第十四話:とりあえず再試合させてくれ
すみません、今回は純粋に書くのが遅れました。ごめんなさい。
「断る! それよりルカン兄さん、筋肉痛治してくれないかな? サンクティスとセネクトウテとキャステラウムとマジェスティアザクと試合がしたいんだ」
「……うん、良いよニシキ!」
キシキシ!×4
「待て待て待て待て! 何故我が主の申し出を断るのですか!? 我が主は『魔王』とクソ野郎共を除き世界最強の尊き方なのですよ!?」
えぇ、説明しなきゃ駄目? 今ルカン兄さんの能力が体の隅々まで染み渡りとても心地よいのだけど。
「面倒、無責任、時期じゃない、実力不足、チート嫌い」
「わ、わわ、我が主に……」
「勘違いすんな。これ全部俺側の問題だから」
面倒なのは同級生と教師への説明。無責任は『ヴィルキット』の上に立つ者として。時期じゃないのはこの世界の人間や社会を知らないから。実力不足は単純に能力的な問題。チート嫌いは最初から魔王に師事するとかチート以外の何物でも無いからだ。
「さて、ルカン兄さん。また審判お願いしてもいい?」
「うん、良いよ。お兄ちゃんに任せて!」
うん、どう見てもロールプレイじゃないねこれ。そんなに頼れる弟が欲しかったかルカン兄さん。
だったら俺も、早くロールプレイの域から出られるよう努力しないと!
「あ、ちょ、待……」
「スラリンとやら。ルカン兄さんの為にそこの五月蝿いのを拘束しとけ」
ぷるぷる
「なっ、待て、何故人間如きにやめガボガァ!?」
そのまま閉じ込めとけ。
「四番手はサンクティスだったな。俺についてこい!」
キシキシ
という訳で復活後の再試合と行こうか。ナイフ良し、体良し、頭おかしい、靴重い、メリケンサック良し。
各種道具とコンディションの確認を終え、ほぼ黒に近い体色のサンクティスと対峙する。唯一色がある頭部の青いハイバンダナに眼を向けつつ中国の格闘家もどきの構えを取って緊張感を高めていく。形から入るのって大切だよね。
「それじゃ、試合開始!」
またどこから出したのか赤と白の旗を同時に上げるルカン兄さん。
センチピルダーは突撃、オズマンタスは様子見、トリゼェイソンは死角狙い。どれも一つとして同じ開始方は無かったけど、サンクティスはどう出るか……
お、センチピルダーと同じく突進してきた。だけどその動きはさっきも見た。ここからどんな風に動くのか……っ!
「はぁ!?」
途中で転んだ……だと? おいおい、まさかのドジッ子かよ。お前らヅィ・スコロペンドラはカッコヨサが売りだろうに。せめて擬人ロリっ娘化してくれ。
っと、ほんわかに負けて距離感狂ったか? 転がってきたサンクティスの尻尾が頬を翳めた。とはいえ、所詮副産物故のダメージ。大きすぎる隙が生まれ…………ふむ。
「なるほどな。お前、酸をメインに戦うタイプか」
両に鋭い牙を侍らせた口が俺の額をロックしている。実戦だったら俺は敗者だな。
「俺の負けだ。どうやらお前に縛りプレイは向いて無いようだな」
両手を上げて降参の意を示す。ルール上酸は使えないからこのまま後ろを取ってナイフを突きつければ俺の勝ちだけど、そんなもんサッカー選手に手芸で勝負を挑むような物。戦い方自体がルールに抵触するようでは実力なんて測れない。サンクティスには後で野生のヅィ・スコロペンドラと戦ってもらおう。そのほうが建設的だ。
「次、セネクトウテ」
キシキシ
黒金の如き体を持つドジ百足サンクティスと入れ替わるように場に現れたのはちょいと生物的な要素が目立つ紫のハイバンダナを持つセネクトウテ。だが、よく観察してみればそこに嫌悪的な色は一切無く、むしろ有機由来の人型兵器……いわゆる生体兵器特有の心震える味がある。生体兵器って数が少ないのにカッコイイ活躍を見せるから印象に残りやすいのか? まあカッコヨサに理屈なんて関係ねぇよな。
「ルカン兄さん、お願い」
「うん、分かった。それじゃ、試合開始!」
いぃッ!? 地面に潜った……だと? その体で!? 明らかに地面潜るのに適してないよな!? お前はモンハンのモンスターか!
「っとぉ! あぶねえ」
しかも潜水……いや、潜地速度が半端じゃない。十メートルくらい離れてたはずなのにもう俺に攻撃してきやがった。トリゼェイソンに並ぶ奇抜さだなぁオイ!
「だけど、こっちもやられっぱなしって訳にはいかないのよな!」
再び潜ったセネクトウテの位置を確認し、そのまま眼を閉じる。ついでに耳も閉じて外部から届く情報を制限。情報源を足裏へと集中させ、震動を感じる。流石に全長七メートルもの巨体が地面を駆け巡るのだから前兆を感知出来ないはずがない。
すぅ、はぁ……………………っ!!
「あぁ~っらよっっと!」
俺のカウンターを警戒してか、二時の方向百五十センチ程離れた場所から強襲してきたセネクトウテの顎を華麗な足裁きでかわし、逆に左手に持ったナイフでセネクトウテの腹に深い傷を負わせる。虫に対して効果的とは言えない傷であるけど、何事も小さなとこからコツコツと。ていうか、虫に対して動けなくなるほどのダメージってイコールで死と結びつくからな。この試合、本当俺に超不利。センチピルダーとオズマンタスの時は恐らくマグレ勝ちだな。ルカン兄さんが驚いていた理由がよく分かる。
ギヂギヂ
……? なんか苦しそうだけど……まさかこの世界の魔獣が持つ特有の生命維持器官か何か傷つけちまったか!? やばい、魔石とかだったら洒落にならん。ああ、血を吐いた!? 演技じゃない!
「ルカン兄さん、試合中止! セネクトウテに治療を!」
「わ、分かった!」
切羽詰った要求にルカン兄さんもあたふたしながら緑の光をセネクトウテに振り掛ける。どうしよう、傷ついただけでも即死とかだったら。俺は仲間殺しの業なんて背負えないぞ? 下手すりゃ理性と本能がヤバイ感じに混ざり合って俺が死ぬ。そしてドロロに切り替わる。
「大丈夫! 治った!」
「やった! ありがとうルカン兄さん!」
この世に狂気が解き放たれずにすんだ。
ギチギチ
とは言うものの、まだ本調子ではなさそうだ。
「お前の戦い方は分かった。今はゆっくり休んで英気を養え」
ギチギチ……
おお、落ち込んでる。表情豊かだな。
「ねえルカン兄さん、この世界の魔物って魔石みたいな器官があるの?」
「普通は無いよ。だけど、種族の中で上位に位置する個体になると心臓が変質して核になるよ。たぶんセネクトウテちゃんは魔石持ちだね」
「へぇ……そういうの分かるの? 『妖精』として」
「うん、魔石はステータスで確認出来るからね」
「だったら他のヅィ・スコロペンドラ達に魔石があるかどうか確認してもらえないかな? 今みたいになって欲しくないからさ」
「良いよ……えっと、トリゼェイソン君、サンクティス君、キャステラウムちゃんだね」
「そっか、ありがとう」
「えへへ~」
というか、性別も分かるのか。キャステラウムがメスだったとは驚きだけど。
「次はキャステラウム……まあ、流石に俺が打撃以外のダメージを与えられるとは思えないから大丈夫か」
ヨロヨロと妙にヒト臭い動きで場を後にするセネクトウテの代わりに全身刃物のようなキャステラウムが俺の前に出た。
その佇まいは歴戦の剣士が如く。百ある足と一対のアギトの全てに幻の刃が浮かび、ヅィ・スコロペンドラ達の常であった挑発的にチラチラと動く尾は静止を保ったまま。心なしか他のエストックのような尾とは違いやけに平べったく鋭刃と見まごう印象を受ける。
百と四振りの刃を前に自然と体中に力が張り、左手に持つナイフが手汗で滑る。静かに、穏やかに、自然と漂ってくる殺気を前に俺の中のドロロとドラコが俺の体の主導権を奪わんと暴れまわる。ちょっと、静かにしてくれない? 下手すると何も出来ずに一刀両断なんだけど。
……ウィルフィール、他の誰でも良いから最低四人で二人を押さえつけろ。
「りょ~かい☆ キミに死なれるとボクも死んじゃうしねぇ、協力したげるよ」
わざわざ俺の口動かさなくてもいいから。
「さてさて……ルカン兄さん、お願い」
「うん、良いよ。それじゃ、試合開始!」
言葉と共にほぼ無計画にキャステラウムの元へと突撃する。自分に対して圧倒的上位の武人に絡め手はNGだからな。ここはまともに剣術と俺流ナイフ術で勝負をするしかない。剣道の上位陣に引けを取らない程度の俺の腕でどこまで対抗できるか……
まずは上段から振り下ろしたナイフを容易く受け流され、刃尾の一撃が飛んでくる。受け流されると読んでいた為その軌道に合うよう体を捻らせて尾にナイフを当てて弾き返す。途端に襲い掛かってくる一対の鋭顎を体中から力を抜くことで重力に従いギリギリのところでかわす。
直後に足へと力を籠めて跳び、刃のついていない背面へとカカト落としを放つ。しかし、響くのは地面にめり込む重厚な音ではなく金属同士がぶつかり合ったキンという軽快な音のみ。いつの間に割り込んだのか刃尾がそこにあり、体には埃一つついていない。
その力量差に手加減され遊ばれていると理解し、俺の中では既に負けが確定した。なら後は俺の腕を見せるだけか。
左手に持ったナイフを右手に移し、左手を自由にする。片手白刃取りって利き手でやったほうが成功率上がるんだけど、そもそもの成功率が低いから怖いなぁ。
「らっぁぁぁぁ!」
若干勢いの劣ったナイフでキャステラウムの首元を狙う。もはや世界の常識とばかりに自然と割り込んでくる刃尾がナイフの刃と接触し、金属同士がぶつかり合う硬質な音が頭の中で響く。そしてまたも当たり前のように振り落とされる鋭顎。
「くっひゃ!?」
キシ
あ、あっぶねぇ……少し食い込んだ。けど片手白刃取り成功。ふむ、やはり側面を掴むのが正解か。手加減された感がパないけど気にしないようにしよう。
そのまま弾き飛ばされた腕を強引に捻じ曲げてキャステラウムの首にナイフを入れようとしたところで首に刃尾がつきつけられた。
「……降参。凄いな、お前。この俺で遊ぶなんてな」
何故ドロロはこいつに勝てたんだ。本当に俺の人格が怖すぎる。その内どっちが本人格か分からなくなるんじゃないだろうな、オイ。
「良かったら俺に剣の修行をつけてもらえないか? 流石に体の造りが違うから何もかもを学べるわけじゃないが、お前の強さを俺は知りたい」
キシキシ
「……即是か。明日からよろしくな、キャステラウム」
うん、ちょっと前世の師匠思い出してノスタルジった。あの人刹那的で昨日まで東京にいたのに今日は大阪、明日は北海道とかザラだったから結局現世では会えなかったんだよね。あの人のおかげでこの引き締まった肉体と対人に限らない体術を覚えられたんだったな。鍛治の師匠を紹介してくれたのもあの人だったし、二回目の葬式のときは本気の涙見せてくれたなぁ。あんときゃほんとに嬉しかった。
……そういやギャンブルとか酒とか強引に教えたのもあの人だったな。やってる事とか俺に対する態度とか今更だけど第二の親父と言っても過言じゃなくね? 実のお父さん、俺に何くれたっけ? 飯? ガンダム? DQFF? 金?
意外に貰ってた。おかしいな、お父さんらしいことなんてあんまりしてもらった記憶が無いんだけど……
「……ニシキ?」
「あ、ごめん、ちょっと考え事してて」
しまった、思い出に耽ってしまった。
「次はマジェスティアザクか」
キシキシ
余計な感傷を切り捨てて既にキャステラウムと入れ替わっていたマジェスティアザクと対峙する。思い出は大事だけど今は試合に集中。そういうのはほら、一人になったときに。
「ルカン兄さん、お願い」
「ん、試合開始!」
さてさて、マジェスティアザク……量産機の栄光と名づけたお前はどんな戦い方を見せてくれる?
「ほう、無難だな」
特に速いわけでも特殊な歩き方をするわけでもなく、ただ普通に隙無く接近してきたマジェスティアザクに平均点の評価を下す。単体で巨体のヅィ・スコロペンドラと互角に戦える俺を相手にするならば、まずは隙無く接近するのが吉。俺だっていつカウンターが来るか分からない状態で肉体的差がある相手に突撃なんて出来ない。オズマンタスの時は俺を襲う隙を伺い逆に隙だらけだったからつけただけだからな。こういう対応が出来るって事は練兵か。
「はっ! ほっ、ふっ!」
エストックの如き尻尾の一撃をナイフで弾き、すぐに襲ってきた顎の一撃をかわして蹴りを放つも、百ある足の二つほどに着弾点を合わせられてまともなダメージにならない。
……堅いな。
「だったらコイツはどうかな?」
ウェストポーチからスローイング・ピック改を投げつける。計七本のピックを防げるかな?
……おお、完璧に防ぐ事は叶わなかったけど足をうまく使ってダメージを最小限に抑えた。トリゼェイソン辺りだったら体をうまく使って叩き落としているだろうけど、こういう自分の体を隅々まで把握して対処する奴のほうが実は厄介。切り崩す隙が見つからないからだ。
「だったら肉弾戦!」
ナイフを腰に仕舞ってメリケンサックを構える。構えは俺流。型なんて対人用語は存在しねぇな!
「オラオラオラオラオラ!」
鉄トゲがついたメリケンサックでマジェスティアザクの体を削るように拳を振るっていく。その全てを尻尾や体で制するマジェスティアザク。しかし、俺の猛攻に反撃出来ず防戦一方となったため、俺は好き勝手に攻撃できる。
「そ~りゃ、後ろがガラ空きだぜ!」
顔面に打ち込んだ拳を尻尾が防ぐ直前に拳を開いて尻尾を掴み、尻尾に全体重をかけて足を振り上げ背中に蹴りを放つ。流石の練兵マジェスティアザクも反応しきれなかったみたいで、蹴りが少し掠めて血が噴出した。
ッ!
ほう、俺の攻撃の隙をついたか。俺も反応しきれなかったみたいだな。
「だけど頬を掠めるってどうよ? 直撃してたら俺死ぬじゃん」
いや殺す勢いで来いって言ったのは俺だけどさ。避けられたから良いけどさ。
「シッ!」
一旦距離を取り無茶な体勢を整えて両手を地面につける。直後に犬のような走り方でマジェスティアザクと距離を詰める。
効率的にはよろしくない。そもそも人間の構造上四速歩行は無理がある。
だけど、セオリー崩しにはちょうどいい。
「わんわん!」
おふざけで犬のように吠え、メリケンサックに守られた手を爪に見立ててマジェスティアザクへ振り下ろす。やはり防がれてしまうけど少し反応が遅くなってるな。ということは戦術を切り替え続ければ勝てる!
「あ~らよっと!」
両手を地面に付け、両足を上げる。さっきも見せた逆立ちポーズだ。今回は両足とも無事なので本領発揮。
首めがけて右足を叩き込み、出来た隙に飛んできた尻尾をジャンプで避けてそのまま両足を地面につける。う、ちょっと腕が痛い。
「そらそら!」
今度は両手をヘルアンドヘブンの形に組み合わせて突撃。あまりにも隙だらけの姿勢に若干怯んだ(あるいは引いた)様子のマジェスティアザク。
ここで。
「角突き!」
右手に角が生え、謎の力に引っ張られてマジェスティアザクへと突撃する。やば、ちょっとガオガイガーっぽい。狙ったけども。
「ハァァァァァァァァァァ!」
キシ
なんとか正気に戻って防いだようだけど角突きの威力は尻尾を付きぬけ、マジェスティアザク本体にまで届いた。何か手に丸いドクンドクン震動する感触があるけど気のせいだよな?
「そこまで! 勝者、ニシキ・イノウ!」
茶色い血まみれの耳に試合終了の声が届く。
「ふぅ……お疲れさん、マジェスティアザク」
ギヂギヂ
「お疲れ様、ニシキ。よく頑張ったね」
!?
な、あ、お、ルカ、ン兄さんが……俺の頭を撫でた!?
「ど、どうしたのニシキ!? どこか怪我でもしてたの?」
「う、ううん。気にしないで。ちょっと、嬉しすぎただけだから」
頭を撫でられるなんて何十年ぶりだろう。嬉しすぎて涙が止まらない。やべぇ、もうルカン兄さんを兄としか見れない。『勇者』とか俺の矜持とか関係なく『魔王』をぶちのめしてやる。ルカン兄さんの為に。
「と、とりあえずマジェスティアザクを治療してあげて。苦しそうだから」
「うん、分かった。ニシキは休んでてね」
うう……兄さん、俺に兄さん……今ならブラコン妹や弟の気持ちが良く分かる気がする。恋愛感情とか抜きに凄い心臓がドキドキして安心出来る。この安心の為なら、俺は『勇者』だろうが『魔王』だろうが未知の『世界に影響を与える者』だろうが関係なく倒してやる。
……まずは体中についた血を洗い流さないと。
夏休みにつき色々と用事が入ったので次回は確実、その次と場合によってはそのまた次の回はお休みします。




