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第二章 月下の晩餐

第2章は少し残酷な描写が入っておりますのでご注意ください。

日が沈むころ、王城は金色の輪郭を失い、深い藍に沈んでいた。


ルミエラ・ヴァレンティスは外套の襟を軽く整え、門をくぐる。兵士たちは無言で道を開けた。その視線には敬意と、触れてはならないものへの理解が混じっている。


侍従の先導で、彼女は城の奥へ進む。


装飾は次第に消え、足音だけが石に反響する。やがて現れたのは、地下へ続く階段だった。


冷気がゆっくりと這い上がってくる。


湿った石の匂いと、鉄の気配。


松明の火が揺れ、壁に伸びる影が不自然に歪む。階段は深く、底の見えない闇へと沈んでいた。


ルミエラはためらわず降りていく。


歩幅も呼吸も変わらない。


ただ、仕事へ向かう足取りだった。


地下の小部屋で官僚が待っていた。


「対象は密輸組織の連絡係です。拠点と協力者の特定が目的。死亡は不可でお願いします」


ルミエラは静かに頷く。


「かしこまりました。その範囲で進めますね」


必要な確認はそれだけだった。


厚い扉が開く。


石造りの部屋の中央に、拘束された男がいる。疲労と恐怖で呼吸は浅く、視線は落ち着きなく揺れていた。


そして――ルミエラを見た。


男の表情がゆるむ。


緊張が解ける音が聞こえるようだった。


「……聖女……?」


かすれた声に、安堵が混じる。


金髪が灯りを受けてやわらかく輝く。碧い瞳は静かで、微笑みは教会で見せるものと何ひとつ変わらない。


男の肩から力が抜けた。


救いが来た。


そう信じた顔だった。


ルミエラは椅子の前で丁寧に一礼する。


「こんばんは。本日は少しお時間をいただきますね」


穏やかな挨拶。


男は息を整えるように深く吐き、目を閉じた。


ようやく終わる――そんな安堵が滲んでいる。


ルミエラはその手を取る。


震えているが、先ほどまでの硬さはない。


「まず確認させてください」


彼女は優しく言う。


「拠点はどちらにありますか?」


男は目を開け、困惑したように瞬く。


質問の意味を測りかねている顔だった。


沈黙。


だから彼女は次の工程へ進む。


小さな音が響いた。


男の指が、あり得ない方向へ折れ曲がる。


一拍遅れて絶叫が爆ぜた。


安堵の残骸が、理解不能の恐怖に塗り替えられる。


ルミエラは折れた指を静かに観察する。


筋肉の収縮、呼吸の乱れ、声量。


やがて彼女の手から光が溢れる。


骨が滑るように戻り、皮膚が整う。


完全な回復。


「では、もう一度お聞きしますね」


声音は変わらない。


「拠点はどちらですか?」


男は荒く首を振る。


拒絶というより、現実を受け入れられない反応だった。


ルミエラは理解したように小さく頷く。


手首を捻る。


関節が悲鳴のような音を立てる。


男の叫びはさきほどより鋭く、長い。


光。


再生。


何もなかった状態へ戻る。


「ご安心ください」


彼女は穏やかに告げる。


「損傷はすべて修復いたします。後遺症は残りません」


慰めのような言葉。


だが男の目には、終わらない循環だけが映っている。


壊される。


戻される。


また壊される。


時間の境界が溶けていく。


「……やめてくれ……」


光。


再生。


「拠点はどちらですか?」


ついに男の視線が折れる。


言葉が震えながらこぼれ落ちた。


ルミエラは静かに微笑む。


「ありがとうございます。とても助かります」


彼女は最後に手を丁寧に癒す。


教会で患者を診る時と同じように。


違いはない。


彼女の中では。

第2章まで読んでいたたぎありがとうございます。

1章と2章合わせて1つのようなものなのでここまで読んでいただけてとても嬉しいです。

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