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三回目に起こるイレギュラー  作者: Dark Revenger
一章:憧れの異世界が効率レベリングの場に変わるまで
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第十七話:とりあえず第一章終了

 今回は色んな意味で暴走しました。

 さて、同級生達へのプロパガンダは終了。色々とやらせたいことや指示したい事もあるし、あの場のノリで動いたは良いが後で後悔して反乱を起こそうとか考えていそうだと思うと気が滅入るけど、そろそろ日も暮れてきたし俺をして激動の一日と思わせる日だったから一般人である同級生共を少しは休ませねえと。ブラック上司なんて呼ばれてたまるか。


 社員が疲れ果てて休んでいる間に、上司は夜のお・た・の・し・み。


「お~い、ロクル様にルカン兄さ~ん!」

「あ、ニシキ。えへへ、その、ありがとうね、お父さんと会わせてくれて」

「全然構わないよ、ルカン兄さんの為だもの」


 この様子だと、無事仲直り出来たみたいだな。うんうん、やはり親子は仲良くしているに限る。

 ちなみに、サフェリエは置いてきた。流石にこのタイミングでお義父さん(仮)と合わせる訳にはいかないだろう。


「ニシキ……良い子だね。よしよし」

「ねへへ~、もっと撫でて~」


 はにゅわぁぁぁぁぁぁ、こ、これが、弟の特権、だと? おいおい世のシスコンさん共よ、近くの兄や弟にも眼を向けてやれよ。案外可愛かったり安心できたりするもんだぜ? イルトミルジスとはまた違った感じの至福感が俺の全身をくまなく包み込みもはやディストーションフィールドを展開できるレベル。


「お前ら……楽しそうだな、俺も混ぜろ! ニシキは俺の事をパパと呼べ!」


 俺とルカン兄さんのイチャラブ(イチャイチャしてるし家族愛という意味ではラブラブしてるから間違っちゃいない)が羨ましくなったのか、俺とルカン兄さんをぐわしっと抱きかかえてそう宣言するロクル様。


 まったく、この魔王は何を言っているんだか。


「パパ……俺に、パパ……そういえばお父さんや親父と呼ぶ相手はいてもパパと呼ぶ相手はバーバパパかパパスしかいなかった…………パパぁ!」

「ニシキ……うん、ボクも今まで寂しかった分、思いっきり甘えよう! お父さぁん!」

「フハハハハハハハ! 今日は記念日だ! 俺に新しい息子が出来た!」


 う~ん、パパも良い。パパも良いぞ。全国の子供達よ、今このときだけ恥を捨て去って父親をパパと呼んで甘えるがいい。いないなら近所のおじさんとか仲の良い大人の男の人とかでもいい。きっと色々な問題が解決するぞ。俺が保証する。解決しなかったら父親を俺の前に連れて来い、俺が直々に説教をしてやる。


「フハハハハハハハ! こんなに幸せな気分になれたのは何千年ぶりだろうな! ルカリオンが家出してキリシュナ達が殺されてからだから……思い出したくない」

「え……キリシュナさんが!?」


 ……パパも辛い人生(人違う)を送ってきたんだね。ここは俺が慰めないと!


「パパ、泣かないで溶けたぁぁぁぁぁ!?」

「だ、大丈夫ニシキ!? 早く服を脱いで治療しないと」


 パパの涙が触れた箇所からシュウシュウという物が溶ける音が聞こえ、俺の服と肌が一部溶け、ルカン兄さんが癒してくれたおかげで傷跡一つ残ってない。

もしかしてパパの涙って……酸?


「!! す、すまん。年甲斐も無く涙腺が緩んだみたいだ。大丈夫か、ニシキ?」


 パパがさっと身を引いて蛇腹爪で目元をゴシゴシする。見た目的に痛そうだけどパパはなんとも思ってないみたいだ。


「大丈夫だよ、パパ。それより、パパこそ泣かないで。俺は何も知らないけど、大切な人が亡くなった気持ちだけは分かる。だから……離れなくて良いよ?」


 そう言って未だに目から涙を流し続けるパパに近づき、抱きしめる。まだパパの体に残っていた涙や新たに流れてきた涙に体が触れてシュウシュウと音を立て痛みが走るけど、そんなの関係無い。さっきは咄嗟の事でうろたえたけど、来ると分かっている痛みなんてたいしたことは無い。


 そんな事より、今泣いているパパだ。


「お父さん、ボクも泣いてるお父さんより強くて優しくてカッコイイお父さんがいいな。えい!」


 ルカン兄さんもひしっ、っとパパに抱きついた。パパの体に遮られてルカン兄さんが何をやっているのかは見えないけど、パパの体ごしに伝わる振動でなんとなく慰めているのが分かる。


「お、前ら……ああ、そうだな。まだ割り切れたわけじゃないが、これ以上過去に引き摺られて無様を晒すわけにはいかないな。ありがとうな、ルカリオン、ニシキ」


 うん、なんだろうこのポヤポヤした感情。魂だけ四十何年生きてきて初めての幸せな感覚。打算とか計算とか抜きでパパが立ち直って嬉しいと感じる。俺ってそんなに甘えられる存在を欲していたのか?


 ……そうだよな。よくよく考えてみれば戯けな馬鹿に揚げ足を取られて無様を晒さないように家族の前ですら気を配っていて、友人や親友の前でも本心を吐露する事はあっても気を休める事は無かった。それを考えれば、好きなだけ甘えられる存在を無意識下で欲していても不思議じゃない。どころか欲していなければおかしいまである。思い返してみれば最初の人生で高校生まで生きられたのは本やアニメで心の空白を埋めていたからだよな。


 ああ……そうか、そうだったのか。

 俺が小説家を目指そうと思ったのは、そういう事だったのか。


 本は、つきつめれば作者の愛を読者へ伝える媒体だ。

 親から与えられな……いや、傲慢だな。親の愛に気づけなかった俺は、代わりに本を通して与えられた愛に応えるべく小説家になったんだ。


 なんで今まで気づかなかったんだろう。まったく、俺も粋がってはいるけどまだまだ子供だな。


「パパ、ルカン兄さん」

「ん? どうしたニシキ?」

「どうしたの、ニシキ?」


 パパの体越しに伝わってくる振動でルカン兄さんの位置は分かる。ここからどういう風に体を動かせば手が届くかも、分かる。


 俺に、原点と愛を教えてくれた『親友』を超える『家族』。

 片方は『妖精』、もう片方はアンデッド。そんなのは関係ない。家族。家族だ。家族なんだ。


「ありがとう……大好き」


 こんなに、すんなりと感謝と好意が出てくるなんざ自我が生まれて初めてだ。


 こんなにも、綺麗な涙を流したのも、初めてだ。


「ニシキ……ああ、俺も好きだよ」

「もう、甘えん坊さんだね、ニシキは」


 伝わってくる。

 会ってまだ大した時も共にしていないというのに、まるで運命に導かれるように俺とルカン兄さんとパパの間に繋がりが出来た事。


 愛。この言葉の意味を、俺はやはり言葉でしか知らなかった。

 これは革命だ。伊能錦、クミオエット・J・エベミス、ニシキ・イノウ、これら俺という一つの肉体に宿る全ての常識を光にされたと言っても過言ではない。


 まさか、異世界に来てたったの二日(なのか? こっちに来てから気絶ばかりだから日数計算が曖昧だ。ま、いっか)で成長出来るとは、流石の俺でも想像していなかったな。

 くふ、いいや。そんな理屈っぽく無くても良いじゃないか俺よ?


 俺は幸せを手に入れた。




「むぅ……少しはっちゃけ過ぎたな。日本の常識なんて全然考慮していなかったが、普通に考えれば今の俺たちの状況は普通におかしいよな?」

「良いじゃないお父さん。ボクはニシキという弟が出来て嬉しいし、お父さんはボクと仲直りできたばかりか二人目の息子が出来て嬉しいし、ニシキは幸せそうだし」

「んふふ~、その通りだよパパぁ。日本の腐った常識なんて気にしちゃ駄目!」


 俺の原点の確認と愛という定義、そして兄とパパを手に入れた俺歴史的転換期から数時間後、パパが恥ずかしそうに聞いてきたけど幸せ一杯のふやけ顔をしたルカン兄さんと俺は肯定的な否定を返した。だってさ、こんなに幸せで演技も出来ないようなゆるゆるの心が生まれたんだよ? いけない事なんて何一つ無いじゃないか。


「そ、そうだな……いや、確かにそうだが、今は置いておけ。いい加減に『狂気』の説明をさせてくれ」


 あ、そういえば忘れてた。


「う~ん、確かに浮かれすぎてたかも。ん、んぅん! ……よし、切り替えは出来たよ」


 幸せだけでは生きて生けない。そんな当たり前の事を思い出して少しの咳払いと深呼吸で浮かれた感情を心から排斥する。多重人格ごっこなんてやってたせいでどんな状況でもやろうと思えば強制的に感情のベクトルを切り替える事が出来る。俺の108ある特技の一つ、『マシンハート』だ。


「ねえお父さん、『狂気』って何かの力なの? ボクが知らない能力?」

「……ルカン兄さんでも知らない? やっぱり相当特殊な能力……いや、『力』なんだね」


 『妖精』は言ってみればこの世界の分身。『ハエレシス』……つまりは普通に世界で生きている分には絶対知覚する事が無い『知識』を持つ者だ。


例えば、部屋の中にいる者は部屋の外で何が起きているかを知る事が出来ない。けど、監視カメラや透視を使えばその限りじゃない。言ってみれば、部屋の中で監視カメラや透視を扱う事が出来る者が『世界を知る者』だ。


 しかし、監視カメラや透視だけでは見ることが出来ない箇所もある。それは単純に死角の問題であったり、能力的な隠蔽効果のある覆いに隠されていたり、部屋の外のさらに外に存在する物であったり、トリックアート的に錯覚を利用された場合である。


 ある程度精度が高いとはいえ、自力で『ハエレシス』となった訳ではないルカン兄さん達『妖精』が『狂気』を知らなくても不思議じゃない。というより、『世界』規模で考えてどうしても目立つような存在しか知らないんじゃないのか? 『大罪人』だって『七つの大罪人』しか知らなかったみたいだし。ルカン兄さんが今のパパのステータスを見たら驚くぞ。


 たぶん、『悔恨の大罪人』って表記が現れるはずだから。


「ニシキが知らないのは仕方ないにしてもなんでルカリオンが知らないのは不思議なんだ?」

「それを話すと三日三晩以上かかるからまた今度ね。今は『狂気』の事を教えて?」

「あ、ああ……」


 さてさて、『狂気』って何かな? 四強能力……『生命の力』、『世痛の波』、『灰の原色』、『能力』。この内の一つに該当する力? それともまったく別物の五つ目の『力』? はたまた……『種族』に関わる『力』か。


「『狂気』っつうのは……そうだな、まずは現物を見てもらおう」


 ワクワクしながら説明を待っていると、先ほどまでの若干ネガティブな雰囲気がぞわぞわちくちくした物に変わった。ドロロじゃなく俺が出せる程度の狂気を纏っているみたいだ。


「これがまだ感情の段階の狂気だ。個体差はあるが、どれも共通して通常では考えられないトランスした感情が狂気として扱われる。今の俺は後悔故の卑屈さを復讐心で捻じ曲げあのクソッタレなゴミクズ共への敵意にする事で狂気を放っている。分かるか?」

「うん、こんな感じ?」


 詳しい説明を聞いて、俺は最初の人生で親に捨てられたと勘違いした時の寂しさと不甲斐ない自分への怒りを矜持で押さえつけ無理矢理愛そうとした。なるほど、これが自覚的な狂気の出し方か。少し練習すれば一々何々の感情を~とか意識しなくても出来そうだな。


「……コウガルンが俺を超えるアンデッドと言っただけはあるな。人間が……しかも脳内お花畑の現代日本人がアンデッドの狂気を再現するなんてな」


 ぱ、パパぁ……


「ま、あのクミオエット・J・エベミスなら話は別だ。俺でも恐れおののくような拷問や捻くれた考え方が出来るんだ、当然だろう」


 ……俺が実現させると信じていてくれたんだね。ありがとう!


「ま、気を取り直して……これが狂気の物質化。流石にこれはアンデッドじゃないと物理的に無理だから真似するなよ」


 そう言ってパパは全身の雰囲気を竜と鳥の羽に集中させ、二枚の禍々しい片翼を作り出した。おおぉ! これが、『狂気』の力! 一瞬赫子のパクリかと思ったけど、デザインが違う。どちらも狂気が力の源となっている以上収斂進化のように形が似るのは当然なのか? でも色が違う。パパの翼は緑色だ。


「この翼……形状は個体によって様々だが、俺は『狂邪』と名づけた。それまではただアンデッドの力としか呼ばれていなかったからな。アンデッドの上位存在が持つ固有の能力だが、ぶっちゃけ某人喰いのウニョウニョと変わらん」


 収斂進化が優秀過ぎる。

 とはいえ、実際に存在するんだから仕方ないか。なんか小説書いてる時にメタを誤魔化す時と同じ言い訳っぽいけど、まさか俺の人生まで誰かが書いてる訳無いし……いや、そういえば最初の人生で国税局の男が自分を小説化された映画を見たぞ。おいおい、まさか俺も……考えすぎか。

 だとしても、俺は幸せを掴めば良い。どうせループもあるし。


「『邪狂』は個体によって様々だ。赤黒い色をした物が一番多いが、俺みたいに緑だったり黄色だったり青だったりとカラフルであるし、尻尾を模した形や剣を模した形、俺みたいに翼であったり珍しい物では扇子なんて奴もあったな。相性とかは形状による物だったりするだけで特に無い。基本的に狂気の質と量によって強度が決まる、くらいの法則しか見つかっていないから恐らくランダムだ」


 要するに個体差が出る力。しかも感情による力と来たか……少なくとも『世痛の波』と『灰の原色』と『生命の力』は候補から除外だな。『灰の原色』を除けばどっちも感情に左右される面があるにはある。だけど、『世痛の波』ならこの世界の端末とも言える『妖精』が感知出来ないはずが無いし、『生命の力』にしては色が禍々し過ぎる。『灰の原色』はそもそも感情で動く力じゃない。


「……そしてこれが『邪狂』の真髄。『放狂』だ」


 プロット。という名前でワードに保存してある小説の設定から覚えている限りのデータと目の前で起きた現象とパパの言葉を刷り合わせ冷静に分析していると、不意にパパがトーンを落とした甲高い声とでも言うような表現に困る声音でボソリと呟いた。


 途端、濃密に感じる狂い。


『どうだ? 俺の狂気じゃ長くは持たないからしっかり観察しろよ』


 そう言ってきたパパの姿は、狂気に包まれていた。

 具体的に言えば禍々しい緑色のオーラに包まれていた。一定の厚みでパパの体全身を覆い、お世辞にも流動とは言えない散乱とした狂気の流れが鎧の各部を駆け巡っている。


 あぁ、駄目だよドロロ。出てきちゃ駄目。呑まれちゃうよ。


「お、おお……おお!」


 すげぇ! こりゃ本当に『第五の力』だ! 残りの候補、『能力』ではこの姿の再現など脳を弄くる精神系か幻惑系くらいしか存在しないだろう。また、『種族』の能力の可能性も無い。あれはある意味で狂気からもっとも遠い力。本能の力だ。

 となれば、もはやその正体は俺の考え付かなかった『第五の力』。名づけるなら『狂気の力』だ。


 疼く。俺の探究心が、『狂気の力』を解析しろと。


「……ルカン兄さん、パパに『命術士』としての治療をお願い。俺は……角突き!」

「え? う、うん!」


 危急の意を意図的に含ませた声音でルカン兄さんに指示を出し、俺は右手をパパに突き出してイルトミルジスの技を発動させる。来た、俺を引っ張る謎の力。


『…………無駄だ』


 しかし、右拳に出現した角はパパの狂気に当たった瞬間に崩壊した。連動して俺の体を引っ張っていた謎の力も止まる。

 そして同時にパパの体に降りかかった緑の癒光は、パパに触れた箇所からまるで侵食するかのように赤黒く染まっていき、全体が血霧のようになった時点で文字通り霧散した。


『理由は分かるけどよ……いきなり攻撃しなくてもいいだろうに』


 呆れたように告げるパパの言葉なんて耳に入っても意識しなかった。


「クッヒャァァァァ!!! こりゃすげぇ! 『生命の力』と似た性質かよ! 本質はまったく違うのに!!」


 『生命の力』。それは操者の『あらゆる力』を魂というフィルターに通して作った力に様々な形質変化や追加効果を与え、この世のありとあらゆる存在に介入出来る『世界』規模で最強に等しい力だ。主な用途は武器に纏わせて切れ味を上昇させたり防具に纏わせて強度を上昇させるなどの武具強化。


 しかし、その真髄は『四強能力』を消し飛ばす某右手のような力。

 『世痛の波』を切り裂き、『灰の原色』を無効化し、ただの『能力』程度なら触れただけで消し去る事が出来る、『この世の理を突破する力』。


 そんな『力』に近い性質を持つ『狂気の力』……いいや、パパの姿から『狂気の衣』と変更しよう

 『生命の力』に近い性質を持つ『狂気の衣』。そんな物が存在するなんて、想像もしていなかった。そして、そんな『力』があれば出来る事を想像して……ああヤバイ、書きたい。とってもとっても書きたいぃぃぃぃぃぃ!!


「は、あ……ああ、う、く……ル、カン、兄さん。沈静、作用のあ、る、力を……はや、く」

「大丈夫!? 凄く顔が青いよ!?」


 当たり前だよ。この俺が……執筆衝動を抑えられる訳が無い。少なくとも、俺だけでは。


「ヤバイな、上位アンデッドの禁断衝動に似ている。ニシキ、口を開けろ」


交互に俺とパパに視線を向け、オロオロと立ち尽くす……いや、浮き尽くすルカン兄さん。『命術士』に精神安定系の力は無いのか?


 見かねたのかルカン兄さんを地面に降ろして落ち着かせながら、薄紫色の液体が入った小瓶を懐から取り出すパパ。もう鎧はつけてないみたいだ。


「これは聖水と聖麦から作られた薬酒だ。飲みなさい」


 今すぐパソコンの置いてある広場へ向かい、キーボードを躍らせたいという衝動を全力の理性で押さえつけ、パパに差し出された薬酒を一気に煽いだ。


 カッ!! せ、石炭かこりゃ!? 熱い痛い熱い痛い熱い痛いぃぃぃぃ!!?


「ニ、ニシキ!?」

「……のた打ち回ったか。相当狂気を溜め込んでいたな。アンデッドでも無い癖に聖水で苦しむとか本当に人間かよ。実はヴァンパイアじゃないだろうな」


 パ、パぁ……せめて事前に言ってよぉ。


「クッ、この程度……熱せられた鉄を掴む事に比べたら!」

「どうして日本の一学生が熱せられた鉄を掴むような事態が起きるのか問いただしたいが、後でルカリオンの事情も含めてまとめて聞かせてもらおう」


 いや、まだまだ未熟だった頃に一度鍛治の途中で鍛えていた剣に魅入られちまってさ。つい柄を握って両手を火傷しちまったんだよ。いやぁ、あの時は分かっていても死ぬかと思ったな。結局三ヶ月は腕から包帯が取れなかったから退屈で死に掛けたけど。某漫画の主人公みたく幼児退行しなかっただけマシだ。


 それに比べたらこの程度の苦しみ、どうせ一時間くらいしか続かないだろう。大した事も無い。


「それより、お前今何をやりたくなった?」

「え? 何って……執筆」

「…………社蓄か?」

「違うよ。社蓄って、俺は学生だったんだけど……」

「……仕事狂でも無いのに、『放狂』に引き摺られたのが仕事関係、だと? 普通は食欲とか殺欲とかの感情由来の欲望が暴走する物なのに」


 ……そりゃあ、まあ。


「書欲だよ」

「かきよく?」

「書きたくて書きたくて仕方が無いという愛欲に支配された小説家にのみ芽生える欲望だよ」


 場合によっては三日三晩分の三大欲求を跳ね除ける事もある人類にとって最強最善の欲望だ。そりゃ欲望増幅→抑制力低下のコンボが来れば作家たるもの書欲に支配されるよ。


「……まあいい。とにかく、今のが『狂気』を制御できるようになってもらう理由だ。理屈は分かるな?」


 ……うん。


「戦闘中……いいや、交渉中に今のような事が起これば間違いなく不味いことになるから。それと、呑み込まれる可能性がある」

「その通り。『放狂』が発動できる者ならまだしも『邪狂』すらまともに使えない存在は、少なくともこの世界では簡単に呑まれる」


 むむ……『邪狂』の段階では『狂気の力』じゃない気もするけど、何か関連性があるのか? まあ超能力や魔法でも同系統で固めればどちらにも早く慣れる物だし、つまりはそういう事だろう。


「特にニシキの場合は『放狂』が使える俺すら超える狂気を内包していると聞いた。それなのにまだただの人間って正直信じたくないが六千年も生きていれば信じられない事の五百や六百に出会うもんだ。六千年の中でもトップクラスに嫌な方の信じたくない出来事だがな」


 …………確かに、俺は狂気に関して誰にも負けない自負がある。なんたって圧倒的実力差を簡単に埋めるチート人格ドロロがいるんだ。完全に暴走すれば、俺の精神力なんて木の葉のように散らされてしまうだろう。『ステータス』を見る事に長けた『妖精』を驚愕させた俺の精神力が、だ。


「だから、常に狂気を抑えるよう特訓しなきゃならん。いや、特訓どころか本当の意味で肉体改造をしてもらう。アンデッドになれ、ニシキ」


 了解。


「う~ん、有名度で言えばゾンビかな? それともスケルトン……グールやガストも捨てがたい。特殊能力的に考えるならマミーも良い。デュラハンは中堅として、イルトミルジス達の守護者って点ならドラウグルでも良い。ああ、別に肉体は無くてもいいな。レイスにポルターガイストにウィル・オー・ウィスプ……」

「待て待て待て待て! なんで即決できるんだよ!? 少なくとも葛藤しろ!」


 なんでと言われても……


「……一時期本気で自殺を考えていた想像力豊かな子供、それが伊能錦君なのだ!」

「明るく元気に辛い事言うな! つうか関係ねえだろ!」

「関係はあるよ。例えば窓の下を見つめながら死んだ後はゾンビになって人類を滅亡寸前まで追い詰めるのかな? とか、カッターを手にここで首を両断できたら俺もデュラハンの仲間入りだ! とか無体な想像してたからね」


 なんてことない告白に全力で引くパパ。まあまあ、結局臆病風に吹かれて自殺しなかったんだから良いじゃない。


「ニシキ……辛かったんだね。よしよし」


 ぅんん、うにゅ~……撫でられるの、気持ち良い。なんでだろう、ただ撫でられているだけなのにとっても幸せな気持ちが抑えられない。こんなの初めてだ。しばらくはルカン兄さんの好きにされるがままだろうなー。


「ふへぇ~……はにゃん」

「あの常軌を逸した仄暗い眼で語った後にする顔じゃないぞ。どんだけ濃い人生を歩んできたんだよ」


 それはもう、約十七年を三回分。


「いや、とにかくアンデッドに変貌してくれるんなら良い。それで? どんな種族にする? ドラウグルが何かは分からないしウィル・オー・ウィスプは微妙にアンデッドとは違うが、それ以外なら可能だぞ。他にリッチ、ヴァンパイア、レヴァナント、キョンシー、イムホテッ……木乃伊、珍しいしどうにもパクリ臭が半端無いがリッチの派生で吸魂鬼なんてのも可能だ」


 嘘だろ……いや、でもよくよく考えればおかしなことじゃない。リッチは元々魔法使いの死体が動き出した魔法使い版ゾンビ。そして魔法っつうのは基本的に魔力が無いと発動出来ない。他の世界ならそれでも問題は無いだろうけど、この世界は魔法じゃなくて『ジョブ』が世界の能力だ。もし『ジョブ』に魔力、霊力、模力、神力等の元となるエネルギーが存在するのなら、それを吸収するような『ジョブ』が存在してもおかしくはない。リッチは他人の魔力を吸って自身の力とするが、もし『想いを世界に認めさせてまで発現させたジョブという能力のエネルギー源』を吸うことが出来たら? また、『ジョブのエネルギー源』の吸収に特化したリッチが生まれたのなら、それが吸魂鬼と呼ばれても不思議じゃない。『ジョブ』は良くも悪くも想いの結晶だ。そんなもののエネルギー源を吸われたら、ヒトなんて軽く廃人になるだろう。


だから存在する可能性自体はある。名前はパパがパクっただろうけど。どうせリッチもD&Dに商標登録されてたんだから問題無いだろ。ガストとかもクトゥルフ神話やD&Dが元ネタだし。


「お父さんはどんな種族なの?」


 色々と惹かれるけど、やっぱり親子は同じ種族じゃないとね。


「ん? 俺は……なんだったっけ? この姿になってもう五千年も経つから覚えてない……いや、確かグールだったはずだ。あの時レミスタンに油断して襲われた傷が原因でアンデッドになったから、たぶんそれだ」


 スケールが大きい……流石パパ。


「それじゃ、俺もグールに……」

「いや、やめとけ。ヒトかアンデッドしか喰えなくなるぞ」


 うっ、やっぱり? 流石に異世界の美味しい料理を堪能する前に味覚無くすのは嫌だなぁ……


 うむむ……だったらレイス……は味覚無いか。そもそも視覚と聴覚しか無い。ならスケルトン……どこに舌があるんだ。ガストは……常に毒された空気の中にいないと消滅するから使えない。マミー……舌が腐ってそうだな。やはりデュラハンか? でも首取れるから飲み物が漏れるかもしれないし……リッチは却下。ブルードラゴンに殺される。ヴァンパイア、か。良いっちゃ良いんだが弱点が多すぎる。しかも一撃死しかねない物ばかりだし。ゾンビはたぶん気づく同級生が出てくる。


 どれもこれも一長一短だな。なら将来性を考えてやはりグールだな。


「いいや、やっぱりグールにする。一応アンデッドの中では比較的ヒトの姿を取っているんでしょ?」

「そうだが……まあいい。『放狂』を使えるようになるまでアンデッドとして進化すればいずれ味覚も食性も戻るだろう。もっとも、喰わなくて良くなっているだろうがな」


 まあね。アンデッドって弱点突かれるか消されるかされない限り不死だし。そもそも生きていないのならイノチを食べる必要も無い。


「っと、ルカン兄さんは大丈夫? 俺がアンデッドになっても」

「当たり前だよ。お父さんだってアンデッドなんだよ?」

「ごめん」


 そうだな、今更だよな。俺はやはり馬鹿だ。


「決まりか。じゃあ俺の配下のデス・グールを連れてくる。少し待ってろ」


 そう言うが早いかパパは一瞬で姿を消した。さっきスラリンが光り輝いていたのはブラフか。まああの時点では味方かどうか分からなかっただろうし、妥当な判断ではある。


 約三分後、パパは綺麗な女性を連れて帰ってきた。


「紹介しよう。俺がグールになった原因で今は俺の配下、レミスタンだ」

「偉大なる魔王ロクル様によりご紹介預かった、レミスタン・ホルセイテッドです。以後お見知りおきを」


 パパの紹介に深々と頭を下げて挨拶してきた女性もといレミスタンさん。ちょっと問いただしたいけどまあ色々あったんでしょ。敵を配下につけるとか魔王物では王道だし。


「久しぶり、レミスタンさん。こっちは弟のニシキだよ」

「初めまして、レミスタン・ホルセイテッド殿。『ヴィルキット』リーダー、ニシキ・イノウです。今日ルカン兄さんの弟になりました」

「まあまあ、話に聞いていましたが本当の兄弟みたいに仲が良いのですね。それはそうと、お肉を食べさせてもらえませんか?」

「おいレミスタン! ちっとは状況ってもんを……」

「良いですよ。どうせこの後アンデッドになれば再生するだろうし。でも即死部位はやめてくださいよ」

「!! それはそれは、なんとも懐の広い殿方ですね。では失礼して……」


 なお、この場に今の状況に呆れる者はいてもおかしいと感じる存在はいない。そもそもグールにしてみれば俺は捕食対象。いきなり喰われなかっただけマシだ。


 レミスタンさんは俺の太ももを齧り取った。痛いけど我慢。


「もごもご、くちゅくちゅ、はぐ……ゴクン」


 アンデッドの癖に美味しそうに喰うなぁ。


「ぺろり……ふぅ、ご馳走様です。ニシキ様の肉は美味しいですねぇ。元々の質もさるものながら、ほどよく鍛えられた筋肉がしっかりとした噛み応えとなっていつまでも食感を楽しめるのが良いです。味もアルビノとは比べ物になりませんが人間にしては美味です。飼いたい」


 ふぅん。俺の肉って美味いのか。グールになったら食べてみようかな。最後の発言は無視。無自覚な本能なんて一々気にするだけ時間の無駄だ。


「すまん、前はもっとまともな奴がいたんだが、今はこんなのでも俺の配下のグールの中では一番マシな方なんだ」


 パパが申し訳無さそうに謝罪してきた。ううん、大丈夫。出会いがしらにドーンされるよりゃよっぽどマシだから。名前的に俺がドーンする方だけど。


「問題ないよ。それより、どうやって俺をグールにするの?」


 まあ大体予想がつくけど。


「簡単だ。レミスタンの臓器を三つ喰うんだ」


 っと、臓器移植じゃないんだ。まあこの碌な設備も無い場所でどう移植しろって話になるから分かるけど。


「デス・グールのレミスタンの臓器なら十分ヒトの肉体を穢し、構造をグールの物へと変えることが出来るはずだ。俺の時は半狂乱で六十個分以上喰いまくったけど。まあ実験もすませてあることだから安心しろ」


 六十個分て……それ再生した奴も含まれてんだろ。リアルに踊り食いかよ。まあ気持ちも分からんことはない。特に、『狂気』に引き摺られたというのなら。

 体験した事をなんとなく思い出すことで物事に納得する。それが俺の108ある特技の一つ、『仮体験』だ。まあ、大抵の小説家はこの技を持ってるだろうけど。


「それじゃ、どこ食べよっかな……肝臓は確定。胃袋や腸はやめとこ。俺の肉が入ってそうだし。心臓や肺だと流石に死ぬから、後は……腎臓と子宮でいっか」


 俺は解剖学を学んだ訳じゃないから正確な位置が分かるのはその三つしかない。どうせ再生するんなら問題ないだろ。


「なあニシキ」


 とりあえず対象臓器のある場所にマジックでペケ印をつけようとレミスタンさんに近寄った時、不意にパパが俺を呼び止めた。


「今更だが本当に良いのか? 『狂気』の力は確かに制御が難しいが、人間でも制御出来ないことは無い。このままお前のクラスメートと共に俺の魔王城で匿うことだって出来るんだぞ?」


 それは魅力的な提案だった。

 確かに、最後の魔王たるパパについていけばその分エスカレーターのようにどんどん強くなっていくだろう。同級生達にしたって同じ『ジョブ』の先立ちに学べるかもしれないから何も教わらないで成長するよりよっぽど強くなるだろう。


 だけど。


「ごめん、パパ。俺はヒトをやめてでもやらなきゃいけない事や守らなければいけない自分ルールがあるんだ。引っ張ってもらった強さも欲しいけど、やっぱり力は自分で手に入れるべき物だよ」


 俺がグールになればその分筋力その他が上昇するだろうけど、そんなものは副次効果だ。『狂気の力』は確かに力であるけど、扱えない力なんてただの自爆弾だ。それを使うような事態に陥らないために武力を集めるのは当然のこと。


 それに……


「『魔王』や『勇者』は、その程度で倒せるほど甘い存在じゃない」


 『未知の世界に影響を与える者』も、同じく倒せないだろう。


「俺はルカン兄さん達と約束した。『魔王』を排斥するって。なら、俺の力で契約を達成するのは当然の事だよ」


 暗に第三者は引っ込んでいろと、告げたようなものだった。

 これでまた嫌われるかもしれない。避けられるかもしれない。疎まれるかもしれない。だけど、それでも俺は俺の筋を通さなくちゃならねえ。


「……俺との繋がりの力、と考えることは出来ないか?」

「それはフェアじゃない」


 即答だった。


「そうか……ならこれ以上はもう何も言わない」


 そして、パパは決断してくれた。さっきまであれだけ一緒にはしゃいでくれたんだ、ある程度以上の情が俺に湧いていてもおかしくないだろう。なのに、決断してくれた。


「ただし、絶対にいなくなるな。魔王城で、また会おう」


 それだけ言ってパパの姿が消えた。恐らく転移系の『ジョブ』を持っているのか、はたまた連絡を取り合うことが出来る転移系の『ジョブ』持ちに指示を送っているのか。どっちかは分からない。


 でも、俺の心配をしてくれた。

 俺の自由を認めてくれた。

 それだけで、俺は嬉しいんだ。


 今まで自由らしい自由な事なんて出来なかった俺が、初めて、親に自由を与えられたのだから。


「当たり前だよ、当然だよ……パパぁ」

「ニシキ……」


 ルカン兄さんが、小さな体で俺を抱きしめてくれた。その小ささでは感じ取るなど不可能なのに、不思議とルカン兄さんのトクトクと波打つ血潮の象徴は感じ取ることが出来た。ああ、安らぐ。愛おしい。やはり、家族とは良いものだ。


 涙が、ね。自然と……零れ落ちるんだよ。親と別れたから泣くなんて、俺も大分幼児退行しているな。

 とはいえ、それが心地よくもある。理性と本能の両方が納得し、様々な感情を生み出す。こんなの初めてだ。本当に、異世界ってのは初めての物ばかりだ。


 本当に、憧れて良かった。


「あ、あれ? えーっと、ロクル様? ロクル様!? もしかして私、忘れられてる!?」


 えー……せっかくの感動シーンが台無しだよ。流した涙を返せ。



















 さて、色々あったけど。

 とりあえず、憧れの異世界が効率レベリングの場に変わった事だけは確かだな。


 愛と力と、明確な目的。

 元の世界では決して手に入れる事が出来なかった物を手に入れる代償にしては、大した事も無けど。


 いかがでしたか?

 第一章はこれにて終了です。第二章はいつも通り四日後の七時に投稿出来ると思います。もしかしたら燃え尽き症候群とかで長引くかもしれませんが、その時はごめんなさい。なるべく頑張ります。


 今更ですけど感想お待ちしてます。

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