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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
二章:文明は斯く偉大なり
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第二十話:なんとなく悲観的な心中

 今回少し短いです。

 よし、この核がスライムの体液でないと駄目なのか、それとも他の物で代用可能なのか実験してみよう。


 まずはありきたりな木。そこらの木の樹皮をナイフで削り、練習も兼ねた『生命の力』でメリケンサックをコーティングして削った部分に拳を当て続ける。やがて出来た穴にスライムの核を埋め、削り取った樹皮で他の空間を詰めてやる。


 ピクリとも動かない核。


 ならば次は土の中だ。体液に触れないよう気をつけながら別の核を地面に埋める。木に埋めた核を使わないのは時間経過で反応が出る可能性を考慮したからだ。スライムの体液じゃないから動くまで時間がかかっていただけかもしれないからな。


「ふむ……コレも駄目か」


 掘り起こした土をギリギリまで側面のみに詰め込み顔を出している部分を凝視するも木の時と同じく反応は無し。ふ~む、やはり無理があったか……


「いや……待てよ? そこに少しずつスライムの体液を混ぜ与えていけばどうなる?」


 なんだよ俺。やはり超天才だな。まあ実験成功となるかは別問題だけど。


 早速スライムの体液を掬い上げ……ようとして掌に走った激痛にスライムの体=酸だという事を思い出し、そんな事も忘れていた原因である興奮を押さえつけてファロに仕事をさせる。スライム同士溶けることは無かったみたいで、無事実験が開始出来た。


 ……お、ほんの僅かにだけどピクって動いた。これがスライムの体液のみに反応するのか、はたまた周囲の物質も含むのか……後者だったら良いな。


「さて、残り十五分くらいか? 後は何をして遊ぼ……実験しようか」


 微妙だな。十五分じゃイルトミルジスを愛でるとしても中途半端になるし、ファロ……あ、そうだ。まだ草では試してないか。


「ファロ、体液を確保しろ。キャステラウムは周囲の草を一箇所に集めろ。手段は問わない」

ぽよぽよ

キシ


 両者ともそれぞれのやり方で了承の意を示した。ファロは普通にさっきと同じく体液の水溜りから汲み取っている。


 だけどキャステラウムはやはり只者じゃない。

 一瞬体を限界まで持ち上げたかと思うと、直後に体の上半分をシャキィンという謎の効果音と共に一回転させ、周囲の木々から枝を損なわずに葉だけを綺麗に落としてみせたのだから。もはや感嘆とするしかあるまい。


 でも、落とした葉を律儀にも自分で運んでくる姿はキュンと来ちゃう。健気だなぁ。本当に俺なんかが主でいいのだろうか。もっと別の高貴なる人物に仕えたほうがいいんじゃないだろうか? パパとか。


「ありがとう、キャステラウム。集めるの手伝うよ」

キシ


 無用、か。本当に真面目な子だなぁ。ここはお言葉に甘えさせてもらう。言葉じゃない気もするけどそんなのは些細な事だ。




 で、キャステラウムが草葉を集め終わるのに大体八分。後七分ほどで復活する計算だ。逆に八分も草葉集めに使うほど広範囲の葉を斬ったのか。凄いぞキャステラウム。


「よし、セット完了。ファロ、やってくれ」

ぽよぽよ


 キャステラウムの集めた草葉に核を埋め込んでファロにスライムの体液を練り混ぜてもらう。するとやはり僅かにピクリと核が反応した。今更だけどコレどのくらいで復活するのだろうか? 気軽にやったけど時間がかかるなら面倒だな……おお、そういえば俺にはヒトの奴隷がいるじゃないか。後で命じて監視させよう。


「さて、後七分か。何をしようか……」

「クゥ!」

キシッ


 っ……声が鋭い? 魔獣か。


「実験一時凍結。敵は何所から来る?」

キシ

「クゥ!」


 二匹同時に四時の方向へ顎と角を向けた。位置的に木に埋めたスライムの核は大丈夫だろうけど草葉や地面に埋めたスライムの核、それに山と詰まれた未加工のスライムの核は戦闘のどさくさで壊れかねないな。


「キャステラウムは草葉に埋めたスライムの核、イルトミルジスは地面に埋めたスライムの核と他のスライムの核を守護しろ。ファロは念のため木の上で待機。魔獣が飛行系だった場合は俺の近くに落ちて来い。魔獣は俺が仕留める!」

キシ

「クゥクゥ!」


 丁度グールの体になった時の戦闘経験を積んでおきたかったところだ。一応準備運動はしてあるけど、実際の戦闘で想定どおりの動きが出来るとも限らない。幸い、ヅィ・スコロペンドラ以外の魔獣なら俺の敵では無いだろうから安全マージン的に大丈夫だろう。ヅィ・スコロペンドラが出てきたら警告せずに即刻迎撃を命じていたし、同族すら検知出来ない程下等な魔獣でもない。問題は無いだろう。


「さぁて、どんな奴が出てくるか……ね!」


 俺でも感知出来るほどハッキリと気配が伝わってきた場所にスローイング・ピック改を投げつけ……手ごたえが微妙なんだけど。


「グギ!」

「ガガギゲ!?」

「ギギ! ギガッゲ!!」


 どうやらゴブリンの集団だったようだ。俺の投げつけたスローイング・ピック改は一匹のゴブリンの頭を貫通し、そのまま後ろの木に刺さったらしい。どうりで当たった手ごたえはあるのに刺さった手ごたえは微妙だった訳だ。


「ガグゴ! ガゲグゲ!」


 ゴブリンの一匹が粗末な棍棒で憎き(にっくき)仇でも叩き潰そうかという勢いで俺に突進してきた。仲間思いなのは結構だが、戦闘中に頭を沸騰させるのは良くないぞ。


「つっ、ら!」


 両の爪に意識を集中させて標準的な十得ナイフとほぼ同じ大きさに伸ばし、迫る棍棒を余裕綽々の紙一重でカウンターを入れる。爪はゴブリンのわき腹を浅く裂いた程度だけど、グールの爪には麻痺毒がある。麻痺に至るまでの詳しい時間は分からないけど、自ら獲物を襲い食らう種族であるグールの麻痺毒が即効性で無い道理は無い。長くとも十五分程で効きだしてくるだろう。まあ種族差はあると思うけど。たぶん人間から離れた種族になるほど効きにくくなるのだろう。グールってヒトを襲う種族だし。


 考え事をしながら左手をウェストポーチに突っ込み、スローイング・ピック改でゴブリン二匹の頭に風穴を空ける。検証段階ではヒトの三倍くらいの筋力だったけど、瞬間筋力は五倍くらいありそうだな。ヒトの筋力に関わるリミッター的な機能が緩んでそうだな。定期的にルカン兄さんに治療してもらおう。知らないうちに体が壊れてるとかマジ勘弁。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁりゃー!」


 おお、ジャンプからの空中横大車輪が出来た。これは戦術の見直しをしないといかんな。どうも足の爪にも麻痺毒ありそうだし、密着性の高いサンダルとかも作らないと。いっそ鉄下駄でも履くか?


「ギガ!」


 っと、こいつは剣を持っているな。錆だらけで切れ味なんて微塵も無さそうだけど、部分部分はまだ刃が残ってるように見える。一応斬撃耐性とかも調べとかないと。


「くっ……くはっ!」


 すげぇ! まったく堪えてない! いくら錆だらけとはいえ、仮にも金属の塊で殴られたはずなのに肌が赤くなる事すらならなさそうだ。皮膚の頑丈さもヒト程度では無くなっているということか。まだまだ油断出来ないとはいえ、これならある程度の相手ならば素手でガードとか野菜の国のお猿さんみたいな事が出来そうだ。流石に銃弾は威力と面積的な問題で防げ無さそうだけど。


「おらよ、お返しだ!」


 そう告げて思いっきりゴブリンの例の部位を蹴り上げ……とと、威力がありすぎて真っ二つになりやがった。ゴブリンもそうだけどヒトに対しても手加減する場合は弱めに蹴らないと。まあそれでも潰すくらいはしてしまいそうだ。


「さってと……残りはお前だけか」

「ガギッ!」


 瞬く間に五匹の仲間が殺されて恐怖でも抱いたか、目の前の怒気を顕にしている一回り大きなゴブリン以外は逃げてしまったようだ。


「ガグ!」


 恐らくヒトから奪ったであろう見事な斧の一撃を白刃取りしながら考える。


「ふむ……仲間想い。加えて個体としての力が高く、得物に錆を浮かせない程度の整備をする事が出来る賢さを持つ、か」


 邪狂を試してみたかったけど、この優良物件は見逃せないな。きっちり配下となってもらおう。


「気に入った!」


 一言。その後再び言の葉を表すまでに耳を打ったのはブオンという拳が空気を押しのける鈍い音とゴチャッという肉が千切れ飛んだ音のみ。ふむ、当然だけど音速の域には到達していないか。


「お前は今日からグルシオスだ。痛みから立ち直ったら改めて任命するとしよう。それと……お前の仲間については、お悔やみ申し上げる」


 謝りはしない。弱肉強食は自然界の基本。それが分からないほど眼前のゴブリンも馬鹿ではないだろう。ただ、こんなものは余計な感傷だ。分かっているけど、それでも仲間や友人と引き裂かれる痛みを知る者として何か言葉を送りたいと思うものだ。特に、友好関係的に言えば最も充実した生活を送っていた二回目を知ってしまっている俺は……


 うん、切り替えよう。


「さて……イルトミルジス、キャステラウム、敵はもういないか?」

「クゥ!」

キシ


 問題ないと首を縦に振る二体。自信満々な姿に自然と安堵を覚え、緊張を解除する。魑魅魍魎の跋扈する人間社会では致命的な隙だけど、ここは魔獣の住処。問題は無い。それにこの森で俺やイルトミルジスやキャステラウムに気配を掴ませないような奴がいたら現時点で勝てるとは思えない。ドロロが表に出ていれば話は別だろうけど……それでも首チョンパされたら終わりだろ。


「さてさて、後五分……いや、四分だな。それくらいならじっと待てるだろうし、実験解凍。ファロ、おいで」

ぽよぽよ


 残りの時間はファロで遊んで暇を潰した。具体的に言えば『生命の力』で加工した手でうにょうにょと酸の体を弄んだ。自身の肉体を無傷で掴んだ俺に驚愕といった感情を向けてきたファロに意外と感情表現豊かで可愛いなと感想を抱いた俺はそろそろ末期だろう。いや、むしろ末期を通り越して仏になるレベル。まあアンデッドだけど。


ぽ、よ……ぽよ


 お、復活したな。


「ではいただきます」


 きちんと両手を合わせ、腰からナイフを抜いて復活したてのスライムにトドメを刺す。ファロと同じように核が灰色に変色し、徐々に肉体が崩れ……


ぽよぽよ

「よし、検証終了。スライムに対する従属プロセス構築完了。お前の名前はセカンド・ロードだ。オスならセカロド、メス……セカロドだな」


 またもファロと同じように触手で○の字を作るセカロド。しかしまあなんとも都合が良い。メスとオスがいれば繁殖可能かどうか確かめる事も出来るからな。


「後は自然由来のスライムの核以外ガルハイシュ行きだな。ルカン兄さんとスラリンが帰ってくるまで待とう」


 勝手に持ち場を離れたりするのはやんちゃな弟だ。俺はしっかり者で頼れる弟になるべく修行中なのだからそれらしい行動を取らなくてはいけない。そんな物は偽物だと言う心もある。正論過ぎる。


 だけどそんな物は今更だ。そもそもループしてる時点でヒトとして間違っている癖に、本物を求めるなど良い笑い話だ。滑稽すぎて犬も笑うわ。


 それに……最初の人生で本物を捨てた俺が、今更本物なんて…………


「クゥ!」

「!」


 イル、ト……ミルジス?


「クゥクゥ!」

「……もしかして、心外だ、と言ったか?」

「クゥ! クゥクゥ!」

「…………今はわたしがいる、か。よく俺の心が分かったな」


 これが愛……もしくは忠義の力か。押し倒したのは存在感を見せる為? まったく、懐かれた物だ。


「クゥ! ク、コホッ、コホッ」

「無理するな。魔獣とはいえ体の基本構造は兎だろ? 声帯が無いのに無茶しやがって」


 喉の痛みか、はたまた心の痛み故か、涙目で俺の上に乗っかるイルトミルジスの背をトントンと優しく撫でる。

 だけど……それでも俺は本物を求められないよ。偽物でも愛せる心を持っているから、安心してくれよ。


 本物なんか……本物なんて……


キシ

「キャステラウムまで……大丈夫だ。俺はお前たちに辛い思いをさせるつもりは無いし、俺自身そう辛くも無い。少なくとも思い出さなきゃな」


 それでも納得せずに俺から下りないイルトミルジスと右腕をガシリと押し付け続けるキャステラウム。何に対して反感を抱いているのか分からない俺はまだまだ未熟だな。なんなのだろうか、未知の疑問に好奇心とイラ立ちが生まれては消え生まれては消えていく。小説家としては好ましい感情であるけど、伊能錦としては持ちたくなかった感情だ。


 まったく……つくづく異世界とは俺の知らない事を気づかせてくれる。人外の賢知を得た(あながち間違ってはいない)と二度目の中二病で嗤っていた俺を、今は嘲笑うことが出来そうだ。俺なんて、まだまだ知らないことばかりの若輩者だ。


 ……クク、俺が若い、か。自他共に何十年ぶりの評価だろうか。最初の人生でさえ中学二年生時点で既に大人びていると色眼鏡をかけて見られていたのだから、かれこれ三十年ぶりくらいか? 未熟と言われた事もガキだと言われた事もあったけど、若い、とはついぞ聞くことは無かったなぁ……


「……OK、落ち着いた。大丈夫、安心してくれ。俺はお前たちが大好きだ。その関係性が偽物だろうと本物だろうと、その事実は変わらない」


 昔を思い出して、少し理性を取り戻して、二体の配下に優しげな声で宣言する。今は分からないこの感情の解明は後回しだ。今は……人外、そう、俺が最も信頼の置けない種族の外にいる愛しい者を優先しなければならない。


 ていうか、そもそも人外なら本物も偽物も関係無くね? この関係自体、世界が認めた俺の権利な訳だし。どっちにしろ俺の物なのは確かだよな?


「うん、本当に大丈夫。今思いなおした。ルカン兄さんに対する態度の是非はともかく、お前たちに向ける感情は本物だ」


 改めて、二体の配下に告げる。俺のどんな行動が基準に引っかかったのか、イルトミルジスとキャステラウムや納得したように俺を解放した。う~ん、少し名残惜しいと感じる俺は確実に末期ですね。


「きしし……つまんねぇことを考えちまってすまねえな。お前らの主たる俺がこんな腑抜けで不安か?」

キシ

ふるふる


 即否、ね。つくづく俺如きにはもったいないほどの配下だ。俺が死んだらパパの下に向かうよう遺書に追加しとくか。こればかりはあらゆる状況を考える組織の長、ニシキ・イノウとして行っておかなきゃならん。まあ伊能錦として、また小説家クミオエット・J・エベミスとして、そう簡単に死んでやるつもりも無いけどな。


「ありがとう、イルトミルジス、キャステラウム。俺は、世界で一番の幸せ者だよ」


 一つ、今回のやり取りで分かった事がある。


 若干照れたように頬を染めた(兎とか魔獣とか、その辺の無粋は無視)イルトミルジスと一見動じていないように見えても尻尾がぶんぶん揺れているキャステラウムを見て、心からの言葉という物は『能力』なんかよりずっと相手に真意を伝えることが出来る手段だと。




 ……ここで恥ずかしさに負けて自分に中二乙wwとか言っちゃう俺マジ残念すぎる。もはや本当の事だというのに、どうやら常識やら碇石やらはそう簡単に抜けないようだ。これも学んだことと言えば学んだことと言えるかね。


 どうしましょう、これがいわゆるスランプという奴ですか。全然筆が進みません。今話も前日に突貫作業で作り上げましたし……おのれ夏休み短い学校許すまじ。


 という訳でもしかしたら次回投稿は遅れるかもです。そうなってしまった場合はごめんなさい。

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