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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
24/50

第二十四話:なんとなく厄介事な祝事

(追記)すみません、予約投稿するの忘れてて予約出来ない時間になってしまったようで、予定より早めに投稿します。


 さあさあある意味ありえない展開に驚いてしまうのだ! ワッハッハ!(←深夜テンション)

 さて、ガルハイシュと長谷川のおかげで良い感じに時間を稼げた。しかしどうも中森と長沢のラブシーンはまだ続いているらしく、ルカン兄さんが俺のところに来ない。その気になれば世界というネットの波から俺を探し出すことが出来るルカン兄さんなら仕事を終わらせた後すぐに俺のところへ飛んで来るだろう。そうなっていないところを見るに……まあ、そういう事なんだろう。


「しかし……やはりガルハイシュ達に避妊薬あたりを作らせるべきか?」


 正直色っぽい物関連の規則があるから組織的には必要無い。けど俺はあの二人を応援するし、その結果ウェディングでファーストナイトなベイビー的あれ俺何言っているんだろう?


 んっんん……まあ、その、いわゆる愛の結晶的な物を作る作業の練習をするかもしれない。そして偶然にも練習が本番になってしまう可能性もある。ならばその可能性を消してしまうのがもはや愛のキューピットを名乗っても過言ではない俺のすべき事なのではないか?


 ああ、もどかしい! 一組織の長として自覚を持たなくてはいけないと思いながらも一人の伊能錦という人格として愛する男女の仲を進展させてやりたいと思うこの矛盾した気持ち! まさかこんな事で悩むことになるとは最初の人生時点での俺なら考えられなかっただろう。まったくもう、贅沢で幸せな悩みだぜい♪


「あら、伊能じゃない。どうしたの? そんな幸せそうな困惑顔をして」


 どんな顔だ。というか、俺はいつの間にこんなところに来ていたんだ? むふふ、色っぽい事を考えている時ほど時間とはかくも早く流れるものなのか。一つ勉強になったな。


「別に? ラブラブカップルの行く末と障害をどう幸せな方向で調整すれば良いかを考えていただけだ」


 広場とは少し離れた場所。毒虫などの嫌らしい虫が少なく木々のざわめきが同級生共の雑音を快く打ち消してくれるこの場で『ジョブ』の練習に集中している少女にそう返す。少女……奥山は先ほどの長谷川同様少し驚いた顔をして俺をマジマジと見つめてきた。


「……意外ね。人の恋路を邪魔して馬に蹴り殺されるタイプだと思っていたわ」

「馬鹿にしてくれるな。俺は穢れた関係の男女交際が嫌いなだけでラブコメは好物だ。まあ戦士の名を持つ冬の戦士と高貴なる孤独の名を持つ双剣の戦士のような悲恋も好きだけどな」

「チルドレン・オブ・ザ・ルーン、ね。アタシあれも好きよ」


 お、良い趣味してんな。

 うん、良い機会だ。彼女も休憩しているようだし、会議のときの続きと行こう。


「もしくは大魔法使いと妖精女王。あるいは魔法の国の王子様と決して外さない弓の持ち主である第一の女王」

「ドラゴンラージャにナルニアね。それならチート魔女様と混血エルフ……は少し違ったかしら? なら……意外に悲恋って少ないわね」

「タラ・ダンカンか。まあ外国文学限定ならそうだよな。もっとも、俺も大きくなってから翻訳された日本語っつうのが苦痛であまり数読んでなかったってのもあるけど」

「そこは私も同じね。興味はあったけど、なんとなく気後れしてしまって」


 うんうん、その気持ち分かるぞ。ま、俺は最初の人生で強烈な印象を貰っていた物の中からピックアップした感じだからニュージーランドの学生犯行グループやイギリスの子供諜報員が主役の小説にも悲恋はあったと思う。ただ忘れているだけで。つうか、あれ読んだの最初の人生の中二の頃だったよな。覚えてなくて当然だわ。


「ふふ。学校ではいつもお友達と話をしていたし、ライトノベルしか読んでいなかったみたいだからこうしてお話出来るなんて思っても見なかったわ」

「そうか。でもラノベも面白いんだぜ? なにせその名の通り内容の密度のわりに軽く頭の中に入ってくるから読みやすい。それに、もはやヘヴィー通り越してモンスターノベルと言っても過言ではない奴もあるし」

「そうなの? てっきり絵だけで売っているのかと思ったわ」

「それならアニメ化なんてしないっての。つうか、外国文学の中にも挿絵がついてる奴なんて一杯あるだろ。ドラゴンラージャなんて形としてはほぼラノベだし」

「あら、そうなの?」

「ああ。ラノベっつうのは最初の方のページに色つきの絵がついている。そして重要っぽい場面で白黒の絵を挟む形が多い。心当たりはあるだろ?」

「確かに……そうね」

「そうそう。まあ、そのせいで色眼鏡に見られているからハリポタとかナルニアより知名度が低いんだと思う。そこがラノベの哀しい欠点と言えば欠点だ」

「ふーん……」


 一旦途切れる会話。うむうむ、されど続きを促したりはしないぜ。こんなにも誰かと外国文学で盛り上がった事は無いからな。もっとも、ほぼ全てラノベに通じる異世界系の文学だけど。




 その後、体感時間三十分、現実時間三時間ほどお互いの好きな本を紹介しあい、またほとんどのキャラの趣味が合致した事もあり、元の世界でも滅多に無かったほどの興奮を胸に生み出しながら話し続けた。


 しかし、楽しい時間もルカン兄さんとスラリンが帰ってきたため終了だ。彼女も『ジョブ』の練習をしなければならないから丁度良かったのかもしれない。まあ話ならいつでも出来るし、今日の所は良き同志が出来たと喜んでおこう。


「それじゃ、またね錦君」

「ああ、またな怜悧さん」


 おかげですっかり下の名前で呼び合う仲に。もう怜悧さんがヒトじゃなかったら速攻で求婚するまである。それはそれで本人に失礼なのでたぶん一生無いだろうけど。まあロマンチックな雰囲気の中で告白されたり俺が恋愛的な意味で意識するような大事が起こった時とかは話が変わりそうだけどな。ま、悪く無い未来の姿なんじゃねえの? って思えるくらいには好感情を持ったな。


「ニシキ、今の子が気になる?」

「恐らくヒトアレルギーが無かったら即堕ちてた可能性大だよ。あんなに話が合った相手は初めて。なんで学校通っている内に会話をしなかったのか不思議なほどに、ね」


 広場の俺専用スペースに帰る途中、ふとルカン兄さんに尋ねられたので素直な感想を語った。正直異世界に来たおかげでヒトアレルギーが克服出来そうだとか元の世界はどんだけヒト汚染されてたんだって話だ。そりゃ未来からターミネーターがやってきたり機械が人間はいらないと断定するよ。


「ふ~ん……番になりたいとかじゃないんだ?」

「やけに突っかかってくるね? まあいいけど。番ね……たぶんそういうんじゃないと思う。今の所は」


 好きと言われて好きになる事なんて可能性上いくらでもありえる。同じように何が切っ掛けで相手を好きになるかなんて『神』ですら分かるまい。予想をつけることは出来ても、断定することなんて出来る筈が無い。だから、今のところは違う。つまりはそれだけの話だ。


「う、ごめん……なんだろこの感情」

「あー、たぶん嫉妬心か独占欲じゃない? パパは元から魔王として君臨していたから前提条件上そういう感情は沸かなかっただろうし、今までそこまで欲しいと思っていた関係も無かったんじゃない?」

「え……ボクが、嫉妬?」

「別に悪いことじゃないよ。誰かが羨ましい、誰かが欲しい。なんて、相手からすればある意味嬉しい事なんだからな。それだけ自分が相手に求められる何かを持っている、って事になるし」

「……ニシキは嬉しいの?」

「超嬉しい。だって俺にはループが関わっていないところでは本に関する何かしか価値が無かったんだから」


 一時期本を手放すと呼吸困難になっていた、と言えば深刻さは伝わるかね? 心配させたくないから言わないけど。


「……そっか。なら、良い……かな?」

「この際パパにも嫉妬したり独占欲抱いたりして嬉し困らせてやれと思うくらいには良い事だと思うよ」


 子供にそんな感情を向けられた日には、親冥利に尽きるだろうよ。


「さて、そんな話をしていても何も始まらない。早速中森達を苛めに行こうぜ!」

「…………う、うん。そうだね」


 ん? どうかしたのか? まあいい。

 うんうん、やっぱりルカン兄さんは笑顔でいるのが一番だよ。一般的に暗いと言われる感情を持つなとは言わないけど、それを表に出さない笑顔がルカン兄さんの良いところの一つなんだから。




 さて。


「ねえねえ、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」

「「返す言葉も御座いません」」


 眼下でそれはそれは見事な土下座を決めてくれちゃう愚か者二人。その肌は上気しており、それぞれの頬は朱に染まっている。湿った薄手の長袖が纏わり着いて非常に鬱陶しそうだなぁオイ。


「ねえねえ、今どんな気持ち? 今朝決めたばっかのお約束をぶっちぎりで破って挙句の果てにオメデタっちゃった気持ちはどうだって聞いてんだよ!!」


 おお、アンデッドの『邪狂』は怒りでもある程度発現出来るのか。俺の右手が真っ紅に燃えて何やら筒状の射出機みたいな形に変化した。形状からして大砲……いや、レーザー砲か? どっちかは知らないけど飛び道具なのは確かだそうだ試射の的はこの二人で構わないか構わないよね風紀を守るためならなんでもしていいんだからさぁ!


「だいたいっ! こんな大自然で! すぐ近くに! 同級生がいる場で! 三時間も! 子作りとか! テェメェエラ正気かコラァァァァ!!」

「つい勢いでヤってしまいました。今は反省しています」

「後悔はしてないけどね!」

「やかましいわ!!」


 そう、俺が珍しくこんなにも怒り狂っている理由。それは中森と長沢がTPOも弁えず男女で営む事をヤってデキてしまったという、異世界転移三日でそれかよ!? という、もう脱力も良いところな訳だ。そもそもなんでヤった。流れか、流れなのか!?


「まったく……これでは他の同級生に示しがつかんぞ!」


 百歩譲ってハジメテの共同作業は許すとしよう。しかし、妊娠は頂けない。『妖精』のステータスを見る力のおかげで事前に察知出来たからまだ良いものの、このまま時間が進めば確実にバレてたぞ。つうかなんで一発でデキるんだよ。これも異世界トラブルの一環だってか? 俺があまりにも手際よく進めたのがいけないのか? チィ、苦難の運命(さだめ)には逆らえないという事か。


「……ああもう。とりあえず、今夜婚約発表とこの地に足をつける誓いをしてもらう。一時的な帰郷とかは許すから、今後のテストケースになってくれ」


 色々とガミガミ言った後、脱力しきったままそう締めくくる。いつの間にか邪狂も消えており、ルカン兄さんは退屈だったのか任務を終えたイルトミルジスに乗ってロデオをしている。あ、それちょっと羨ましいです。


「……ごめんなさい」

「はぁ……まあ、いつかこういう日が来ると予想はつけていた。何しろ極限状態っつうのは橋の上と同じで恋が芽生えやすい状況だからな。どうせウチの学校にいたっつうことはある程度訳ありで面倒な現状にストレス溜めてたんだろ? どうせ時間の問題だった。だから許す」


 本当に申し訳無さそうに頭を地面に擦りつけながらの謝罪を、溜め息交じりに受け入れる。前例があったほうが同級生共も理解が早くなるだろうし、受け入れる土壌という物も早めに作っておくに越した事は無い。またいつどんなときに同じような事態が発生するかわからないからな。正直こんな早期にわりと身近なヒトから出てくるとは想定外だったけど。


「……私からも謝るわ。ごめんなさい」

「もう良い。デキちまったもんは仕方ねえ。問題っつうのは起こることを防ぐよりどうリカバリーするかが重要だからな」


 警察とか本来そういう組織だし。紛いなりにも世界最高の治安を誇る日本が採用している公式の制度なんだから見習うべき点も無くは無い。少なくとも、俺は子供の自殺を止められない警察を見てそう学んだ。


「それより、式はどうするよ?」


 なおも頭を下げ続ける二人に命令として頭を上げさせ、これまた頭の痛い問題を尋ねた。もう咎めるつもりは無いのだから将来の話を進めよう。そのほうが建設的だ。


「は、え? 式……?」

「……っ! 結婚式?」


 しかし、眼前の少年少女はその意味を理解できなかったようだ。まるで目を点にするという表現が相応しいような表情で訊ね返してきた。


「そうだけど? 和式か洋式かで服装が変わるだろ? その調達にも時間と手間がかかるし、場合によってはガルハイシュたちに染料を作らせんと」


 何を当たり前の事を聞くんだこの婚約者二人は? 婚約するっつうことはいずれ結婚するってことだし、そしたら結婚式があるのは当然だろうに。他にもウェディングケーキ代わりとか仲人用意したりとか、エンゲージ・リングを稲田に作らせたりブーケ作ったりとかしなきゃならねえ。いや、これ全部洋式だな。他に……式場用意したり巫女さん用意したり三々九度の杯を用意したり、仏教混ぜると数珠とかもいるか。流石にそれ以上を用意しろと言われても道具や人材が足りん。単純化しちまうけどそこは諦めてもらうしかない。


「……え、いきなり結婚なの?」

「何馬鹿な事言ってやがる。テメェはそこの女を孕ませたんだろ? なら責任とって男らしく結婚しろや!」

「!! は、はい! 分かりましたイノウ様! 由奈! 僕と結婚してくれ!」

「……はい」


 ええい、このリア充共が……まあ良い。めでたいことではあるし。ていうか決断はえーな。現代日本人特有のへたれた性根を持っていないのは好ましいけど……

 いや待て、心当たりがあるぞ。中森は自らの知識と経験を蓄積させて上げる『ジョブ』のレベルを短期間で三つも上昇させた。それが性格や決断力に影響を与えていないとは口が裂けても言えない。長沢も俺の残虐劇を目の当たりにしたらしいし、精神構造が少し変化していても不思議じゃない。


 それに……『紫の妙薬』。

 あれは身体的傷害と身体的疲労を癒す力があるため、今回の件に関わっている可能性は非常に高い。何せ身体的傷害っつうのも『紫の妙薬』が無ければ回復しないほどの傷……言い換えれば命の危機だった訳だ。異世界転移の極限状態に加え生命の危機による種保存欲求、それに身体的疲労……言い換えれば精力回復まで重なったのだ。これだけでも十分ヤバイと素人でも分かりそうだけど、そこに『愛の告白後』、『二人っきりの環境』、『ロマンチックな空気』が合わさり……言葉にする必要は無いだろう。


 で、結論だけど。

 全部間接的に俺のせいでした!


「で? 式はどっちにすんの? 正直婚約に合わせて七日……いや、無理があるか。うん、最低二週間で式を始めたいし、パ……ルカン兄さんの伝手を使って仲人だけでも呼びてぇ。まあ、それしか呼べるもんがねぇっつうのもあるけど」


 そんな内心をおくびにも出さずに二人の世界に引き篭もっている婚約者二人を現実に引き戻す。おうおう、両者とも可愛く照れたりモジモジしたりと見せ付けてくれちゃって。結婚したくても出来ない俺に対する嫌味か。


「え、えと、その……ど、どうする?」

「え? ええと、う~んと……う、ウェディングドレスは着たい……かも」

「洋式だな、決まりだ。そして……ああ、でも面倒だしなぁ……緊急幹部会議を開くぞ」


 俺の言葉に驚きと若干の羞恥を含んだ制止が入るけど、そんな物は無視だ。元々テメェら二人が勝手にシてデキちまったのが原因だろうが。そんくらいの責任は取ってもらうぞ。


 まあ……ここで一発ドデカイイベントを起こせば同級生の士気が上がる、という打算的な考えもあるけどな。




「…………すまん、火薬の割合調合に手間取った」

「もう開始したのかよ……ならば構わん。さて、全員揃ったな。これより緊急幹部会議を始める」


 少し遅れてやってきた長谷川とガルハイシュが席に着いた事を確認し、例の司令官風の格好と声で会議の開始を宣言する。もっとも、レミスタンさんは同級生共の稽古が忙しそうで声をかけなかったので参加していないけど。


「さて、今回緊急収集をかけたのはとある残念で喜ばしい報告があるからだ」

「いやどっちだよ。というか中森とレミスタンさんがいないぞ?」


 五月っ蝿いと思ったけど全員同じような表情で頷いたから我慢する。まあ俺でもそうツッコむと思うから仕方なし、だ。


「その事についてだけど……出て来い、雄一郎に由奈」


 わざと苗字ではなく下の名前で二人を呼び出す。近くの木の裏に隠れていた二人は、とんでもなく恥ずかしそうに、されど固い決意を籠めた表情で腕を組みながら会議場に姿を表し、俺の両隣におさまった。十一対の視線が妙に痛い。って、なんでマジェスティアザクとゴグリオスまでそんな視線を俺に向けるんだよ。


「さあ言え! 貴様らが引き起こした厄介事と祝事(ほぎごと)を!」


 某頭脳派優男を担当することが多い声優に似せた声で大げさな仕草で雄一郎と由奈……いいや。


「俺たち」「私たち」

「「婚約しました!!」」


 中森夫妻に腕ごと手を向けた。


『『『はああぁぁぁぁ!!?』』』


 当然の如く響き渡る絶叫の嵐。収集場所を広場より少し離れた場所に設定して正解だったな。


「とまあそういう訳で、二人の結婚式を挙げる。その準備をどうするかが今回の議題だ」

「「「待て!!」」」

「なんでいきなり結婚の話!?」

「今朝そういうのは禁止されたんじゃなかったのか!?」

「ていうかいつの間に付き合ってたんだよ!?」


 うん、予想通り。俺の意図通りに動いてくれるとは、こいつらも優秀になったものだ。


「黙れ。後で報告書を作って送るから今は事実だけを認識して行動しろ」


 そして強権を使って強引に黙らせる。


「質問は後で受け付ける。今はそれぞれのすべき事を確認する。まずウェディングドレスだけど雄一郎が蜘蛛を召喚することが出来るから絹モドキが使える。という訳で日山は俺と裁縫の特訓な」

「…………あ、はい」


 最早何がなんだかって顔をしているな。何、俺はゴスロリを作った経験がある。それなりに力をつければなんちゃってウェディングドレスくらいなら作れるはずだ。


「で、次はブーケだ。ゴグリオス、なんでも良いから綺麗な花が咲いている場所に教師二人を連れて行け。次にエンゲージ・リングだけど、これは、えぇっと……伊藤と稲田が共同で作ってくれ。デザインは絵を書ける奴を見繕っていくつかサンプル書かせろ。最終的に俺が判断する。以上」

「以上、じゃねえよ!」

「い、伊能。僕達、まだ道具も何も無いんだけど……」

「なんで俺たちが花摘なんだ? そこは女子のほうが良いだろ?」

「食料はどうするの? 問題は片付いてないよ?」


 まあ妥当な疑問だな。

 だけど、貴様らは一つ忘れている。


 この俺を、誰だと心得る?


「お前らな、俺が無駄な計画を立てる訳が無いだろう? 話は最後までちゃんと聞け」


 呆れたように溜め息を吐く。事によって、この場で俺は悪く無い感を出す。特に意味は無い。しいて言えば空気の入れ替え?


「この二人の婚約は今日発表する。で、そこから二週間で結婚式を始める予定だ。そこまでは良いか?」

「早すぎですね。普通結婚式というのは短くて三ヶ月、長くて半年以上かけて準備するものです。それに、長沢さんはともかく中森君はまだ十七だったはずです。結婚が出来る年齢じゃないですよ」


 野原先生……やけに詳しいな。婚活でもしてたのか?


「いや、今回の場合は面倒な手続きやなんかは一切無いし、異世界だから日本の法律は意味を持たない。基本的に揃えるものも……というより揃えられるものも少ない。間に合うかどうか分からないのはウェディングドレス程度だろうし、それにしても何百万もかけて作るような凝ったもんは正直作れない。簡単な物なら俺でも作れるし、『ジョブ』という能力的な物が関わる以上、普通に作るよりも圧倒的に早く作れるだろう。ぶっちゃけ俺が不眠不休で作れば良いだけの話だし」

「そうですか……」


 納得……は相変わらずしていないものの、自分を説得させることには成功した模様の野原先生。まあまあ、ここは日本の常識が職務放棄する場所だぜ?


「だがしかし、一つ大きな問題がある」


 さっきまでの楽観的な声音を一瞬で戦場帰りの傭兵(風)に変えて、場の空気を呑み込む。呑み込まれた幹部たちは意味も無くゴクリと唾を飲んで俺の言葉に備え出した。


 って、中森夫妻。テメェらいつの間に自分の世界に入ってやがった。

 まあいい。


「諸君、『ジョブ』にはレベルがあることを『妖精』から聞いているはずだ。そして、『ジョブ』はレベルが上がれば上がるほど効果も上がっていく。つまり、レベル1の『魔法士』が火の玉を撃った場合とレベル5の『魔法士』が火の玉を撃った場合じゃ威力が異なるという事だ。ここまでOK?」


 今度は余計な茶々が入る事も無かった。


「よろしい。さて、ここで重要になってくるのが『裁縫士』だ。正直MMORPG法則的に考えるとレベル1で絹製品を作るとか不可能。エンゲージ・リング担当の『鍛治士』や『細工士』にしたって、そもそも道具が無きゃ何も出来ねぇ」


 そこで長谷川とガルハイシュの目がキラリと光った。そして何やらゴソゴソと動き出した。ほう、俺の意図を読んだか。まあこの流れなら当然だな。


「そこで! 最初の七日間を強化合宿とする! 目的は『ジョブ』レベルの上昇と素材集め。今回は祝事特例として、レミスタンさんと俺が共同で狩りを行って食料を確保する。思う存分自己強化してくれたまえ」


 今更だけどこれ会議っつうよりただの勧告だな。


「「「またいきなり……」」」


 そこ、何故言葉が重なる。忍術学園の学園長扱いか。


「ちょっと、アタシ達はまだ戦いに慣れていないわ。レミスタンさんのおかげで少しは心得が出来たと言っても、まだゴブリンにすら勝てない状況なのよ? 何か打開策でもあるのかしら?」


 ナイス怜悧さん。疑問の体で俺に詳しい説明をさせる流れを作るとは流石だ。


「ああ、ある。長谷川、ガルハイシュ! お前達の出番だ!」

「承知いたしておりましたとも! 我が主!」

「…………合点」


 再び某頭脳派優男の声を真似て大げさに両腕を開き先ほどから準備していた長谷川とガルハイシュにお披露目を命ずる。


「これをご覧下さい、同胞諸君!」


 そう言ってガルハイシュが長谷川の持っている瓶(俺が持っていた希少な一品)に注目を集めるようバッと腕を開いて皆に見せる。


「なんだそれ? 黒い粉?」

「鉛筆の芯でも削ったのか?」

「まさか……火薬!?」

「その通りでございます!」


 パニックになりかけた。おい、火薬如きで一々ビビるな。


「皆さん落ち着きましたかな? では、説明をさせていただきましょう!」

「…………ガルハイシュ師匠の『ジョブ』は『錬金術士』。これはある物質Aと別の物質Bを掛け合わせて物質Cを作る力」

「その力を応用すれば、カヤクなる薬の材料を生成する事も訳が無いという事なのです! ただ、薬を直接作るとなるとそれは『錬金術士』の領分ではないので、カヤクを作る為に必要な濃硫酸と濃硝酸を作り、ハセガワの力で絹の繊維と混ぜ合わせれば、この程度の薬の製作など造作も無いのですよ!」


 大仰な言動のガルハイシュとあくまで助手のような立場を貫き黙する長谷川。ちなみに、理論上『錬金術士』が賢者の石や永遠の命の泉を作ることは可能だ。ただし、卑金属を黄金に変えると言われている賢者の石は、恐らく何トンもの鉛を用意してようやく一キロの金に変えられるか変えられないか程度の力しかもって無いだろうけど。陽子や中性子に加えて質量保存の法則や能力制限、その他諸々の要因が関わってくる上に全てを把握している訳じゃないから流石に説明出来ないけども。命の泉にしたって、どうせヒトを金属に変えて生きたゴーレム状態にするっつうのが真相だろう。一応永遠の命だから間違ってはいない。壊れた時は知らん。


「説明ご苦労ガルハイシュ。聞いての通り、我々は火薬の力を手に入れた。何を臆する必要がある?」

「綿……ということは綿火薬でしょう? たしか黒色火薬より威力が劣るんじゃなかったかしら?」


 どこで知ったその知識。いや、普通にウィキ先生が教えてくれるけど。どっちにしろ怜悧さんが調べるような事じゃないと思うんだけど……まあ、ヒトだしな。


「抜かりは無い。長谷川、ガルハイシュ、例の計画書を」


 何故収集段階で持っているのかとツッコみたくなるほど準備が良いことに、長谷川が『擬獣化計画』、ガルハイシュが『地力向上オペレーション』(普通に作戦じゃ駄目なのだろうか?)の計画書を取り出し、幹部全員に理解できるよう丁寧に説明する。所々質問があったり俺の補足が入ったりもしたけど、わりと順調に会議は進んだ。驚いた事に擬獣化薬と腕力強化薬は開発に成功しているそうだ。火薬も含めてこの短期間で良く出来たものだ。まあ、二人とも前からこういう危険物の取り扱いをしていたみたいだからある程度のノウハウがあったのだろう。


「……とまあそういう訳で、戦力を持たない生徒でも十分レベルを上げる事が出来る。幸い、どの『ジョブ』もレベル2までなら比較的上がりやすいようだし、最初の四日でレベル上げ、残り三日で『ジョブ』の訓練を行えば余裕とまではいかないけどしっかり終わらせる事が出来ると思っている」


 二人の力説明が終わったところでそう纏める。


「何か意見が出る前に言うけど、ぶっちゃけ『ヴィルキット』で生徒が出来る事ってこれくらいなんだわ。たった数日で戦闘訓練を終わらせるのは不可能だし、この場から離れさせるのも危険だ。それに、どの道ガルハイシュと長谷川の提案は早めに採用して『ジョブ』持ち生徒のレベル上げを図るつもりだったんだ。ここらで一発ドーンとデカイイベントを起こして士気向上を狙いたい。これだけ説明してもまだ反対するような理由があったら遠慮なく言ってくれ」


 当然、誰の口からも俺を説得するに足る反対理由は出ず、中森夫妻の軽率な行動から転じた『結婚式準備』というイベントは敢行される事となった。




 ちなみに。

 どうも今朝の会議後に『ジョブ』を得た同級生が四人いたらしく、会議の終わり際に報告を受けた。

 増えた『ジョブ』は『洗浄士』、『結界士』、『野賊士』、『曲芸士』。だそうだ。


 若干一つ。これはツッコめば良いのかそこまで無理な字を使ってまで世界が個人の想いを受け入れてくれたことに感謝すれば良いのか……


 結婚の話が勢い任せだと思った人、挙手!

 残念ながら、構想段階で既に決めていたのだ! だからどうしたと言われればそれまでですが……


 次回、ついに明かされるニシキ君の《邪狂》(十七話参照)!

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