第二十五話:なんとなく普段通りな異常
ふはは! 今日も元気に狂って行こう!
さて、会議も終わったし時間も夕食間際っつうところだ。ここは一つ『ヴィルキット』の長として……
「……『ヴィルキット』、どういう建前の組織にしよう?」
考えてみればわりに重要な案件だ。いくら俺がヒト嫌いだからと言って、この先一切ヒトの町と関わらないという訳にもいかない。そうなったとき、果たして俺たちはどんな組織で居れば良い具合に流れが進む? 馬鹿正直に『魔王』と『勇者』を倒すための集団ですとか言えるわけねえし。
今すぐ必要ではないとはいえ、考えておいて損は無い勘案だろう。
「という訳で、ルカン兄さんは遊び疲れて寝ちゃったから代わりに貴方に相談したいと思った次第だ」
「あらあら、嬉しいですわニシキ様。でも私でよろしいのですか? ニシキ様はどうやらズルがお嫌いなご様子。私という存在に聞く、というだけでズルになりそうなものですわよ?」
「あくまで俺の矜持に対する罪悪感と組織の長としての義務感を秤にかけて義務感が勝っただけだ。そこんとこ勘違いすんなよ。それに、魔王とはいえ世界最強のパパと違ってレミスタンさんは……その、俺のグールとしての母親みたいなもんだし、ある程度融通が利くんだよ」
そう言うと、一瞬レミスタンさんの表情が固まった。そしてすぐおどけたように表情を崩して言う。
「あらあらまあまあ、私が母親? 面白い事を仰るのですね、ニシキ様は」
「むぅ……確かに、パパも経緯は同じだから母親というのもおかしい……おばあちゃん? いや、伯母さん?」
「あくまで肉親として接してくれるのは嬉しいものですが、そこまで深く考えなくともよろしいですわ。ヴァンパイアの親は人間と言うではないですか」
「そう? ま、いっか」
それにしても面白い事を言うな。ヴァンパイアの親は人間、ね。確かに、どれだけ恐れられていようと始祖を除きほぼ全てのヴァンパイアは元人間。何かから生まれてきた存在が何かの子となるのなら、ヴァンパイアは一生親となれないだろう。まあ、世界によってはヴァンパイアもヴァンパイア同士で子供を産めるけどな。
きっと、本来の意味は『どんな悪人も元はヒトから生まれた』という戒めのような諺だろうけど、はてさて……俺が悪人ならレミスタンさんはなんなんだろうね?
まあいい。
「で、だ。傭兵団、もしくは魔獣討伐集団として活動するとしたら、この世界ではどういう扱いになる?」
「そうですね……傭兵、となるとまず傭兵ギルドに登録しなければなりません。そうでなければ戦争に参加しようとしても最悪の場合盗賊団として排除されかねませんわ」
ふむ……ギルド、ね。ま、確かに所属不明の武装集団が実績も無しに戦争させてくれと言っても門前払いを食らうだけか。というか、まず戦争の話しが出てくるっつう事はわりと頻繁に戦争が起こっているという事になる。なら傭兵は無しだな。ヒト如きの下でヒトのためになる殺しなんてする価値が無い。
「なら傭兵は却下だな。それじゃあ魔獣討伐集団だと?」
「打倒な判断かと……後者にしても、やはり冒険者ギルドに登録しクラン結成の手続きをしなければなりません。もっとも、こちらの世界の冒険者ギルドはニシキ様がよく知る冒険者ギルドと特に変わりはありません」
なんか余計にヒトの町に行きたくなくなった。
「OK、分かった。それと……そのギルドっつうのは国営か?」
「いえ、国とは独立した機関ではあります。しかし、やはり国あっての拠点と申しますか、それぞれの国はギルドに対してある程度強制力を持ちますわ」
っつうと、最悪傭兵的扱いの強制収集がかかる事もある、と。駄目だな。
「……商人はどうだ? 異世界人たる俺たちならば、独自の品を売る事も可能だ」
と、提案した瞬間。
レミスタンさんの髪が赤黒く変色し、同色の五つ首の竜が降臨する。
「おやめください。異世界人縁の品など、我ら偉大なる魔王ロクル様の配下にとって忌まわしき愚物。私ならばまだ我慢は出来ますが、他の配下に知られたらニシキ様は殺されてしまうでしょう」
……そういう事か。
「答えてくれ、レミスタンさん。あんたたちの仲間を虐殺した者の正体は、異世界人か?」
「ええ、そうです。あの忌まわしき反吐野郎共は、異世界からの徒、異世界よりの転生体、召喚体なのです」
……はぁ。相変わらず、日本の屑は腐ってやがる。
「一応と念のための確認だけど、そいつら『黒髪黒目の島国出身』か?」
「はい。多少の例外はあるようですが、概ねそのような特徴を備えております」
クソが……いや、あるいは敵の賢知を褒めるべきか。伝え聞いた話によれば敵はある程度大きな集団だ。そして、恐らくその全てが『日本の異世界人』。召喚体や転生体も含めているとすれば、その技術力だけは賞賛されるべきものがある。異世界関連の技術はわりと簡単に行うことが出来るものの、それに気づく者は少ないのだから。
そしてそれを知る者は、俺と同じ『世界を知る者』のみ。
「……世界を食む『未知の世界に影響を与える者』と『負の感情を振りまく異世界人』、か」
『世痛の波』と呼ばれる力がある。
それは世界単位で見れば正の性質を持っているが故に負の感情に引かれやすく、時に世界を超えて引き寄せられる事もある力だ。
そして、『世痛の波』の名の如く、過剰量は世界に害としかならない。
「まったく……クズで最悪で胸糞悪くなる計画だけど、利に適ってやがる」
世界が壊れると都合が悪いと分かっている『神』、『勇者』、『妖精』のいずれにも察知させない力を持つ、その存在。ソイツは、この世界を食い物にして力を得る気でいやがる。そしてその手段として『増長しやすい異世界人量産』はあまりにも効果的。悲劇を生むのは、いつも増長した甘ちゃんなのだから。
悲劇が生まれれば、そこに世界を揺るがす『世痛の波』が引きよせられる。
結果、世界の抵抗力が弱まり『未知の世界に影響を与える者』が世界を食いやすくなる。
なんと、クズく利に適った方法だろう。
「どういう意味ですか? よもや、あのクソッタレなゴミクズ野郎共を擁護するつもりではありませんわよね?」
「俺が、そんな屑共を、擁護? 俺が? ヒトのいる世界が嫌いで、夢のある世界が大好きな俺が、世界を害する存在を、庇う、と? まさか貴様は、そう言っているのか?」
見くびられた物だ。
そもそも俺は小説家だ。世界を作る仕事をしている、小説家だ。
それなのに、その世界を壊そうとしているボケクズ共を擁護するなど、ドラゴンがグリフォンを産むよりありえない話だ。
「……失礼、失言でしたようですわ」
レミスタンさんの謝罪を無言で受け入れる。言い方が悪かったし、俺でも同じ状況なら同じ事を言っていたはずだからな。ヒトにされて嫌なことは嬉々として行う俺だけど、レミスタンさんはグールだ。ヒトじゃない。
「そんな事はどうでもいい。それより、魔王軍が目の仇にしている異世界人っつうのは商人なのか? それと、よもや宗教に関わっていないだろうな?」
答えは――いいや、聞くまでもなかった。どちらも、正解に決まっていた。
パパは精神を操られた味方の対処法を俺が持っているかどうか試した。ということは、敵は精神に干渉して来る何かを持っている。それは、世界最強の魔王軍さえ陥落させるほどに。
そんな敵が、この世界の普通のヒトの生活圏を侵食していないはずが無い。
「……っつう事は、俺たちが異世界人だとバレるのも駄目。まともな生活も送れないだろうな」
ふむ…………必要条件、集団を作っていても不思議ではない建前、日本語を喋らないでも大丈夫な建前、それでいて稼ぐことが出来る建前。ってところか? 出来ればお偉いさんの後ろ盾も欲しいところだが、いざという時に完全な信用が置けないのでは意味が無い。
となると……………………
「吟遊詩団……いや、サーカス団だ!」
ナイスアイディアだ。サーカス団ならこの世界にだっていそうな物だし、司会以外喋らなくてもOK。何より仮面を作れば顔を隠すことが出来るし、髪も染料さえあれば問題ナッシング。ちょっと珍しい魔獣のサーカスと銘うてばおひねりだって結構もらえるだろう。なんて完璧な布陣!
「サーカス……とはどのような物なのですか?」
「端的に言えば身体能力を生かした見世物だよ。火の輪くぐりとかナイフ投げ、ライオンの調教に空中ブランコ。その他ヒトをあっと言わせて稼ぐ集団の事だ」
俺の言葉に納得した様子を見せるレミスタンさん。そして名案だと太鼓判を押してくれた。どうもそういう集団は数こそ少ないもののそこまで珍しい物でも無いそうだ。大衆の目を引き付けても権力者が目に留める事は無いようで、その理由も子飼いの曲芸師達がいるからだそうだ。演目さえ気をつけていれば敵の異世界人に干渉されることも無いだろう。
「ただ、『紫の死虫』……いえ、ヅィ・スコロペンドラは見せないほうがよろしいですわ。種自体がとても珍しい上に従えるのも容易ではありませんから」
「了解した。ゴブリンやアルミラージ程度なら問題ないか?」
「ええ。それほど強い魔獣でも珍しい種でもありませんから」
よしよし……サーカス団ヴィルキット。この建前で行こう。問題は団員を鍛え上げねばならない事だ。一応団長の俺がメインで演目を進めれば良いと思うけど、それだけだと不自然すぎる。最低でも俺の他に四人は欲しい。
となると……ふむ、『武士』と『変身士』と『曲芸士』が使えそうだな。次点で『転送士』と『人形士』あたりだろうか? 『野賊士』は恐らく盗賊の親戚ではなく斥候の親戚だろうから使えないし、雄一郎には照明なりなんなりの雑用をこなしてもらう必要がある。由奈にはポップコーン的ポジションの菓子でも作ってもらおう。『木工士』と『鍛治士』には会場設営。絵心のある奴にはポスターでも……
思考が逸れた。
「っし、そんじゃあ明日から候補には見張りのローテーションを離れてもらって、狩り兼特訓を強制的にやらせるか」
今日の所はもう活動終了だし、今ローテ変えても対応出来ずにグズグズとなってしまうだろう。中森夫妻の婚約発表の時に告げよっと。
「相談に乗ってくれてありがとな、レミスタンさん」
「お安い御用ですわ。それより、そろそろ空腹を感じ始めたのではなくて?」
むむ? ……ああ、そういえば腹減ったな。カロリーメイトでも……あ、俺グールだった。
「確かに。そろそろ食わしてもらおうかな? というかレミスタンさんは大丈夫なの?」
「心配ご無用ですわ。私はデス・グールなので、その気になれば一年以上飲まず食わずでも活動可能なのですわ。ただ、ニシキ様に私を食べさせ続けると回復に力を使うので、後二ヶ月ほどで人肉を食べなければ自分を抑えられなくなりますわ」
ふむ、二ヶ月か。それくらいになれば適当な町にも行けるだろうし、犯罪者をとっ捕まえて食料にすれば良い。もし捕まえられなくても町長か領主に金でも掴ませて犯罪者を引き取れば問題無い。なんなら『紫の妙薬』を媚薬代わりに掴ませれば下手な金額より素直になってくれそうだ。
「了解した。そんじゃ……あ、待て。いや、今は駄目だ」
太ももとか肉厚で美味しそうだなと思ったけど流石に破廉恥だし二の腕あたりにしてもらおうかな、と考えたところで一つの懸念事項が思い出された。
「あら……どういたしましたの?」
「いや、今夜婚約発表式とでも言うべきイベントで宴会やるんだわ」
「まあ! どなたとご婚約なされるので?」
「俺じゃねぇよ。中森雄一郎と長沢由菜だ。で、俺がグールだっつうのを知らん同級生もいる訳よ。だからそん時俺だけ何も食べないっつうのもおかしな話だろ? だからその時のためにレミスタンさんの肉をとっておきたい訳よ」
「なるほど……分かりましたわ。新鮮な状態でお出しできるよう、狂気に包んで用意しますわ」
ほう、狂気にそんな使い方があるのか。
「どういう事だ? 原理はともかくやり方を教えてくれないか?」
「ええ、よろしいですわよ。と言っても、『喰』の性質……つまり生物で言うところの顎と喉がある『邪狂』でなければ不可能ですが」
「構わん。話を進めてくれ」
「分かりましたわ。方法は簡単でございます、対象物を『邪狂』で呑み込んで密閉するように収縮させ、包み込んでいない部分を切断するのです。『邪狂』は熟練すれば本体から離れても少しだけなら崩壊させずに維持する事が出来るので、主に一時捕縛に使われる技術を応用すれば生ものの鮮度を保ったまま用意することが可能となるのですわ」
なるほどね。便利な能力だな……もっとも、俺はあのレーザー砲っぽい形状だから恐らく使えないだろうけど。便利ではある。
「そうか、ありがとう。『喰』の『邪狂』持ちアンデッドを配下に加えたら教え込んでみよう」
「アンデッドを配下、ですか……流石はロクル様がご子息と認めた方ですわ。しかし、『喰』の『邪狂』を持つアンデッドは数が少ないですから、願望程度の認識に留めておいたほうがよろしいですわ」
「ん、忠告ありがたく受け取っておくよ」
っと、そういえば俺の『邪狂』はどんな物なんだろ?
「レミスタンさん、俺ちょっと前に『邪狂』顕現したんだよ。だからどんな性質を持っているかとかよく分からないんだ。悪いけど監督してくれないか?」
「アンデッドとなって一日と経たずに『邪狂』を習得しましたか。流石ですわ」
俺としてもまさか種族が変わってすぐに種族特有の能力が使えるようになるとは思わなかったよ。
「ちと待ってくれ…………チッ」
『邪狂』発動のためとはいえ、嫌な事を思い出して自然と舌打ちが飛ぶ。しかしなんとなく感覚は掴めたため、今後は一々思い出さなくても問題無さそうである。
再び俺の右腕に現れる、深紅の筒。
「??? ………………………………」
と、俺の『邪狂』を見た瞬間疑問を表情に浮かべたままフリーズしてしまったレミスタンさん。そんなに俺の狂気は禍々しいのか? まあドロロの性格を思い出せば仕方の無いことだとは思うけど。
……いや、違う。この顔を俺は知っている。
未知、と遭遇したときの顔だ。
「……これは、なんなん、ですわ?」
おおう、俺に聞きやすか。
「知らん。とりあえず試してみたい事があるから、それが成功してから判断してくれ」
聞く耳持たずに適当な木に砲塔を向ける。まずはこれが砲弾を打ち出すタイプの『邪狂』だと仮定した上で、まずは銃と同じ原理……つまり、拳の先から、手首までを、一つの……筒と認識。手首に、火薬と、同義、の、狂気圧縮。くっ……続い、て、弾、こ、う、ち、く…………撃鉄!
ぐっ……頭が破裂しそうだ。だけど代償の分イメージ通りの結果が出たようだ。
ズドン! という音と共に砲塔から紅い弾丸が飛び出し、目標の木を粉々に砕いた…………ただし、表面だけ。
「!!! 放、出……? それに、まさか……」
「ふみゅ……精神にぐるなぁ゛」
まだ検証段階だけど、この様子だと俺の『邪狂』……名前、決めてしまおう。狂紅の砲塔。うん、狂紅の砲塔にしよう。
狂紅の砲塔はどうやら実弾銃のような扱いには対応していないみたいだ。イメージ力と精神力と集中力次第では不可能じゃないっつうのは今証明されたけど、とても実戦で使えるような代物じゃない。精神力をガッツリ消耗するようだし、今日の所は念のためもうやめとこう。
「って、レミスタンさん? レミスタンさん? 何がそんなに珍しかったのか説明してくれない? おーい、戻ってきてー」
狂紅の砲塔を維持している狂気を霧散させ、何やらブツブツと呟きながら天を仰いでいるレミスタンさんに声をかける。どうもやらかしてしまった感が拭えなくてどうもありがとうございます!
「…………あ、ニシキ様……は、はい。説明? い、いたしましゅ」
「はい、深呼吸。吸って……吐いて……」
「は、はい。すー……はー……」
「吸って……」
「すー」
「むせる」
「は、うぐっ! ケホッ、ケホッ……い、いきなり何を言うのですか!」
うむ、美人さんの涙目って和むなぁ……
っと、違う違う。わざわざ染み付いた炎の匂いにむせたような言い方をした理由は和むためじゃない。
「はい、緊張解れた? じゃ、説明お願い」
「何か釈然としませんわ……分かりました」
当然だ。緊張っつうのは意外に理不尽なことが起きた時に解れるもんだからな。不満をつぶやけば、それだけその場で失敗したらいけないというハードルが下がって逆に失敗しにくくなる。ここ、テストに出てくるから若手育成者は覚えておくように。
「普通……というのもおかしな話ですけど、『邪狂』とはすなわち個の狂気を凝縮させて戦闘の道具とする力の事ですわ。当然の事維持には自前の狂気が必要ですし、狂気とは……卑小な私では理解しきれておりませんが、魔力のように限りのある力でもあるのですわ。ですから、通常の『邪狂』は格闘武器として扱う物なのです。しかし、ニシキ様の『邪狂』は……一言で言えば特異ですわ」
……なるほど。確かに、狂気とは愛や友情と違って有から生まれるマイナスの感情。生み出すエネルギーと消費するエネルギーのバランスが保てない感情だからな。その性質上制限なんてかけられた物じゃないし、弱い狂気の持ち主なら展開後すぐにバテてしまうだろう。パパのように『邪狂』や『放狂』の中で流転させでもしない限り。
だというのに、俺の『邪狂』はよりにもよって『放出型』。特異極まれり、だろう。
「それと……偉大なる魔王ロクル様がご説明なされたと思いますけど、『邪狂』とは個によって色が異なる物。それは本人の性格によるとも言われ、ありふれているのは赤黒く濁った色です。これは怒りや憎しみを狂気の元にしているからとされ、狂気を生むのに最も適した感情だからです」
ふむ、なるほど。ということはレミスタンさんと俺は怒りや憎しみを狂気に変換してるって事か。その割には他の感情でも変換できたけど……どうなってんだ?
「そして他の色も個体数が少ないので断定できる段階ではないのですが、それぞれ元となった感情があると推測されています。黄色は喜び、青は後悔、とても珍しいのですが、稀に黒というどのような感情が元になったか想像すらしたくない色も存在しております。皮肉な事に、愛が元となった『邪狂』はピンク色だそうですわ」
「ッ!」
……そうか、パパが『悔恨の大罪人』となった訳が分かった。
黄色が喜び――漢字だと悦びと変える事も出来そうだ――、青が後悔。と言うことは、その混合色である緑は……?
心の中で、パパに対する憐憫を露わにする。
きっと、理性が己を許さないのだろう。後悔しながらも復讐に喜ぶ己がいる事に。それはつまり、『後悔するような事が起こっても喜ぶ事が出来る』自分がいるという事になるから。
あぁ、パパ。俺は、俺は……絶対に、パパを……
「ですが」
レミスタンさんの言葉でふと我に返る。そうだ、今は悲しみに暮れている場合じゃない。話を聞かねば。
「鮮やかな色、というのはどの系統の色でも珍しい色です。特にニシキ様のようなルビーもかくやという赤い色の鮮やかな『邪狂』など、六千年を生きた私ですら見たことも聞いた事もありません。稀に黄色や紫において鮮やかな色が見られる事があります。しかし、赤で鮮やか、というのは……」
……そ、そういえばそうだな。狂気っつうのは端的に言えば捻狂った感情だ。そして感情が狂えばそこに残る色はいつだって濁った色だ。何故なら純感情である愛や友情、勇気、根性、変則的な所だと七つの大罪に連なる感情、それらヒトが自然に生み出す感情は、それ一つだけで成立する感情だからだ。そんな物が捻狂ってしまえば、憎悪か? 偏屈か? それとも曲がった性根か? どれにしろ、とても純粋とは言えない感情となるだろう。
そういう意味では、俺の狂気が鮮やかな色というのは確かに異質だ。
特に、怒りや憎しみをベースに生み出される赤い色ならば。
「……正直に言って、ニシキ様の『邪狂』は私の手には負えませんわ。未知の形状といい、ありえない色といい……それらに気を取られて気づけませんでしたが、扱える量も異常ですわ」
むむ、確かに。レミスタンさん一人では荷が重いのかもしれない。『邪狂』使用中はいつ俺が暴走するか分かったものじゃないし、未知が多すぎる俺を抑える事が出来るのかどうかすら不明瞭なのだから。
「……パパの持っていた聖水……じゃなくて薬酒だっけ? があれば、少なくとも暴走は止められるんじゃないか?」
「いえ……あれは聖なる属性を持つ物ですから、アンデッドが大半を占める偉大なる魔王ロクル様の配下では量産するのが難しく、また作れるものも限られているのですわ。それに材料も希少な物であり、消費期限も長いとは言えませんの」
むむむ……だとすると。
「俺が、気合で封じ込めるしかないな」
結局、そこに行き着くのである。
「それは……いえ、ニシキ様なら、あるいは可能ですわね」
レミスタンさんの反応から普通は無理だというのが分かる。つくづく俺の精神力はどうなってんだ? 俺がビックリだわ。
「まあとにかく、付き合ってもらってありがとうな、レミスタンさん」
「いえ、お役に立てたのなら幸いでございます」
互いにペコリと軽く頭を下げる。
いやしかし、今回の相談は実に有意義だった。
パパの事もさらに知れたし、俺の異常さがまた分かったし、敵の厄介さが理解出来た。
色々と考えるべき事も増えた。しかし、重要な事を知れたというのなら、それもまた代価と考えれば安いもの。
気だるくはなくとも三徹した程度の疲労感を持ちつつ、狂紅の砲塔で穿たれた木の幹を見てそう思うのだった。
前書きっていつも書いてから後悔するんですよね。なんででしょう?




