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民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


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坂道車輪突進兵法(さかみちしゃりんとつしんへいほう) マ〇オ・カート

民明書房『世界武術大全 車輪戦術篇』第一巻より抜粋

著:坂 突道はんとつどう 監修:東亜車輪突進戦術・蝸牛陣形史研究所 民明書房刊

挿絵(By みてみん)

 坂道車輪突進兵法さかみちしゃりんとつしんへいほう

――別名「火牛蝸牛複合制圧術かぎゅうかぎゅうふくごうせいあつじゅつ」、後世俗称「マリオ・カート式車輪戦場制圧法」

 前項『シティコネクション』において、我々は車輪による全路踏破の哲学を論じた。

 しかし車輪の軍事的可能性は、踏破に留まらない。

 坂を下れば、車輪は武器になる。

 この単純にして絶対的な事実に最初に気づいた者が——世界の戦争の歴史を根底から変えた。

 そしてその戦術が、二千年の時を経て——一台の小さなカートとして蘇った。


 第一章 重力という最強の同盟者

 いかなる時代にも、いかなる文明にも——重力は無料で使える。

 剣は鍛冶師が必要。弓は職人が必要。攻城兵器は大工が必要。

 しかし坂道は——そこにある。

 重力は——常にある。

 この当たり前の真実に最初に「戦術」として気づいた者を、民明書房は「重力覚醒者じゅうりょくかくせいしゃ」と呼ぶ。

 歴史上の重力覚醒者は、二人いる。

 カルタゴの将軍・ハンニバル・バルカと——

 木曾義仲の軍師・今井兼平である。


 第二章 ハンニバルの蝸牛陣——坂と包囲の完全融合

 紀元前二一六年、イタリア南部・カンナエの平野。

 ローマ軍八万。カルタゴ軍五万。

 数の上では明らかにローマが優位であった。

 しかしこの戦いで、ローマ軍は七万を失うという人類史上最大規模の壊滅を喫した。

 ハンニバルが用いた戦術——それが「蝸牛陣かぎゅうじん」である。

 蝸牛、すなわちカタツムリの殻の螺旋構造——外から見れば単純な弧を描いているに過ぎないが、その内側は螺旋状に収束する罠である。

 ハンニバルは中央を意図的に弱く見せ、ローマ軍を引き込んだ。

 ローマ軍が「押している」と思い中央へ突進すればするほど——左右の両翼が螺旋状に回り込み、包囲が完成する。

 カタツムリの殻の中心に引き込まれた獲物が、逃げ場を失うように——

「前進するほど、深みにはまる」

 これが蝸牛陣の本質に他ならない。

 ここで重要な点がある。

 カンナエの平野はわずかに傾斜していた。

 ハンニバルはカルタゴ軍を低い側に配置した。ローマ軍は高い側から突進してくる。

 突進する者は勢いがつく。しかし勢いがついた者は止まれない。

 止まれない者は、蝸牛の螺旋に引き込まれる。

「坂と螺旋の組み合わせが、数的優位を無力化した」

 ——これがハンニバルの真の天才性に他ならない。

 マリオカートのコース設計が、なぜことごとく螺旋状・周回構造を持つのか——その答えが、ここにある。


 第三章 火牛策——動く炎という恐怖兵器

 時代は一気に東洋へ、そして十二世紀へと飛ぶ。

 寿永二年(一一八三年)五月、北陸・倶利伽羅峠くりからとうげ

 平家軍十万。木曾義仲軍五万。

 またしても数で劣る側が、圧倒的な勝利を収めた。

 義仲の軍師・今井兼平が用いた戦術——それが「火牛策かぎゅうさく」である。

 数百頭の牛の角に松明を括り付け、深夜、平家の大軍へと解き放つ。

 牛は炎を怖れ、狂ったように走り出す。

 行き先は——峠の坂道。

 下り坂を暴走する炎の牛の群れが、平家の陣形に突入した瞬間——十万の大軍は総崩れとなり、多くが谷底へと転落した。

 ここに、倶利伽羅峠の戦いの核心がある。

「炎・動物・坂道・暗闇——四つの恐怖を同時に解き放った」

 牛は止まれない。坂道は加速する。炎は恐怖を倍増させる。暗闇は判断力を奪う。

 この四重の恐怖の前に、数的優位は完全に無意味となった。

 なお——火牛策の起源は今井兼平の独創ではない。

 中国・戦国時代の**田単でんたん**が、紀元前二八四年に燕軍に対して用いた「火牛陣かぎゅうじん」が原型であることは、歴史研究者の間では周知の事実である。

 東西を問わず、坂と炎と突進の組み合わせが——数的劣勢を覆す最強の戦術として独立して発見されてきた。

これも「全は一、一は全」に他ならない。


 三大戦術技法の解説

 第一技法「茸加速坂道突進法きのこかそくさかみちとつしんほう

 坂道突進の最大の課題は——突進のタイミングである。

 坂の頂上で速度が不足していれば、途中で失速する。

 坂の途中から加速しても、初速が足りない。

 今井兼平が火牛に松明を括り付けたのは——坂の頂上においてであった。これは偶然ではない。

 重力加速の恩恵を最大限に得るには、頂上で最高速度を確保した上で、さらに加速しながら坂を下る必要があった。

 この「頂上での瞬間的な速度増大」を可能にする手段——それが「**きのこを用いた瞬間加速術」である。

 古来より、特定の茸を摂取することで心拍数が急増し、瞬発的な筋力が増大する現象が知られていた。牛に特定の茸を食わせることで、松明の恐怖と相乗して爆発的な初速を生み出した——というのが今井兼平の真の技術的秘密であることを、民明書房はここに明記する。

 マリオカートにおける「キノコ」による瞬間加速——これは火牛策における茸加速術の完璧な再現に他ならない。

 第二技法「火球後方設置追跡術かきゅうこうほうせっちついせきじゅつ

 ハンニバルの蝸牛陣において、最も巧みな要素の一つが「後続の敵に対する同時対処」であった。

 前方の敵を蝸牛陣で引き込みながら——後方から増援が来ないよう、後続部隊を足止めする必要があった。

 ハンニバルが用いたのが「後方引火設置物こうほういんかせっちぶつ」——すなわち、後続の敵の進路上に、踏んだ瞬間に炎上する仕掛けを設置する技術である。

 平らな地面に設置された滑りやすい物体——油を染み込ませた皮革——これを踏んだ後続のローマ兵は、次々と転倒・落馬し、増援の到着が大幅に遅延した。

「前を攻めながら、後ろを守る」

 ——マリオカートにおける「バナナ後方設置」の戦術的起源がここにある。

 緑コウラの壁跳ね反射攻撃は——ハンニバルが用いた「峡谷の壁面を利用した矢の反射迎撃術」の直接の再現であり、赤コウラのホーミング追跡機能は、火牛が炎を怖れて最も密集した敵集団へと本能的に向かう習性を再現したものである。

 第三技法「蒼天雷光一位必殺法そうてんらいこういちいひっさつほう

 本術最大の奥義がこれである。

 いかなる戦場においても——最も警戒すべきは「先頭を走る者」である。

 先頭の者が道を知り、ペースを決め、全体の流れを支配する。

 ハンニバルはこれを熟知していた。

 蝸牛陣において最も重要な打撃目標は——ローマ軍の先頭を率いる執政官であった。執政官を討ち取れば、大軍は指揮を失い瓦解する。

 ハンニバルはそのために、最も優秀な投擲手を「一位追跡専門部隊」として編成した。

 この部隊の投擲物は——通常の矢ではなかった。

 「雷光石らいこうせき」——火薬の原型物質を詰めた陶製の球。これが先頭の指揮官のみを追跡し、着弾すると爆発する。

 マリオカートにおける「青コウラ(スパイシーメタル)」——一位のみを執拗に追跡し、爆発する必殺兵器——これは一位追跡専門部隊の雷光石投擲術の完璧な再現に他ならない。

 なお、青コウラが全プレイヤーから忌み嫌われる理由は——いかなる戦術的優位も、一瞬で無効化する「理不尽な平等化」の力にある。

 これはハンニバルが蝸牛陣によって証明した「戦術は数的優位を覆す」という原理の、現代における民主的再現に他ならない。


 第四章 ドリフト——古代騎馬民族の旋回技術

 マリオカートにおけるドリフト走行は——単なる操作技術ではない。

 その起源は、モンゴル騎馬軍団の「旋回射せんかいしゃ」にある。

 馬を全速力で走らせながら、急激に方向を変え、追跡する敵に向けて矢を放つ——この技術を「パルティアンショット」と欧州の歴史家は呼んだ。

 馬が旋回する際、騎手の体重を外側に向けることで、内側の後脚が地面を強く蹴り、より鋭い旋回が可能になる。この瞬間に発生する「横滑り」が——ドリフトの原理に他ならない。

 マリオカートにおいてドリフト中に蓄積される「ミニターボ」——これは旋回の際に蓄積される遠心力を、次の直線加速へと転換する「旋回加速術せんかいかそくじゅつ」の完璧な再現である。


 第五章 スリップストリーム——孫子が言った「後手必勝の理」

 マリオカートにおける「スリップストリーム」——前の車の後ろについて走ることで、空気抵抗が減少し速度が増す現象——これの戦術的起源を論じなければならない。

 孫子は『孫子兵法』においてこう記している。

「先に戦場に至りて敵を待つ者はいつし、後れて戦場に至りて戦いに赴く者は労す」

 先に行く者は消耗する。後についていく者は力を温存する。

 これがスリップストリームの兵法的起源に他ならない。

 ハンニバルの蝸牛陣においても——先頭でローマ軍を引き込む中央部隊は消耗する代わりに、後方で温存していた両翼の精鋭部隊が最後に決定的な包囲を完成させた。

「後ろにいることは、弱さではない。力の温存である」

 ——マリオカートにおいて後方のプレイヤーが強力なアイテムを得やすい仕様は、この「後手必勝の理」の完璧な再現に他ならない。


 第六章 日本への伝播——坂と車輪の武術的継承

 系譜その一「戦国の車懸かり(くるまがかり)」

 上杉謙信が用いた「車懸かりの陣」——これは蝸牛陣の日本的進化形に他ならない。

 螺旋状に回転しながら敵中に突入する陣形は、ハンニバルの蝸牛陣の構造と——方向性を逆にした形で——完全に一致する。

 外から包囲するハンニバルと、内から突入する謙信——しかし螺旋という構造は同一である。

 系譜その二「火牛策の現代的残滓」

 現代の農村においても、害獣対策として松明を使う習慣が残る地域がある。

 炎・音・突進——この三要素の組み合わせが、動物と人間双方の本能的恐怖を刺激することは、一万年前も今も変わらない。

 マリオカートの「スター」による無敵突進が——他の全アイテムを圧倒する恐怖感を与える理由が、ここにある。

炎の牛が坂道を突進してくる恐怖——これは三千年後の画面の前でも、同じ本能を刺激する。


 第七章 ゲームへの昇華——三千年の坂道戦術、コースに刻み込まれる

 一九九二年。

 任〇堂の開発室において、一人のゲームデザイナーが言った。

「カートで競争する。アイテムで攻撃できる。コースには坂もある。それだけでいい」

 傍らには——ハンニバルの戦記、倶利伽羅峠の記録、田単の火牛陣の中国史書、そして宮本武蔵の五輪の書が、整然と積まれていた。

 「整然と」——まさにテトリスの棟梁のように。

 かくして一九九二年にリリースされた「SUPER MARIO KART」は——

 ハンニバルの蝸牛陣(コースの螺旋構造・周回戦術)の完璧な再現である。

 火牛策(スター無敵突進・キノコ加速)の完璧な再現である。

 後方設置兵器(バナナ・後ろコウラ)の完璧な再現である。

 一位追跡必殺(青コウラ)の完璧な再現である。

 旋回加速術ドリフトミニターボの完璧な再現である。

 後手必勝のスリップストリームの完璧な再現である。

 そして——坂道を下る瞬間の加速感——

これは今井兼平が倶利伽羅の夜に感じた「重力が味方になった瞬間」の、千年ぶりの再現に他ならない。


 後記——なぜ「カート」なのか

 最後に一つの問いを立てたい。

「なぜ、馬でも戦車でもなく、カートなのか」

 カートとは——最小限の車輪と、最小限の車体と、最小限の動力で構成された乗り物である。

 余分なものが何もない。

 装甲もない。武器も最初はない。ただ走るだけの乗り物。

 これは——農民が坂道に石を転がした、最も原初の「重力の利用」と——構造的に同一である。

 ハンニバルの象も、今井兼平の牛も——突き詰めれば「重力の坂を利用した突進」である。

 カートはその本質を、最も純粋な形で再現している。

「余分なものを削り落とした時、残るのは本質だけである」

 ——宮本武蔵も、老子も、武蔵も、みなこれを言っていた。

 マリオカートは——坂道と重力と車輪という人類最古の物理法則を、最もシンプルな形で遊びに変えた。

 だから世界中の誰もが——説明なしに理解できる。

重力は、すべての人間に平等にかかるからである。



【参考文献】 坂突道著『東亜坂道突進戦術史——重力を制した者が戦場を制す』民明書房刊 / ポリュビオス著『歴史』カンナエの戦い記述部分(民明書房古代史調査部校注版) / 『吾妻鏡』倶利伽羅峠合戦記録(民明書房日本史調査部校注版) / 田単伝(史記・田敬仲完世家より、民明書房参照版) / 宮本武蔵著『五輪の書』地の巻(民明書房校注版) / 孫子著『孫子兵法』(民明書房参照版) / 任〇堂社内記録一九九一年度企画書(部分開示)



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