第十二話:とりあえず意見を纏めてくれ
今回、少し「とある」に引きずられて奇妙な形を取ってみました。
「この場に居るヤツ全員今すぐどこかへ隠れろ! 命術士は隠れてからすぐに治療の準備!」
あえてルカリオンという固有名を使わずにルカリオン……と他の《命術士》のジョブを持つ妖精に命令する。目の前にいる洗脳人形の操者がわざわざ対象に洗脳すると宣言したんだ。近くに操者がいないはずがない。隠蔽は大事だ。
洗脳人形が小物悪役のような口調で口を開く。
「俺は倉田! 倉田永治だ!」
洗脳人形の表情に変化は無し。ということは直接乗り移ったり遠隔操作したりするタイプの精神観応系能力じゃねえな。何人かの同種を支配下における、って所か。近くの洗脳人形なら言葉を伝える程度なら思念命令も可能、と。
「貴様を管理運営する者の名前だ、よく覚えておけ!」
「んっ、だとコラァ!? テぇメェ如き木端末があのお方の言葉を一部でも真似するなんざ、一万と二千年早ぇ! 今すぐ土下座して生血と肉と心臓と魂全てを捧げろやゴラァ!」
「ヒィ……な、何をほざいている!?」
小物悪役である操者が大層怯えた声音を出しながら強がっている。アレだな、弱い人間ほど良く吠える、というヤツだな。何? それを言うなら犬だって? 何を言うんだ、強い犬でも吠えるだろ。警察犬とかめっちゃ吠えてるし。狂犬とか野犬も強いわりに良く吠える。だから弱い犬ほど良く吠えるなんて迷信だ。ていうか、俺が飼ってた犬は弱くても吠えなかったし。
誰のツッコミに返しているんだ、俺。
「ボクだよ」
お前かウィルフィール。悪いけど今はお前に構っている暇は無い。さっさと人格返せ馬鹿。
「ボクに向かって馬鹿って言うキミが馬鹿だよぉ。馬鹿にするからにはそれなりの芯がある。そういう考えの潔癖君から生まれたウィルフィールに馬鹿って返すキミは、一体何所の誰馬鹿様のつもりかにゃあ?」
くっ、この……なまじ間違っていない分余計タチが悪い。相変わらずムカツクヤツだなこの馬鹿。
「まあ今回に関しては相手が相手だし、ウィルフィールでしかないボクは引っ込むよ。じゃあね、い・の・う・に・し・き・ク・ン☆」
最大限こっちを馬鹿にした口調で嘘つき呼ばわりして引き篭もりやがったウィルフィール。本人格である俺との会話が出来る数少ない人格であるけど、今は生んでしまった事を心底後悔している。意図して生んだわけではないとはいえ、多重人格ごっこなんてイカレた遊びの弊害である以上結局俺が悪いという事になり、名誉毀損で訴える事も出来ないのだ。馬鹿にされ損ってきっとこういうのを言うんだぜ!
「ふ、ふん! 気が触れたか」
何をほざいちゃってんの小物悪役――もとい倉田なんとか。俺は元から気が触れてるっつうの。I am mad from birth.
ちなみに、生血と心臓はともかく肉と魂はわりと本気で欲しい。ある程度の習熟は必要だけど『魔王』となる方法に必要な材料だからな。
「これから貴様は俺の支配下で俺の為だけに働く。どうだ、悔しくて涙が出てくるだろ!」
ふむ……洗脳人形が見ているのは俺の顔の左側部分か。一見人の顔を見ながら話をしているかのように見えて何かを警戒しているな。
まあ、ルカリオン達の話を聞いて『洗脳士』、または『従調士』……呼び方はなんでもいいけど、とにかくそういうくだらん能力を『ジョブ』に選ぶようなボケが強者な訳がない。
その素人臭い視線の動き、バレバレだぜ?
「あ、お前俺の演説で気絶した軟弱者か」
お前の本体は俺の左後ろだろう。
なら、どこから能力が飛んでくるかは分かる。
「う、うるさい! 貴様なんか所詮何の力も持たないただの人間だ! 食らえ!」
食らえって言われてもなぁ……俺、嫌いな物はとことん食べない主義よ?
予想した左後ろの方向からドッという銃弾でも食い込んだかのような感覚が俺を襲う。くはぁ、やっっぱり強制支配の系譜か。
この手の能力は俺みたいな理性ある存在には劇的な効果を発揮する。『そういうもの』だからだ。しかし、強靭な精神力は≒で『生命の力』に繋がる。『生命の力』は能力に対する防壁となりカウンタースパイクとなり得る正真正銘世界最強の力の一欠片でありこの程度の能力に目覚めたばかりのクソ学生如きに敗れるような代物ではない。
……だからといってこの場を覆す事が出来るかどうかは別の話であるのだけども。
「なっ、一発でかからない!?」
そりゃそうだ。最初の一発はなけなしの『生命の力』――周囲には半透明の緑の膜にしか見え無いだろうけど――によって防御出来る程度だ。もっとも、どちらかというと『摘出』と言ったほうが正しいかな。
「いっ、ぎっ……命術士、今すぐ、回復の、準備!」
「何をさせようとしているかは知らないが、次こそ食らえ!」
ガッ!? くぁ、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
「……おま、え。死ぬよ、辛、こ・と・に……ド、ロロ」
「はっ、貴様を従えれば――」
記憶は、途切れ途切れだった。
――とある丁寧な口調のゴブリンFの証言
ガグ、ゴググゲ、ガギゴ、グゴゴゴ(オイラ達のご主人様はとても強いお方です)
グギゴ、ゲガギギ、ゴグゴグ(ご主人様に従うとき、不思議な感覚がオイラ達を襲いました)
ギ、ガゴグギゴ、ガガガガガガグ(背中の真ん中がビリビリパチパチポヤポヤして何も考えられなくなるのです)
ガグゴグ、ガッガギググゲゴ(その感覚はご主人様に従い始めた時は恐怖から気のせいだと思っていました)
ガッガガガガガ(でも違ったのです)
ゴグググ、ギガグゲグ、ゴグギギギ(ご主人様はとても強くてお優しい方です)
ギギッグ、ガゴガギガゴググ!(その証拠に、再びあの感覚に包まれるオイラ達を虫けらのように殺すかのよう!)
ガグゴゴ、ギギゲグガゴゴ(でも、殺さないのです)
ゲグギギギ、ゲガッゴ!(ご主人様は敵ですら殺さないのです)
ゴガグギ、ゴグガグゲギ(妖精様に頼んで、ひたすら敵を治していくのです)
ゴギグゲガ、ゴググ(ご主人様は、強くてお優しい方なのです)
ガギグゲ、ゴゲギガ(ご主人様は、オイラ達の――)
中略、後略(原因は賛美のみで原因の解明に役立たなかったからである)
――とある女子高生Cの証言
ゴブリンなんかに連れてこられなければ良かった。
最初は面白いものが見れると思った。実際、伊能とかいう頭のおかしい人と巨大な百足の化け物が戦っている様をポッキー片手に見るのは面白かった。パパがたまに見ているボクシングと通ずる物があるような気がした。
でも、あの惨劇を見れば誰だって後悔するはずだ。
藪を掻き分けていきなり現れた同じ専科の中森君が何かを叫んだと同時に急に倒れて、そしてすぐに立ち上がって伊能に高笑いで操り人形にすると宣言した。
この時点で私は何かおかしなことが起きているな、というのが分かった。
中森君は学校でも大人しい子で、影が薄いというか人が良いというか、とにかく本質は良い子なんだろうけどあまり覚えていられないような、まあ私にとっては同じクラスメイトって感じの認識だった。
そんな中森君はあの狂気の演説の時、伊能の嫌味に罪悪感を抱えていた。
私はあまり頭が良くないから今まで名前も知らなかったような同級生なんてどうでもよかったけど、中森君は違ったらしい。
なんでも、随分と昔の話らしいけど中森君と伊能は同じ幼稚園(中森君は幼児園って言ってたけど、私には違いが分からない)だったらしい。伊能は途中で引っ越したっきり音沙汰無かったけど、中森君は伊能の事を覚えていたらしい。
中森君は伊能を、「命の恩人でとても大切だった友人」って言っていた。
何があったかは詳しく聞かなかったけど、あまり自分の意思が無い中森君でもそう思えるような何かがあったんだ。っていう事だけは分かった。
だから、中森君はあの演説で今まで辛い思いをしてきたと暗に告げた(らしい。私には分からなかった)伊能に負い目を感じたという。
私は、そんな昔の縁なんて忘れちゃいなさいと落ち込む中森君に言った。
すると、中森君は私の人生で一回も見たこと無いくらい怒ったような表情を見せて反論した。
それでなんとなく、中森君にとって伊能は大切な人なんだな。って思った。
同時に私の胸の中にモヤモヤとした何かが芽生えたのだけど、これなんだろう?
その中森君が伊能に対してありえない事を言った。
だから私はおかしなことが起こると思って、伊能の指示に従って藪に隠れた。
隠れて、ずっと中森君を見ていた。
彼は他の専科の子の名前を名乗って、ヘタレっぽく伊能にあしらわれていた。その伊能も伊能でブツブツと独り言を繰り返したり……ウィル? フィール? 一人称がボクになったり色々と不自然だけど、どうせイカレた人間なんて私みたいな普通の人には理解出来ない。そんなことより中森君。
会話が進んでいくうちに、中森君の声は段々と馬鹿みたいになって行って、でも伊能が何か動いた時にブレーカーが落ちた電球みたいに意識を失って倒れちゃった。
その直後に伊能が苦しみだして他の専科の子が飛び出してきて伊能に何かしたみたいだけど、私にとっては中森君のほうが大切。私の裾を引っ張って必死に止めようとする茶髪の妖精さんを振り切って、私は中森君を助けた。
中村君も男の子だからとっても重かったけど、私を止めようとしてくれた茶髪の妖精さんが『ジョブ』とかいう不思議な力で助けてくれたから、なんとか安全圏まで非難する事が出来た。
悲惨だったのはその後。
中森君はどうやらその他の専科の子に操られていたみたいで、茶髪の妖精さんが教えてくれた。けど今は何故か操られていないみたい、って言われて心底ホッとしている自分がいた。なんだろう、これ?
と、疑問を感じてふと恥ずかしくなって、視線を横に逸らした、そ、の……と…………き――
一時中断(一般人に無理はさせられませんでした)
ご、ごめんなさい。私、まだあの感覚に慣れなくて……でも、慣れたくはないな。うん、ありがとう。妖精さん。私、頑張るね。
あの時、何故か感じた恥ずかしさで見ている場所を変えようとした。そのとき……うう。
「ケッッヒヒャヒャヒャヒャヒャ!! がった~いかいじょお!」
後半は聞き様によっては無邪気な子供が楽しく遊んでいるようにも聞こえた。
他の専科の知らない子の腕を、まるで戦隊物のロボットの腕を取り外すかのように引き抜いていなければ。
他の専科の子……倉田という名前らしいその男子はこの世のものとは思えないほどの絶叫を上げて顔をぐしゃぐしゃにして引き抜かれた腕を押さえていた。
そこに一人の妖精が緑色の温かそうな光を倉田に当てて傷を治して腕を元通りにしていた。流石正義の妖精さん。中森君を操るような悪い奴を治してあげ……
「キッキキャキャキャキャキャ!! すごい! すごい! まわりがおれであれがなくならない! おとうさんありがとう! すてきなおもちゃ!」
とても正気とは思えない事を言いながら妖精さんが治した腕ともう片方の腕……うっ…………
後略(彼女の懸想人(仮)に殴られて止められました)
――とある男子高校生Hの証言
おい、なんで俺がエッチなんだよ。俺は別にピーーとかピー、ピーーーするだけで……痛い、痛い、やめろ、蹴る――
前略(コイツ殺してもいいですか?)
……で、伊能が倉田を達磨にした後もちんち……分かった、分かったからその足をやめろって! 局部をもぎ取ったり耳を引き千切ったり鼻を食い破ったり眼を引きずり出してずるりと飲み込んだり……その度に倉田の絶叫と伊能の絶叫が重なって最早コメディな空気すら漂っていた。そういうグロイのが苦手な初心な処j……おい待て、その針は、その針はやめ――
中略、後略(後で始末書を提出します)
――とある妖精7の証言
なんでアタイは数字なんだい? 気分? まあ良いけどさ。さりげなくアタイの歳をバラすのやめてくれないかい? まだまだ子供の癖に遊女みたいな言葉遣いなんて、いいコンプレックスなんだよ。アタイ達『妖精』は自分の性質に合った言葉遣いしか出来ないくだらない様式美に捕らわれているからねえ。イノウ様にはアタイの事は2300年生きた歳増って紹介しておくれよ。イノウ様は格好良いからねえ、小娘扱いされたらうっかり恋に落ちちゃうじゃないか。
え? はぁ、はいはい。分かっているよ。話すことだけ早く話してアタイはさっさと消えればいいんだろう?
さっきのお馬鹿な坊やの続きを求めているんだろうからねえ、そこだけ話してアタイは消えるさ。
ルカリオンを始めとした『命術士』のジョブを持つ妖精がローテーションであの倉田って坊やを回復し続けて、その間にイノウ様は口に憚れるような酷い拷問紛いの遊びを繰り返してあの坊やの心を折ってもまだまだまだまだ執拗に残虐な遊びを繰り返していたね。イノウ様の同級生とやらはドン引きしていたけどねぇ。アンデッドの極限状態に比べれば遊んでいる分むしろ可愛いほうだろうよ。
それで、散々遊びつくしたイノウ様はとても満足したような顔で、しかし次の瞬間とても面白くなくなったような表情を作って「もういらないよおかあさん! それよりおれをみてくれ!」って叫んで呆気なく倉田って坊やの頭をブチュっと潰してから血と肉の海にパタリと倒れたよ。それからは知っての通りさ。イノウ様の同類の前で頭を潰されたはずの倉田って坊やの頭が再生して、イノウ様の下僕になったのさ。ヒトの種族特性は『頭』と『心』だからねえ。その二つをあれだけ徹底的に壊されれば従属しないはずがないさ。もっとも、異世界人のイノウ様の同類がこっちの世界特有の法則に従った理由は分からないけどねえ。もしかしたらお母上が何かしたのかもしれないけど、アタイには関係無いね。
それにしても、なんだか本当に子供みたいなセリフだったねえ。アタイ達『妖精』と同じ『世界』を知る『ヒト』が普通の幼少期を過ごしていたとはとても思えないけど、それにしたって別の人格が出来るほどの何かってなんなんだろうねえ? 言葉から推測すると寂しさが捻じ曲がって出来たような性格だったけど、『七つの大罪』に指定されなかった感情の『寂しさ』があれだけの狂気を生むなんて思えないよ。もしかしたらイノウ様は『捻じ曲がった本能』に影響を与える程の『理性』を持っているのかもねえ。『理性』が『世界』に影響を与えるとも思えないけど――
……後略
――??
「何なんだあの男……男? 女?」
「何言ってんのコウガルン」
「あ、ロクル様。お疲れ様です」
「……皮肉かよ、こんな場所で疲れるような事があると思うのか?」
「し、失礼しました」
「まあいいよ。コウガルンは真面目だからな。自然と言っちゃうんだろ?」
「恥ずかしながら……」
「いやごめん、俺も少しやさぐれ過ぎてた。コウガルンみたいな真面目な奴は少ないからつい愚痴を言ってしまうんだ。許せ」
「あの頃のように、ですか?」
「……うん、そう。あの頃みたいに、な」
「……口が過ぎました。それでは報告に入らせていただきます」
「『ただのもり』に起きた異変の調査報告?」
「はい。ロクル様の腐乱微虫に通常ではありえない反応があった『ただのもり』を調査した結果、異世界人と思われる集団が転移してきていたようです」
「っ! ……異世界人、だと?」
「はっ。しかし、あのクソ野郎が使役する者達とは違い、偶発的に転移してきた異世界人のようです。ただ、妖精が接触していたので何かあるとは思います」
「…………だろうな。基本的に妖精達はこの世界を第一に考えているから、あのクソッタレなゴミクズ野郎が使う反吐野郎共と同じな訳が無い」
「私もそう思います。転移してきた異世界人達はどうやら学園に類似した機関に所属していた者達のようで、反吐野郎を拷問して得た情報によれば大国の王都に住む貴族の子供と同程度の危機意識しか持っていないようです」
「? 異世界人……いや、日本の子供がこっちの世界の子供と同じ危機意識? まさか。脳内お花畑のはずだぞ?」
「それが、どうやら学校というらしいその機関は他の学校とやらと比べるといささか特殊な場所だったらしいのです。甘い認識なのは変わりないですが、初期の反吐共と比べれば幾分かマシのようです」
「……そうか。続けろ」
「はっ。ただ、その者たちの中に一人だけおかしな……いいえ、とても人間とは思えないような存在が紛れていました」
「何? どいうことだ」
「詳しい内容は報告書に纏めてありますから簡素に言わせてもらえれば……『ロクル様を超える生きたアンデッド』と言ったところです」
「……はぁ!? 俺を超えるアンデッド!? しかも生きている? グールとか半リッチって意味か?」
「いえ、その……体の造りは他の人間とほぼ変わらないのですが、一度狂気に呑まれるとかつての天使では半径百メートルに近づくだけで消滅してしまうような狂気を放つようになるのです」
「……マジかよ?」
「マジです」
「…………」
「あの、ロクル様?」
「あ、ああ、すまない。少し考え事をしていた。続けてくれ」
「はい。その者はかの『魔王』や私達も知らない『勇者』なる存在に追われているようで、『魔王』の討伐を条件に妖精を傘下に起き同じ異世界人を狂気と暴力と論弁で従え力を欲していました」
「……『魔王』が反吐野郎以外の異世界人に興味を示すかはともかく、その『勇者』ってのはなんなんだ? 普通の勇者じゃないのか?」
「はい、その者によれば『魔王』と同格の存在だとか」
「……なんてこった。あのレベルがまだ存在していたのかよ。というかそんなのに追われるなんて一体何をしたんだよ」
「なんでも、世界を作ったとかなんとか」
「中二乙……で済ませられるような案件じゃない、か。そいつの特徴は?」
「はっ、黒髪黒目で格好が変わると性別も変わる……男の娘、でしたっけ? なる存在らしく、ループとかいう怪奇現象によって様々な技術を習得し、『ジョブ』も『能力』も使わずに恐ろしい武具を造り、異常なほど声を使い分ける荷物の多い化け物です」
「現代でループ? というか現実に男の娘なんていたのか……声を使い分けるってどういうことだ?」
「少女、老人、若い女、渋い男、自分……とにかく色々な声が出せるようです」
「どこの探偵坊主だよ……真実は、いつも一つ!」
「何を言っているんですか。それより、気になるのはその者がモシャスであるということと、単独で魔獣を従える法則を見つけたという点です」
「モシャス? スラリンと同じ?」
「はい、現在習得しているのはアルミラージの『角突き』です」
「異世界に来て数日もしない内に模写するとか……そいつ、神かなんかにチートでももらったか?」
「いえ、どうやらモシャス自体を知らなかったようですからそれは無いと思います」
「そうか……いやいや、軽くスルーしたが単独で魔獣を従える法則を見つけたって本当かよ?」
「ええ、そちらはアルミラージの角を折った際に懐かれた事から思いついたようです。現在の配下はアルミラージ、じんめんじゅ、オーク二体、コバンコウモリ三体、『紫の死虫』七体、人間一体です」
「……仮にそいつがこっちの世界の住人と同じ……いや、それ以上の危機感と賢さを持っているとすれば、可能っちゃ可能だが」
「それと、実際に確認した訳ではないのですがどうやらその者はこの世界のようなファンタジーを専門とする小説家らしく、その経験からインスピレーションを得たようです」
「……! ペンネームは分かるか?」
「……クミオエット・J・エベミス、というそうです」
「…………クミオエット・J・エベミス、か。よくよく縁のある名前だな」
「ですね……彼女達に連絡を?」
「いや、あのクソガキ共はまだ味方と決まったわけじゃない。人間にしては魔王に対する偏見は無いが、ある程度の強者になればむしろそれが常識だ。安易に流すと危険な情報だ」
「同意見です。では、今後どうしますか?」
「そうだな……妖精の中にルカリオンはいるか?」
「います。というより件の作家に懐いたようです」
「そうか、あいつもやっと新たなパートナーを見つけたか……クミオエット・J・エベミスに気づかれないよう注意しながらルカリオンに接触しろ。目的を知りたいし、できるならソイツには俺が直接アンデッドとして訓練をつけてやりたい」
「ロクル様自らが……? しかし、彼の者は人間ですよ?」
「関係無い。どっちみちこの世界で人間が強くなりたいならアンデッドになるしかないだろ? それに……」
「ロクル様?」
「狂気を扱うのなら、それはもう立派なアンデッドだ」
「……かしこまりました。ルカリオンの元には私の他にスラリンを連れて行ってもよろしいですか?」
「そうしてくれ。スラリンもルカリオンに会いたいだろうし」
「了解です。では、行ってきます――」
「おう、気をつけてな」
(はい……我らが主、最後の魔王、ロクル様)
残りのヅィ・スコロペンドラ達の試合は次回か次次回にやります。




