第一章 慈光の聖女
はじめまして。
今回初めての投稿になります。
温かい目で読んで、ご指摘いただけると嬉しいです。
朝の教会は、光がよく似合う。
高い天窓から落ちる陽光が白い石床を照らし、空気そのものを祝福しているようだった。静かな祈りの声と、薬草のやわらかな香りが満ちている。
その中心に、ルミエラ・ヴァレンティスはいた。
「大丈夫ですよ。すぐに楽になります」
彼女の声は、春の水のように穏やかだった。
診療台に横たわる少年は、足を強く打ちつけていた。腫れは酷く、触れられるだけで顔を歪めるほどだ。
ルミエラは両手をそっと添える。
金色の髪が光を受けて淡く輝き、碧い瞳はただ静かに傷を見つめていた。
やがて彼女の手から、やさしい光が溢れる。
骨の歪みが正され、内出血が消え、腫れは引いていく。
少年が目を瞬かせる。
「……痛くない」
「ええ。もう走れますよ」
彼女は微笑む。
それは作られた笑顔ではない。ただ“そうするべき場面”だと理解している、自然な表情だった。
少年は母親と一緒に何度も頭を下げる。
「聖女様、本当にありがとうございます…!」
教会にいた人々も、温かな視線を向けていた。
誰もが知っている。
ルミエラは奇跡を起こす治癒術師だ。
切断された指も、毒に侵された体も、彼女の光の前では例外ではない。
だから皆、彼女を慕う。
そして彼女もまた、求められるままに癒しを与える。
それが自分の役割だから。
次に運ばれてきたのは、狩人だった。肩から血を流している。
「少し失礼しますね」
彼女は躊躇なく裂けた肉に触れる。
血の温度も、傷の深さも、彼女にとっては情報でしかない。
痛みという感覚を、彼女は知らない。
理解はしている。
人はこれを苦痛と呼び、恐れ、避けようとする。
だが――それがどんなものかは分からない。
だからこそ、彼女の手は常に安定している。
光が満ち、傷は消える。
狩人は安堵の息を吐いた。
「命の恩人だ…」
ルミエラは小さく首を振る。
「私は仕事をしただけです」
その言葉に偽りはなかった。
善意でも献身でもない。
ただ役割を果たしている。
それだけだ。
昼の診療が終わる頃、教会は感謝の声で満ちていた。
彼女は一人、裏庭で手を洗う。
水面に映る自分の顔を見つめる。
慈悲深い聖女。
皆がそう呼ぶ姿。
間違いではない。
だが、それは全てではない。
背後で足音がした。
振り返ると、教会の使いの少年が封蝋付きの手紙を差し出していた。
「ルミエラ様。お届け物です」
封蝋の紋章を見た瞬間、彼女は理解する。
差出人の名を確認する必要すらなかった。
それでも一応、視線を落とす。
――エドモンドより。今夜の晩餐にご招待します。
誰が読んでも、貴族からの丁寧な誘いだ。
彼女は頷く。
「ありがとう」
少年は去っていく。
ルミエラは手紙を丁寧に折り、懐にしまった。
今夜は仕事がある。
それだけのことだ。
彼女は再び教会へ戻る。
次の患者が待っている。
光の中で。
何も変わらない顔で。




