しかしいと親しき――感覚が俺の心を舐めたのを確認し、意識を忘却へと誘った。


 ――あークソ。中森夫妻の婚約発表、見たかったな……













 あ゛あ゛? おおう、久々の明晰夢か。舞台は……剣と魔法の世界、ね。夢の中でも憧れと出会えるとはな。流石俺と言えばいいのか呆れた俺と言うべきか。


 なあ、どっちだと思う?


「……オレに聞かれても」

「おうおう、しおらしくなっちゃって。最初の頃のザ・憎悪なジャック君はどこ行った?」

「……別に。お前が日本人なのが悪い」


 そう言ってプイっとそっぽを向くジャック君。なんだかツン可愛いから今後はジャック君と呼ぼう。


「も~照れちゃってぇ。うりうり~、うりうり~」

「や、やめろ! つつくな!」


 思わず年上のお姉さん的声でからかってしまった。ツンデレ弟爆誕。可愛いなぁ。


「しっかし、生身のジャック君ってそんな顔なんだな」

「なんだよ、文句あんのか?」


 文句なんてとてもとても……

 気が強そうな茶色の吊り眼に同じく茶色い短髪。鼻は日本人基準だと少し高く、口元は不満たらたらとでも言いたいのかへの字に曲がっていて……むむ、夢だからか少し認識し辛いな。もっとも、堕霊なんて仮の表情を作れるだけ上等な部類なんだから、夢の中で見られるだけマシと考えよう。


「で? わざわざ俺の夢にまで出張ってきた理由は?」


 ま、大体予想はつくけどな。


「決まってんだろ。お前の体を奪いに来たんだよ」


 やはり。

 堕霊如きにのっとられる程度の精神力ならこの先戦っていけないだろうからな。確認して当然だ。


「生憎だったな。俺は素の精神力もさることながら多重人格者でもあるんだ。せいぜいが能力クラスの力で俺を乗っ取ろうなんざ片腹痛い」


 クラタん時も俺を突破することは出来てもウィルフィール()やドラコ、それにドロロの前では意味が無かったくらいだからな。流石世界認定型能力。レベル1でも堕霊の精神攻撃を超える、か。強力だねぇ。


「……化け物め」


 お褒めに預かり光栄至極。こちらの業界ではご褒美ですよ。


「それと、どうやってオレをあの龍から引き剥がした? あの白い龍と黒い龍がうるさいから早く教えろ」


 あー、そっか。そりゃきちんと説明しなきゃな。

 でもその前に。


「娘さん、元気?」

「お前が渡した薬のせいで不必要なほど暴れている」


 うっ……ま、まあ、元気なのはいい事だ。うん。


「そうか、なら良い。そんじゃ、説明タイムだ。俺はあの子を見たとき、すぐに何かに取り憑かれていると判断した。同化作用と混瞳現象が見られたからな。あ、同化作用っつうのは霊機物で構成された物に取り憑かれた際に見られる身体変質の事で、大抵は鱗と皮膚を混ぜ合わせて爛れたような形になる。混瞳現象っつうのは意識のある二者が混ざり合ったときに起こる瞳の異常の事だ。今回の場合瞳孔の形が龍の物じゃなかったから判別出来た。お分かり?」

「……すげーな。学者みたいだ」


 う~ん、どっちかっつと開発者かね。まあ学者の面もあるにはあるけど。


「話を戻すぞ? あんな幼い龍が同化作用と混瞳現象を引き起こしている理由はまず間違いなく悪霊系の霊に取り憑かれているからだと判断し、まだ両親を襲っていなかった点からシェイドでもレイスでも無いとあたりを付けた。まあレイス如きが古龍の子供に取り憑けるとも思えないけどな。で、だとするなら原因は堕霊あたりだと判断し、全身に狂気を纏って歌に負の感情を乗せやすくした。『生命の力』でコーティングしたのは万が一失敗して俺の狂気がオーバーフローした時に備えてと、お前が予想以上に強力だった場合の保険だ」


 『生命の力』はあらゆる能力を切り裂く最強の力の一角。さっきのは筋力も混ぜていたから俺が気絶してもしばらくは娘さんに纏わりついていたから、ジャック君を足止めするには十分だったんだよね。その間にヴルムかフォグザヌちゃんが八つ裂きにしていただろうし。


「生命の力?」

「そういう特殊能力だって覚えとけば良い。この世界の能力はアホみたいに強力だから、たぶん習得している人間もいないだろうし」


 その世界の能力で撃破出来ないような特殊な魔獣とかがいない限り、な。仮にも魂の力を使うんだからそうほいほい使い手が居てもらっても困る。ま、無意識のうちに使っている奴はいるだろうけど。


「歌を歌ったのは感情を全周囲に散りばめるためだ。歌ほど個人の感情を拡散させる媒体は無いからな。精神系の能力より……『ジョブ』より効率が良いまである。人間の三大観応能力の一つだ。ヘタクソだったのは即興歌だったからだ。既存の歌、つまり歴史のある歌はどうしても歌自体に何かの感情が混ざっちまう。確実に成功させる事が出来なくなるって訳だ」

「なんだよ人間の三大観応能力って?」

「ヒトの話を聞かずに新たな疑問を持つのは良いことだ。歌、カリスマ、そして愛だな」

「……寝ぼけてんのか?」

「黙れ。歌はさっき説明した通り全周囲に己の感情を拡散させる力がある。カリスマは歌に劣るものの同じ志を持つ者に絶大な影響力を与える。愛は言うに及ばず、無敵の力だ」


 まあ、俺には歌しかないがね。


「……オレは妹を愛していた。親父も、お袋も、ヒィンシャの事も。なのに、奴らはッ!」

「はいストップ。確かに愛は超強力だ。それこそどんな能力すら打ち破るくらいにな。だけど、歌やカリスマに才能があるように、愛にも才能っつうのがある訳よ」


 俺は、あらゆる行為に才能が存在すると信じている。それこそ、憎しみや憧憬なんかにも。ヒトはみな努力するのに才能はいらないと言うけど、それにしたって努力できる才能が必要となる。生まれつき腕が動かせないヒトは腕を動かす才能が、ピーマンが食べられないヒトは苦いものを食べる才能が、無い。ただそれだけの事である。また、話しが出来るヒトにはヒトと話をする才能が、ぼっちはヒトを遠ざける才能が、優れている。ただそれだけの事である。


 何が言いたいかっつうと、誰にでも出来る事にすら才能があるという事。

 人間の三大観応能力と言ったところで、それにすら才能は必要なのだ。


「そんなの……納得出来るかよ!」


 ま、そんな天才っつか奇才の考えなどパンピーには通じない訳で。

 ジャック君は拳に刃を纏わせ、突っかかってきた。


「だよな……ま、俺は小説家だから言の葉で説得するのは苦手だ。その理不尽、俺に全て叩き付けろ」


 苦笑と共にそう宣言し、腰からナイフを抜いて迎え撃つ。夢の中でよかったよ。ナイフの耐久度的に。


「うぉぉぉぉぉ!」


 叫び声を上げながら俺の胸目掛けて腕を伸ばすジャック君。当たれば誰も見たことが無いような掘削痕が生まれるだろうな。


 しかし速さが無い。これでは受け止めてくれと言っているような物だ。いくらガキとは言えそこまで浅慮な訳じゃ無いだろう。今は激昂して幼児退行しているようだけど、体に染み付いた技術っつうのは抜けんもんよ。


「っと、そう来たか」


 伸ばした腕の真ん中辺りから十徳ナイフのように刃を出し、俺の首を狙うジャック君。まるでどこぞのカマイタチのような奴だ。拳を刃に包んだ事といい、『ジョブ』は『刃製士』辺りか? いや、どちらかと言えば『切裂士』か。


 切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー、ね。

 少しは頭が回る日本人に対して実に恐怖を撒き散らせる姿だな。


「賢いねぇ、ジャック君。偽名だろ?」


 一つ呟いて後ろに跳び、空いている右手に狂紅の砲塔を出現させる。その間に左手のナイフで首を狙った刃を受け止め、ややリーチのある狂紅の砲塔でジャック君の拳を受け止める。

 お次は脚。間髪入れずに右から迫る刃付の健脚を鉄板仕込みの靴で防ぐ。『生命の力』本来の武器や防具に纏わせる性質を利用し、追加で生えた刃まで防ぐ。なんだか一度無茶をしたせいか狂気と『生命の力』の同時使用がスムーズになってきたな。理論的に可能な魔法と魔術の同時使用と似たようなもんか? だとしたら流石俺だな。こういう才能もあったとは。まあ『生命の力』を使えるだけでも十分才人だけど。


「しゃぁらっせい!」


 いくら纏わりつかれようと所詮は霊機物で構成された軽い体。物理接点があるのならグールの筋力で振り払う事など造作も無い。バク転で距離を取り、狂紅の砲塔を解除する。


 右手に鉄トゲ付きメリケンサックを嵌めている間にもジャック君は雄叫びを上げながら俺に駆け出す。避けようと思えば避けられるのだけど……


「がっ!?」


 突き出された刃付きの拳をナイフで受け止め、カウンターの要領で右拳をジャック君の頬にぶち当てる。おかげで胴を真っ二つにせんと迫る刃の対処が遅れ、咄嗟にブリッジするも少し切り裂かれてしまう。本当にここが夢でよかったよ。

 そして、俺の異常な柔軟性に驚いたのか反応が遅れているジャック君を両足で蹴り飛ばす。勿論手は地に着けたまま。あえてどことは言わないけどとある劇団や大型サーカスの裏助っ人扱いされていたレベルで体の支配力が高い俺を舐めるなよジャック君。


「ジャック君。今君はとてつもない理不尽を感じているだろう」


 一度地面に背を付けすぐにうつぶせとなり一秒もかけずに起き上がりながら言う。


「たったの十七年……いいや、四十数年しか生きていない俺に、何千年も生きた自分が何故負けているのか、と。そう考えているだろう」


 図星だったのか、顔を真っ赤にしながら走るジャック君。

 うむ、それで良いのだ少年よ。


「同時に、俺をあの理不尽な屑共と重ねて見ている。違うか?」


 答えは刃。

 クク。質問に対する答えなら受け取らないわけにはいかないな。


「なっ!?」


 ジャック君の腕から生えている刃を右の胸の丁度肺が無い位置で受け止める。すると、ジャック君が意表を突かれた時特有の驚愕の表情を見せた。ま、自分から刺さりに行くヒトなんざそうそういねぇからな。それもにっくき日本人の姿の者なら、なおさら。


「安心しろ。こんな理不尽、立派な大人なら誰でも受け止められる」


 そのまま、刃が体を貫いたまま、ジャック君を抱きしめる。

 齢13にも満たない、まだ柔らかさの残る幼子を。


「精神が未熟であるために壊れにくい子供の心が、堕霊となるまで負の感情に埋め尽くされる。辛かったろうに」


 夢だというのに、痛覚も触覚もご苦労な事だ。体温まで伝えてくれるとはサービスが利いている。


「これから先も、ジャック君にはさまざまな理不尽が襲い掛かるだろう。納得の行かない出来事や、思わず眼を背けたくなる光景が待っている筈だ」


 むしろ、堕霊となったジャック君はそういうマイナスな物を引き付ける体質であるから、確実に遭遇するだろう。そして、磁石に引き寄せられた鉄芯が磁力を纏い、方角を狂わせるように、その本質がジャック君のせいで歪められてしまう事だってありうる。

 例え、ジャック君の妹の幽霊であっても。


 ま、年季的にもう転生してるだろうけどな。


「それでいい」


 丁度胸の位置くらいにある茶色い頭をそよそよと解き撫でる。直後、鈍い痛みがじんわりと胸に浸透してきた。もう……子供が無理をしやがって。


「お前は堕霊だ。堕ちた幽霊と書いて堕霊。物理エネルギーの媒体となる有機物でも感情を持たない無機物でも無い、感情を媒介として力を出す霊機物で出来ている幽霊とシェイドの間を彷徨う永劫の旅人。決して転生せず、狂いもせず、ただ待つのは破滅か永世。そういう種族に、お前はなっちまった」


 子供だ。

 ジャック君は子供だ。

 子供は親がいなくても育つ。だけど、だからと言って守られる権利が無い訳では、決して無い。

 子供は守る。例え何千年も生きた魂の老人だろうと、幽鬼となり損ねた出来損ないの堕霊だろうと。


「だから、お前はそのままでいろ。俺がお前を繋ぎとめてやる。幽霊としての理性も、シェイドとしての感情も、全て俺が受け止めて、理不尽に対応してやる」


 子供とは、愛されるべき存在である。

 例えば、心が病んでいようとあまりにも無垢すぎておかしくなっていようと、心が熟れていなければ、それは俺にとって等しく子供である。


 子供とは、愛されるべき存在である。

 何故なら、愛するという何物にも変えがたい貴き感情を無限に受け止め、成長していく、本当の意味で無限なる可能性を秘めた創り出す者(芸術家)なのだから。


 子供とは、愛されるべき存在である。

 子供とは、愛されて当然なのである。


 だから、俺は言う。


「過去だろうと未来だろうと、ジャック君の今は絶対に否定させない」


 決め台詞みたいなカッコイイ文句じゃなくて悪ぃな。俺は小説家。ネゴシエイターではないんだ。


「……なんだよ、それ。ダッセ」


 辛口だねぇ。

 口の中は涙を飲んでしょっぱくなっているだろうに。


「うっ、くっ……」

「子供が我慢してんじゃねえ。何千年も誰に縋る事も無く、誰に認められる事無くヒトを殺し続けてきた子供を、どうして侮る事が出来る?」


 後半の声は、俺自身が信じられない程に優しくなっていた。夢の中という事は声帯による物理的な演技が出来ないって事。そして、優しさの紛い物は思考による創造など不可能。

 となると……きし、そちらの面では成長したっつう事、で良いのかね?


「…………う、う゛がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ともすれば、咆哮の如き嘆きの叫び。

 でも、それで良い。愛想の無さは甘えの無さ。今のジャック君は子供でありながらの堕霊である。愛される権利はあるものの、ヒトを害しない感情で縋りつく事は許されないのだから。


「現在は好きなだけ泣いて、叫べ。俺はお前の気がすむまで不死身でいてやるからよ」


 未来の今では絶対不変(高性能化を除く)の忠実なる下僕として働いてもらうけどな。

 誰が子供を害していた存在を簡単に許すか。

 ヴルムとコンちゃんだって、俺にとっては大切な存在なんだからな。例え今はフォグザヌちゃんだろうと。二龍の大切な子供に仇なしたのだから、それ相応の罰を受けるのが筋ってもんよ。時間の概念を喪失して久しい堕霊ともなれば尚の事。パパのような顔見知りではなく、かつ屑い日本人を憎んでいる俺の支配下に入ってもらうのが打倒な線だろう。別の罰を与えて野放しにしておいたら俺や同級生共と教師二人のように、偶然転移や転生や召喚によってここに来た日本人にまで危害が及ぶだろうからな。別にその他大勢はどうってことは無いけど、もし俺の仲間や身内が来たらと思うと……ま、そういう訳よ。


 それに、デメリットばかりという事も無い。堕霊っつうのは元々シェイドになり損ねた幽霊だけあって中々に強力な個体だ。負の感情である狂気にほど近い性質を持っているため、いざとなれば狂紅の砲塔の弾頭にしたり砲塔自体の補強材にしたりする事も夢ではない。ジャック君の『ジョブ』も強力だしな。


 ゴブリン、ヅィ・スコロペンドラ、スライム、そして切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー


 なかなかどうしてロマンのある配下が出来たものだ。俺の想像した世界が存在すると知らない俺が聞いたらさぞ悔しがるだろう。何せ幻想に縋り付いて生を得たと言っても過言ではない俺なのだから。


 ああ、思えば俺は最初の人生を除き、常に良い縁に恵まれていた。

 手放してしまった縁や、めぐり合う事のできなかった縁もある。


 その喪失感が、どれだけ大きな物か。思い出しちまったな……まあいい。



 今度は、絶対に逃さなければ良いだけの話なのだから。

 お前らは、お前らだけは、絶対に何物をも賭して守ってやる。


 刃の突き刺さった胸にじんわりと広がる痛みと腹に響く咆哮を受け止め続ける。これも、その一環だと思えば悪く無い。そう感じながら、ジャック君の背中をそっと撫でる。

 夢っつうのは、いつも俺を手助けしてくれる。ありがたい話だ。


 一万pv突破! 読者の皆様、本当にありがとうございます! 今後も一層の修練を積んでご期待に添えるような作品を作っていきたいと思います。ありがとう!


 まとめも兼ねて主人公のプロフィール的な物を作っておきます!


・主人公:伊能錦(偽名。他にヴィルキットの長としての名前がニシキ・イノウ、小説家の名前としてクミオエット・J・エベミス、異世界に属する者としてアネル)

 種族:グール。爪に麻痺毒があり、ヒトかアンデッドの肉しか栄養に変えられない。

 武器:ナイフ(現在使用不可能)、改造スローイング・ピック、狂紅の砲塔(弾頭不明)、メリケンサック、体。

 特殊能力:『狂気』、『生命の力』

 配下:ゴブリン十ニ体、オークニ体、蝙蝠(本人はドラキーと勝手に呼んでいる)三体、巨大ムカデ七体、アルミラージ一体、ヒト一体、じんめんじゅ一体

 仲間:ヴルム(白いワイバーンの古龍個体)

 家族:妹がいるらしい。パパ=魔王(義父)、ルカリオン(義兄)


 とりあえずこんなところですね。他の情報はおいおいということで。

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