ガラケーもメンドクサイ
お待たせしました。
―-何でお前は俺の名前を知っているんだ。
この質問も七回目だ。
これで答えなかったから俺はもう諦め――
「はいっ!私の上司である最高神のオーディン様に教えてもらいました」
「………………」
―-ようかなあと思ってたけど質問の言葉が言い終わったらすぐに答えてくれたなー。
よかったよかった。あっはっはっはっはっはっは。
………………。
「どうしたんですか総一さん。急に黙ってしまって」
俺はこちらを心配そうに見上げてくる(身長差のため)中小娘の頭を片手で掴み、そして――
「よくないっ!!」
「何がですかっ!?って痛ああああああああああああああい!!」
―-締め上げた。
「痛い痛い痛い痛い!何で普通に答えたのにアイアンクローするんですか!?」
「何でじゃねえよ別の意味で痛い奴が。こっちはなかなか質問に答えないから何か理由があるのかと思ったらあっさり答えやがって」
「それは、ああでもしないと総一さんは地中から出てこないだろうからってオーディン様が言ってたから仕方なかったんですよ!」
「返答の言葉も指定されていたのか?」
「……いいえ」
「え?じゃあ何。君は俺が地中に埋まっている状況を利用してふざけてたんだー。しかも最後の方の返答は完璧に電話がつながらなかったときのやつだよね。もしかして俺がロボットだから気を遣って同じ機械でジョーク言ったつもり。やったね新しいジョークにジャンル機械ジョークができたよ」
「お、お気に召しましたか?」
「ああ。さっきから笑い声が止まらないよ。……乾いた笑い声が」
手に込める力を強める。
「ぎゃああああああああああああああああああ、頭から鳴っちゃいけない音がああああああ!!」
「女がぎゃああああああとか言うのはちょっとどうかと思うんだが」
「総一さんのせいですよっ!!じゃなくてごめんなさいごめんなさん私が悪かったです。このとおり謝りますからどうか許してください。お願いしますっ!!」
「ったく。しょうがねえな」
「許してくれるんですか?」
中小娘が上目遣いをして俺を窺ってくる。
悪いが、俺にメンドクサイことをやらせた奴をそう簡単には許すつもりはない。
「あと一分間耐えたらな。頑張れ」
「そんなああああああああああああああああああああ!!」
本日一番の中小娘の悲鳴が響き渡った。
「うう、ひどいですよ総一さん」
「自業自得だ」
中小娘が頭を両手でさすりながらこちらを睨みつけてくるが全然恐くない。むしろ見た人はかわいいと感じるだけじゃないだろうか。
それはともかく。
「さて。次はお前の上司のオーディンって奴に文句を言いたいのだが、今話すことはできるか?」
「え、ええできますよ。元々それが目的でしたし。ていうかまだ怒ってたんですか!?」
「当然だろJK」
あれだけメンドクサイやりとりをさせられたんだ。上司にも責任をとってもらわねば。
「あなた本当に面倒臭がりなんですか。無駄に行動力(嫌がらせの)があるんですが」
「言っとくが、さすがに俺にメンドクサイことをやらせた輩へのお礼(仕返し)をするときと、どうすればメンドクサイことせずにやり過ごせるか考えるときは努力するぞ」
「……性質が悪い面倒臭がりですねえ」
中小娘は呆れたように溜め息をついた。
『神様みんな偉いけど~上下関係があるのは人間と変わらな~~~い~~~♪」
いきなり聞いたことがない歌が聞こえた。
「あっオーディン様からです」
そう言った中小娘はボローブ(ボロボロのローブの略)のポケットの中から携帯電話を取り出した。
お前の携帯電話の着メロかよっ!あと神様との通信手段が随分と現代的だなっ!
「もしもし、オーディン様。ちょうど連絡しようとしていたところなんですよ。はい、分かりました総一さんに変わります」
中小娘が差し出してきた携帯電話を受け取り、開口一番に文句を言おうとしたが相手の方に先を越されてしまった。
『やa』
即行で通話を切り、携帯電話をぶん投げた。
「ああっ、私のケータイがー!」
「悪い、反省もしてないし、後悔もしていない」
「本当に悪いですねっ!!犯罪者の方がまだマシなくらいですよ!」
だが俺の行動は無駄に終わってしまったようだ。
何故なら回転しながら明後日の方向に飛んでいた携帯電話が、理由は分からないが急にブーメランのように弧を描くようにして戻ってきたからだ。
……俺の顔面に。
しかも携帯電話は貼り付けられたように顔面から落下しない。
え、なにこれ?ガラケーの新機能?誰だこんな無駄な新機能ガラケーにつけたの。
『ガラケーの新機能じゃなくて僕の力だよ総一君。それと通話をいきなり切るのはマナー違反だよ』
「うるさい。部下使ってメンドクサイことさせた仕返しだと思え」
『はは、それは悪かったね。でも君が通話を切った理由はそれだけじゃないでしょ』
「そうだよ。たった少し話しただけだったけど分かったんだよ。お前から話すことがあるっていうことはメンドクサイことだろうなってな」
『その通りだよ。今回の予想は当たっているよ。もっとも君にとっては予想が外れてほしかっただろうけどね』
オーディンは知り合いだった。
『今回君と話したかったのは、君の異世界転生に問題があることに気が付いたからなんだ』
もうこいつ最高神じゃなくて疫病神なんじゃないんだろうか。と思いながら俺を異世界に送り出した神、オーディンの話を聞き始めた。