第食話 私の昼ご飯はみんなの笑顔
授業も終わり、これから昼食も兼ねての昼休み。
私は隣で紙袋を被り石像と化している鬼兜に昼休みが来た事を伝えた。
「鬼兜、昼休みだよ? 早く屋上いこ?」
私は首をかしげながら、鬼兜に言った。だが、返事はなく固まったままだ。
もしやと思い、紙袋を頭からはずしてみた。
「……むにゃむにゃ……ビタミンより油に……」
「寝てたのかい!」
私はツッコミをするように頭を軽く叩いた。が、逆に打ち所が悪く手を傷めてしまった。
「くぅぅぅ……」
「……んっ、あ、つばさ殿! もう昼休みでしたか? いやーさっきの授業、つまらなさ過ぎて眠りこけちゃいましたよ。ていうか、なんで手なんか握ってるんです? も、もしかして……! 拙者に恋心を持ってしま――」
「誰がアンタに恋心を持つものかー!」
「つ、つばさ殿! ハリセン返してく――」
「だ、だまれー!」
私は夢中で奪ったハリセンを鬼兜に叩きまくった。
兜かぶってるし、ハリセンで叩いているので痛くはないと思うが、鬼兜は変な大根演技をしながら何かを言ってくる。
「いや、待て、拙者は、黄身だけを、くれと、言ってない! 白身だけくれと、言ったんだ!」
「何を言ってるの!?」
「なめたいか? なめられたいか?」
「……」
叩くたびに、訳のわからんことをいってくるので、流石に叩くのをやめた。やめるしかなかった。
とりあえず、鬼兜も起きたので昼食にすることにした。
「鬼兜」
「は、なんでしょうか?」
「昼食とるから屋上に行くわよ」
「あ、ええ、まあ……はい」
なんか私にビビってる。まあ、そりゃそうだよね。今、思うと自分の自業自得のような感じだったわけだし。後で謝っておくことにしよ。
「じゃあ、行こうか」
「は、はい。喜んで。……はあ」
私はそう言い、鬼兜のたくましい手を引いて、屋上目指して歩き出した。もちろん、弁当も片手にちゃんと持っている。
うーん、まだ少しビビってる感じがする。ここで謝っとくのもいいかもしれない。
ということで、
「鬼兜、ごめんなさい」
「え、なにを?」
わかってないらしい。このままでよいのか、よくないのかわからない。まあ、本人が分かってないのなら良いのかもしれない。なんか出会ってからこんな感じだな、私達って。これでいいのだろうか、毎回思うが、息が合っているのか?そりゃ自分たちから見ればわからないのだろうけど、合っているような感じはない。
この前もだ。学生寮で、私が個人部屋の風呂場の脱衣所で晒を巻いている時だった。いきなり部屋に入ってきて、「つばさ殿、武蔵殿が訪ねて来ましたが……」と言ってそのまま二十秒くらい気づかなくて、気づいた時に、「あ、その……良いおっぱいですね」とか言って出て行った記憶がある。その後、恥かしさが上昇し、抱きつきに来た鬼兜を蹴り飛ばした。
「つばさ殿? つばさ殿?」
「……あ、ええ、ごめん。ボーっとしてた」
「最近、ボーっとする時多いですね。さ、屋上の戸を開けて下さい」
なぜ、私に開けてほしいのだろうか?まあ、そんな事はどうでもいい。
私は、屋上の戸を開けた。
「今日も誰もいないね」
「ふぅ……よかった。いたら、拙者の皮膚を見られてしまう所だった」
「誰も見てないわよ」
そういうやり取りをしながら、場所決めをして昼食をとることになった。
「では、どうぞ」
「いただきます」
「……いただきます」
それぞれそう言うと、まずは鬼兜がから揚げを手に取った。
「……うん、うまい」
「どんな感じに?」
私は興味津々で聞いた。毎回、感想を聞き、その反省を踏まえて、更にうまい食事を作る。ちなみに、今の所普通に上手いが十二日連続で続いている。今日のから揚げは、今までになく渾身の出来だ。これで無理なら、なす術がない。果たして……。
「いつも通り、普通にうまい」
「なっ……」
「つばさ殿っ! そんなにがっかりしなくても……」
「渾身の出来だったのに……」
完敗だった。やはり『普通』という高い壁は超えられなかった。私ってホントに普通の人間なんだなとしみじみ思う。
とがっかりしてる所に、屋上の戸が開いた。
「もう少し体力つけなさいよ」
「いやはぁ、そんな事はぁ、言われてもはぁ、人間の速さじゃはぁ、無理ですよはぁ」
秦くんとおんちゃんが来たのだった。
ちなみにおんちゃんとは、音無蜂のことで本人が蜂扱いは止めろという事で、可愛らしくおんちゃんという感じになった。決めたのはよかったんだけど、実際使われると恥かしいらしく、あんまり使うなと言っていた。めんどくさい子なのだ。それでも使いますけども。
「おんちゃんたちは昼食食べたの?」
「まだよ。それと、その名前で呼ばないでくれない? ……恥かしいから」
「秦殿も大変そうですね?」
「いやはぁ、ホントはぁ、きついですはぁ」
このコンビはからくりが主人で、主人がからくり。立場が逆転しているように見える。
「よかったら、私の弁当食べてみてくれないかな?」
「ん、それならいつもやってる事じゃない。いいわよ、食べてあげる」
「秦くんもどう?」
「よ……よろこんで……」
秦くんはそう言うとばたりとその場に倒れた。これはよくある事なので驚かないが、一応熱中症対策に陣羽織を脱がし、学園支給のワイシャツにさせる。
「では、いただくわね」
そんな秦くんをほっときおんちゃんは、から揚げの一部を右腕の刃=針でぶっさし口に入れる。おんちゃんにはどうだろうか。鬼兜がダメでも、おんちゃんなら。
「うん、普通においしいわ」
「はぁ……」
「そんなに落ち込まないでよ! まずいわけじゃないんだから!」
おんちゃんにしても、『普通』か~。いつになったら、普通以上の味になるのだろうか。
本日二度目の完敗を味わっている私の隣で、秦くんが目覚めた。まだ、希望はある。秦くんに全てをかけよう。
「秦くん、お腹すいてるよね? どう、から揚げ。自信作なんだけど……」
「ああ……いただきます……」
そう言い、から揚げにつまようじをさし、秦くんに渡す。渡すと同時に秦くんはすぐにから揚げを食べた。
「……おおこれは……」
「どう? おいしい?」
「うん。表面はカリッとしていて、中はジューシー。噛めば噛むほど肉汁が出てきて、それが口の中の皮膚に当たるごとに独特の激しい痛みを生んで、それがうまみだとはおもわ……ない……」
と感想を話すと、そのまま力なく倒れた。
そして私は思った。
「私は、もしかして調理音痴なんだあぁぁぁ!」
そして私もそのまま倒れた。
「つ、つばさ殿!どうしたのですか!」
鬼兜がつばさに聞くが、つばさは倒れたままだ。鬼兜は心配になり、残っているから揚げを一つ食べた。すると、鬼兜は驚いた。
「なんだこの味は……! 一言で言うなら、『毒味』だ……!」
「あ~、さっき私がぶっさした時に毒が吹き出たのかもしんないわ」
「なにをやってるんだ!そうしたら秦殿は――」
「うん、死ぬわね」
「んーっ!んーっ!」
「ちょっとなにやってるのよ!」
「なにって毒抜きしてるんですよ!」
「そんなことしなくても毒抜きぐらい私にもできるわよ!」
「じゃあ、やってみてください」
「……ムリ」
「あきらめんの早っ!」
「うっさいわね! 私、できないんだからアンタ速くやんなさいよ!」
「人ごとのような事を! お前の主人だろ! 拙者のファーストキス奪いやがって!」
「うるさいわね! あんたからくりなんだからどうせ結婚できないじゃないの!」
「う、うるせー!お前も役に立つ事しろー!」
ショックで頭の中が空っぽだけど、瞼の先では鬼兜とおんちゃんが楽しくおしゃべりしてるんだなぁ。そう思うと、なんだか嬉しいなぁ。やっぱりご飯はみんなで食べるとおいしいね。そして、楽しいね。今日の昼休み気絶しながら想う私、白羽乃つばさでした。
ps…そういえば、校内放送流れてたみたいだけど、なんだったのかな?珍しく長い放送だったからつい気になっちゃった、てへ。