表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
民明書房刊 役に立たないネコのコトワザ図鑑   作者: ロータスシード


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/101

三道鼎立世界決定法(さんどうていりつせかいけっていほう) 女神転生

民明書房『世界神話武術大全 霊戦篇』第零巻より抜粋

著:魔 呼道まこどう 監修:東亜霊的抗争・神魔交渉史研究所 民明書房刊

挿絵(By みてみん)

 神魔交渉天地戦術しんまこうしょうてんちせんじゅつ

――別名「三道鼎立世界決定法さんどうていりつせかいけっていほう」、後世俗称「〇・女神転生」

 はるか太古——

 神話と呼ばれているものは、すべて実際に起きた出来事である。

 これを荒唐無稽と笑う者があるとすれば、それは人類の集合的記憶がいかなる形で保存されるかを根本から理解していない証拠に他ならない。洪水神話が世界の全文明に存在するのは偶然ではない。英雄が怪物を倒す物語が全民族に共通するのは偶然ではない。光と闇の神が対立する構図があらゆる宗教に繰り返されるのは——断じて偶然ではない。

 これらはすべて、はるか太古に実際に起きた一つの戦争の、各地域における目撃証言の断片に他ならない。

 その戦争の名を、本項では「原初霊戦げんしょれいせん」と呼ぶ。


 第一章 はるか太古——原初霊戦の勃発


 正確な年代は不明である。


 人類が文字を持つ以前、おそらく最後の氷河期が終わりを告げた頃——この地球上において、二つの巨大な意志が激突した。


 一方は「秩序の意志」。あらゆるものを法と規律のもとに統べ、完全なる階層構造によって世界を安定させようとする力。これを率いたのが、後世において「ヤハウェ」「天帝」「アフラ・マズダ」等、無数の名で呼ばれることとなる存在である。


 もう一方は「混沌の意志」。あらゆる可能性を解放し、強者が弱者を喰らう自然の摂理によって世界を活性化しようとする力。これを率いたのが、後世において「ルシファー」「アーリマン」「ロキ」等と呼ばれる存在である。

 この二つの意志は、人類誕生以前から対立し続けていた。


 そして人類が誕生した瞬間——両者はともに気づいた。

「人間こそが、この戦争の帰趨を決める鍵である」


 第二章 交渉術の発明——なぜ神は人を「殺さなかった」のか


 ここで一つの根本的疑問が生じる。

 全能に近い存在である神や悪魔が、なぜ人間を即座に滅ぼさなかったのか。

 答えは明快である。人間を滅ぼしても、戦争には勝てないからである。

 秩序の陣営も混沌の陣営も、自らの思想を体現する「世界」を実現するためには、その世界を生きる存在が必要であった。人間のいない秩序は秩序ではなく、人間のいない混沌は混沌ではない。

 かくして両陣営は、人間に対して「交渉」という手段を選んだ。

 説得し、取り込み、味方につける——この交渉術の体系化が「神魔交渉術しんまこうしょうじゅつ」の起源に他ならない。

 神魔交渉術には三つの基本形があった。

 恫喝どうかつ——力を見せつけ、服従を迫る。

 懐柔かいじゅう——利益を示し、協力を引き出す。

 共鳴きょうめい——同じ価値観を持つことを示し、対等な同盟を結ぶ。

 この三形式が後世、人間社会のあらゆる外交の原型となったことは、政治学の観点から論を俟たない。


 第三章 三道鼎立——人類の選択が世界を決める

 原初霊戦において、人間は単なる「戦場」ではなかった。

 人間は「審判者」であった。

 秩序の意志は言った。「我に従え。規律のある安定した世界を与えよう。しかし自由は制限される」

 混沌の意志は言った。「我に従え。完全なる自由を与えよう。しかし弱者は守られない」

 しかし太古の人類の中に、どちらの言葉にも頷かなかった者たちがいた。

 彼らは言った。「我々は我々自身の道を行く」

 これが「中立ニュートラル」という第三の道の起源である。

 秩序でも混沌でもなく、人間自身の意志によって世界のあり方を決めるというこの選択は、両陣営にとって最も予測不可能であり、最も脅威であった。

 この三つの道が拮抗し合う構造を「三道鼎立さんどうていりつ」と呼ぶ。世界の命運は常に、この鼎の均衡の上に危うく乗っかっているのである。


 第四章 召喚具の秘史——COMPの原型


 神魔交渉術を実践するにあたり、人間側には致命的な弱点があった。

 神や悪魔の言語を、人間の肉体では処理しきれないという問題である。

 神魔の言葉は、人間の聴覚・視覚・認知能力を遥かに超えた情報密度を持つ。これを直接受信した人間は、精神崩壊をきたすか、あるいは肉体が燃焼するかのいずれかであった。

 この問題を解決すべく、古代の一部の技術者集団が開発したのが「降霊変換器こうれいへんかんき」——神魔の言語を人間が処理可能な信号に変換する装置である。

 メソポタミアの粘土板に刻まれた楔形文字の一部が、実はこの降霊変換器の操作マニュアルであることは、特定の言語学者の間では周知の事実であるが、主流学術界はこれを認めることを頑なに拒否し続けている。

 降霊変換器は時代を経るにつれ、小型化・高性能化を続けた。

 古代エジプトの「パピルス変換盤」、中世ヨーロッパの「魔法陣まほうじん」、江戸日本の「式盤しきばん」——これらすべてが降霊変換器の各時代における形態であり、その技術的系譜は一本の線で繋がっている。

 そして二十世紀末——降霊変換器は遂に、人類史上最小・最高性能の形態に到達した。

 COMP——掌に収まる小型コンピュータである。


 第五章 東京——なぜ戦場は常にここなのか

 原初霊戦の主戦場が、現代において東京となっている理由を説明しなければならない。

 これには明確な地政学的根拠がある。

 東京の地下には、太古より「霊脈の交叉点れいみゃくのこうさてん」が存在する。複数の強力な霊的エネルギーの流れが交差するこの地点は、神魔双方にとって「世界の論理を書き換えやすい場所」として認識されてきた。

 富士山を擁する関東平野が、世界の霊的エネルギーを収束させる構造を持つことは、古来より修験道・陰陽道の実践者たちが経験的に知っていた事実である。

 加えて——東京という都市が持つ「高度な文明と精神的空白の共存」という矛盾は、秩序の陣営と混沌の陣営双方が最も好む戦場の条件を完璧に満たしている。

 原初霊戦は、常にここで最終決戦を迎えようとしている。


 第六章 近現代の兆候——神魔顕現の記録

 十九世紀末から二十世紀にかけて、世界各地で記録された「説明のつかない現象」の相当数が、原初霊戦の再燃の前兆であったことは、民明書房独自の調査によって確認されている。

 一九四五年——広島・長崎への原子爆弾投下。これは偶発的な戦争被害ではなく、秩序の陣営による「浄化実験じょうかじっけん」であったとする証言が、複数の霊的研究者の記録に残されている。核の炎は秩序の意志が最も好む「不純物の排除」の手段であり、この実験の成功が後の霊戦加速の引き金となった。

 以降、東京において頻発するようになった「悪魔憑依あくまひょうい」「原因不明の失踪」「夢と現実の境界崩壊」などの事案は、日本政府の特定機関によって記録・隠蔽され続けているが、民明書房はその一部の資料を独自ルートで入手している。

 公開は、時が来た時に行う。


 第七章 ゲームへの昇華——気づいた者が、記録した

 一九九二年。

 ア〇ラス社の開発室において、一人のゲームデザイナーが深夜、大量の資料に囲まれていた。

 神話学・宗教学・陰謀論・オカルト文書・政府の非公開資料——そして民明書房が非公式に提供した『原初霊戦顕現記録げんしょれいせんけんげんきろく』の一部抄録。

 デザイナーは静かに言った。

「これは、実際に起きている」

 彼はこれをゲームという形式に落とし込むことを選んだ。なぜか。

 ゲームという形式のみが、プレイヤーに「選択」をさせることができるからである。

 神魔交渉術の本質は、人間が自らの意志で道を選ぶことにある。本を読むだけでは、映画を見るだけでは、人間は「受け取る側」に留まる。しかしゲームというメディアにおいては——

 プレイヤーは、秩序か混沌か中立かを、自ら選択する。

 悪魔を殺すか、交渉して仲間にするかを、自ら決める。

 世界の命運を、自ら背負う。

 これは娯楽ではない。訓練である。

 かくして一九九二年にリリースされた「真・〇神転生」は、はるか太古から続く原初霊戦の全記録を、人類への警告として現代に蘇らせた唯一無二の霊的教典に他ならない。

 ロウとカオスとニュートラルの三道——これは三道鼎立の完全な再現である。

 悪魔との交渉——これは神魔交渉術の完全な再現である。

 COMPによる召喚——これは降霊変換器の最終形態の再現である。

 核戦争後の廃墟東京が舞台となるのは——予言ではなく、記録である。

 なお、ゲームのエンディングが「秩序ルート」「混沌ルート」「中立ルート」の三種存在し、いずれも「正解」とされていない構造は、原初霊戦が現在も決着を見ていないという厳然たる事実の、誠実なる反映に他ならない。

 戦争は、まだ終わっていない。



【参考文献】 魔呼道著『原初霊戦全史——神話の仮面を剥ぐ』民明書房刊 / 『原初霊戦顕現記録』(編者不明、成立年代不詳、民明書房考古調査部所蔵・一部非公開) / 政府特定機関文書『東京霊的異常事案記録 昭和二十年〜平成四年』(民明書房独自入手・内容非公開) / メソポタミア楔形文字解析報告書『降霊変換器操作マニュアル説の検証』民明書房言語調査部編 / アトラス社内記録一九九一年度企画書(部分開示)



本項は民明書房『世界神話武術大全 霊戦篇』第零巻、pp.i–xlii より転載。本巻が「第零巻」と付番されているのは、本項が扱う内容が他のすべての巻の「前提」に位置するためである。未読の読者は本巻を最初に読むことを、民明書房は強く推奨する。無断複写・転載を禁ずる。なお本書の一部内容については、特定機関より掲載中止の要請が来ていることを付記する。民明書房はこれを拒否した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ