第二十二話:なんとなく甘みな恋仲
すみません、今回予想以上に長くなってしまいました。この文字数を試験期間中に書きあげた自分は褒められても良いはず。
少ししてルカン兄さんとスラリンが戻ってきた。ルカン兄さんは久々にスラリンと遊べてご機嫌だし、スラリンは同族が生まれて喜んでいるみたいだ。今は兄弟のようにファロとセカロドと遊んでいる。具体的に言えば人型になる練習をしている。どうもスライムという種族にとって人型という形態はとても難しく、ペイント次第で人と見分けが付かなくなるレベルまで持っていけばほぼ不自由なく全身の体液を操れるようになるらしい。まあ、『人間』ってだけである種特別な意味があるからな。形だけとはいえ、偶像崇拝の法則が発生してしまい能力的妨害が起きてもおかしくは無い。スラリンは竜種でもあるから問題無いだろうけど……って、スラリンが人化したらどうなるんだ? やはり竜種と同じく完璧なヒト形態となるのか、それともいわゆる『スライム娘』になるのだろうか? ここらはパパに伝えて確認してもらうしかないな。こっちの世界の竜は人化を知らないかもしれないし。
キシ
「ん? どうしたキャステラウム……っと、中森とトリゼェイソンが帰ってきたのか」
ふと頭を上げて茂みのほうを敵意無しで見やるキャステラウム。
中森には魔獣の駆逐を頼んでいたけど、どうもヅィ・スコロペンドラが近くにいると殆どの魔獣が逃げるらしい。さっきのゴブリン達は逃げ遅れた上にグルシオスの力を過信して避難しなかったようだ。これはグルシオスから聞いた話だから間違い無い。え? なんで分かるかって? そりゃお前、俺が小説家だからだよ。
「いや、分からないから」
そう言うなよウィルフィール。俺だって良く分かってねぇんだ。ルカン兄さんも例え配下だろうと魔獣と会話レベルで意思疎通が出来るヒトは珍しいらしいって言ってたし。というか、勝手に口の支配権を奪うな。
「ふふふん☆ 分かったよ、馬・鹿♪」
なんで最後馬鹿って言ったし。
「ともかく……っ! 大丈夫か、中森?」
意識をキャステラウムが見やった方へ向けると、血だらけで気絶しながらトリゼェイソンに運ばれてきた中森が視界に入った。慌てて懐からガルハイシュ謹製の『紫の妙薬』を取り出し、試験的な意味もこめて中森に飲ませる。ルカン兄さんに治してもらえば早いだろうけど、『紫の妙薬』の実験も大事だ。いざとなれば頼む方向で。
気絶(何故か満足気味だけど)しているせいか中々喉を通らない『紫の妙薬』。うむむ……よし。
トリゼェイソンから中森を受け取って立たせる。そして顔を空に向けて口を強引に開き、『紫の妙薬』を流し込む。気道に入らないよう気をつけねばならないけど……まあそうなったらスラリンに頼んで吸い出してもらおう。
「……ェ、うげっほ、ゲホッ……」
どうやら頼むまでも無く自力で吐き出してくれたようだ。少し唾がかかったけど……まあいい。
「ほら、しっかり自分の足で立て」
「イノウ……様?」
中森は俺を見て少し顔を赤らめた。をい、テメエには仮称彼女がいるだろう。
「あ、そ、その……あ、ありがとうございます」
少し間をおいて謝罪と感謝を告げてきた中森。ん? その表情……ははぁ、なるほど。俺に惚れたのではなく単に恥ずかしがっていただけか。危ない危ない、俺が自意識過剰の愚か者になるところだった。どうもこっちの世界に来てから俺を見て赤面する奴が多かったからな。予想を勘違いしても仕方ないだろう?
「そうか。痛むところとか無いか? 他に異常は?」
「え? い、いえ、特に何も無いです」
「本当か? 一応『紫の妙薬』の試験も兼ねていたから正直に言ってくれるほうが助かるんだけど?」
「人に無断で実験台に使わないで! 無いですよ、異常なんて!」
ほほう、そのツッコミ力……見るところがあるな。
「なら良い。ところで、何があったか説明してくれるだろうな?」
見たところ命に別状のある傷は無かったけど、右腕の裂傷は下手すれば二度と使い物にならなくなるレベルの重傷と言える物だった。一応許容範囲内に入るけど……トリゼェイソンがいながら一生物の傷を受けた理由はなんだ?
「あ、はい。えっと、イノウ様の指示で魔獣の駆逐をしようとしましたけど……しょっぱなから巨大蜘蛛に遭遇し今まで逃げ回ってました!」
……そこは開き直らずとも大丈夫。
「そうか……大変だったな。大丈夫だ、お前には荷が重かっただろう。罪には問わないから安心しろ」
「え……あ、はい」
なんだその呆気に取られた顔は。叱責されるとでも思ったのか?
当人の能力に見合わない出来事に遭遇し、物事に失敗する。そんなものは不可抗力。誰が責める物か。むしろ生死が関わる出来事から無事生還したのなら、それは褒められるべき物だ。
「続けろ」
「は、はい。それで、遭遇して逃げていると――」
中森の話は、俺をして慄かせるほど……王道染みていた。
「……とりあえずツッコませてもらおう。テメエのどこが一般人だォラァァァ!」
「そ、そうですね。なんで僕、一般人だと思ってたんだろ……」
今更か!
ったく、なんでそんな短時間で『ジョブ』レベルが上昇すんだよ。ルカン兄さんの話では『ジョブ』のレベルって上がりにくいはずだろ!? それなのに逆境の中で三回もレベル上げた上に『召喚士』という『ジョブ』の真髄に独力でたどり着いて逆境を跳ね除けただぁ? 挙句の果てに自らの力量に余る巨大蜘蛛との契約を成功させる? どんな王道主人公だテメエは!
「しかも俺の『ジョブ指南書』を間に受けて、それで成長するなんて……」
「間に受けてって、嘘だったんですか!?」
「いや、嘘じゃない。ただ、普通のヒトが間に受けるかどうかまでは考慮に入れてなかったというだけだ」
「うわぁ、この人取説書くのダメな人だ……」
否定はしない。
「……はぁ。ともかく、ご苦労だった。俺と友人になりたいくだりは後で話し合いをするにして、今はとにかく拠点に戻るぞ。身体的な疲労はともかく、成長痛と精神的疲労が酷いだろ? 長沢には俺から言っとくから、今は休め」
「ひゃ、ひゃい!? わわ、わ、分かり、まし……た」
頭から湯気が立ち上っている様が幻視出来るなー……可愛い。
っと、そうだ。言っとかねえと。
「良いか、中森。長沢のみならず女ってのは面倒な生き物だ。俺らが天使なら女は悪魔。自分と真逆の存在っつうのは分かるようで分からんもんだ。だけどな、それでも男っつうのは女を泣かしちゃいけない訳よ。考えるんだ、無意味な事を。一番有り得なさそうな可能性を重視しろ。ただし、公式に捕らわれるな。ヒトの心を数式で解く事が出来るのは機人やゴーレムのみだ。良いか、もう一度言う。全てを考えるんだ。そして何も考えられなくなったら、その時はもう自分の想いを二度ぶちまけろ。後悔したくないのなら、な」
矢継ぎ早に忠告を告げてさっさと手刀で気絶させる。これを覚えていようが覚えていなかろうが、意味を理解していてもいなくても、これでこいつも男の仲間入りだ。
いつでも、万が一の失恋をフォロー出来る。
「よし、それじゃあ撤収しよう。トリゼェイソンとキャステラウムとグルシオスは念のため未だ復活していないスライムの核の警護。スライムの核に何かあったらグルシオスに伝令を頼め」
キシキシ
キシ
「ガギ、グゴゴ」
うむ。よろしい。
「さて、帰ろうかルカン兄さん、イルトミルジス」
「うん」
「クゥ!」
というわけで、拠点に戻ってきた俺たち。
相変わらず机と椅子と荷物以外何もねぇ。こんな環境で現代っ子が三日も過ごしたのだから凄い。しかもクラタの件を除き特にトラブルも無かった。これは賞賛に値するべき事だろう。普通クラス転移とかだと必ず傲慢な馬鹿やヒステリックな馬鹿が現れて何かやらかすからな。まあその分俺がやらかしたと言われれば反論の余地は無い訳だけど。
「よっこらせっと」
背負って持ってきていたらいつの間にか眠り込んでいた中森を机に下し、念のため軽く触診。右腕に裂傷の痕が残る程度だと判明する。まあ後遺症が残る類の傷跡じゃないし、男の勲章として取っておいてもらおう。
「さて……イルトミルジス、念のため見張ってろ」
俺の好みではないけど、長沢も美人とは言えなくとも同級生の中では整った容姿をしている。そんな長沢に無意識とはいえ想いを寄せられている中森をどうにかしようとする輩が現れるかもしれないからな。俺の愛人と言っても過言ではないほどの立場にいるイルトミルジスが近くにいれば誰も手は出さないだろう。
……擬人薬とか手に入ったら、本当にイルトミルジスを愛人にしてしまおうか。いや、むしろ恋人……いやいや妻…………
「クゥ!」
「っ……ああ、頼んだぞ」
危ない。それは危ない妄想だ。少し封印しておこう。
「ルカン兄さん、長沢……『調理士』の『ジョブ』を持った同級生がどこにいるか分かる?」
「うん、えっと……ハルクナンのパートナーちゃんだね。あっちで何かしてるみたいだよ」
「ん、ありがとルカン兄さん」
「うにゅん~」
俺の肩で妖精を探索していたルカン兄さんの頭をナデナデすると、とても可愛らしい声で応えてくれた。なにこの可愛い生物。お持ち帰りしたい~♪
「それじゃ、行こうか」
「うん!」
ナデナデを止めて呼びかけると元気良く頷くルカン兄さん。んふふ……かんわゆ~い。
しっかし……あの時パルクールの練習をしていた時に助けた(というより巻き込んだ)子供が、まさかここまで強くなるとはなぁ。あれ以来ほぼ関わっていなかったとはいえ感慨深いものがある。結局、転校……いや、転園? する一ヶ月前だったからそう親しくもなれなかったんだよな……どうも本人はその短い間でも俺の事を友人だと思っていたらしいけど。まあ、小さいころの時間なんて今と比べれば随分と長く感じられるもの。その中で少し親しくなれば、記憶の中では長い時間を友人として過ごしたのだと認識されても仕方ないだろう。まあ、最初の人生ですら中学三年……いや、兆候を含めれば僅か小六の頃から既に時の流れが早く感じられていた俺特有の感覚なのかもしれないけど。今度聞いてみるのも良いかもな。小説の骨子に組み入れるし。
なんて考えながらしばらく歩むと、ここ最近中々嗅いだことの無い肉が焼ける香ばしい香りが漂ってきた。そこに香辛料の類は含まれていないとはいえ、この三日間ほどずっとカロリーメイトや冷えた弁当しか食っていない俺たち現代日本人の腹を呼び寄せるくらい造作も無いだろう。肉の焼ける匂いは、それだけで腹が空いてくるものである。
まあ、俺は熱々のレミスタンさんの臓物を貪ったけどな。
「邪魔するぞ。ああ、調理はそのまま続けてくれ。俺は伝えるべき事を伝えに来ただけだから」
やがてたどり着いた木の板で区切りを付けられている一角に上部から跳躍によって侵入し、中で食欲そそる香りを量産している彼女に告げる。
「っ……はい」
「そう畏まらんでも良いぞ。お前さんの懸想人とは今後友人関係を築くつもりだし、何より『ヴィルキット』の胃袋を掴むお前さんにストレスを抱え込ませる訳には行かないからな」
「けそう…………っ」
おい、そこで顔を赤らめるな。なんでよりにもよってそこまで初心なんだよあんたさんらは。ちくしょう、二人揃って可愛くなりやがって。ごちそうさまです!
「で、今回俺が来たのは中森の事だ。実はスライムの核回収及び実験中に負傷&成長を経験したせいで今気を失っている。肉焼きは俺が引き継ぐからなんか適当に作って持ってってやれ。食材全部使っても構わん」
「っ! ……はい!」
これだから……見るからに嬉しそうな顔をするんじゃない。
早速簡易の竈(外で『鍛治士』に竈を炉と強引に認識させて火を出している)に入れていたアルミラージの肉を取り出して森で採れた木の実や薬草で作られたソースと一緒にバナナの葉もどきで包む長沢。あのバナナの葉もどきは食感と味がやや草っぽいのと栄養的問題を除けば基本パンと一緒のような謎植物なのでサンドイッチに最適だ。慣れると結構癖になる味だし、今後『ヴィルキット』の主要食物となりそうだ。もっとも、数採れるわけではないので、俺が贔屓している相手に限られた時だけ使うように命令してある。必要なときに必要なだけのボーナスを。これ、経理の理想ね。
「よっこいしょういち……テンテンテンテン、テン、テテン、テテテテン、テテンテテテ……」
さっきまで長沢が座っていた場所に腰を下ろし、有名な肉焼きの歌をはなずさみながら生肉を竈の中に入れていく。鉄板があれば良いんだけど、今の俺、ではなく『ヴィルキット』が自分たちで火をおこそうとしても火力に乏しい『魔法士』か竈を強引に炉と認識させて火をおこす『鍛治士』でないと無理だ。何故かライターなんて持ってきてる馬鹿――まあ学校に大型ナイフや改造ピック、加えて混ぜると危険な可燃物や下手なライフルなら余裕で防げるバンダナを持ってきてる俺が言えた事じゃないけど――がいたけど、使わせていない。『蓄力士』……奥山の力の練習にもってこいなんだわ。ガスという比較的溜めやすく、かつ馴染みのある物質が詰まっているからな。現在一本分使い切って残り二本。その個数でギリギリ感覚は掴めそうだと言うので、当然着火になんて使えない。もったいない。
結果、この使い勝手の悪い即席竈を使っているという訳だ。もうツッコまんぞウィルフィール。
「えぇ、つまんな~い☆」
無駄な星をつけるな。つうか口の支配権奪うな。
「はい?」
「……気にするな、いつもの発作だ」
この女、意外に地獄耳か? ウィルフィールが俺の口の支配権を奪う場合、興奮しているか声高に罵倒するとき以外では大抵俺にしか知覚出来ないような少量の声しか出さない。だというのにこの女は内容を理解するほどでなくとも俺が何か呟いたことを感知した。いくら食を目指す暴徒から守るよう作られたバリケードが狭いとはいえ、料理をするためとストレスが溜まらないようにわりと広く作られているこの空間内で半径一メートル以内にヒトが入ると自動的に距離を取る便利な機能が備わっている俺の呟きを捉えるとは……これでヤンデレだったら中森を守ってやらなきゃならん。少なくとも、代償系の契約能力で他の女性に劣情を抱いても愛は決して抱きませんと契約させて、その効果を長沢に見せ付けておかなくては。
おっと、ここで俺の行動や思考回路を不思議に思う奴(誰)がいるかもしれない。だけど安心して欲しい(誰に)、俺は可愛いものとカッコイイもの、初々しいもの、ラブラブしいものがもう無条件で好きなだけなのだから! うん、何故かこの説明はウィルフィールにしている訳じゃない気がする。誰に言ってんだろ?
「……彼女じゃない?」
先程よりやや小さめの声で自分の考えを述べるウィルフィール。だから、口の支配権を奪うなと。
「……可能性は無くも無いけど、そもそも今みたいな感情から生まれたのが彼女だろ? なら俺が一々説明する必要無くね?」
「そうだよねぇ……なら、読者様?」
「馬鹿言うな。『主人公は僕だった』じゃあるまいし……可能性が無いとも言い切れないのがこの異世界の存在によって証明された訳だけど」
「どっちにしろ、周囲から見ればただのKITIGAIだけどね☆」
「おい、ローマ字読み風にしたからといって差別用語であることには変わりないんだぞ」
「ふふん♪ こ、の、馬鹿☆」
なんで罵倒したし……まあ、確かに俺も差別用語? 何それ読めるの読めますねはいなら無害だし良いんじゃないのかオイコラァ? 的なヒトだから、今のやり取りは俺のパーソナリティを自ら崩したと言っても過言ではない。ならばウィルフィールが俺の事を馬鹿と言ったとしても不思議じゃない。
だけどよ、今俺は『ヴィルキット』の長なんだよ。いくら傍若無人に振舞う権力があるとはいえ、そこらはきっちりさせなきゃ全国のイジメが蔓延る小中学校と同じになっちまう。小中のイジメはキツイぞ? ただ被害者の心が育ちきってないから耐えるか死ぬかのどちらかになるだけで大抵耐えるから問題に上がる件数すら少ないだけで。
俺はあの愚図共とは違う。きっちりとヒトの上に立つものとして自分を律するのだ。
特に、この地獄耳女が近くにいる場所では……
「あの……」
「うひゃい!? にゃ、にゃにかね?」
唐突に話しかけられただけで取り乱し噛みまくる。これがヒトの上に立つ者だと? 片腹痛いわ。
「りょ、料理が出来たので中森君に持って行きたい……」
「あぁ、分かった。ちょっと待ってろ」
さも何事も無かったが如く態度を取りながら首に下げているネックレスの内、蛇のような装飾が描かれた金(錆防止の為のメッキだけど)のホイッスルを取り出してやや軽めに吹く。そこから紡がれた音はスーという掠れた音。当たり前だ、犬笛だもの。
「あの、それは……」
意外な事に長沢は俺のホイッスルに興味を持ったのか、自ら会話をかけてくれた。未だ口調は固いものの、良い傾向だ。
「ああ、元々はただの犬笛だ。だけど今は……」
完全に説明し終わる前に地面がボコッと盛り上がった。長沢さんは条件反射的に叫ぼうとしたようだけど、下手人を見た瞬間ある程度納得したのか自分を落ち着かせるために深呼吸を開始した。この女、俺より適応力あるんじゃねぇの?
キシキシ
「……とまあ、こんな風にセネクトウテを呼ぶ為の、いわば百足笛となっているわけだ。こんなに早く来るとは思ってなかった。すまん」
「…………あ、はい」
どうやら言おうとしていたことで先に謝られてしまい、何も言えなくなったようだ。俺も散々非常識をリアルでも二次元でも見てきたからな。こういう場面はどうすれば回避できるのか、学習しているのだ。
「よし、それじゃあセネクトウテが掘った穴から外に出るか」
何せ四方の木の壁には扉が存在しない。空気穴があることにはあるけど、普通のヒトはそんな場所から出入りしない。不自由させるけど、これも安全のためだ。ヒトは食のために何をしでかすか分かったもんじゃないからな。
……それに、中森との共同部屋だと言ったら恥ずかしげにうつむきながら了承してたし、問題ないだろ。流石に仕切りは置いてあるけど……コンドームを用意すべきか否か。どう考えてもこのままとんとん拍子にカップルの道を進んでいく未来しか見えない。
あ、ちなみに木の板はキャステラウムに無理を言って木から切り出してもらった。そこらの職人じゃ到底再現出来ない滑らかな断面と一切の歪みが見えないこの壁、実は日本の住宅の物とそう代わった場所が無い貴重品なのだ。欠点と言えば切り取った部分がむき出しなのと、定期的に掃除しないと魔獣化してしまうところだけだ。ただ生活する分には困らないのだし、もはや欠点など無いにも等しい。やだ、俺が住みたい。
「行くぞ」
「はい」
それっきり、特に言葉を交わす訳でもなく黙々とセネクトウテの掘った穴を進む。セネクトウテは殿で空けた穴を塞ぎながらついてくる。無いとは思うけどここを辿って長沢の料理(肉)を盗もうとたくらむ輩がいるかもしれないからな。これは必要な措置だ。
意外に近くに掘ってくれたのか、やや息苦しく感じながらも無事出口へたどり着いた俺達はすぐに中森を見つけることが出来た。長沢は無言で駆け寄り、心配そうに何度も名前を呼んでいた。
「……お邪魔虫は退散するかね」
わざと二人に聞こえるような音量で呟き、セネクトウテと共にその場を離れる。
中森も意外に根性ある奴だしおぶっていた時のしがみついてきた感覚を思い返してみれば徐々に意識が覚醒に近づいていた事も分かる。直に目を覚ますだろう。
そして最初に見るのが気になっていた子。
そこから始まるのは、元の世界では決して味わえないだろう甘く切ない一時。傷身の少年を労わる少女。少年は少女の好意を受け入れ、ついに告白――
…………ちょっとだけ覗いてこ。
「ルカン兄さん、悪の芽が俺に芽吹いちゃったけど許して」
「大丈夫、ニシキ。ボクの心にもおんなじ気持ちが生まれたから」
似たもの同士、という訳か。
それじゃ、レッツウォッチング!
「う、うぁ……」
「中森君! 大丈夫?」
「な、長沢……さん? ここは……」
「喋っちゃダメ。酷い怪我だよ」
「大丈夫だよ……っ」
「ほら、痛いんじゃない。ちゃんと横になってて」
「でも……うん、分かった」
「うん、よし」
「うん……」
「……」
「……」
……
「……ご、ご飯、作ってきたんだ。食べる?」
「……へ? い、良いの!?」
「そこまで食いつかなくても……うん、良いよ。はい」
「うわぁ……ありがと、長沢さん!」
「べ、別にこれくらいなんてこと無いよ。調理士さんだし」
「そんなことないよ。僕は長沢さんの料理が食べられるだけで嬉しいんだ」
「……え?」
言った! 今あいつサラっと凄いこと言いやがった! なんだ、やはり無自覚系主人公なのか!? おいおい、これ小説化するとしたら俺視点の二人称小説になるんじゃねえのか!? 詳しい事情を知ってるのは俺しかいないし、ウィルフィールの馬鹿のおかげで説明文にも事欠かないし!
「いだきます! むぎゅ、んぐ、んぐ、あむ……っ!」
「……あ、だ、大丈夫!? ほら、お茶……」
「(コクコク)……ゴキュ、ゴクッ……ぷはぁ! ゴホッ、ゴホッ……危なかった」
「慌てて食べるからだよ。ほら、後もう一つあるからゆっくり食べてよ」
「う、うん……分かった」
「……中森君、少し変わった?」
「へ? な、なんで?」
「いや、だって、ちょっと前まではすぐ謝ってたから」
そういえばそうだな。
「あ……そうだね。確かに変わった……かも」
「何かあったの?」
「……うん。僕はイノウ様の友人になるんだ」
「……は?」
「え、えっと! そ、その……い、イノウ様は小説の中こんな事を言ってたんだ。『助けた助けられたの関係はそう忘れることは出来ない。だから、親しくも無かった相手とならとことん交流を持て』って」
「それって、幼稚園の時に助けられたって話?」
「幼児園ね。うん、そうだよ。それでね、僕はさっき決意したんだ。せっかく命を助けてもらったんだから、イノウ様ともっと仲良くなっておいたほうが良いって」
あ、馬鹿。
「……ふーん」
「え、あれ……? ぼ、僕、何か長沢さんを怒らせるようなこと、言った?」
「別に。なんでもない」
「そんな不満そうな顔で言われても信じられないよ」
「……良いじゃん別に。私のことなんて気にしないで友達の伊能と一緒にいればいいじゃん」
「……そんな事、出来ないよ」
「なんで? 別に良いじゃん。昔から恩返しがしたいって思ってたんでしょう? なら今がチャンスじゃない。私のことなん……きゃ!」
ぬおぉ! な、中森が長沢を押し倒した……だと!?
「な、長沢さん! ぼ、僕……僕は、君の事が好きだ!」
「……な、ななな!?」
ゆ、床ドン……だと? アイツ、あんな高等テクを意図も簡単に? なんつう隠れ無自覚タラシだ。俺の見る目もまだまだだったという事か……っと、続き続き。
「確かに、イノウ様の事は他の人なんかより断然大切だよ。でも、僕にとってそれ以上に、長沢さんの事も大切に思えるんだ」
「な……」
「イノウ様……つまり命の恩人と、長沢さん。どっちを選べと言われたら、僕は迷わずどっちも取る。例え片方を取るほうが圧倒的に楽だとしても、ね。僕は、命の恩人と同じかそれ以上に、君が好きなんだ! 長沢さん!」
「……っ!」
言っっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 良く言った中森! 最近の若い奴らは直接的な物言いに弱い。心が籠もっていれば尚のこと。俺を引き合いに出しあまつさえ同格だと言ったのは欠点だけど、そんな事は頭が沸いている長沢にとって意味が無い。惜しむらくは今が真昼というところか。これが月夜の晩だったのならさらにロマンチックとなっていただろう。
だが、だがしかし。そんな事はどうでもいい。言葉やシチュエーションなんて、心の叫びに比べれば大した事じゃねぇ!
「答えを……聞かせて」
押し倒した格好のまま、今様色に頬を染め上げている長沢に答えを迫る中森。おいおい、見かけによらず情熱的だなぁオイ。俺が女だったら嫉妬してるかもしれん。そう思わせるほど、中森の奴は『男』をしていた。
男の俺ですらそう感じたのだ。
長沢の答えは、
「……私も」
それは掠れたようで、されど恵みの雨が乾ききった洞に水分を送るかのように。
「私も! 中森君が好き!」
「んむ!?」
ぬおぉ!! 長沢が中森の唇を奪った!? うっひょぉぉぉぉぉぉぉ!! なんつう甘々で美味しいシーンなんだッ!? これは、燃える。必死に押さえつけている創作意欲という器が燃え上がりそうだ! いや、そうじゃない。ガソリン。そう、俺の器にガソリンが注ぎ込まれた! 燃え上がるとき、さらに栄えるように。トクトクと、俺の中に蓄積されていく!
クッハァ! 最高だコイツラ。次のラブコメはメガヒット確定だ! 俺の世界は、また一歩高みへと近づいた! なんてめでたいんだ! 異世界に感謝を! クラス転移に感謝を! ラブラブカップルにぃぃ……かぁんしゃをぉぉぉ!!!
「ん、ちゅ……ぷはぁ」
「んん……んはぁ」
どうやらしていたのは大人のチッスのよう。くぅ、良いねぇ。さいっこうだねぇ!
「ハァ……ハァ……しちゃったね、キス」
「ふぅ……ふぅ……う、うん。そうだね」
「本当に、私で良いの?」
「本当に、僕で良いの?」
同時に訊ねて恥ずかしくなったのかお互いそっぽを向いた。お前らなんつうお約束通りの展開を……もう俺の存在に気づいてて見せ付けてるとしか思えないレベルだぞ。いや、そこまで器用な奴らだとも思ってないけど。
「「い、良いに決まっ……」」
既視感。
「「……」」
……さて、ここからは本当に二人の時間だ。
お邪魔虫は、退散する事にしよう。
「セネクトウテ、ルカン兄さん。今自由に動ける配下と妖精をこの場の守護に当てて。絶対に邪魔させちゃダメだよ」
キシキシ
「分かってるよ。任せてよニシキ」
「お願いね」
フフフ……お前ら二人にはガチでラブラブ生きてもらう。ラブコメ展開は認めないぜ?
異論反論抗議口答えの、一切を。な。
中森君と長沢さん、面倒くさいので早々にくっつけてしまいました。そもそもぼっちな私が一目惚れ~告白までの流れを書くなんて無理があるんです。




