第十八話:なんとなく有意義な会議
すみません、ちょっと身内トラブルでPCが使えず投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
「さて、第一回『ヴィルキット』幹部会議を始めよう」
「何故声を変える必要がある……」
「何言ってんの? 幹部会議だよ? 雰囲気出さなきゃ」
まったく、この教師は様式美という物を分っていない。
クラス転移が起きた時、一緒に移動してきた机を長机風に並べて作った会議場で溜め息を吐きながら俺は例の指令のように手を組む。その仕草にピクリと反応を示したのはゴグリオスだが、事前に言動だけで攻撃行動に移らないよう言っておいたのが効いたのかそのまま沈黙した。うむ、今日も優秀だ。
「まず、『ヴィルキット』における幹部を紹介しておこう」
何事も自己紹介から入らなきゃね。特に、この幹部会議にはルカン兄さんやゴグリオスを始めとした人外も参加しているのだから、しっかりと説明しておかなければ円滑な会議など行う事は出来ない。
「最初は俺だ。当然の如く『ヴィルキット』リーダー、ニシキ・イノウだ。この度隣に座っているレミスタンさんの協力によりグールになった。今後ともよろしく」
『『『何ぃぃぃ!?』』』
「そういう事はもっと早くに言ってください」
「まったくよ。というか、誰よそいつ」
喧々囂々とヒトから疑問と非難が飛んで来る。よし、掴みは上々。
「うふふ、ご紹介に預かりましたレミスタン・ホルセイテッドです。偉大なる魔王ロクル様の最も古き配下にして、『アンデッド・リジョン』グール部隊の総指揮官を勤めさせていただいております。よろしくお願いします」
『『『ま、魔王!?』』』
「頭が痛い……」
「グールは人喰いの化け物と聞いているが……?」
またも湧き上がる声。なんだよ、一応美人さんなんだから男子は喜べよ。
ちなみに、レミスタンさんがこの場にいる理由は本人の意思は勿論パパの意思でもある。
「……とりあえずこの場を代表して質問をさせてください」
野原先生が手を挙げて発言承諾を求めてきた。うんうん、こういう質問が欲しかったんだよ。なんでもかんでも一人で決めると不満が溜まるからね。
「許可する」
「まず、魔王とは敵対するという話でしたがどういう事ですか?」
そこか。意外に鋭い……訳でも無いか。当たり前の質問だな。
「魔王と発音する存在は二つある。一つが魔王。一定数以上の『核』持ち魔獣や魔物を従え、上位の『ジョブ』を持ち、『種族』の中で最も強力な力を持つ存在が魔王種と呼ばれる種族に進化した存在だ。もっとも、この世界ではもう一人しか残っていないようだけどな」
ちなみに、魔王種という種族は世界共通だけど各々の世界によっては進化条件がまったく違う事がある。単純に魔力量が一定値を超えたら進化する。が一番簡単な方法だったな。
「そして二つ目が『魔王』。こいつに関しては進化条件をお前らに聞かせるわけにはいかない。ただ、『ジョブ』程度の力しか持っていないモノが立ち向かってはいけない存在だと覚えておけ。この二つ目の『魔王』が『ヴィルキット』の排斥対象だ」
ちなみに、勇者はそういう英雄的種族や召喚者の事で、『勇者』は同種族の九十九%から同じ種類の感情を向けられる事で進化する存在だ。だからダイヤモンド並みに頭が固いしヒトがなる事なんてほぼ確実に無い。
まあ単一種族……つまりなんらかの突然変異で個にして全の種族が生まれれば自分に向ける感情がすなわち種族全体の感情となり、即『勇者』へと至る訳だけど。
「……何故そんな事を知っているんですか?」
「それはお前、俺が小説家だからだよ」
この質問は煙に巻いておいたほうが良い。細かいところで俺が思いついた世界と相違点があるし、第五の四強能力『狂気の力』を始めとした不確定要素が存在する以上、この世界で熟練VRプレイヤーのように動くのはNGだ。
元々、学校では事前に知っていた本来なら知っている筈の無い知識を披露した時にこの文句で黙らせていたからな。
「…………それじゃあ、なんで、その、魔王の配下がここにいるのかな?」
凄く納得していない表情をしながらも出かかった言葉を飲み込んだようだ。
「そりゃこの森は魔王の領地だからな。いきなり転移してきた見ず知らずの異邦人に使いを出すのは当然だろう?」
「ええ。それに、ルカリオン様は偉大なる魔王ロクル様の義理のご子息ですからね。大切な一人息子と親交を深めたニシキ様に接触してもおかしくはないはずですわ」
また盛大な疑問と非難が飛んでくるかと思いきや、幹部会議に集まったヒトは全員机に突っ伏し何事かブツブツと呟いている。大丈夫大丈夫、そのうち「ニシキだから何でもありか」って思えるようになるから。
「……最後の質問です。グールというのは人肉を食らう怪物の事ですよね?」
「大丈夫、グールって厳密に言えばアンデッドじゃなくて生きてるからグール同士でも飢えを凌ぐ事は可能だ。同級生共や教師に手出しはさせない。俺もしない」
某人喰いの漫画みたいにヒトでもある程度暴食すれば強くなるっつうならともかく、こっちの世界ではいくら食べても直接強さに関係する訳じゃないらしいからな。まずはグールの体に慣れて『邪狂』を扱えるようになる事から始めないと。
まあ、一般人がグールになれば『喰』こそが一番の狂気を誘うだろうけどね。
「その言葉を信じたいのは山々だけど……何か保証はあるのかい?」
「ニシキ様はルカリオン様の弟君。つまり偉大なる魔王ロクル様のもう一人のご子息も同然。そんな方のご意向を無視することはすなわち偉大なる魔王ロクル様への謀反にも等しい行為ですわ。六千年の忠義は伊達ではありません」
「補足。パ……魔王ロクル様は六千年前にアンデッドになり、当時から交流のあったレミスタンさんは自ら配下となり、以後忠誠を誓っているそうだ」
会議場に訝しげな空気が漂ったため補足を入れた。まあ流石に六千年となると想像もつかないだろうから否定したくなる気持ちは分かるけど。
「そうですか。なら問題ありません」
……ふぅん。生徒の安全が確保された時点で質問をやめた、と。
「他に質問があったら後で聞く。とにかく、俺は『ヴィルキット』の全指揮権を有するリーダー。で、レミスタンさんには魔王城までの同行を対価に『ヴィルキット』構成員の戦闘訓練を行ってもらう。いわゆる教官だな」
何せ六千年を生きたデス・グール(デスはアンデッドの中で三番目に上位の存在である証らしい)だ。形状もヒトとあまり変わらないし、適任だろう。パパもそう言っていたらしいし。
ちなみに、コウガルンは普通に帰った。
「それじゃ、どんどん紹介していくぞ。まずルカン兄さん。職務は『妖精』の統括。俺の次に妖精に対して強い指揮権を持つ」
「ルカリオンです。改めてよろしくね」
「次がマジェスティアザクだ。こいつにはレミスタンさんと同じく教官を務めてもらう。対人ばかりが鍛えられないようにな。そうそう、二名には訓練中に限り俺の次に高い指揮権を与えるから逆らうなよ」
キシキシ
「そんで、こいつはガルハイシュだ。主にポーションや特効薬等の消費アイテムを作成する『消費アイテム作成班』の班長を務めてもらう。ガルハイシュには俺の許可証がある限り俺の次に高い指揮権を有する」
「どうぞよろしくお願いしますよ、『ヴィルキット』の同胞諸君!」
「そしてゴグリオスにはヅィ・スコロペンドラ以外の魔獣を統括してもらう。教官二名とガルハイシュの次に高い指揮権を持つ。ただし、魔獣限定」
「ガギゴ、ググゲガ」
「で、最後がイルトミルジスだ。特に指揮権は無いが、俺の近衛部隊隊長と認識してくれ。場合によっては俺より重要だから気をつけろ」
「クゥ!」
隣にチョコンと座り元気よく喉を鳴らしたイルトミルジスをナデナデ。
「そんじゃ、次はヒトだ。大谷先生から順に時計回りで自己紹介してくれ。役職は俺が補足する」
手元の資料――パパが転移で送ってくれた現代日本においても上質な部類の紙――を見ながら指示を出す。
「今更紹介する事じゃないかもしれないが、大谷慶介だ。職業は教師」
「『ジョブ』は『楽曲士』。音楽系のジョブだな。『吟遊詩人』の中野友里亜とタッグを組んで士気向上及び支援系『ジョブ』持ちの指揮官を命ずる。次」
「稲田拓人です。得意なことは今は出来ないけどゲームです。『ジョブ』はよく分からないけど『細工士』です」
「物品に装飾を施して特別な効果や美術価値を与えるジョブだ。生産系ジョブのどれとも相性が良いから生産系ジョブ持ちの親方をやってもらう。次」
「伊藤雄太だ。『鍛治士』だから武器が必要になったらいつでも言えよ!」
「他に防具も作れるし副次的に無機物を溶かす事が出来るからガラス細工も頼むぞ。特に瓶とかは重要だからな。次」
「日山明菜です。書記も兼任しています。よろしくおねがいします」
「『ジョブ』は『裁縫士』。今はまだ家庭科程度だが、レベルが上がれば日本のような洋服を作る事も出来る。また、ローブやマントなどの布防具は彼女の担当だ。次」
「えと、中森雄一郎です。その、僕なんかがこんな大きな会議に参加するなんて、恐縮ですけど……」
「いいや、お前はわりと命がけで俺に火急の知らせを伝えてくれた。だからここにいるどのヒトよりもお前はここにいる資格がある。で、『ジョブ』だけど『召喚士』だ。お前には俺の近衛部隊に入ってもらう。イルトミルジスの部下だ。次」
「…………長谷川拓斗。『薬士』」
「文字通り薬を作るジョブだ。俺専用の特殊な喉飴を最優先で作ってもらうけど、普段はガルハイシュの元で修行だ。次」
「奥山怜悧よ。『ジョブ』は『蓄力士』。言っておくけど、くだらない用事で力を使わせないでね。意外と危ない力らしいから」
「スマホの電池切れや魔力切れの時は彼女を頼ってもらうけど、あまり無礼を働くなよ。『蓄力士』なら人間の体に二酸化炭素を蓄積させるなんてお手軽拷問が可能だからな。次」
「川越妃奈です。よろしくお願いします」
「『ジョブ』は『人形士』。メインは人形を操って動かす事だけど、福次効果として人形を『ルーデレプーパ(遊ぶ人形)』という魔獣に変える事が出来る。性能はレベル由来だから高レベルの人形士がルーデレプーパを作れば面白いことになりそうだ。次」
「野原玲二です。職業は教師、『ジョブ』は『結界士』です。よろしくお願いしますね」
「広範囲に物理及び能力結界を張るジョブだ。今のところは魔獣除けくらいにしか使えないけど。これで最後だな」
計十六名。これが現在の『ヴィルキット』幹部だ。幹部の中にも上下が存在するのだけど、まあ『ジョブ』の関係もあるし、俺の側近に置く奴や今後(俺にとって)重要な役職に着く奴の好感度は上げておきたい。管理職も欲しいしな。
「元専科の中心的ポジションだった奴らは極力ヘイト……つまり悪感情を生まないよう気をつけてくれ。もし無理そうなら俺に集めろ。良くも悪くも感情ってのは隠そうとしても表に出やすい。そいつらを見つけるたびに俺が説得or思考誘導させて不満を解消させる。教師二人にもお願いしたい」
頷かれながら引かれた。まあ思考誘導ってつまりは洗脳だからな。気持ちは分かる。
「ま、軍じゃねえんだから細かいところまで決めても無駄だし、役職についてはこのくらいでいいだろう。何か希望や要望がある場合は挙手。はい、え~っと……伊藤」
「おう、組織内風紀はどうするんだ?」
……ほぉ~う。脳筋じみた言動の癖によく考えてるな。
実際、そこが頭痛の種なのだ。伊能錦やクミオエット・J・エベミスの立場から言わせて貰えばお互い納得済みなら好きなだけイチャコラしてもらって構わない。だけどニシキ・イノウとしては色恋で勝手な行動を取られると困る。だけど愛の力って奴も侮れんからいざってときの戦力として是非イチャコラしてほしいところもある。リア充爆発しろとは良くバカップルに使われる言葉だけど、今派どう考えてもリアルが充実している訳じゃないからむしろこの状況でバカップルできるのなら士気向上という意味もあるし……良いんじゃね?
「……この際だ。互いを理解し愛する覚悟があるカップルを除いて不純異性交友は禁止。キスまでは含まない。恋愛結構むしろ大歓迎。くらいがちょうど良いだろ。ガス抜きや眼の保養にもなるし。ただし、結婚する覚悟があるカップルでもこの世界に足をつける決心をしない限り避妊はしてもらう」
俺の積極的な言葉に皆一様に驚愕といった表情を浮かべやがる。ヒトをなんだと思ってんだ。グールだけど。
実際、別にカップルが嫌いな訳じゃない。むしろきちんとお互いに恋愛感情を持ち、健全な関係を送る事が出来る奴らは好色を持てるくらいだ。ただなんとなくで付き合い、セフレ同然の爛れた関係なんて汚らわしいクソカップルが嫌いなわけであって、決して幸せそうな奴らを妬む事なんてない。そもそも俺は理想を押し付けすぎるきらいがあるから絶対恋人なんて作らないし。
「他には何か無いか? はい、中森君。言ってみそ」
「え、えっと、その、僕みたいに、言いたいことを言えない人がいると思う。だから、その……」
「分かったから無理すんな。意見箱を作ってやる。ほい次、奥山さん」
「アタシもね、こういうファンタジーな物語が大好きなのよ。外国文学が多いけどね。だから、なるべく色々な場所を巡ってみたいの」
「同感だ。秘湯巡りやリアルなパワースポット探しも検討していたところだから心配するな。後、今度外国文学について語ろうぜ。よし次、大谷先生」
「定期的にライブをやってもいいか? もちろん楽器が揃ってからでいいが」
「異世界でライブなんてすんなやコラ。雰囲気ぶち壊しだ戯け。『吟遊詩人』の語りに合わせてメロディーを奏でてくれるだけで十分だ。はい、次! 稲田!」
「労働時間はどうするの?」
「んな基準ねぇよ。大体、奥山の力で充電すればスマホの時計くらいは確認できるけど、日本の時間がイコールで異世界の時間とは限らないだろ。そもそも一日が二十四時間かどうかすら分からねぇんだし。まあ、一部を除いて日の入りと共に活動を止め、日の出と共に起床で十分だろ。見張りの交代時間ならスマホの時計でも事足りるし」
他に意見が無いようなので質問タイムはこれにて終了。
「さて、次は物資の話だ。資料によれば既に食料は尽き、辛うじて飲料水が半日分……しかも五人計算で残っているのみだ。寝床も雑草を排した硬い地面であり、灯りもスマホや俺のPCのみ。正直に言ってこのままでは後三日で組織離散だ」
いきなり突きつけられた現実に唖然とするヒト勢。一方で魔獣勢やルカン兄さん、レミスタンさんは何所吹く風だ。元々が文明圏に限らず生息する事が出来る魔獣に『妖精』にアンデッドだからな。
俺も野宿には慣れてるし。
「だから、とりあえず戦闘可能な人員でアルミラージを討伐して肉と毛皮を集める。経験値稼ぎも兼ねてな。飲み水はゴグリオスを始めとした人型魔獣及び航空能力のあるドラキー達に任せる。元々がこの森で生息していた奴らだ、飲み水の場所も把握しているだろう。灯りについては『魔法士』や『鍛治士』に任すしかない。もっとも、中森がウィル・オ・ウィスプを召喚出来るようになれば問題無いけどな」
同じ理由で飲み水に関してはウンディーネが召喚出来れば上々。ある程度毛皮が集まれば肉に関してもオークを乱獲すれば効率が良いし、出来る事なら建物を建てたい。流石に風雨が吹き付けられたまま活動すれば風邪をひいてしまう。無論、この俺も例外ではない。グールっつうのはぶっちゃければイカレた人喰い人間だからな。新陳代謝の無いゾンビやそもそも肉が無いスケルトンならひかないだろうけど。
「それと、野性のゴブリンと遭遇したらなるべく支配してくれ。人的資源も不足気味だからな。もっとも、優先順位は低いし女子は無理にやらなくて良い。ゴブリンのアレを破壊する必要があるからな」
正直に言えばとんでもなく不足している。そもそもがただの学生にサバイバルなど無茶振りなのだ。キコリ役が増えるだけでも大分助かる。
「『ジョブ』の検証等もやっておきたいけど、それは最低限の生活環境を整えてからだ。日本人らしく文明人で行こう」
むしろ古代文明人らしく生きろと言いたい。古の時代なら強者に従うのが常だし、下手な騎士団より統率が取れるからな。
「課題は出尽くしたか? ならさし当たっては転移してきたこの場所を拠点として歩哨を立てる。いわゆる見張りだな。三人一組を前提として一時間~三時間でローテーションを組め。人選は任せる」
「それだけでいいの?」
「稲田よ、サバイバル生活三日の現代日本人がアレコレ出来ると思うか? まずは最低限重要な事をやってもらいつつ、余裕が出来たら他の仕事をしてもらう。ただし、現在進行形で仕事が出来る『ジョブ』持ちは自らの仕事を優先しろ。分からない事があったらガルハイシュに聞け。彼は『錬金術士』だけどジョブによる物作りに関しては偉大な先立ちだ」
「それならあなたは何をするのよ? 奴隷達があくせく働いている間に優雅な王様ごっこでもしようっての?」
……なんだかなぁ。分かって言ってるだろ奥山。言ってる事と眼に浮かべている感情が真逆だぞ。
「まあ、ある意味ではその通りだ。俺はイルトミルジスとルカン兄さん、二体のヅィ・スコロペンドラ……そして中森と共にスライムの調達を行う」
「え!? 僕も?」
そうだ。
「中森にはこれからヒトの近衛としてのノウハウを養ってもらわなくちゃいけないからな。それに、俺的には早く『召喚士』のジョブレベルを上げて欲しい」
召喚士、それは夢が一杯詰まったファンタジーのロマンだ。
初期は弱いながら可愛らしい魔獣を呼び、中盤は多彩な忠兵を生み、終盤は超カッコイイドラゴンやユニコーン等を召喚する事が出来る素晴らしいジョブ。それが『召喚士』だ。
ぶっちゃけて言えば、早くドラゴンが見たい。
「その……スライムを調達するのは何故ですか?」
「鋭いねぇ、日山さん。討伐や支配ではなく調達と言ったのは、何も言葉遊びではない」
俺の楽しげな雰囲気に不吉な予感でも感じたのか、ゴクリと生唾を呑むヒト勢。しばき倒すぞコラ。
「スライムとは、言ってみれば無機物と有機物の融合体だ。明らかに無機物的な体を持ちながら生物と同等の意思を持ち、進化する特殊な生物だ。あの有名なRPGでは雑魚の代名詞に成り下がっているけど、本来ならとても恐ろしいモンスターのはずだ」
ここで一旦言葉を切り、左手の中指と親指を重ねながら頭上へと掲げてパチンと鳴らした。
途端、空から降ってくる青色の粘液生物。
「コイツはその証明と言ってもいい存在だ。パ……魔王ロクル様よりルカン兄さんの護衛として派遣された彼のスライムの名は、スラリン」
「まんまじゃねえか!」
黙れ伊藤。
「先の魔獣侵攻にスライムが加わっていた事は知っているな? 今もあの場所で混ざり合ったまま蠢いているはずだ。奴らは強力な酸で出来た体を持ちながらも地面を溶かす事無く、球状の体を崩す事無く俺に接近してきた。つまり、スライムには体液と体内酸濃度を操作する力がある。しかも、こんなちっぽけな核がその全てを支配しているんだ」
そう言って俺はポケットから二つの核を取り出して会議机にことりと置く。直径僅か十センチ程度の白い珠が、そこにあるだけで存在感を醸し出している。ヒト勢も思わず見入ったようだ。
「それだけじゃない。先ほども言ったけどスライムには生物としての意思がある。つまり、物を考えて体を動かす事が出来るというわけだ。このちっちゃな珠で。酸の制御、生物的思考、そして液体状の体の維持。それだけの事を、元の世界のどんなスパコンでも不可能な芸当をこのちっぽけな珠は遜色無くこなしている。この意味が分かるか?」
半数くらいが分からなかったみたいだ。仕方ない、説明タイムだ。
「つまりスライムの核を解析し、その性能全てを転送系能力の仮想シミュレーションに注ぎ込めば、帰還の材料を確認する事が出来るという訳だ」
俺の言葉にヒト勢が騒然となった。そりゃそうだろう、今までなんだかんだ言って具体的な帰還方法を提示していなかったところに突如与えられたチャンス。しかも理路整然とした確信に満ちた言葉だ。反応せずにはいられないだろう。
分かったような顔をしていた半数も加わっているところを見るに、この答え以外を想定していたみたいだな。後で聞かせてもらうか。
「なるほどね。悪かったわ、疑うような事を言って」
「気にするな。というより、疑問に思ったことは何でも口に出せ。俺は全知全能の神でも無ければ天才的軍師でも無い。俺は小説家だけど、ヒトの考えが分かるのはパソコンを前にした時だけで、それも設定の中に限った心理だけだ。故に、普通のヒトの思いを見逃すかもしれない。そういった時、頼りになるのは諸君だ」
実際、俺ってば空気読むのは得意だけど理解するのが苦手だからな。良くセルフネガキャンして空気悪くするし。目には目を、歯には歯を、一般人には一般人を、だ。
「さて、主だった活動内容はこの辺にしておこう。各幹部には問題が起きた際の幹部収集権を与える。また、異世界の脅威に柔軟な思考で挑めるよう、毎日一時間、ウミガメ……つまり並列思考クイズを行う。凝り固まった価値観の破壊と停滞を阻止する意味がある」
ウミガメ、という言葉を聞いて稲田が眉をひそめた。俺の専科では授業の一つでウミガメのスープをやっていたからな。その嫌らしさを思い出したのだろう。
「では、解散だ。第一回『ヴィルキット』幹部会議の終了を宣言する。各員俺の為に忠義を尽くせ。命の恩に報いたくば」
うん、締めは決まったな。皆も真面目な表情で頷いたし、この文句は会議の終わりに必ずつける事にしよう。
裏切りを防止するためにも。
如何でしたか? 感想・質問・批評・評価受け付けています。よろしくお願いします。




